孤高のディザード、吸血鬼の築く理想郷   作:うまみちゃん

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28.魔王の血から「人類の知恵」へ

「ハルツーム共和国の病魔を根絶するために、私の『真祖の血(活性剤)』を人間に定期投与し続けるのは、短期的な人心掌握には良くても、長期的には最悪の悪手だ」

 

宇宙世紀0090年代中盤。アクシズ・ショックの裏で本家の残骸をすべて火事場泥棒し、宇宙と地上の双方に絶対聖域を完成させたルクレツィア(中身は佐藤、おっさん)は、最高執務室で医療部門の長期予測レポートを睨みながら、思案した。

 

真祖の血を希釈した免疫活性剤は、確かに劇的な効果をもたらした。しかし、それは裏を返せば「ルクレツィアの血の供給が止まれば、国民の免疫システムが崩壊する」という、極端な依存関係(生体依存)を生み出すリスクを孕んでいた。さらに、その血の成分が何らかの拍子に地球連邦軍やアナハイム、あるいはマッドサイエンティストの手へと流出すれば、「不老不死の生体サンプル」として、今度こそ世界中からルクレツィアの首(真祖の肉体)が狙われる致命的な露見の引き金になりかねない。

 

「吸血鬼のオカルトを、人間の医療の基本にしてはならない。人間(資源)の健康を維持するなら、それは徹底して、宇宙世紀の物理法則と『純粋な人類の医学・科学技術』の範疇で完結させるべきよ」

 

おっさんの気弱で、しかし徹底して現実的なリスク回避思想が、ハルツーム自治領の医療ドクトリンを根底から覆した。ルクレツィアは即座に「血の活性剤」の投与を完全凍結。

代わりに、ハルツームの莫大な予算と、一年戦争・グリプス戦役の戦火からスカウト(拉致・救出)してきた地球圏最高峰の医学者、遺伝子工学者たちを一堂に集め、地上最大の独立医療研究プラント――『ハルツーム中央生命科学研究所(バイオ・パレス)』を設立した。

 

科学の力による病魔の「駆逐」

 

『バイオ・パレス』の最高顧問に据えられたのは、かつて地球連邦軍の極秘研究所で不当な生体実験(強化人間製造など)を強いられ、精神を病む寸前で諜報部「黒の触手」に救出された、実級の医学博士たちだった。

ルクレツィアは彼らに、真祖の血ではなく、エレンの技術部がデブリからリサイクルして組み上げた「最新鋭のナノ級分子スキャナー」や、ガンダムのOSの演算能力を移植した「超高速遺伝子解析コンピューター」といった、純粋な科学の結晶を提供した。

 

「貴方たちに求めるのは、私のようなバケモノの模倣じゃない。人間の持つ本来の免疫力を、宇宙世紀の最先端医学で極限まで引き上げ、地上から病気を『物理的に駆逐』することよ」

 

ルクレツィアの指示の下、医学者たちは狂ったように研究に没頭した。彼らにとって、被験者を消耗品として使い潰す連邦の研究所とは違い、潤沢な資金と、新鮮な食料、そして何より西暦時代のレトロゲームなどの最高の「娯楽」が保証されたこの環境は、医学の心理的・技術的限界に挑むための究極の天国だった。

 

研究は僅か数年で、宇宙世紀の医学の常識を遥かに塗り替える、いくつかの成果(人類の知恵)を弾き出した。「万能遺伝子修復酵素(テロメア・リジェネレーター)」の確立宇宙放射線(宇宙線)によって傷つき、白血病や癌を引き起こすスペースノイド特有の遺伝子損傷を、純粋な高分子酵素の注射によって「リアルタイムで自動修復」する治療法を確立。

真祖の血など一滴も使わず、チタン合金を精錬するような精密な化学合成だけで、あらゆる癌細胞を根絶する技術を完成させた。

 

大気汚染物質除去用の「医療用環境ナノバクテリア」の開発重金属や核の灰で汚染されたハルツームの土壌と空気を、人体の内部から保護・洗浄する無害な人工バクテリアを開発。

これを予防接種として住民全員に投与することで、汚染地域に生身で立ち入ろうとも、気管支炎や肺疾患を一切発症しない強靭な「宇宙世紀の健康体」を科学の力だけで作り上げた。

 

「大統領府の白いお姉様(ルクレツィア)が作った研究所のおかげで、私たちの子供から病気が消えた……! 連邦の病院は私たちを見捨てたのに、この国は本物の『医学』で私たちを救ってくれたんだ!」

 

ハルツームの数百万人、数千万人の国民たちは、真祖のオカルトによる奇跡ではなく、目の前の「白い巨塔(研究所)」から配給される本物の医療カプセルの恩恵に、再び狂信的なまでの忠誠と感謝を捧げた。それは、依存ではなく、国家への絶対的な「信頼」という名の強固な絆だった。

 

成長した「プルシリーズ」と、科学の継承

 

「お姉様! バイオ・パレスの第3研究室のデータ、私が開発した解析プログラムで、酵素の合成効率が150%に上がったよ!」

 

「私は、ナノバクテリアの培養プラントの自動化システムを完成させたよ!」

 

人工庭園「パレス・グリーン」のテラスで、10代半ばの美しい少女へと成長したプルシリーズの妹たちが、白衣を誇らしげに翻しながら、ルクレツィアにデータパッドを差し出していた。彼女たちは、生まれながらの最高峰の脳の演算スペックを、ルクレツィアの「ゲームばかりしてないで、少しは本も読みなさい」という英才教育(防衛・内政教育)によって、最高峰の科学者・エンジニアとしての知恵へと昇華させていた。

 

クローンの持つ天性の空間認識能力は、顕微鏡の向こうの微細な分子構造を立体的に把握する「分子デザイン」の分野で爆発的な才能を発揮し、今や彼女たちは『バイオ・パレス』の中核を担う若き天才研究員となっていた。

 

「偉いわね、みんな。バケモノの血に頼る国なんて、いつか滅びる。でも、貴方たちが自らの知恵で掴み取った『科学(医学)』は、何百年経っても、この国の人類を護る絶対の盾になるのよ」

 

ルクレツィア(おっさん)は、6歳の幼女の姿のまま、白衣を着たプルたちの頭を1人ずつ、本当に満足そうに、愛おしそうに撫で回した。中身がおっさんである彼の趣味(幼女趣味・庇護欲)が満たされているのは当然だが、自らの血を1滴も汚すことなく、人間の天才たちと、自分が救ったプルたちの「純粋な知恵」だけで地球圏最高の医療大国を作り上げたという事実は、彼の中の冷静な統治者としてのプライドを最大級に満たしていた。

 

永遠なる楽園の「解」

宇宙世紀0090年代の終焉。地球圏では、ネオ・ジオンの残党「袖付き」の暗躍や、アナハイム・エレクトロニクスが極秘裏に開発を進める「ユニコーンガンダム(サイコフレームの獣)」を巡り、再びオカルトと科学が混ざり合った戦争の足音が近づいていた。しかし、地球の半分を『生体ジャングル』として管理し、アステロイドベルトに超巨大要塞を構えるエリュシオン・ハルツーム連合王国において、その喧騒は遠い星の出来事でしかなかった。

 

ディザード(ナノマシン、ハロ、チョバムアーマー、大型ジェネレーター装備の完全装備)。

レムレス・テラ(ブースター、高性能レーダー装備による超長距離隠密強襲仕様)。

歴史のレールを歪ませず、美味な果実だけを裏から完璧に掠め取る隠密性。そして、そこに加わった、真祖の血(オカルト)を一切排除し、100%人類の知恵だけで構築された「完全無償の最高峰医療システム」。

 

犯罪者は音もなく消え去り、国を護る森の『部品(下位眷属)』となる恐怖。一方で、善良に生きる国民には、伝統の音楽、西暦時代の面白いゲームや映画、そして病気とは無縁の「不変の健康と寿命」が科学によって約束されている、完璧なユートピア。

 

「お姉様、これで我が国の『人間(資源)』の品質と健康寿命は、地球圏のどのサイドの追随も許さないレベルで固定されました。私たちの血の秘密が外部に漏れるリスクも、これでもう永久にゼロです」

 

隣に立つリリィが、冷徹に、しかし誇らしげに微笑む。

 

「ええ。これこそが、気弱なおっさんが導き出した、最高の『老後(生存)』の答えよ」

 

ルクレツィア(おっさん:佐藤)は、プルたちが作ってくれたイチゴ入りのハーブティーを上品に啜りながら、窓の外に広がる、病気も飢えもなく、無邪気にゲームをして笑い合うハルツームの子供たちの姿を、どこまでも満ち足りた目で、静かに見つめていた。

 

ガンダムの世界がどれほど凄惨に、オカルトの光(サイコフレーム)に狂っていこうとも。科学の知恵を正しく飼い慣らし、誰にも知られぬ深淵の玉座に座る真祖の幼女は、終わりのない快適な楽園の中で、永遠の静寂と共に、その絶対的な支配を続けていくのだった。

 

 

(ガンダム世界宇宙世紀・エリュシオン医療革命編――完)




これで終わりです、ありがとうございました。
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