当日。
ミラクルランドにやってきた私たちは、穏やかな緊張感に身を浸している。
テーマパークの目の前に立つ提携ホテル、レッドキャッスルホテルを見上げて、降谷さんがぼんやりした顔をした。
手を繋ぎ、なんとなく親子っぽく装っている。
弟君が「オリジナルのくせに触んな」と反発心を強めている。
「警戒されない程度に依頼人を調査したよ」
「どうでした?」
「偽名。どうもレッドキャッスルホテルの経営層と懇意のようだね。依頼人のために最上階に手を入れてる」
「面倒ですね。企業ぐるみで悪事を企ててないといいんですが」
ポヤポヤ話をしていると、後ろから声がかかった。
毛利探偵と、珍しく一緒にいる少年探偵団の一団だ。
「あん、坊主と……父親も一緒か」と毛利探偵が眉間に皺を寄せた。
すごく胡乱な表情なのは、降谷さんの評判が「子供を捨ててどっかへ行った父親」という地に落ちたものだからだろう。
私はわざと大袈裟に降谷さんにひっついた。
「お父さん、毛利探偵です。前に僕を家に置いてくれてたんですよ」
「そうだったのかい。初めまして、安室透です。空を見ていただきありがとうございます」
「……別に構いやしねぇよ」
ふん、と毛利探偵が鼻を鳴らした。
一応私と降谷さんが仲良さそうにしているから安心したのだろう。
コナン君も仲良さそうな空気にほっとしたように息をついている。
後ろの少年探偵団もわいわいいつも通り元気いっぱいだ。
「あっ空君のお父さんだ!」「相変わらずそっくりですよねー」「俺早くスーパースネーク乗りてぇよ!」等と口々に声を出している。
かわゆいものよ。
灰原さんもニコニコして私に小さく手を振った。
『母君だ!ははぎみははぎみ!僕らは元気ですよ!!!』
『弟君や、かわゆいねぇ』
大盛り上がりの弟君を私がなでなですると、弟餅が元気よく跳ね回った。
子供達に向けて挨拶がてらトランプマジックをすれば歓声が上がる。
ともあれ、時間も押しているので上に登ることとする。
通された部屋は最上階の会議室らしい。
大きく広く、用意された椅子と机に対してがらんとした印象が目立つ。
椅子がインテリアに合っていなかったのは、たしか指紋認証機器が取り付けてあるが故だったか。
とはいえ私には関係ない。
降谷さんも同様だろう。
指紋を登録に残すなんてしないし、あったとして「探偵・安室透」名義だろうからだ。
まず、全員の前に爆弾が配られる。
それだと絵面が物騒すぎるか。単に腕時計型IDが配られただけだ。
事前に話を聞いている降谷さんだったが、わずかな緊張も見せずに腕にそれをはめ込んだ。
私も特に感慨なくそれをはめる。
もし爆発しても、私の能力で修復可能だ。
子供達がワクワクに胸を躍らせながらIDをつけて、やれどのアトラクションに乗ろうかと話を盛り上げている。
テーマパークの腕時計型IDに爆弾を仕込むとは、犯人も悪どいものよ。
子供達は話の邪魔になるからか、先にテーマパークに行っていい旨のお達しがあった。
わいわい跳ね回る子供達の後をついて、私も退出する。
降谷さんと一瞬視線が交差する。
私は軽く笑って頷いた。
子供達は私が見ているから、降谷さんは存分に事件を解決してくれ。
探偵組の姿が見えなくなったあたりで、灰原さんがジト目でこちらを見た。
「で、どうしたのよ。あの人が普通の探偵するわけないわよね」
「実はこのID、爆弾が組み込まれてるんです」
「………はぁ!?!?」
「僕らのには付いてませんが、彼らのには盗聴器付き。あのテーマパークのゲートを潜ったらセンサーのスイッチが入り、テーマパーク外へと出れば爆発します」
「なら子供達を止めないと!」
「いえ。止めないでください」
私は薄く笑って肩をすくめた。
「遠隔でも爆破できる可能性があります。敵に主導権を委ねるより、ある程度思惑に乗った方がコントロールしやすい」
「……なるほどね。貴方、あの男と暮らすようになってますます似てきたんじゃない?」
「本当ですか!?オリジナルに似てますか!?」
「褒めてないわよ。目を輝かせないで」
そのままゲートからテーマパーク内へと入る。
ピッという音と共にスイッチが入り、黄色いライトが点滅する。
これで私たちは外へ出ることは叶わなくなった。
まず子供達が向かうは満場一致でスーパースネーク!となったので、私は申し訳なさそうな顔をしておずおずと進み出た。
「あの、スーパースネーク乗るのやめませんか」
「ええー!?」「どうしてですか!」「乗ろうぜスーパースネーク!」
子供達の非難ごうごうに、私は心を鬼にして悲しそうな顔を作った。
「伏せられていますけど、先月事故があったって聞いてます」
「本当なの!?」
「僕怖くて……でも一人でいたくなくて、みんなに乗って欲しくなくて。ごめんなさい、迷惑ですよね」
そう言って切なそうな顔をする。
大嘘だ。
心底不安そうな顔を作ると、優しい子供達はしゅんとして勢いを落とした。
いい子達だ。
「ならスーパースネークは我慢する!スーパースネークがなくてもミラクルランドは楽しいもん!ね!」と歩美ちゃんが叫び、元太君と光彦君もそれに同意した。
こんなええ子を騙した罪はいずれ地獄で償うことになるでしょう……。
実はスーパースネークはミラクルランドの敷地を大きくはみ出している。
乗るとIDが爆発するトラップアトラクションだ。
まったく、犯人もそういう設定ちゃんと確認しろよと思う私である。
スーパースネークはミラクルランドの売りなのだから、配慮ぐらいはしてほしいものである。
私はみんなの決意に感謝し、抱きついてワイワイした。
子供達はがぜん盛り上がり、輪になって踊り出したようだ。
灰原さんが微笑ましそうにクスクス笑っている。
さて、そんなふうに平和にしばらくアトラクションを楽しんだあたりで、コナン君から連絡があった。
向こうもひと段落ついたらしい。
『空、そっちの様子はどうだ?』
「現在アトラクションを三つ回ったところで、全て異常ありません。おそらく本当に時刻が来る、あるいは範囲外に出るまで爆発しないと思われます」
『なるほどな。子供達の様子はどうだ?』
「異変に気付いた様子はありません。万が一の対応力を加味し、毛利蘭には真実を打ち明けました」
『…………』
本当は蘭ちゃんには安心してミラクルランドを楽しんで欲しかったんだがな。
でも、見た目が大人の人間が事情通であれば対応力は天と地の差だ。
スタッフさんに事情を説明する時の対応力が違う。
コナン君はしばし目を伏せたようだった。
『……蘭はなんて?』
「ここは自分たちに任せて推理に集中してほしいと。流石、蘭さんは胆力が違いますね」
『あいつは強い奴だからな』
コナン君はふっと笑ったようだった。
「そちらの状況はどうですか」
『警察には言うなって指示があったのと、安室さんと一箇所目の謎を解き終えた。警察のデータは安室さんが今取り寄せてるところだから、そのうち詳細がわかると、』
「コナン君」
私は強めに言葉を制した。
「このID、おそらくGPSの他に盗聴器も仕掛けられているかと」
『!!!』
「警察に言うな。見張るのに一番効率的なのは耳です」
『………依頼人に俺の正体が工藤新一だとバレていた。どう思う』
「『貴方の事情』に関係している可能性は低い。彼らはこう言う迂遠なママゴトを嫌う。そこは安心していいかと」
『そうか。悪いな、空。また連絡する』
心配事は山ほど、ということらしい。
降谷さんがうまく耳を捌き切れればいいのだが。
さっきから弟君がボヨンボヨンと私に体当たりを繰り返している。
はいはい、何かな弟君や。
『それよりあの耳!気色悪いネズミの耳買いましょう!!被りたいです!あとあの品のないバケツポップコーン!首から下げると楽しいですよ!!』
『楽しんでる割に思いっきり貶してますね』
『楽しんでなんかいません!!あんな惨めな丸耳、被ったら少しはみんなの浮かれ切った心も落ち着くかなと思っただけです!』
『言語センスバグってますよ』
浮かれてるのがバレたら恥ずかしいと思ってるのか知らないが、テンションが明らかにバグっている。
でも希望なので私はネズミ耳を買い、すちゃりと装着。
バケツポップコーンも一番大きいのを購入した。
弟君は餅餅ボディでヘドバンして喜んでいる。
落ち着いてくれ。
・弟君のコメント
「べ、別に浮かれてなんていません!!た、ただ興味本位というやつで!!!」
(ネズミ耳を大事に守りながら)