今日は神奈川県のフレンチレストラン、デュース・デュヴォンに向かっている。
予約だけで2年待ちの超人気店で、ドラマでも舞台になったお店だと聞いている。
かの有名な沖野ヨーコのドラマだ。
私も美味げの予感にワクワクのソワソワが止まらない。
車の後部座席に乗って、私は思いっきり伸びをした。
「ふわぁああ……」
「大丈夫か空、眠そうだけど」
コナン君が助手席から振り返って私のことを心配そうにしていふ。
むにゃむにゃあくびを噛みころして、私はぼんやり返事をした
「少し眠りが浅いだけです。でも問題ありません」
「原因がわからないのが厄介なんじゃよ」
阿笠博士も眉を下げてふうむと考え込む仕草をした。
日頃常に眠そうなだけでなく、夢遊病で夜な夜な彷徨いている姿も見られてしまったからな。
実のところ、理由ははっきりしている。
私に取り憑いた何やらコバンザメみたいな魂が私に干渉して、洗脳のような形になってしまっているのだ。
夢遊病は、そうしたコバンザメの影響が意思なき私に現れているだけ。
そこで一番心配なのは肉体君の小さなホワホワ魂がコバンザメに齧られないかだが。
私が眠っているうちに肉体君が犠牲になったらとても悲しいしな。
そのため、睡眠時は肉体君の魂を私の魂の奥深くに招いて保護している。
『アイツら、兄君の魂に食いついて中に入り込もうとしてるんです。穢らわしい。僕が大きければすぐに追い払ってやるのに』
肉体君がぶつぶつと恨み言を呟いている。
最近になって、私のことを兄君って呼んでくれるようになっている。
これは実に嬉しみな事である。やったぜ。
でもたしかに最近無視できない影響も出てきてるんだよな。
特に情動への干渉が顕著で、感情の起伏が激しくなっている。
ぶすっとしたり喜んだり、小さいことではあるんだが。
最近少し表情豊かになったね、と言われたり。
まあ私の生来の淡白さを考慮すれば常人ほどの感性になっただけだが。
一体何がしたいのやら。
と、言ってる間に後ろから「そこの真っ黄色の車、泊まりなさい!」と大音量の制止がかかった。
見れば後ろに白バイが一つ。
どうやら速度違反をしてしまったらしい。
博士が「しまったわい!」と愕然とした様子で青ざめた。
コナン君が呆れたように肩をすくめた。
「博士ぇ、だから飛ばし過ぎって言ったろ」
「しょぼん……これでは予約は完全に遅れてしまうわい。高級フレンチ……」
「仕方ねーよ。レストラン側に連絡してなんとかできないか聞いてみようぜ」
ちなみに子供達と灰原さんは家でお留守番である。
灰原さんは寝不足でだるくて動く気になれなかったが故の欠席だ。
ここのところの研究が立て込んでるからな。
新しく家に来た人間由来の手足君への聞き取り調査もあったし。
手足君は阿笠邸の同胞とすぐに仲良くなったらしい。
「選ばれし民は長い苦難の末女王に拾われた。えへん」とか言ってふかしていた。
純粋な手足達は「すごい!」「尊敬!」「もっと聞く!」と話をせがんでいたようぁ。
まあ元気なようならいいか。
ムキムキの手足君は超イケメンでキャーキャー言われてるみたいだし。
人間から見るとハゲ散らかした化け物でしかないんだが、タデ食う虫も好き好きってやつか。
ちなみに子供達は灰原さんに付き合って家でゲームをしているようだ。
高級フレンチより友達と家でゲームするひとときを選ぶあたり、健全なものであることよ。
切符対応している博士を尻目に、コナン君が私に話しかけてきた。
「そういや、空は味覚が一般的な人間とは違ったよな。外食する時とかってどうしてるんだ?」
「違いますけど、概ね高級品は美味しく、安物は不味く感じますから問題ありません」
「……それは大いにお前の先入観に影響されてねーか?」
「されてます。高級寿司とても良い。黒毛和牛とても良い。うま、うま」
私は手足語録でうまうまと回答した。
今回のディナーも、アレルギー食品の名目でネギやアボカドなど要注意食品を受け付けてもらえたので安心して食べられる仕様である。
白バイが離れていく。手続きが終わったようだ。
声色で分かったのだが、あれは萩原千速さんだ。
萩原研二の姉であり、降谷零も挨拶したことがある。
彼女には……今関わる必要はないだろう。
そのまま車を走らせて、私たちはその場を後にしたのだった。
レストランに到着した頃には、遅れてはいるもののなんとか巻き返せる程度の時間となっていた。
軽く正装する人々の集まるレストランはそれだけで格式高く目に新鮮だ。
私も子供用のシックなスーツに身を包んでいる。
翼は相変わらずリュックに入れているが、リュックのデザインもいかにも医療器具っぽくしてあるのでそこまで突っ込んで聞かれることはないだろう。
お任せコース!!!8品で5万ッ!!
イェェアア!!
コナン君が若干半笑いで私の隣の席に着いた。
「お前目ェ輝き過ぎ。オメーも意外と食いしん坊だよな」
「ネバダ虫が食いしん坊でないはずがない。美味げ、好きです。肉体が食欲に沸いている」
私の自信満々の発言に、コナン君はクスクス笑ったようだった。
「仕方ねーな。俺が名探偵になったら各国の美食を堪能させてやるよ」
「ホワッ……前言撤回できませんよ?食いまくりますよ僕」
「オメー一人養えないようなヘボにでも見えんのか」
「トゥンクってなりました。ばぶー。本場のフレンチフルコース食べたいですバブー」
「デケェ赤ん坊過ぎだろうが!」
「本物の赤ん坊なのに僕!!!」
ボスっと横腹どつかれて、私はゲフゥとなった。
さて、それから1時間。
前略、阿笠博士が誘拐されました。
というのも、それが判明したのはコナン君が突然地下駐車場に駆け出してしまったことに端を発するのだ。
返事も待たず動くのはコナン君の悪い癖だ。
私と蘭ちゃんはその後から追いかけて、コナン君が端的に叫ぶ言葉を見送って呆然とその場に取り残されただけ。
食後、阿笠博士がトイレに立ったあたりで攫われたらしい。
犯人の狙いはセキュリティ会社社長の南條欽治。
体格の似ていた二人は、なんらかの理由でトイレ内で服を取り替えて……うっかり南條社長に間違えて博士が攫われた、という顛末のようだ。
毛利探偵はコナン君の後を追ったから、私たちは通報して警察対応がお仕事である。
蘭ちゃんが心配そうに眉を下げた。
「博士、撃たれたかもって言ってたね。まさかあの血痕は博士のなのかな…」
「恐らくは阿笠博士のものでしょうね。犯人が金庫目当ての強盗グループなら、拳銃ぐらい持ってるでしょうし」
「嘘!?」
阿笠博士は人がいいからな。
「肩が凝るSP達から抜け出すため」とか言われればホイホイ服を貸してしまうだろう。
南條社長はセキュリティ会社の社長で、最近TVで「うちの金庫を開けるには私にしか開けられない!」と豪語したのは私も知っている。
すなわち生体認証だ。
偽造が難しい静脈…あるいは虹彩認証あたりが金庫に搭載されているのかもしれない。
生体認証に使う以上、その場で殺害される可能性は薄いとはいえ……絶対とは言えない。
私は大きなため息をついて肩を落とした。
あー、たしかあったな、原作で阿笠博士が連れ去られる回。
アニメ化していない野良事件も含めて事件がありすぎて全然思い出せてなかったけど。
つまりこれは私の失態というわけだ。
蘭ちゃんが心配そうに身を寄せて口を開いた。
「とりあえず警察には連絡したから、到着するのを待って話をしよっか。犯人はお父さんとコナン君が追ってくれてるし」
「そうですね。どちらにせよ、僕らにできることは後詰だけだ」
原作では確か、そう、太ももを撃たれたって描写だったはず。
そんなの、大きな血管を撃たれればあっという間に失血死だ。
コナン君だって無事では済まない。
車でスケボーを攻撃され、高速道下に落下しそうになっていたはずだ。
肌がひりつく。
大切な人たちの命の危機に、私のあまりにもお粗末な対応に己への怒りが止まらない。
もし原作通り助からなかったら、もし、もし彼らの命がどうでもいい悪漢の手によって失われたら。
その時は我が手にテ引き裂イて、弄ンで、我が手足の喝采の中肉を喰ら
「大丈夫、空君。怖い顔してる」
「っ、すみません。」
なんだか思考にノイズが走ったような。
何を考えていたかよく分からない。一瞬意識が飛んでいた。
頭が重い。たぶんコバンザメどものせいだ。
あのコバンザメ碌なことせぇへんな!
しばらくすると、コナン君から電話が来た。
どうやら向こうも決着がついたらしい。
私たちはやってきた刑事さん達に一通り話をしてから、場所を移して神奈川県警にやってきている。
無機質な聴取室のパイプ椅子はなんだかガタガタしていて座り心地が悪い。
私は電話をということで廊下へ出て、それから通話ボタンを押した。
「コナン君、どうでしたかそちらは」
『犯人グループを捕まえた!博士も無事だ。今救急車で病院に運ばれてる!』
「っよかった!流石コナン君!ああ、それと、僕らは今神奈川県警にいますので合流するならそちらへ」
『了解、悪かったな待たせて』
「あと、高速道路を違法改造スケボーで爆走してる小学生の件については話はありませんでしたが、あったら知らないと答えておきますね」
『おう……おう……』
まあこの世界の道交法って緩いのでそこまで気をつけなくて大丈夫だけどな。
私だって速度超過の切符切られたのを見たのは今日が初めてだし。
降谷さんの記憶を含めてだ。
コナン君がスケボーで爆走しても、みんなプロのレーシングドライバー並みの絶技で避けて急停止してくれる。
電話を切って、ふわぁと大きなあくびをした。
時折意識が飛ぶような、妙な感じだ。
肉体君が突然、ゾッとするような低い声で言った。
『今、コバンザメどもがあなたの魂の中に頭突っ込んで舌伸ばしてます』
「……?………キッッッッッモ!?!?!?」
『さっき中から舌先千切ってやりました。おととい来やがれ』
「無理しないでくださいね。間違って食べられたら僕は暴れますよ」
こんなポワンポワンの綿毛、パクッと一飲みにされてしまうに決まっている。
いそいそと肉体君の魂の場所を再確認してから、私は大きくため息をついたのだった。
・研究者達(故人)の和気藹々
「えっその触手みたいなのどうやりました?」
「アストロの幼生をイメージして寄生する感じで、そう」
「流石アストロ、アストロはいつだって我々に新たな気づきを与えてくれる!」
「おっ、接続した!アストロよ全てを支配せよ!」みよんみよん
「行け!我らがアストロ!」「やれ!」「GOGO!」