明日更新あるか不明。
そのため今日たくさん投下しとく。
夕方に帰宅したエミリオは、警備担当や周囲の人間のお叱りを受け帰宅したらしい。
ひとまず気分転換での外出、単なるわがままの延長線上で処理されているようだ。
とはいえノストリオファミリーのプロモーターであるルチアーノ・カルネヴァーレは内心かなりキレていたようだし。
コンサート以降どう扱われるかは謎である。
思うに、これだけの規模のコンサートだし、ファミリーは正規収入の方もかなりの額を受け取っているのではないかと思われる。
エミリオ・バレッティは世界的アイドル歌手だ。
グッズ産業も含めれば、下手をすればチンケな麻薬取引を遥かに上回る金額が動くだろう。
だからこの気楽なエミリオの行動も容認していた。
まさに金の卵を産むガチョウだからだ。
まあ、そのガチョウはエミリオのみ。
今回のことでマネージャーのクラウディアさんがどうなるのかは未知数。
ことは素早く処理すべきだろう。
エミリオの滞在先のサクラサクホテルはしんと静まり返っている。
意外と警備の姿はない。
おそらくエミリオがここに滞在していると知られないように入念に情報規制しているからだろう。
その裏口にやってきて、私はヨイショと壁にもたれかかった。
エミリオは正面から入っていったので、今警備を担当する警部さん達に怒られていることだろう。
コナン君もそちらでルチアーノの注意を引いてくれているはずだ。
出力を絞った電波で、静かに対象へと声をかける。
『クラウディア・ベルッチさん。聞こえますか。驚かず声を出さないでください』
『……声?っ、まさかネバダ虫ッ!?』
『大丈夫。僕は貴方を含めて人類を害すつもりはありません』
初手で大層警戒されてしまった。
そりゃこの電波会話を使うのはネバダ虫のみ。
イタリアでは多くの人間がこの声の主に生きたまま食われていったはずだからな。
私は落ち着いた口調で指示を出した。
『ホテルの裏口に来てください。ルチアーノにバレないよう、こっそりと』
『貴方の目的はなんなの?』
『エミリオさんに頼まれて、貴方を救いに来ました。なんにせよ詳しい話は口頭でします。断っても危害は加えません』
『……わかったわ』
まだ全く信用していないが、念のため話を聞きにきてはくれるそうだ。
手足が流暢に喋ってる状況で、この危機感は極めて正しい。
イタリアには手足が結構いるから、彼女とて日頃手足の会話も聞いていたと思われる、
意外と牧歌的な手足君のことだから、何か企んでる……とは思わないだろうが、訝しむことは間違いない。
しばらく。
リュックを背負い直してぶらぶらしていると、非常階段近くの裏口にクラウディアさんが現れた。
美しい女性だった。
スッと通った鼻筋に、白磁の肌。金髪は甘く整えられていて、彼女とてカメラの前で活躍するに十分な麗しい見た目だった。
彼女は私の姿を見て、大きく目を見開いたようだった。
「子供……?」
「初めまして、クラウディア・ベルッチさん。僕は女王。ネバダ寄生虫の主です」
数度パチパチと瞬いて、私の言葉を飲み込むのに時間がかかっているようだ。
それから躊躇いがちに小さく口を開く。
「まさか、ネバダ虫が言っていた女王というのは……でも彼らは女王が行方不明だと言っていたわ」
「訳あって姿を隠しています。貴方の前に姿を現したのは、まあ、サービスです」
コナン君の紹介だからな。
彼が呼んで、私の力を借りてでもなんとかしてやりたいと願ったのなら。
私が力を貸すことに否やはない。
「貴方は自分の身が危ういことは理解していますね」
「…………」
「その上で、それをエミリオに伝えるつもりが無い」
「……彼の夢にもう私は必要ないもの。彼が世界の舞台に立つのを見ることができた。あとは、重荷は消えるだけよ」
クラウディアさんは瞳を伏せて俯いた。
なるほど、この人も政治感覚は理解しているらしい。
彼の恋人のクラウディアが死ねば、彼がノストリオファミリーに留まる理由の大部分がなくなる。
「あの子と同じことを聞くのね」とクラウディアさんは自嘲したようだ。
あの子、とはコナン君のことを言っているのだろう。
この悲壮な覚悟を知っていたから、コナン君は私を呼んだのかもしれない。
「僕が受けた依頼は『貴方を救う』こと。救われる気はありますか?」
「無理よ。ルチアーノが黙ってないわ」
「順を追って考えましょう。まずコンサート後、貴方とエミリオの身柄をインターポールが保護します」
これはコナン君と打ち合わせ済み。
コンサート中はルチアーノを泳がせる目的での設定だ。
クラウディアさんが首を振る。
「でも、もう私はどこへも行けないわ。ルチアーノにペンダントを取り上げられてしまった。あれがないと、命令拡散機を浴びれば死ぬだけ」
「今から女王権限で貴方の中のネバダ寄生虫を除去します。貴方は虫の脅威から解き放たれ、ただの人となる」
「!!!」
しばし目を見開いて、それから恐怖の滲む顔で体をこわばらせた。
「それは、大丈夫なの」
「どういう意味です?」
「テレビやメディアでは、無症状感染者は脳を乗っ取られた人間だと言っていたわ。私はもうクラウディアと名乗るだけの虫なのかもしれないのに、エミリオも、」
言葉は続かなかった。
恐怖がありありと見て取れる。見捨てられる恐怖、自分が揺らぐ恐怖。
エミリオは変わらないと言ってくれたけど、でも、と。
そんな疑心暗鬼が滲んでいる。
なるほど、と私は頷いた。
医学的には、無症状感染者はネバダ寄生虫と共生状態にあるだけの人間の脳だ。
人格的な変更はないし、むしろ健康を保つ機能がネバダ寄生虫にあることも確認済み。
だが、ノストリオファミリーに囲われて秘匿されて過ごした彼女は、これまで正しい情報に触れられなったのだろう。
「心配せずとも貴方はクラウディア・ベルッチだし、ネバダ寄生虫は貴方に成り代わっていたりしませんよ」
「でも」
「だいたい、成り代わるタイプは別に有ります。貴方は普通に免疫の関係で幼生に適応しただけの人間。虫を抜けば普通の人ですよ」
私のキッパリとした断言に、少しだけクラウディアさんはほっとしたような様子を見せた。
こういう自己認識の揺らぎは周りは誰もしていなかったからな。
なんだかとても新鮮だ。
降谷さんなんてお気に入りのエナドリ扱いだし。
幼生キメなきゃやってられないほど仕事をするんじゃないよ。
ともかく、さっさとクラウディアさんの幼生は抜いておこう。
見栄えのため少し手を添える仕草をして、私は口を開いた、
「ではちょっと動かないでください。3、2、1、『死ね』……はい、抜けました」
「えぇっと、本当に?」
「本当です。もっと厳かにエフェクトとかつけられればよかったんですけど、もう終わりです」
あっという間のことに、クラウディアさんはぱちくりと瞬いたようだった。
血液に乗って脳から撤退させた後、自死命令を打てばそれで終わりだからな。
あとは代謝で自動的に死骸は排出される。
数もそんなに居ないから楽な仕事だ。
まだ困惑しているようなので、私は博士の家から持ってきたルーター改造の命令拡散機を目の前にちらつかせた。
「これ、命令拡散機です。試しにスイッチ入れますね」
「!?!?待っ…」
「ぽちっとな」
クラウディアさんは目を見開いて身を固くした。
それから眉を顰めて恐る恐る周囲を見渡す。
「聞こえない……あの死ねって声が、胸が苦しくなるような切迫感を、感じない…」
へえ、無症状感染者はそんなふうに感じるのか。
一定の強度の電波を受けないと自死命令は起動しないのは知っていたが。
小さく囁くような「死ね」という声がずっと聞こえていたというのは、意外と恐怖だったかもしないな。
「これで一つ目の問題が解決しましたね」
「……ここまで言うのは贅沢でしょうけど、私が逃げたことがバレたら私とエミリオの家族が危険に晒されるわ」
「そっちは同時刻で今頃インターポールが保護してるかと。よかったですね、インターポールを顎で使える権力者の庇護を得られて」
まさにコナン君さまさまということだ。
「ただ、長くは守れません。イタリアンマフィアのメンツを潰した貴方達がいつまで逃げ切れるかは、不透明と言わざるを得ない」
「………」
「一応明日、ちょっとした小競り合いがあるので。その結果次第では長く生きられるかもしれませんね」
「小競り合い?」とクラウディアさんが首を傾げたが、私は答えなかった。
少しだけ軽薄に微笑んで、彼女の瞳を覗き込む。
「今後、僕のことをしっかり黙っていられるなら……追加で庇護を与えましょう。ルチアーノらが本国で不自然に手足に襲われるとかね」
「!」
「どうします?」
うっすら口角を上げて、目を三日月型に細めて。
クラウディアさんは拳を握りしめて体をこわばらせた。
「貴方にどんな目的があるかは分からない。それでも、私が大切なのはエミリオだけ。エミリオのためなら、悪魔にだって魂を売るわ」
私は思わずにっこりした。
こういう強い女性はナンボあってもいいコンテンツなので、心の健康に良いのである。
「では、契約成立ということで。もはや貴方は僕の子ではないゆえに、手足は貴方を餌と見做すでしょう。お気をつけて」
「ええ」
クラウディアさんと別れて、リュックを背負い直して正面玄関に向かう。
出入り口付近でコナン君がぷらぷらしていたので、私は小走りで駆け寄った。
「コナン君!」
「っ、どうだった空!?」
「バッチリです。というか明日は僕は本当にノータッチでいいんですか?間違い無く銃撃戦ですよね」
「赤井さんを配置したからな。あの人ほんとすげーよ。指定位置を絶対外さねぇもん」
明日、というのはノストリオファミリーの取引のことだ。
このタイミングにテロ組織がノストリオファミリーを襲撃することもわかっている。
ちなみに、アメリカとの取引で赤井さんはほぼ「譲ってもらった」状態らしい。
彼は名実ともにコナン君の懐刀になったということだ。
「しかし向こう側も大胆な作戦ですよね。ルチアーノの取引を邪魔しながら、全世界の港と空港を同時に攻撃するなんて。やることが多いってレベルじゃないでしょうに」
「ルチアーノは単にタイミングが被っただけだろ」
日付が内部的に決まったのはほんの今日の朝頃のことだ。
どうもトップが独裁的に運営している組織のようで、そのあたり意思決定がとっても早い。
宗教色もかなりあるそうで、ルパンをして振り回されているところもあるとか。
「暗殺すれば早いんじゃないですか」
「バーロー。というかトップの位置が掴めねぇとか言ってたぜ。臆病なモグラみたいなやつだとか」
「へぇ、ルパンが見つけられないとは病的に臆病ですね。元が政敵に厳しい国ですから、その辺自然と警戒心が強くなったのかもしれませんが」
全く面倒臭い。
私は嘆息して、明日の本番に思いを馳せたのだった。
まあ、私は不参加だけど。
・おまけの話
工藤優作は重苦しく息をついた。
「本当に、中東で見たという個体はそう言っていたのかい」
「は、はい。『女王の名代として人間の大牧場を作る』と」
「だが、ここで確保した個体は違った……」
頑丈な檻の中に閉じ込められたタコ型のそれが「ぷぎー!」と怒って暴れている。
その言語を工藤優作は理解できないが、どうやらかなりの知能を誇るようだ。
「『人は穢れ!人を全て排し、正常で神聖な地を作って女王を招く』と。『この下等種族!私を離せ!』と。そう言っています」
州知事が困惑に満ちた顔で「どう言うことだね」と優作を見る。
「まずいな」
「これはどう捉えるべきかね、Mr工藤、化け物どもの中で意見が割れてるのか、それとも単なる我々の理解不足か」
重苦しく息をして、優作は目を細めた。
「この新しく発見されたタコに酷似したブレインリザードは、人間となんら遜色ない知性があるのはご存知の通りだ」
「ああ、恐るべきことだ」
「知性があれば、信仰が生じる。信仰があれば異教が生じる」
その次を、我々は知っている。
それ即ち。
戦争である。
・「手足」外交型
お前達人間はそうだったろうが、我々は次世代の種。
あらかじめ対処法ぐらい編み出すさ。
ちなみに成り代わるタイプ。