翌朝、私たちは函館警察署へと訪れていた。
昨日のうちに色々情報を仕入れていたので、その整理のために一旦集まったとも言う。
京都泉心高校の沖田総司もしれっと会議に参加するようだが、これは明らかにキッドである。
「おおきに」と言って素知らぬふりをして私に頭を下げたキッドに、私もぺこりと挨拶した。
「どうもです、怪盗キッド。よくそこまでラバーの香りを隠しましたね。素材自体に特殊な加工をしてるんですか?」
「………俺の苦労を水の泡にする発言やめてくんね?」
「僕の鼻の良さを舐めてはいけませんよ。でも前みたいな悪臭攻撃はやめてくださいね。今度は手足を放ちますから」
「うわ凶悪」
大袈裟に震えて、キッドはのけぞったようだった。
本気で捉えられていないようなので、手品で懐からラバー製手足をビョンと取り出す。
通常の兵士型手足人形がゲタゲタ笑った。
中に笑い袋が仕込まれているのだ。
「ギャッ!?!?!?」
「どうです、本物を見ながら作った渾身の出来です。頭から這い出た当初、すなわち生体の4分の1のサイズです」
「怖ェよ!!!それ街で出したら最悪逮捕だからな!?」
「そんなことしませんよ。キッドに見せるための特注品です」
私はダブルピースをして「手品、どうでしたか」と笑顔を作った。
キッドは少しだけため息をついたようだった。
「及第点。でも小さくなったの、名探偵と一緒の仕組みってわけじゃねーんだよな」
「はい。僕は四代目です。思えば、この一年で3回も死んでることになります。僕…儚い生き物…!」
「発言が儚くねぇんだよなぁ」
「なんにせよ四代目僕をよろしくお願いしますね」
躊躇ってから、キッドは瞳を伏せた。
少しだけ切なさを滲ませた顔で、噛み締めるように言葉を落とす。
「ああ。よろしくな」
私の北海道行きの目的はこれで達成されたと言うわけである。
あとは捜査会議だ。
議題はキッドが狙っているとされる宝のありかとその正体。
刀を6本集めるとその在処が分かるとかだが、4本集まった状態でも謎が多い状態らしい。
探偵達が各々意見を出し合っている中、私は一人よそごとを考えていた。
まあこう言う頭脳労働は探偵に任せればいいからな。
工藤君も服部君もいるし、私は特に必要なかろうよ。
ちなみに、それのありかは北海道東照宮だということはその後すぐにたどり着いた。
どうやら斧江拓三氏もそれを狙っているようで、警官に盗聴器を仕込む暴挙を行っていたようだったが。
スケボーのあるコナン君とバイクの服部君なので、足のない私はあっという間に置いていかれることになったがな。
悲しいことよ。
私は睡眠薬を盛られて寝こけている毛利探偵に、持ってきたブランケットをそっとかけた。
クーラーが効いて寒いんだよね、北海道警。
私もブランケットの端にくるまってスマホゲームに興じることとする。
阿笠博士に作ってもらった新作アクションだ。
ぴこぴことまったりしていると、しばらくのちに蘭ちゃんが様子を見に来たようだ。
会議室を覗いて私たちの姿に気づいたらしい。
「あれ、空君お父さんと一緒にいたのね」
「はい。毛利探偵はお疲れみたいなので、僕も一緒に休憩していました」
「そうしてると弟ができたみたい。コナン君もそうだけど、家族がたくさんで嬉しいかも」
にこっと本当に嬉しそうに微笑んで、蘭ちゃんは頬を染めた。
蘭ちゃん、突然子供の世話を任されて家事もあるし大変だろうに、本当にいい子なんだよな。
肉体君がブツブツと「むう。でも僕は母君と父君の子ですから。毛利蘭なんて赤の他人ですから。うん。他人」と意地を張っている。
ちょっと嬉しいくせに、素直じゃないんだから。
蘭ちゃんは私に温かい缶のお茶をくれて、それから隣に座った。
「新一に北海道土産を買おうと思うんだけど、何がいいかなぁ。空君は何がいいと思う?」
「間違いなく絶景で笑顔の蘭さんのピンショットですね。好きな人の嬉しそうな顔の写真は万金の価値があります」
「もう。キザっぽい言葉は安室さんに教えてもらったの?」
「コナン君です。たぶん元を正せば工藤新一さんかもしれません」
「あー、それっぽいかも。コナン君ったら変なことばっか学んで!」
くすくす笑って、蘭ちゃんは私をヨシヨシと優しく撫でた。
「でも、空君が元気になってよかったわ」
「?僕そんな最近元気なさそうに見えました?」
「そうじゃなくって、前にウチに預けられたことあったでしょう」
「ああはい、結構前に3日ほどお世話になりましたね」
なんだかとても懐かしい話な気がする。
阿笠博士が学会で留守にしていたから、いっとき毛利探偵事務所で預かってもらってたっけ。
その時は免疫機構の不備で倒れてしまって、早めに阿笠博士に帰ってきてもらうことになったんだったか。
「その時の空君、とても大人びてるっていうか、全部が全部つまらないって顔してたから心配してたの」
「……そんな顔してました?」
「うん。なんだかすごく寂しそうに見えたというか、一人ぼっちみたい見えて」
「………」
そうかもしれない。
転生とは常にひとりぼっちの始まりだ。
私のあらゆるものは無に帰し、財産友情その他全てがゼロと還る。
寂しかった、のかもしれない。
優しく私を撫でたまま、蘭ちゃんが言葉を紡ぐ。
「だから、空君が元気になったならとっても嬉しいなって、そう思うの」
「…みんな、優しい人ばかりなので。僕も無関心なだけでは居られなかったんです」
「そう?ふふ、空君も十分優しい子よ」
暖かな言葉に、見ててくれたと言う気持ちに、なんとなく気恥ずかしくてたまらなくなる。
ああ、この世界は本当にいい人ばかりだ。
ふと、部屋をひょいと人がのぞき飲んだようだ。
きょとんとした顔のおじさんはラバーマスク製の不審人物。
たしか川添と呼ばれていた刑事さんだ。
その中身はおそらく、初代怪盗キッドなのだろうが。
「15分後に捜査会議が開かれるので、それに毛利探偵も出席していただきたいのですが」
「あ、わかりました!父を起こしてお伝えしますね!何が起きたかお聞きしてもいいですか?」
「福城聖が逮捕されました。例の港での殺人事件の被疑者です」
「…………え!?」
蘭ちゃんが驚愕に目を丸くした。
ふむ、となると、止めるタイミングはもうほとんど残ってないことになるか。
部屋の外に出て、私はトイレと称して単独行動を始めた。
多少私の行動に整合性がつかなくなっても、カドクラに頼んで福城家へ連れて行ってもらうべきか。
悩んでいると、私のスマホに着信があった。
コナン君だ。
向こうでも何か大きな動きがあったらしい。
『悪い、空。カドクラについて聞いていいか』
「問題ありません。なにかありましたか」
『福城良衛が攫われた。家が荒らされてる。カドクラの仕業じゃないよな』
「手を引かせているので無いとは思いますが…確認します」
動くなとは言ってあるが、良かれと思って行動を起こした可能性は否定しきれない。
まだあの新種の性格はよくわかってないし。
コナン君は頷いて焦りをはらんだ声でため息をついた。
『頼んだ。辿り着くべき星稜刀は見つかったけど、すでに3年前に盗まれていたらしい。だから正直、福城さんに色々聞きたかったんだけど』
「………星稜刀とやらについてわかっていることをお聞きしたいんですけど」
『ん?ああ。五芒星型の鍔がついてて、眼のような目釘マークの特徴的な刀だったらしいぜ』
私はうむ、と頷いた。
黙りこくる私に、「何か心当たりがあるのか?」とコナン君が食いついてくる。
私は慎重に、コナン君がショックを受けないように丁寧に口を開いた。
「心当たり、あります。その、落ち着いて聞いて欲しいのですが」
「お、おう」
「工藤邸で該当の刀を見たことがあります。赤井さんと一緒に写真撮ったりもしました」
「……?………??????」
おっと、突然の急カーブにコナン君は振り落とされたらしく、大宇宙に思いを馳せ始めてしまった。
私は情け容赦なく追い打ちをかけた。
「五芒星の鍔に眼の目釘。乱れ刃が美しい、時々有希子さんに棚の下に入ってしまったスリッパを取るために使われる刀。工藤新一たるあなたはよくご存知のはずです」
「あ、………あーーーーーー!!!!」
「僕も赤井さんと新撰組ごっこしました。無駄に法被着てご用改である!って凄む遊びです」
「いや何してんだよ。本当に何してんだよ赤井さん」
元々私も原作は知ってたからな。
赤井さんと工藤邸で遊ぶうち、部屋の隅に立てかけられた刀を発見するのは早い話だった。
なんか修学旅行のお土産の木刀みたいに雑に立てかけてあるからちょっとびっくりしたが。
で、有希子さんに確認をとって少し写真を撮らせてもらったわけだ。
別に刀といえば新撰組、ということで遊んでただけだから、赤井さんは価値を知らないはずだ。
私はこれが本物の土方歳三の刀だと知っているのでちょっと盛り上がったりもしたが。
あと助さん角さんごっことかもしたか。
赤井さん付き合い良いんだよな。
「そこで問題になるのが、工藤君と怪盗キッドの顔が激似なことです」
「あーーーー、あーーーーーー」
「怪盗キッドは年齢的に間違いなく二代目。父親から事業を受け継いだとして、どうもこの仕事は先代が途中で手を引いた仕事の様子。つまり怪盗キッドの父親と工藤優作は」
「あーー、あああーーーあーーー」
ついにコナン君はターザンになってしまったらしい。
言語を失ってしまったコナン君を憐れみ、私はそれ以上の追求は避けることにした。
「どうします?事件解決なら多分実家から取り寄せるのが一番早いと思いますよ」
「いや知らない。俺は何も見なかった。ともかく攫われた福城さんを探す。お前はカドクラに確認をとってくれ」
「了解。本当にいいんですか、罪を見て見ぬふりをするのは」
「いやホント待って、俺に向きあう覚悟を決める時間をくれ…!」
「わかりました。幸運を祈ります」
面白い取り乱し方をするコナン君に、私はプークスクスと少しだけ笑った。
時間を置いても事実は変わらないのよ、貴方。
電話を切って、次に繋ぐのは新種君からもらった名刺である。
電話は2コールでつながった。
「我が子よ、今時間はいいですか」
『勿論。偉大なる女王のためならば』
お硬い言葉で挨拶されて、私は少しだけたじろいだ。
どうも真面目な人っぽいんだよな。苦手な部類だ。
「福城良衛が攫われたのですが、何かご存知ですか?」
『ああ、それなら斧江のしわざでしょうな。奴には発信機をつけているのですが、福城家に踏み込んだのはこちらでも確認できておりますから』
「監禁場所はご存知ですか?」
『それならこの廃倉庫が怪しいかと。位置情報をお送りしますのでご確認ください』
「なるほど。優秀な子を持てて僕は嬉しいです」
私の言葉に、淡々としていた彼の返事に僅かに熱が籠るのを感じた。
『はっ……身に余る光栄です…!それと、よければ斧江はこちらで始末いたしましょうか。元々、利用後始末する予定でしたので』
「いえ、それには及びません。少し苦労をかけますが、まだしばし日本に待機していてください」
『勿論でございます。女王のいる場所こそが私のいる場所。女王の命令こそが我が運命です』
より熱っぽく、情熱的に新種君は語気を強めた。
『この出会いには感謝しても仕切れません』
「………」
『私はあなたの民の中でもとびきりの出来損ないだ。声は小さく、耳は遠く、下等生物の肉を纏わねば行動もできない』
とろりと蜜のような歓喜と悦楽が吹き付ける。
電波ですらない肉声での会話に感情の回路は設けられないはずだが。
それでも、その声には万感の思いが詰まっていた。
『そんな私をあなたが使ってくださっている。そのような望外の幸運がありましょうか』
「ならばどうか、僕の命を今後も良く聞き、良き民であってください」
『勿論でございます、女王陛下』
私は確認を終え、電話を切った。
どいつもこいつも高知能の手足は重いでごじゃる!!!
・「手足」外交型
対立を産まぬための機構に意志はいらない。
だから声は小さく耳も遠い。仕事に真面目で実直なものが多い。
基本手足の間では「仕事でブサメンやってる人」扱い。
・「手足」戦争型
超デカいし足ワッサワサで牙すごい。
手足界ではキアヌ・リーブスの化身とされる。
意外とおっとりしてて穏やかないい子。
・コナン君
自宅の財に盗品の文化財が紛れてる可能性に眩暈がしてる。
劇場版名探偵コナンお宝返却大作戦…ってコト!?