最終章のつもり
RE:降谷零の苦悩と分岐点①
劇場版名探偵コナン、世紀末の魔術師が始まったらしい。
大阪では怪盗キッド出現ということで、メディア各局が大騒ぎしている。
今私は灰原さんに渡すための折り紙の花を折っている。
中にお菓子を詰め込んで、マジックでするりと取り出せば綺麗かなと思ったわけだ。
子供達はわいわいと三人でマリオカートをしている。
わーきゃーと可愛い声をあげて体ごと傾けて運転しているようだ。
さて、そんな平和な今現在。
不意に、脳天をハンマーでぶち抜かれたような衝撃が奔った。
衝撃で床にべちゃりと倒れ込む。
「ゴフゥ!?!?」
「っ空君!?」
一番近くで雑誌を読んでいた灰原さんが驚いて私に駆け寄ってきてくれた。
頭がガンガンと痛む。
というか体がはち切れそうで、完全に定員オーバーな感じがする。
私は意図的に小さく体を縮めて最初の波をやり過ごした。
うおおお転生者式魂収納術ッ!!!
「大丈夫です、ちょっと向こう脛を打っただけですので」
「めずらしいわね。青あざになってない?」
「見た感じは大丈夫です。すみません、心配をかけて」
そう言って、とことことさりげなく自室に戻る。
己の袂を探るためだ。
闖入者はどうやら転生者の類のようで、まるまると太った魂で震えて私の領域内に縮こまっていた。
全く誰なんだこいつ。不法侵入だぞ。
私が中を覗いた途端。
魂はみよん!と伸び上がって私に巻きついてきた。
『兄君!!!!!酷い゛!酷い゛!わ゛あ゛ぁぁあああ!!!』
『誰誰誰誰誰ですか誰of誰!?!?』
『人心無や゛ろ゛う゛ぅぅううう!!!』
『なぜ突然悪口を!?』
その魂は転生者の嗜み、魂での会話をきっちりマスターしているようだ。
叫ぶ声はきっちり魂としての声で、私の声もきちんと捉えられているようだ。
だがその謎の魂を宥めるのにはかなりの苦労を要した。
謎の魂はグズッグズに泣いていて──というか魂の状態で泣けるの器用だなオイ──もはや夢も希望もないみたいな状態だったからだ。
「兄君のバカ!!」「アホッアホッ!」「人の心がないッッッ!」とバチクソにブチギレながら暴れていて、激怒した赤ちゃんそうろうである。
寄り添ってヨシヨシすること15分。
ようやく落ち着いてきたところで、私はそっと声をかけた。
『それで、あなたは何者なんですか』
『僕はあなたの弟です。貴方から空という名前をもらいました』
『オトウト??????』
『あ、あれです。絶望の未来からやってきました』
『ここはドラゴンボールの世界じゃないですよ』
ともかく未来からやってきたとすると、転生者に宿る不思議な力を使ってのことだろう。
これはなんとなく感覚で理解していることなのだが、転生者は必ず不思議な力を一つ持っている。
自分のそれがどんな力なのかはよくわかっていない。
この弟君は時空遡行に類する非常に強力な力を有しているらしい。
『ともかく弟ですね。うむ。僕家族が欲しかったところなんですよ』
『……?母君も父君もじぃじもいますよね?』
『誰誰誰誰誰』
私は再び脳内に大宇宙を作った。
いつのまにか核家族が出来ていたとは、私やるじゃん。
ん?いやまさか灰原さんコナン君阿笠博士の並びのことを言っているのか。
それは畏れ多いぞ。
首を捻ると、弟君はハッとするほど真摯な瞳で私を覗き込んでいた。
『貴方は僕が必ず助けます。絶対にあんな結末にはさせない。兄君、僕の家族。安心してください』
『………僕は、貴方のことを覚えていないのに?』
『もちろん。寂しいけれど、絆はこれから作れる。ああならなければ、未来は紡げるから』
そうきてふわりと抱きしめて。
それからまたしとどに泣いて泣いて泣き始めた。
『兄君、もう行っちゃやだ。どこにも行かないで。一緒にいて。絶対僕が守るから。強くなったから。守られるだけの僕じゃなくなったから。今度こそ、おねがい』
『…………わかりました。一緒にいます』
どうやら相当なことがあったようだ。
転生者にしてはすごく幼いから、もしかしたら小さいうちに亡くなったのかもしれない、と少し哀れに思う。
私はこの魂のことを知らない。
だがどこか懐かしいような、切ないような、不思議な感覚を覚えている。
彼が引き連れてきた私の魂の欠片が、私に流れ込んできたからだろうか。
守らなければと強く思う。
『ともかくあのコバンザメ探しましょう。多分今もどっかにいますよ。ちょっと見せてください!』
『あっちょっと!ヘンタイ!』
『ここか!いや違うな…この辺?あの害魚どもどこにいるんだ!?』
『いやん!!!のび太さんのエッチ!!!』
魂をあちこちまさぐられて、私は恥じらう乙女のポーズで叫んだ。
ネタを解してくれない弟君は、ひとしきり私の魂を弄ってから呆然と立ち尽くしたようだった。
『い、いない…一体どうやって隠れて…』
『もういいですか?いいですよね!?転生者の裸の魂をまさぐるのは法に触れますよ!厳に控えること!』
『どうしよう、早くも暗礁に乗り上げてしまった……』
と、そのあたりで部屋の扉がノックされる。
灰原さんだ。
灰原さんが心配そうな顔をして部屋に入る。
「どうしたの、部屋に篭って。やっぱりさっきどこかぶった?」
「いえ。マジックの仕込みをしてたので、ちょっと集中したくて」
ちょうどいいから渡してしまおう、と私はマジックを披露した。
ポンと小さな煙と共に手の中に先ほど紙で作った造花を出現させる。
それから優雅に一礼して、灰原さんに手渡した。
灰原さんは目を丸くしてから「まあ」と微笑んだようだった。
「中にお菓子を包みました。どうぞ、早めにお召し上がりください」
「手作りの花を破くのは忍びないわ」
「お気遣いなく。日頃の感謝の印ですから」
灰原さんは大事そうに「大切にするわ」と優しく微笑んで花をそっと撫でた。
だから食べてくれって言ってるのに。
「母君……」と肉体君が切なそうな声を出す。
やっぱ灰原さん母君なんか。
少々背徳的すぎやせんか。
出ていく後ろ姿を見送ってから、私は改めて弟君に声をかけた。
『それで、貴方の詳細を教えて欲しいのですが』
『そうですね……何から話しましょうか』
むにゅ、ととぐろを巻いて弟君は私のスペースに居座った。
いや自分のスペース作れよ。なぜ私のスペースで堂々とくつろぎ出すんだ。
『僕は貴方の肉体に宿る人格です。それは魂がない単なる本能でしたが、だんだんと魂が芽吹き、貴方の力を借りて転生者へと至った』
『っまさかこの体の本当の持ち主ですか!?』
『そうとも言えますね』
『いや良かった、なら僕は奥に引っ込んでますので適当にみんなと交流してもらえれば嬉し』
『ダメです』
すごい食い気味の「ダメです」をを喰らってしまった。
目を三角にして弟が私に凄む。
『僕は兄君の喋っているところを見るのが好きなんです。どうせ兄君、奥に引っ込んだら寝るばっかでしょう』
『なぜ僕の怠惰癖がバレて…』
『ずっと一緒にいたんだからわかります。ともかく、僕がたくさん口出して、適宜代わったりしますから!』
『ふぁい』
鬼監督が生まれてしまったようだ。
しかし、となるとこの魂は突然降ってきたというより、既存の綿毛以下のマイクロ微粒子魂が時間回帰で突如でかくなっただけととるべきだろう。
魂同士が衝突したのでなく、私がムギュッてなっただけだ。
だからこそこの弟君は魂の扱いが拙く、自分のスペースの作り方もよくわかっていないのだ。
などと考え込んでいると、お昼も近くなっていい時間となっていた。
ついでにみんなの分も作ろうと思って冷蔵庫を漁ると、牛乳が足りないことに気がついた。
昼前に買い物に行ったほうがいいだろう。
博士に声をかけて、買い出しに行くことを決める。
「博士、買い出しに行ってきます。牛乳と、あと朝食用のヨーグルトも買ったほうがいいでしょうね」
「なんと、すまんな。お使い頼めるかの。ついでにポテチを一つ」
「ダメよ。こんにゃくゼリーにしなさい」
ぴしゃりと灰原さんに言われて、博士はしおしおのパーになった。
可哀想に、あのメタボ腹が解消されるまでこの節制は続くだろう。
少額のお金を握りしめて、とことこ米花商店街へと向かう。
そこの小さな駐車場に、白いRX-7が止まっているのを確認して少しばかり驚きに目を見開く。
『え、降谷さん来てるんですね。意外。いや潜入捜査官だって食料品店に買い出しぐらいしますね』
『僕、オリジナルは正直どうでもいいんですけどね…でも兄君は好きなんですよね?』
『いいコンテンツしてますから。コンテンツ力が高い』
『人に対する評価じゃないですそれ』
ジト目でて見られてしまい、私は少々居心地悪くみじろぎした。
ともかく、私たちはスーパーへと入っていくのであった。
・着地点
巻き戻った先は24話、降谷零の苦悩と分岐点です。
一つ目の分岐は「降谷零が電話をすること」。
降谷零と交流を深めましょう。それは魂を柔らかくして、愛の目覚めを早めます。