投稿できた。
本日はライブ当日だ。
夕方から始まるエミリオのライブは、WSGのために国費を投じて作られた新国立競技場で行われるらしい。
来年WSGが開かれるかも分からないから、なんとか資金を回収したいと言う思惑もあるのだろう。
凄まじい人が集まっているようで、コンサートは大盛況らしい。
まあ、あちらはコナン君に任せておけばよかろうよ。
プラーミャも情報を吐いたことだし、大計略はコナン君の得意とするところだ。
私は組織のアジトで羽を広げてゆっくりとスナック菓子をもしゃついている。
羽を広げると、人間社会の電波が工事現場の雑音のように大音量で聞こえてくる。
ジジジジジ、とうるさいWifiの中継機の出す音、刺すようなスマホの通信音、遠い地鳴りのようなGPS、ラジオの放送ももちろんだ。
この世はかくも電波で満ちている。
そんな中に。
ふと僅かに、私の耳を掠める音があった。
『女王よ、聞こえますか、女王よ』
「!」
小さな小さな、聞き覚えのない電波が私を呼んでいたのだ。
私を女王と呼ぶということは、手足がこの付近にいるのか。
それとも頭のいい海手足が遠く離れたところから交信しているのか。
私は念のためその呼びかけに応答した。
『はい。こちら女王です。どうかされましたか』
『!?!?!?!?』
私が答えると、向こうはひっくり返るほどびっくりしたようだった。
何やら乱れた電波を発し、しばらく混乱して立ち直るまで時間がかかったらしい。
あわあわと声が戻ってくる。
『じょ、女王よ…!お会いしとうございました…!このような下等な身の呼びかけにお答えいただき、誠にありがとうございます!』
『構いません、我が子よ。子の呼びかけに応えるは親の使命です』
『女王っ……!!!』
じぃんと何やら感動したようだ。
そのまま嗚咽のような電波で声を震わせ、おうおうと泣き始めた。
よほど私と会話できたのが嬉しいらしい。
私は咳払いして声の主に先を促した。
『それで、僕になにかありましたか』
『わ、わたくしは女王を探しておりました!同胞のため、我らの未来のため、女王のお力が必要なのです!』
声には熱が入っている。
私は片眉を上げた。
『ふむ?』
『そのためにわたくしは声の中継が可能な者を探し、その力に頼って女王を探し始めました。地衣類の如き我らが同胞です。まさかこんなにも早く女王とお会いできるとは……』
『………』
これは少しまずいかもしれない、と私は思い始めた。
この手足は賢すぎる。
人間と喋っているのとまるで見分けがつかないあたり、例のタコ型に似た種かもしれない。
その上で、地衣類の如き同胞というのが、灰原さんの研究で確認された新種だとしたら。
私は誓って幼生を漏らしてなどいないし、そうなると何故かなり離れた土地で新種が生まれたのか説明がつかない。
まさか私の代替わりに反応して幼生全体が変異を起こしたのか。
できればこの声の主にも今どこにいるのか聞きたいが、聞いても無駄だろう。
ジャングルで「いまどこにいる」って聞かれても人間でも「なんか木がいっぱいあるとこ」としか言えないし。
でも念のため聞いてみるか。
私はダメ元で声の主に問いかけた。
『今あなたはどこから声をかけてきていますか?』
『我らの通常の通信距離の五十倍から六十倍の距離です』
『手足は頑張って半径100kmほど…なるほど。人間の言語などは手元にありますか?』
『甘い香りのする袋が近くに落ちてますので、少しお待ちください……これです。見えますか』
『んー、現地のお菓子ですか。英語。ハラル対応。インドネシアあたりですかね』
後々コナン君に行って調査してもらわねばなるまい。
私が考え込んでいると、新種手足君は熱っぽく息を吐いたようだった。
『ああ!我らが女王よ。我らをお導きください!正しき字の王の思想のもと、この地を我らの楽園とするのです!』
『それに関しては断ります』
『…………?……………え!?!?』
理解するのにしばらくかかったらしい。
数拍置いてガーン、とショックを受けた様子を見せた。
『な、何故でございますか!?!?』
『単純に、僕には人間とことを構える気がないです。人の文化は楽しい。我が子よ、人を傷つけることなかれ』
びっくりしたのか新種君は声もなく絶句している。
これは一応実験も兼ねている。
そう、高知能の手足は女王に逆らうのか……とかな。
しばらくの沈黙の後、新種君は結論を出したらしい。
震える声で感極まったように叫んだ。
『おお…女王よ……女王のお考えは海より深く、深淵であらせられる…!私は感動いたしました!』
『?????』
『わたくしはいつのまにか、ただ己の身のことを考えていたようです!』
狂気的な声が熱をまいて吹き付けてける。
うおっ、むさ苦しい!電波なのに!
『我らの全ては女王のためにのみ存在している。その上で、女王の豊かさはあの下等な人間どもが生み出すものだった!』
『あの……?』
『ならば我々のすべきことは、人間どもが女王に尽くすよう管理監督すること。ただ食らい消費することではない!』
『待ってなんか変な方向に』
『おお女王よ!偉大なる女王よ!我が浅慮を許したまえ!我らは必ずや人に御身の偉大さを理解させてみせます!!』
『待って待って待って』
プチッと通信を切って、新種君は猛進し始めたようだった。
それきり声が聞こえなくなる。
あの野郎、女王相手に電話ぶつ切りとか許されざるよ。
いや女の子だったかもしれんけど、手足に性別はないから野郎でかまわへんやろ。
まあいいか。
無害な伝道師手足が生まれるくらいで人は傷つかないはずだ。多分。きっと。メイビー。
というか人間相手では言葉通じないんだけどどうする気なのか。
頑張って人間のことは研究するのかな。
鳴き声の声真似ならできるから、文法がわかれば発生は可能か。
私はうんうん考えて思考を放り投げた。
もうしーらん知らんしーらん。
あとは全部コナン君に投げればええや。
全て忘れ去って私は高速で昼寝中の手足君を撫でまくった。
『なになになに女王が撫でる。もっと』
「よーしよしよし手足君は可愛く無いねぇ。不細工で怖げだねぇ!」
『女王が貶してくる。なに。選ばれし民はカッコ良くてイケメン』
「よーしよしよし」
もしかしてこの手足君は手足界のイケメン…?
自認イケメンのハゲ散らかした手足君を撫でさすり、私はテレビをつけた。
お、ニュースがやっている。
速報だ。
埠頭で銃撃戦があったらしく、近隣住民に外出を控えるように呼びかけがある。
15分前に銃撃戦、か。
無事に犯人達を確保できていれば………。
瞬間。
ドォン、と凄まじい腹の底を揺らすような地響きが来た。
慌てて窓の外を見ると、遠く空の向こうに黒い煙が立ち上っている。
あの方向は警視庁だろう。
このアジトは霞ヶ関近くに構えている。
灯台元暗し、というべきか。
あと降谷さんが通いやすい位置ということで私が選んだのもある。
警視庁は目と鼻の先。
その先で、黒い煙がもうもうと空を焦がす。
間も無くサイレンの音が鳴り響き、道を走っていくのが聞こえた。
間も無く、コナン君から電話が入る。
『空!今アジトだよな!?警視庁はどうなっている!?』
「黒煙をあげてますね。この距離でも見えます。すごい騒ぎですよ」
『っくそ!やられた!』
どうも手違いがあったらしい。
私は彼に手早く情報共有を求めた。
「何があったんです?」
『メンバーは全員捕まえて、空港と港と爆弾は撤去した。でも奴ら、陽動でいくつか爆弾を追加で仕掛けてたんだ。それが爆発した!』
「敵もなかなかやりますね。プラーミャと取引した以外の野良爆弾を仕掛けるとは。ということは、解体は比較的容易いと」
『ああ。でもあれはただ出入り口を爆破しただけだ。本命はまだ中に残ってる!』
つまり早く中の人間を救出するか爆弾を止めるかしないと、多くの警察官がお陀仏、ということか。
一斉に全部爆破しないあたりコナンワールドみが強いんだよな。
そのあたり、前にプラーミャに聞いたことがある。
いわく、「死を前により絶望した顔を見られるだろう?」とのことで、馬鹿を見るような目で教えられたのを思い出す。
なにを当たり前のことをみたいなトーンで言われても困るんだよな。
爆弾魔界の常識が物騒すぎるんだわ。
「ひとまず現場に急行します。できることがあるかは…探さねば分かりませんが」
『頼む!こっちはプラーミャの爆弾の対応で手一杯だ。状況だけでも確認してくれ!』
「了解です」
リュックを背負って出撃準備完了。
足早に出ようとすると、ジンが出入り口で立っていた。
じろり、と鋭い眼光が私を睨め付ける。
「サツどもを助けに行くのか」
「はい。僕は光に生きる真っ当な人間なので正義感が強いんです」
「ハッ」
私の胸を張っての発言は、ジンに軽く鼻で笑われてしまった。
肉体君が「お前から潰してやろうか」と怨念に満ちた声を出す。
「誰かに言われたからだろう。テメェは燃えるサツどもを見ても何も思っちゃいねぇ」
「人非人みたいな言い方は名誉毀損ですよ。焼死はとっても痛いのでできれば助けてあげたいです」
「ネバダ虫に生きたまま噛み砕かれる方が辛いと思うがな」
「…………」
なるほど、ネバダ虫を野放しにして隠れ潜んでるお前が人非人でないはずがない、と言いたいわけだ。
そう言われると私も旗色が悪い。
私は頷いた。
「ふむ。そういう意味では悪い奴ですね。僕は」
「テメェは本質的に他人なんざどうだっていいのさ。テメェは所詮」
「ちょ、ちょっと待って、長い、長いです。今割と急いでるんです。後で改めて聞きますのでこれにて失礼」
話がクソ長くなりそうだったので、私はぶった斬って部屋を出た。
変なタイミングで人格の概念的な話をされても、その間に爆弾が破裂したらどうすんだって話である。
慌てて現場に急行。
タクシーを使ったのですぐの場所だ。
ただ、子供の足だと時間がかかるんだよな。
見上げた建物はごうごうと燃え盛り、まだ中に人が大勢取り残されているようだった。
下は騒然と多くの人が警視庁を見上げ、中には無理やり内部に突入しようとしている人もいる。
中への侵入は少しばかり難しそうだった。
・名もなき妨害型君
信仰を新たに人間に女王の偉大さを布教することを決意。
「下等な人間達に女王の尊さを知らしめる…難しい事業ですが、だからこそやりがいがある!おお女王よ!」
・イケメン?手足君
「選ばれし民、イケメン。きらっ。ふとっちょでも素敵。ホントホント」