アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜 作:池ポチャ
旧式審査機構の第十項が復元され、ルルイエは「審査を受けない」と意思を示しました。
本来であれば、それで審査は終了です。
ですが、現在の選定機関にとって、その規則は都合が悪すぎました。
審査される側には拒否する権利がある。
理解できないものを、理解できないという理由だけで敵と決めてはいけない。
審査する者自身が作り出した危険を、相手の性質として記録してはいけない。
それらを認めれば、これまで行ってきた選定そのものが揺らぎます。
だから今度は、「相手が何を言ったか」を変えようとします。
夢を翻訳し、意味を与え、都合のいい命令へ変える。
眠る神の寝言を、人間に都合のいい神託へ変えてしまう。
そして地上では、その偽物の神託を信じたカルト教団が、再び武器を取りました。
姫咲家の玄関には、昨日までなかった合板が張られていた。
破損したガラス部分を塞ぐための応急処置で、外から見れば少し物々しい。それでも家の中では炊飯器が鳴り、楠エリが朝食を並べ、ナギが学校見学用の鞄へ筆箱を入れたり出したりしている。
「入れたよ」
「さっきも入ってたわよ」
「確認」
「三回目ね」
「カイお兄ちゃんが、知らない場所へ行く時は帰り道を確認しろって」
「筆箱は帰り道じゃないでしょう」
ナギは少し考えた。
「でも、ないと困る」
「それはそうね」
食卓では安藤萌亜が焼き鮭をほぐしながら、そのやり取りを眺めていた。
「ナギちゃん、学校デビューじゃん」
「でびゅー?」
「初めて行くこと」
「見学だけ」
「それでもデビュー」
隣に座る姫咲リオナが呆れたように笑う。
「余計な言葉教えないでよ。昨日チョベリグを『いい感じ』で覚えたばっかなんだから」
「だいたい合ってるし」
「年代が合ってない」
向かいでは九頭龍瑠々が味噌汁を飲んでいる。昨夜、姫咲家を守ったあと、そのまま遅くまで旧式安全規定の確認に付き合ったため、エリから半ば強制的に泊まるよう言われたのだ。
本人は客間へ案内された際に「帰れる」と三回ほど主張したが、最後はタクヤから「疲れてる時ほど本人は帰れると思うんだよね」と穏やかに言われ、無言で布団へ入った。
「瑠々ちゃん、寝れた?」
「寝た」
「夢見た?」
「見た」
「どんな?」
「あなたが廊下を走って転んでた」
「予知夢?」
「願望かもしれない」
「ひど」
エリが炊飯器を閉じながら言う。
「今日はみんな少し休めるんでしょう?」
萌亜たちは答えなかった。
リオナが鮭へ視線を落とし、瑠々は味噌汁の椀を静かに置く。
エリが眉を寄せる。
「その反応、休めないのね」
「午前中は解析だけの予定です」
リオナが慎重に答えた。
「予定?」
「……今のところ」
「分かったわ」
エリはため息こそつかなかったものの、全員の前へ追加のおにぎりを一つずつ置いた。
「なら食べなさい」
「はい」
萌亜は素直に受け取る。
「エリさんの圧、選定機関より強い」
「比較対象がおかしい」
瑠々が呟いた。
その瞬間、食卓の上に置かれていた萌亜の端末が震えた。
一度ではない。
リオナ、瑠々、タクヤの端末までほぼ同時に警告音を鳴らし、ナギの青い紙舟も激しく揺れ始める。
萌亜の表情から笑みが消えた。
「御門さん?」
通話を開くと、御門征十郎の声がすぐに返ってきた。
『全員聞こえるか』
「聞こえてます」
『緊急だ。世界各地で夢由来の同一通信を確認した』
リオナが尋ねる。
「カルト?」
『カルト側でも受信している。問題は発信元だ』
中央の小型端末へ、エックスから送られた解析画面が表示される。
そこに浮かんでいたのは白い線だった。
選定機関。
ただし、通信内容は命令文ではない。
奇妙な文字列。
何度も書き換わり、翻訳結果が変化している。
『起きる』
『開く』
『選ぶ』
『来い』
『残せ』
『沈め』
エックスの声が重なる。
『原信号には、これらの単語が存在しません』
萌亜が眉を寄せる。
「じゃあ誰が書いたの?」
『現行選定機関の意味解析系統です』
瑠々が椅子から立ち上がった。
「何してるの」
『ルルイエ夢域から発生している非言語情報を、選定機関が強制的に意味へ変換しています』
「それを地上へ流してる?」
『はい』
瑠々の顔色が変わった。
「止めて」
声に、いつもの皮肉も冷静さもなかった。
「今すぐ」
『こちらからは止められません』
「なら切る」
瑠々が黒い潮を出そうとしたところで、タクヤが穏やかな声で止めた。
「瑠々ちゃん、まだここで深く繋がらない方がいい」
「でも」
「何が危ないのか説明して」
瑠々は一度目を閉じ、焦りを押さえるように息を吐いた。
「夢の中で見える言葉は、そのまま本人の言葉じゃないの」
萌亜は第41話で教えられたことを思い出す。
「人間が分かる形に変えて見てるだけ」
「そう。あの方の夢は大きすぎる。形も考え方も違いすぎるから、人間の頭は勝手に近い意味へ置き換える」
リオナが画面を見る。
「選定機関は、それを機械でやってる?」
「しかも一つの答えに固定してる」
瑠々は歯を食いしばる。
「最悪」
ナギが小さく尋ねた。
「何が起きるの?」
瑠々は子どもへ向ける言葉を選んだ。
「寝てる人が、何となく寝返りを打ったとするでしょう?」
「うん」
「それを見た誰かが『右へ行けって命令された』って言い出してる」
「言ってないのに?」
「言ってない」
「じゃあ嘘」
「そう」
ナギは不機嫌そうに画面を見る。
「勝手」
「本当にね」
*
午前七時四十一分。
最初の武装蜂起は、スペイン北西部の港湾都市で始まった。
その三分後にフィリピン。
さらに北米西岸、南米、地中海沿岸、北海道、千葉、沖縄でも同様の動きが確認される。
これまでの蜂起と違う点は、組織同士の連携が薄いことだった。
カルト教団は一枚岩ではない。
教義も違う。
指導者も違う。
互いを異端と呼ぶ集団さえ存在する。
それでも今回は、ほぼ同じ時刻に全員が武器を取った。
理由は一つ。
『神託を受けた』
そう主張していた。
国立国会図書館地下管理区域へ到着した御門は、各地から上がる映像を無言で見ていた。
港へ押し寄せる集団。
海底通信施設を占拠しようとする者たち。
沿岸警備隊と衝突する武装信徒。
道路へ簡易夢杭を打ち込み、市街地を集団夢へ引き込もうとする者。
彼らの掲げる紙や端末には、同じ言葉が表示されている。
『開け』
『眠るものは起きることを望んだ』
『使徒を退けよ』
『海へ帰れ』
瑠々がその映像を見て、低い声で言った。
「一つも言ってない」
御門が尋ねる。
「断言できるか」
「できる」
「根拠は」
「ずっとそばにいるから」
御門は数秒だけ瑠々を見ると、すぐ各地へ指示を飛ばした。
「分かった。政府側の公式判断は『夢由来情報の翻訳結果に信頼性なし』で統一する」
「信じるの?」
「現時点で、君が一番詳しい」
瑠々は少し意外そうな顔をした。
「ずいぶん簡単に言うのね」
「盲信はしていない。だが、根拠のない機械翻訳よりは信用する」
「褒められてる気がしない」
「事実だ」
黒瀬カナメから通信が入る。
『千葉の港湾倉庫で約五十。人質あり』
「現場指揮は」
『県警とGTGで共同。私は向かってる』
「人質優先。儀式装置は後だ」
『了解』
ゼルヴァードはすでに上空へ出ている。
『沖縄側でも武装集団を確認。現地支部へ支援に向かう』
「可能な限り殺すな」
『承知している』
タクヤはシャンバラ側の状況を確認していた。
「御門君、夢の方も増えてる」
「数は」
「集団幻視だけで三百地点以上。戦闘してない人も、同じ『神託』を夢で見始めてる」
エックスが続ける。
『選定機関の強制翻訳結果が、シャンバラ経由で人間の認識へ再流入しています』
「止められるか」
『翻訳結果そのものを全遮断することは可能です』
御門はすぐに答えなかった。
萌亜が彼を見る。
「止めないの?」
「全部切れば、本物の夢由来情報まで一緒に切れる」
瑠々が御門を見る。
「分かってきたじゃない」
「褒めるな。面倒が増える」
タクヤが少し笑った。
「じゃあ、強制翻訳だけを切り分けよう」
「できるのか」
「シャンバラだけなら難しい。でも潮境網と渡り潮を使えば、受け取る側に選択肢を出せるかもしれない」
ナギが通信画面から口を挟む。
『手紙と同じ?』
「そう」
『誰から来たか分からないのは開けない』
「うん。『これは選定機関が翻訳した結果です』って分かるようにする」
エックスが即座に設計を始める。
『受信者側へ原信号、翻訳者、確度を分離表示する方式なら可能です』
リオナが頷いた。
「意味を一個に決めない」
「そういうこと」
瑠々は少しだけ肩の力を抜いた。
「それなら、まだマシ」
*
ルルイエへ向かうのは、萌亜、リオナ、瑠々、エクスキューショナーの四人。
地上へ残る御門たちは、世界各地の武装蜂起を抑えながら、強制翻訳された偽神託の流通を止める。
今回はどちらか一方が失敗しても成立しない。
選定機関の翻訳系統は、地上側の受信者だけではなく、ルルイエ内部そのものへ白い「意味」を書き込み始めているからだ。
「ノストラダムス」
接続直前、リオナが言った。
「時代先取りジジイ」
萌亜が返す。
「本人」
瑠々が呆れた。
「まだやってるの」
「もう安全確認として正式採用されそう」
御門がすぐ否定する。
「採用しない」
エクスキューショナーが静かに言った。
『記録上は既に複数回有効』
「余計なことを言うな」
萌亜は寝台へ身体を預け、胸の奥へ意識を向けた。
「ヨル、行ける?」
『怖い』
「萌亜も」
『白いの嫌』
「うん。でも今回は、分かんないものを勝手に分かったことにする方を止める」
『分かった』
「……ヨル、今の分かったは大丈夫?」
少し間があった。
『そこは分かる』
萌亜は思わず笑った。
「よし」
御門の声が届く。
「通信は維持する。地上はこちらで持たせる」
「御門さん」
「何だ」
「ちゃんと帰ってきます」
「分かっている」
白い花弁が舞い上がった。
*
石門を越えた瞬間、萌亜は異変に気づいた。
「文字だらけ……」
以前までのルルイエは、人間には理解できない形をそのまま見せていた。
緑黒色の巨石都市。
上下が曖昧な石畳。
空を泳ぐ暗い海。
距離を測ろうとすると形が変わる塔。
それが今は、街のあらゆる場所に白い文字が貼りついている。
『塔』
『門』
『海』
『祭壇』
『危険』
『敵性』
『覚醒』
『侵攻』
まるで世界そのものへ説明書を貼りつけたようだった。
瑠々の顔が引きつる。
「ひどい」
リオナも周囲を見る。
「これ全部、選定機関の解釈?」
「たぶん」
白い文字が巨大な石造建築へ『神殿』と表示する。
瑠々は即座に首を横へ振った。
「違う」
次の建物には『生贄場』。
「違う」
広い空間へ『召喚陣』。
「そんなものじゃない」
萌亜が聞く。
「じゃあ本当は?」
瑠々は答えようとして、口を閉じた。
「……分からない」
「瑠々ちゃんでも?」
「何度も見てる。でも、人間の言葉で何て呼ぶのかは知らない」
萌亜は白い文字を見る。
「じゃあ、それでいいじゃん」
「ええ」
瑠々は少し笑った。
「今回は、それが正解」
一行が歩き始める。
しかし白い文字は追ってくる。
道へ『進行方向』。
遠い影へ『敵性個体』。
海から頭部を出した深きものへ『従属生物』。
その表示を見た深きものが不快そうに身体を震わせた。
『使徒』
瑠々が近づく。
「大丈夫?」
『白き文字が我らを定める』
「従わなくていい」
『我らは従属生物か』
「違う」
『では何か』
瑠々は少し考えた。
「あなたはあなたでしょう」
深きものは黙った。
やがて。
『理解した』
萌亜が小声で言う。
「瑠々ちゃん、今日いい感じ」
「チョベリグって言ったら海へ落とす」
「まだ言ってない」
*
地上。
千葉県沿岸の物流倉庫では、カルト側が十二名の作業員を人質に立て籠もっていた。
警察車両とGTGの防護車が周囲を封鎖し、倉庫内から断続的に銃声が響いている。
カナメは建物の図面を確認しながら尋ねた。
「人質の位置は」
現場職員が答える。
「二階事務区画。武装者は三十八確認」
「儀式装置」
「中央荷捌き場です。大型です」
監視映像には、コンテナの間へ作られた巨大な白黒の円環が映っている。
その中央に海水を満たしたタンクが置かれ、何十台もの端末が選定機関の強制翻訳結果を表示している。
『起きよ』
『開け』
『海へ』
信徒たちはその文字へ向かって祈っていた。
「神託だ!」
「御方は目覚めを望まれた!」
カナメは映像を見ながら吐き捨てる。
「本人が寝たいって言ってるのに面倒だな」
御門の声が回線へ入る。
『九頭龍の証言だけで説得するのは難しい』
「分かってる」
『翻訳表示の出所を示す』
倉庫内の端末が一斉にちらついた。
タクヤ、エックス、ナギ、カイが構築した新しい表示方式が、地上の夢通信へ適用されたのだ。
それまで大きく表示されていた『起きよ』の下に、新しい情報が現れる。
『原信号:意味未確定』
『翻訳者:選定機関意味解析系統』
『翻訳確度:11.8%』
『別解候補:多数』
祈っていた信徒の声が止まった。
「……何だ、これは」
『原信号を表示しますか』
端末が確認する。
一人が反射的に押した。
表示されたのは、文字ではなかった。
暗い海。
遠い振動。
色とも音ともつかない感覚。
意味は分からない。
ただ。
眠い。
深い。
何か巨大なものが、静かに呼吸している。
「これは……」
男の顔から熱狂が薄れる。
「『起きよ』ではないのか?」
別の信徒が叫んだ。
「騙されるな! 神託を疑うな!」
しかし端末には冷静な情報が残り続ける。
『翻訳確度:11.8%』
『解釈の強制を推奨しません』
カナメが小さく笑った。
「十一パーセントで世界沈めようとしてたのか」
御門。
『まだ油断するな』
「分かってる」
実際、全員が武器を捨てたわけではない。
むしろ指導者らしい男は、翻訳結果が崩されたことで焦り、銃を持って人質側へ走り始めた。
「神託は絶対だ!」
その瞬間、二階の照明が落ちる。
タクヤによるシャンバラ経由の視覚遮断。
同時にカナメたちが突入した。
「警察だ! 武器を捨てろ!」
怒号と足音が倉庫内へ広がる。
銃撃が始まったものの、警護側は夢による照準錯誤を逆利用し、カルト側の射線だけをコンテナの間へ逸らしていく。
カナメは人質区画へ走り、途中で一人の信徒と鉢合わせた。
男が銃を向ける。
「神の敵が!」
「神じゃなくて十一パーセントの翻訳だろ」
「黙れ!」
引き金が引かれるより早く、カナメは銃身を横へ逸らし、男の手首を捻って床へ押さえ込んだ。
「人を撃つ理由を、寝てる奴に押しつけるな」
*
ルルイエでは、白い文字の密度が深部へ進むほど増していた。
旧式審査領域へ向かう石段の手前まで来たところで、瑠々が突然立ち止まる。
「おかしい」
リオナが尋ねる。
「何が?」
「石段がない」
前回までは黒い湖の中央に、白い審査領域へ続く道が現れていた。
今は湖面が全面白い文字で覆われ、その中央に一つだけ巨大な表示が浮かんでいる。
『OPEN』
萌亜が嫌そうな顔をした。
「英語になった」
「そこじゃない」
瑠々は湖へ近づかない。
「開いてない」
「でもOPENって」
「書いてあるだけ」
エクスキューショナーが解析する。
『実際の審査領域入口は閉鎖状態です』
「じゃあ入ったら?」
『別経路へ誘導されます』
リオナが白い文字を見る。
「選定機関が『開いてることにした』?」
『そのようです』
萌亜は胸の奥へ聞く。
「ヨル、どう見える?」
『穴』
「どこ?」
『文字の下』
萌亜は湖を見た。
OPENという白い文字の下に何かがある。
道ではない。
暗い穴。
底が分からない。
「罠じゃん」
瑠々が頷く。
「意味を信じたら落ちる」
白い文字が突然変わる。
『ENTER』
「入れって」
萌亜は後退した。
「入らない」
『SAFE』
「安全?」
「知らない」
白い文字が増えていく。
『ALLY』
『WELCOME』
『AUTHORIZED』
まるで、こちらが信じたい言葉を片っ端から並べているようだった。
リオナが顔をしかめる。
「怖い言葉だけじゃないんだ」
「そっちの方が危ない」
瑠々が言う。
「人間は安心できる意味も信じるから」
萌亜は頷いた。
「じゃあ、全部読まない」
四人は視線を落とした。
文字ではなく、足元の感覚を見る。
湖の縁を歩く。
瑠々の足跡。
萌亜のポケットには青緑色の標識石。
リオナの手。
エクスキューショナーは文字情報の解析を停止し、位置情報だけを追う。
白い文字は焦ったようにさらに増えた。
『STOP』
『DANGER』
『TURN BACK』
今度は戻れと言ってくる。
萌亜は思わず笑った。
「急に言うこと変わった」
「相手が反応を見てる」
リオナが言う。
その直後、街全体が揺れた。
遠い場所から、巨大なものが身じろぎする感覚が伝わってくる。
瑠々の顔から血の気が引いた。
「あの方」
黒い海が上下ではなく全方向から押し寄せるように見え、石造都市の角度が一斉に変わる。
萌亜は平衡感覚を失いかけ、リオナの手を強く握った。
「起きる?」
「まだ。でも、夢が乱されすぎてる」
瑠々が唇を噛む。
「白い意味が、あの方自身の夢にまで入ってる」
巨大な影が街の奥で動いた。
目ではない。
それでも萌亜の頭は、それを「目が開きかけた」と解釈しようとする。
すぐにヨルが叫んだ。
『見ない!』
「うん!」
萌亜は視線を逸らした。
それでも白い文字は勝手に表示する。
『AWAKENING』
『HOSTILE RESPONSE』
『THREAT LEVEL MAXIMUM』
瑠々が怒鳴った。
「違う!」
声が都市へ響く。
「あの方は怒ってるんじゃない!」
白い文字。
『HOSTILITY CONFIRMED』
「だから違うって言ってるでしょう!」
リオナが気づいた。
「瑠々、反応しちゃダメ!」
瑠々が止まる。
「訂正するほど、向こうが『反応あり』って拾ってる」
エクスキューショナーも理解する。
『強制翻訳系統が、こちらの否定すら意味解析の材料にしています』
「じゃあどうするの」
萌亜が聞く。
リオナは数秒考えた。
「何も決めない」
「え?」
「怒ってるとも言わない。起きたいとも寝たいとも、私たちが代わりに言わない」
瑠々が彼女を見る。
「でも私は」
「瑠々は本人に聞ける」
「……そうね」
白い文字が大量に降り注ぐ中、瑠々は目を閉じた。
翻訳しない。
人間向けの意味をつけない。
深いところにいる相手へ、ただ自分の存在を近づける。
「あの方」
巨大な夢が揺れる。
瑠々は問いを一つだけ渡した。
「嫌?」
しばらく返事はない。
選定機関の白い文字だけが先回りする。
『YES』
『HOSTILE』
『AWAKEN』
瑠々は見ない。
待つ。
やがて。
海のずっと下から。
『うるさい』
低い。
眠い。
簡単な返事。
瑠々の肩から少し力が抜けた。
「何が?」
夢が揺れる。
答えは言葉にならない。
白いもの。
刺さる感覚。
何度も名前を貼られる不快感。
勝手に意味を決められる圧迫。
瑠々は、それを人間の文章へ変えようとせず受け取った。
「分かった」
『るる』
「いる」
『とって』
「うん」
白い文字が一斉に明滅する。
『COMMAND DETECTED』
『APOSTLE ORDERED TO REMOVE SYSTEM』
瑠々の目が冷えた。
「今のも違う」
萌亜が聞く。
「何て言われたの?」
「『とって』」
「何を?」
「分からない。でも、多分この白いの」
リオナが頷く。
「じゃあ『選定機関を攻撃しろ』にはしない」
「ええ」
萌亜も。
「白いの取れたら取る。それだけ」
「それだけ」
瑠々は黒い潮を広げる。
*
地上では、偽神託への注釈表示が広がり始めていた。
世界各地で、それまで絶対的な命令だと思われていた文章の下に翻訳者と確度が示される。
『神は目覚めを望んだ』
『翻訳者:選定機関』
『確度:8.4%』
『別解多数』
『原信号の意味確定不能』
それだけで全てのカルトが武器を捨てたわけではない。
むしろ「信仰を試されている」と解釈して抵抗を激化させる者もいた。
しかし、迷う者は確実に増えた。
フィリピンでは信徒の一部が儀式から離脱し、北米西岸では武装集団の副指導者が投降。北海道の小規模拠点では、神託の原信号を見た若い信徒たちが「何を言っているのか分からない」と武器を置いた。
御門は報告を次々に処理しながら、現場へ一つの方針を出した。
「説得時に『本物の神意』をこちらから提示するな」
部下が聞き返す。
「では、九頭龍氏の証言は?」
「本人に最も近い参考証言として扱え。絶対的な神託にするな」
「了解」
「分からないものは分からないと書け」
「報告書にも?」
「当然だ」
御門は一度だけ深く息を吐いた。
「分からないから空欄にすることと、都合のいい答えを書くことは違う」
エックスがその言葉を記録する。
『非常に旧式安全規定的です』
「褒めるな」
『評価です』
「なお悪い」
そこへタクヤが声をかけた。
「御門君」
「何だ」
「シャンバラ側で白い翻訳経路、かなり見えてきた」
巨大な夢路図が表示される。
世界中の人間の夢へ流れ込んでいる白い線。その全てが、現在の選定機関へ直接繋がっているわけではない。
一部は。
告潮者が利用している白い空間へ伸びている。
御門の目が細くなる。
「二系統か」
エックスが解析する。
『現行選定機関と告潮者が、同じ旧式翻訳基盤へ別々に接続しています』
「協力関係?」
『断定できません。むしろ同じ装置を奪い合いながら利用している可能性があります』
御門は画面を睨んだ。
「敵同士が同じ銃を取り合って、こっちへ撃ってるようなものか」
『近いです』
「面倒だな」
タクヤが別の部分を拡大する。
「でも、元が一つなら切れる場所も一つある」
白い線の中心。
ルルイエ夢域と旧式審査領域の中間に、巨大な翻訳層が存在している。
「萌亜ちゃんたちの近く」
御門は即座に通信を開いた。
「安藤、聞こえるか」
*
「聞こえてます!」
萌亜は石畳へ片膝をつきながら答えた。
黒い潮と白い文字がぶつかり、ルルイエの街全体が激しく揺れている。
瑠々は白い文字を壊しているのではない。
夢へ貼りつけられた「固定された意味」だけを剥がしていた。
『塔』
剥がれる。
その下に残るのは、名前の分からない巨大構造物。
『従属生物』
消える。
深きものは、何者か分からないままそこにいる。
『敵』
『味方』
『神殿』
『侵略』
『覚醒』
一枚ずつ白い札が剥がれ落ち、街が再び「分からないもの」へ戻っていく。
御門の声が届いた。
『白い翻訳系統の中枢を特定した』
「どこですか!」
エクスキューショナーが同時に地図を受信する。
『旧式審査領域の下層です』
瑠々が振り返る。
「下?」
『以前確認した範囲よりさらに深い』
リオナが顔をしかめる。
「また階段?」
『今回は階段とは限りません』
萌亜。
「それ言われると怖い」
『警告している』
エクスキューショナーが周囲を解析する。
『位置を確認しました。黒い湖の反対側です』
四人は移動を始める。
途中、深きものたちが何体も現れた。
以前なら瑠々へ跪いて道を開けるだけだったが、今回は全員が不安定になっている。
『使徒』
『白き声は言った』
『地上へ出よ』
『目覚めを告げよ』
瑠々は立ち止まる。
「行かないで」
『しかし神意と記された』
「記したのは白い連中」
『神意ではないのか』
「少なくとも、私はそう聞いてない」
『我らは何を信じる』
瑠々は少し考えた。
「私も間違う」
深きものたちがざわめく。
萌亜も少し驚いた。
瑠々は続ける。
「だから、私の言うこと全部を神意だと思わないで」
『使徒の命も』
「私の命令は私の命令。あの方の言葉とは別」
最前列の深きものが顔を上げる。
『ならば、地上へ出ぬのは』
「私の命令」
『理由は』
「人間を怖がらせるし、今出たら戦争になるから」
深きものはしばらく沈黙した。
『理解した』
「あと、殺さない」
『承知』
萌亜が小声でリオナへ言う。
「瑠々ちゃんの組織改革」
「カルトよりずっと健全」
「聞こえてる」
*
翻訳層は、黒い湖のさらに下にあった。
そこへ通じる入口は階段ではない。
白い文字で覆われた巨大な壁があり、その表面を無数の文章が高速で流れている。
『恐怖=敵対』
『沈黙=拒絶』
『拒絶=攻撃予兆』
『巨大=危険』
『理解不能=排除候補』
『接触=侵入』
エクスキューショナーが言葉を失った。
リオナの顔が険しくなる。
「これが翻訳?」
『はい』
「翻訳っていうより、最初から答え決まってるじゃん」
萌亜も壁を睨む。
「怖いものは敵、分かんないものは危険って」
瑠々が静かに言った。
「だから、あの方を何度見ても敵になる」
壁の奥では、ルルイエから届く膨大な非言語情報が白い文章へ変換されている。
巨大な存在が呼吸する。
『侵略準備』
寝返りを打つ。
『活動開始』
不快感を示す。
『敵対反応』
眠りたい。
『戦力温存』
どの入力を入れても、最後には危険性を証明する言葉へ近づいていく。
萌亜は気持ち悪さを覚えた。
「これ、最初から結論決めてる」
『現行選定機関の危険評価方式と一致します』
エクスキューショナーの声は低かった。
「知ってた?」
『方式自体は』
「こういう仕組みだって?」
『……知りませんでした』
白い壁が彼女を認識する。
『上位選定個体を確認』
『翻訳基盤保護命令』
『侵入者排除を要請』
エクスキューショナーの周囲へ白い武装線が形成される。
しかし彼女は動かなかった。
『拒否』
『命令理由――翻訳前提に重大な偏りを確認』
白い壁。
『偏りではない』
『安全性を優先』
エクスキューショナーが答える。
『安全性を理由に、結果を先に決定しています』
『危険な対象を危険と分類することは正常』
『対象が危険であるという判定そのものが、この基盤によって生成されています』
白い壁の文字が、一瞬だけ乱れた。
萌亜が感心する。
「論破してる」
「相手システムだけどね」
リオナが答える。
壁が新しい警告を表示する。
『理解不能存在との共存は不可能』
萌亜はそれを見て。
「なんで?」
と聞いた。
白い文字が止まる。
『理解不能存在は予測不能』
「うん」
『予測不能は危険』
「危険な時もある」
『ゆえに排除または管理が必要』
「何で?」
再び停止。
萌亜は続ける。
「危ないかもしれないから距離取るのは分かる。でも、分かんないから消すまで行くの、何で?」
『予測不能』
「だから?」
白い文章の生成速度が遅くなる。
リオナが気づいた。
「この仕組み、前提を聞き返されるの苦手なんだ」
エクスキューショナー。
『前提検証機能が削除されている可能性があります』
瑠々が壁を見る。
「旧式審査機構にはあった」
「自分が選ぶ資格あるか確認するやつ」
萌亜も思い出す。
権限根拠を証明する。
自分の利害関係を確認する。
相手が審査を拒めば止まる。
ここには、それがない。
「選定機関って」
萌亜は白い壁へ向かって言った。
「質問するところ消して、答えだけ残したんだ」
白い壁全体が震えた。
*
地上では、その震えが世界規模の夢揺れとして現れた。
眠っていた人々が一斉に寝返りを打ち、沿岸部では海面が数センチだけ不自然に上下する。
カルト側では「大いなる御方が応えた」と歓声を上げる者もいたが、今度は端末へ即座に注釈が表示された。
『原信号:ルルイエ夢域構造変動』
『意図:不明』
『「応答」とする根拠:なし』
歓声が途中で止まる。
御門はそれを見て、小さく息を吐いた。
「効いてるな」
タクヤが頷く。
「意味を消してるんじゃなくて、誰がつけた意味か見せてるからね」
エックスは世界各地から流れ込むデータを整理する。
『武装蜂起地点、四十一から二十六へ減少』
「死傷者は」
『現時点で各国集計中。日本国内では死者なし、重傷者七』
「ゼロにはできなかったか」
『はい』
御門は少しだけ目を閉じた。
すぐに開く。
「生存者の救護を優先。拘束者も必要なら治療しろ」
『了解』
そこへカナメから通信。
『千葉、人質全員確保』
「武装者は」
『三十二確保。六名逃走』
「追えるか」
『モー子が二人見つけた』
御門が額を押さえた。
「残り四人は」
『警察が追ってる』
「牛に負けるなと伝えろ」
『誰に?』
「警察だ」
タクヤが小さく笑う。
*
ルルイエ。
白い翻訳壁に大きな亀裂が入った。
物理的に壊れたわけではない。
内部の前提が矛盾を起こし、意味変換そのものが停止し始めている。
しかし。
その奥。
もう一つ別の白い信号が現れた。
エクスキューショナーが顔を上げる。
『告潮者』
白い仮面が壁の中に浮かび上がった。
「余計なことを」
萌亜が少し驚く。
「告潮者さんもこれ使ってたよね?」
「使っていた」
「じゃあ壊れたら困る?」
「困る」
「正直」
告潮者は白い壁の向こうから四人を見る。
「人間は意味なしでは生きられない」
リオナが答える。
「全部なくすなんて言ってない」
「同じことだ。理解を放棄すれば、共存などできない」
瑠々が告潮者を見る。
「あなたは逆」
「何が」
「理解できないまま隣にいることを怖がりすぎてる」
告潮者の仮面がわずかに傾く。
「理解しなければ、予測できない」
「予測できないことなんて普通にある」
「神を相手に同じことを言えるか」
「言ってる」
瑠々は即答した。
「私はあの方の全部を知らない」
告潮者が黙る。
「夢の全部も」
「考えてることも」
「どうして私を助けたのか、本当の理由だって知らない」
萌亜が瑠々を見る。
以前なら。
唯一の使徒である瑠々は、クトゥルフについて何でも知っているように見えていた。
けれど本人は、そうではないと言う。
「でも」
瑠々は続ける。
「知らないからって、勝手に都合のいい理由を作らない」
「神はお前を選んだ」
「そう言ったのは誰?」
「力を与えた」
「それは事実。でも『選んだ』はあなたの解釈でしょう」
告潮者の声が少し低くなる。
「では、お前は何者だ」
瑠々は一度だけ考えた。
「九頭龍瑠々」
「それだけか」
「今はそれでいい」
萌亜が小声で。
「かっこよ」
「今は黙って」
白い壁がさらに崩れる。
告潮者の投影が乱れた。
「ならば」
その声に、今までとは違う焦りが混じる。
「意味を捨てた世界で」
「人間が正気を保てるか試せばいい」
壁の奥にある安全制御が、一斉に解除された。
エクスキューショナーが叫ぶ。
『翻訳層が停止します!』
「それが目的じゃないの?」
萌亜が聞く。
『段階停止ではありません。全変換機能を一括遮断しています』
リオナが理解する。
「今まで翻訳されてたものが、そのまま流れ込む?」
『はい!』
瑠々の顔色が変わった。
「やめて!」
遅かった。
白い壁が消える。
その向こうから。
人間の認識へ変換される前の、ルルイエの夢が流れ込んだ。
*
萌亜は悲鳴を上げなかった。
悲鳴という行為を、一瞬だけ忘れたからだ。
上下もない。
時間もない。
大きいという言葉さえ足りない。
海だと思ったものが星であり、星だと思ったものが記憶であり、記憶だと思ったものの内側で誰かが眠っている。
自分が見ているのか。
見られているのか。
その区別さえ崩れる。
ヨルが何かを言っている。
聞こえない。
リオナの手。
握っている。
それだけは分かる。
萌亜は理解しようとするのをやめた。
海ではない。
星ではない。
神でもない。
怖い。
それだけ。
「……分かんない」
自分の声がようやく戻る。
「分かんない!」
リオナの声がする。
「それでいい!」
瑠々は膝をつきながら、それでも叫ぶ。
「意味を探さないで! 形を決めないで!」
エクスキューショナーは解析機能を自分で停止した。
『分類停止』
『記録停止』
『判定停止』
萌亜の胸の奥。
ヨル。
『怖い』
「うん」
『形ない』
「なくていい」
『名前』
「つけなくていい」
何か巨大なものが。
こちらへ。
少しだけ。
意識を向けた。
白い翻訳壁はない。
だから言葉にはならない。
それでも。
古いムーの手紙に返った『聞いている』とは違う。
もっと曖昧。
ただ。
そこに四人がいることだけは。
認識された。
瑠々が震える声で言う。
「この子たち」
言葉を重ねようとして。
やめた。
「……いるだけ」
それだけを伝える。
敵ではない。
味方でもない。
使える者でもない。
守るべき者でもない。
ただ、いる。
巨大な夢の圧力が。
ほんの少し。
緩んだ。
萌亜はリオナの手を離さなかった。
*
地上でも、同じ瞬間に世界中の夢が乱れた。
だが、今度は誰も即座に意味を書かなかった。
シャンバラ。
潮境網。
渡り潮。
エックスが構築した受信表示。
そこには一つだけ。
『原信号:意味確定不能』
と表示される。
御門はそれを見ながら、各地の担当者へ命じた。
「解釈を付けるな」
部下が戸惑う。
「報告上は何と」
「観測事実だけ書け」
「ですが」
「『巨大な夢域変動を確認。意図不明』でいい」
「意図不明のまま?」
「ああ」
御門は画面に広がる理解不能な波形を見る。
「分からないものを、分からないと報告するのも仕事だ」
その指示が世界各地へ回る。
誰かが「神の怒り」と言う前に。
誰かが「侵略開始」と書く前に。
誰かが「救済の神託」と呼ぶ前に。
空欄が残された。
*
ルルイエ内部。
四人はまだ立っていた。
街の形は元へ戻っていない。
むしろ以前より分からない。
それでも白い文字は消えた。
瑠々がゆっくり立ち上がる。
「……全員いる?」
「いる」
萌亜。
「いるよ」
リオナ。
『存在を確認』
エクスキューショナー。
萌亜が胸へ聞く。
「ヨル?」
『いる』
「よし」
告潮者の投影は消えている。
逃げたのか。
巻き込まれたのか。
分からない。
瑠々は深い場所を見る。
「あの方は」
少し待つ。
遠い夢。
眠っている。
以前より浅い。
しかし、まだ起きてはいない。
「寝てる」
萌亜が大きく息を吐いた。
「よかった……」
その時。
石畳の先に。
今まで存在しなかったものが見えた。
巨大な扉。
以前の石門よりさらに古く、さらに深い。
そこには白い文字も、人間の言葉もない。
ただ。
瑠々だけが表情を変えた。
「これ」
「知ってる?」
リオナが尋ねる。
「……知ってる」
瑠々は扉を見たまま答えた。
「私が最初に」
「あの方へ辿り着いた時の道」
萌亜が瑠々を見る。
これまで、事故のように一瞬流れ込んできた記憶。
幼い瑠々。
血。
暗い場所。
巨大な何か。
その続きを、三人は見なかった。
見せてもらっていないから。
瑠々はしばらく扉を見つめたあと、自分から萌亜たちへ向き直った。
「次」
少し言いにくそうに間を置く。
「私の話をする」
萌亜は余計な冗談を言わなかった。
「うん」
リオナも。
「聞く」
エクスキューショナー。
『本人の許可範囲のみ記録します』
瑠々は小さく息を吐いた。
「……そうして」
背後では、理解不能な夢が静かに揺れている。
白い翻訳は消えた。
代わりに残ったのは。
誰かの答えではなく。
瑠々自身が、自分の言葉で話すための扉だった。
第49話では、現在の選定機関がルルイエの夢を強制的に翻訳し、その結果がカルト教団へ「神託」として流れ込む事態が起きました。
重要なのは、クトゥルフが実際に「起きろ」「地上を沈めろ」「信徒を選ぶ」と言ったわけではないことです。
巨大すぎて人間にはそのまま理解できない夢へ、誰かが意味を付けた。
しかも選定機関の翻訳基盤は、
「理解不能=危険」
「恐怖=敵対」
「予測不能=排除または管理」
という前提を最初から持っていました。
そのため、何を入力しても最終的には「危険な存在」という結論へ近づいてしまいます。
今回はその仕組みを逆に可視化し、「誰が翻訳したのか」「確度はいくつか」「原信号には本当にその意味があるのか」を地上側が表示しました。
十一パーセント程度の翻訳を絶対の神託として武器を取っていた。
そう突きつけられれば、少なくとも迷う者は出てきます。
もちろん、信仰は数字だけで止まりません。
それでも武装蜂起を一つずつ減らす材料にはなりました。
そしてルルイエ側では、より危険なことが起きています。
告潮者が翻訳層を一括停止させたことで、人間向けに変換される前の夢そのものが萌亜たちへ流れ込みました。
そこで四人が選んだのは、無理に理解することではありませんでした。
分類しない。
記録しない。
名前をつけない。
敵とも味方とも決めない。
ただ「そこにいる」。
ルルイエ編で扱いたかったものが、ようやくかなり中心まで来ています。
そして最後に現れたのは、瑠々が初めてクトゥルフへ辿り着いた時の道です。
これまで瑠々は「救われた」とだけ話してきました。
次は、その言葉を彼女自身がどこまで話すのか。
そこへ踏み込んでいきます。