春野サクラと結婚したい   作:まえなが

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第参:宿敵!うちはサスケ!

 

 

 

「見ろよレイジ!このラクガキ、我ながら傑作だってばよ!」

「ぎゃははははは!そのペンキどこから持ってきたんだよナルト!」

 

どこまでも青く、吸い込まれそうなほどの五月晴れ。

 

俺たち二人は、今、里の象徴である火影岩の頂壁にへばりついていた。

前回、ナルトが単独で挑み、あと一歩のところで未遂に終わった火影像への落書き。今回は、この俺東雲レイジが参謀兼相棒として加わった、決死のリベンジ作戦である。

 

数ヶ月に及ぶガイ先生との地獄の特訓は、俺の身体能力を飛躍的に向上させていた。

里の警備忍たちの死角を見極め、チャクラを足裏に完璧に吸着させて垂直の岩壁を音もなく駆け上がる。里の裏道を知り尽くしていた俺の完璧なナビゲートによって、ナルトは見事にその芸術を爆発させたのだ。

 

だが、平和な時間は長くは続かない。

 

「何やってんだお前らーーーーーッ!!!!授業中だぞ!早く降りて来い!!」

 

地上から鼓膜を突き破らんばかりの怒声が響く。見下ろせば、顔を鬼のように真っ赤に染めたイルカ先生が、地上の砂埃を巻き上げながら仁王立ちしていた。

 

「やべッ、怒髪天だ!ずらかるぞナルト!」

「えぇー!まだ四代目の鼻毛かき終わってねーのに!」

 

俺たちはバッと岩壁を蹴り、あらかじめ頭の中で組み立てていた逃走ルートへと躍り出た。

 

民家の屋根を跳び、裏路地の隙間を滑り抜ける。背後で鉄の重りがガシャン、ガシャンと激しい音を立てるが、今の俺たちの脚力なら、それすら推進力に変えられる。夕暮れの公園で誓ったあの日から、俺たちの距離は着々と変わっていた。

 

 

_______しかし、現実はいつだって残酷だ。

 

 

数日後に行われたアカデミーの卒業試験。その内容は、最悪なことに『分身の術』だった。

 

俺は特に何の弊害もなく合格を勝ち取る事が出来たが、問題はナルトだ。

原作において、ナルトが最も苦手とし、その体内の膨大な九尾のチャクラが邪魔をして上手く制御できない分野。現時点でナルトはチャクラコントロールこそ木を登りきるとこまで上達したものの、九尾による忍術の規制に至っては原作となんら変わらないのだ。

 

「大丈夫だ、ナルト。お前ならできる。自分の中のチャクラの波を、もっと細かく、均等に分けるイメージだ」

 

試験の直前、教室で俺はナルトの肩を強く叩いた。公園で何度も、何度も付き合った特訓。俺のチャクラをナルトの身体に循環させ、感覚を掴ませようと血反吐を吐くまで泥にまみれた。

 

「……おう!やってやるってばよ、レイジ!」

 

ついにナルトの順番が回り、俺は木製の扉の向こうへと消えていくあいつの背中を見送った。

 

頑張れ、ナルト。頼む、合格してくれ_____________。そう祈りながら、俺は拳を強く握りしめてナルトの帰りを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれほどの時間が流れただろうか。

 

扉が開き、トボトボとした足取りでナルトが廊下に戻ってきた。

 

「ナルト、試験、どうだった……?」

 

俺の声は、自分でも驚くほど震えていた。

そんな俺の呼びかけに、ナルトはゆっくりと顔を上げる。

 

あいつは俺の顔を見ると、いつものアホっぽい笑みを作って______________。

 

 

 

 

「落ちた!!!!!」

 

「ズコォーーーーーーーー!!」

 

 

返ってきたのは不合格の一言。

あまりのショックに、俺はその場に派手にズッコケた。頭を床に打ち付けながらも、すぐに起き上がってナルトを見る。へらりと明るい顔をしているが、ナルトの唇は、今にも血が出そうなほど強く噛み締められていた。

 

「いやー、ヘマしちまったってばよ!これが全っ然上手くいかなくてさ!やっぱまだ、オレには、難しかったかも、な……。あ、あんなにっ、あんなにレイジと特訓、したのに……。おれ……おれ…………」

 

そこまで一気にまくし立てたナルトの喉が、ヒックと小さく震えた。

 

「レイジと一緒に、アカデミー卒業したかったけど……。できなくて………ごめん……」

「な、ナルト……」

 

差し伸べた俺の手が届くより早く、ナルトは身を翻し、弾かれたように廊下を駆け出して行った。

 

「ナルト!」

 

俺は咄嗟に叫んだが、その呼びかけにナルトが振り返ることはなかった。色褪せたオレンジ色の背中が、またあの孤独の闇へと戻っていくようで胸の奥がキリキリと痛む。

 

(クソッ……!やっぱり、九尾の忍術抑制を簡単に破るのは不可能か……!)

 

このまま時が進めば、ナルトは優しげな笑みを浮かべたミズキの奴に声をかけられ、禁じ手の巻物を持ち出すようにそそのかされる。

そして里から追われ、深夜の森でイルカ先生と対峙し_______自分が里中から腫れ物のように扱われていた本当の意味、己の体内に『九尾の化け狐』が封印されているという、最悪の真実を知らされるのだ。

 

それは、まだ12歳の子供にとって、どれほどの絶望だろうか。

 

 

(ナルトを想うなら、今すぐ後を追うべきだ。でも………)

 

 

足裏にチャクラを込め、窓から飛び降りようとして、俺は踏みとどまった。

 

脳裏をよぎるのは、原作のあの名シーンだ。ナルトはあの夜、イルカ先生の「アイツはこのオレが認めた優秀な生徒だ」という魂の言葉によって救われ、忍者としての、そして一人の人間としてのアイデンティティを確立する。

 

もし俺が今ここでしゃしゃり出て、ミズキを拳でブッ飛ばして全てを解決してしまったら、ナルトとイルカ先生の『絆』はどうなる?ナルトの『多重影分身の術』の開花は?

 

今夜はナルトが忍者としての大きな成長を迎える、絶対に立ち入ってはならない大事な転換期なのだ。

 

だが、頭では理解していても、感情が追いつかない。

 

これから大切な友人が命の危機に晒され、精神をズタズタに引き裂かれるかもしれない状況を分かっていながら、あえて見捨てるような選択をしようとしている自分。前世の知識があるくせに、何もできない己の矮小さに、どうしようもない無力感とやるせなさが津波のように押し寄せてくる。

 

「ハハ……何が親友だ、綺麗事ばっかり言いやがって」

 

自嘲気味に呟いたレイジは、沈みゆく夕日の赤に染まる建物の向こうへすっかり消えてしまった揺れる金髪を、心配と祈りの宿る瞼の裏で、何度も、何度も思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「_______浮かない顔をしているな、レイジ」

 

次の日の朝。朝霧が立ち込める裏山の演習場で、鋭い風切り音と共に声が降ってきた。

 

いつものように地獄のトレーニングを開始したものの、どこか動きが鈍く、顔に若干の不安の色が隠しきれていなかった俺の様子を見て、ガイ先生が眉をひそめて声をかけてきたのだ。

 

俺が気にかけている原因は、言うまでもなく、昨夜から連絡のつかないナルトのことだ。森での騒動がどうなったのか、気が気でなくてチャクラの練り込みも上手くいかない。

 

「え、ええ、まあ………」

 

歯切れ悪く濁す俺に、ガイ先生は腕組みをしたまま、その熱い眼差しを細めた。

 

「友人のことか?」

「それは……」

 

図星だった。俺が黙り込むと、ガイ先生は一歩前に踏み出し、俺の肩をパシィンと、骨が響くほどの強さで叩いた。

 

「いいか、チャクラの乱れは心の乱れだぞ、東雲レイジ!一度支え合う友を見つけたのなら、決して疑うような行動はしないことだ!それに、お前が一番に友人を信じれなくてどうする!」

「…………ッ」

 

ガイの言葉が、レイジの仄暗い胸に一筋の光を差した。しかしそれでも許せないのは、あの時の自分の選択。

 

「だけど……ガイ先生。俺は、あいつが一番辛い時に、あいつの傍にいてやれなかった。何もせず、ただ待つことしか選べなかったんです。……そんな奴が、胸を張って親友なんて名乗っていいんでしょうか」

 

拳を強く握りしめ、地面の泥を見つめる俺の視界が、悔しさで少しだけ滲む。物語の結末を知っているからこそ動けなかった自分の欺瞞が、どうしても許せなかった。

 

そんな俺の青臭い葛藤を、ガイ先生は遮るように、もう一度、今度は優しく包み込むように大きな掌を俺の頭に乗せた。

 

「レイジ。忍の戦いとは、何も戦場で拳を振るうことだけではない。時には友を信じ、己の役割を全うするために『動かない』という血を吐くような選択をすることもまた、真の勇気だ」

 

ガイ先生の声は、驚くほど深く、温かかった。

 

「お前があいつを想って流すその涙も、葛藤も、すべてが本物の友情の証だ! 誰よりもあいつの強さを信じ、あいつの帰る場所としてここでドッシリと構えているお前を、私は誇りに思うぞ! だからこそ顔を上げろ! お前が信じた友なら、必ずその期待に応えてみせるはずだ!」

「………ッ!」

 

ガイ先生の言葉が、バケツの水を頭から被せられたように、俺の脳髄を叩き起こした。

 

そうだ。俺は何を不安がっていたんだ。あいつはうずまきナルトだぞ。どんな絶望の底からでも、泥を舐めながら立ち上がって世界を救う、俺の自慢の仲間だ。前世の記憶で測るんじゃない。

この世界で、俺の差し伸べた手を満面の笑みで握り返してくれた、あいつのド根性を信じなくてどうする。

 

ガイ先生は、いつも俺の不甲斐ない背中を叩き起こしてくれる。

胸の奥に渦巻いていた霧が、先生の熱い魂の言葉によって瞬時に吹き飛ばされていくのが分かった。

 

 

「_______それに、その少年はレイジ、君が思っているほどヤワな存在ではないそうだぞ?」

「……え?」

 

ガイ先生がニカッと白い歯を見せ、森の奥へと視線を向けた。

 

ガサガサと草木を分ける音が響き、その向こうから、聞き覚えのある、しかし昨日とは打って変わって底抜けに明るい大声が響き渡った。

 

 

 

「レイジーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 

「ナルト……!?」

 

向こうから千切れんばかりに手を振り、満面の笑みで駆け寄ってくる少年の姿があった。

 

泥だらけだが向日葵のように輝くオレンジ色の服。しかし、その顔には一点の曇りもない。そして、何よりもあいつの額には_______朝日を浴びて、銀色にギラリと眩い光を放つ『木の葉の額当て』が、誇らしげに鎮座していた。

 

「お前、それ……!」

「ヘヘーんだ!色々あったんだけどさ、イルカ先生がオレを認めて、卒業させてくれたんだってばよ!」

 

胸を張るナルトの姿を見て、俺は心の底から安堵し、目頭が熱くなるのを隠すように笑った。よかった、本当によかった。あいつは自分の力で、運命を切り開いたんだ。

 

「ナルト、ごめん、おれ……」

「?なんでレイジが謝るんだよ?……それよりさ、それよりさ!オレってばスッゲー術習得しちゃった!!」

 

すぐさま謝ろうとナルトのそばに駆け寄るが、興奮した様子のナルトは俺の心情も気にせず得意げな笑みを浮かべ、自分の習得した術について口早に話し始める。

昨夜命を狙われたばかりだというのに、いつもの能天気かつ明るい姿勢で接されれば今まで悩んでいたことがどうでもよく感じてしまう。

 

「_______ところで、レイジはここで何してたんだよ?さっきの……ものすげー眉毛のタイツのおっちゃんは誰だ?」

「ああ、折角だし紹介するよ。この人は俺に体術を教えてくれた師で……って、あれ?」

 

 

振り返ると、そこにガイ先生の姿はなかった。

 

 

ただ見えない森の奥、サァァ……と風に揺れる茂みの木の影にもたれ、腕組みをしながら、一人で「フッ……フフフ……!」と激しく肩を震わせている緑色の背中。

その艶のある前髪に隠れた瞳からは滝のような涙が溢れ、愛弟子の精神的成長と友情の輝きに、ガイは静かに感動の涙を流していた。

 

「心高き少年たちの青春の場を邪魔してはいけないからな……。木の葉の碧い猛獣は、颯爽と去るッ!」

 

シュバッという風の音と共に、ガイは本当に木の葉のようにどこかへ消え去っていった。そんなガイにレイジは相変わらず嵐みたいな人だな……と思いつつ、目の前の親友の瞳をしっかりと捉える。

 

「よぉしナルト、お前が卒業できたお祝いだ!今日も一発、一蘭……じゃなくて俺んちで美味いもん食うぞ!」

「やったーーーー!!お祝いだ!!!」

 

天に突き抜けるようなナルトの歓声が、朝霧の残る裏山に木霊した。

あいつはまるで小さな子供のように、その場で何度もぴょんぴょんと跳ね回っている。その無邪気な姿を見ているだけで、昨夜俺の胸を支配していたあのドス黒い無力感や焦燥が、嘘のように綺麗に融けていくのが分かった。

 

「おいおい、そんなに跳ねたら腹減るだろ。ほら、行くぞナルト」

「待ってくれってばよ、レイジ!」

 

駆け出す俺の半歩後ろを、オレンジ色の影がぴったりと追ってくる。

 

いつもなら里の主要道路を避け、大人の冷たい視線から隠れるように裏路地を選んでいた俺たちだったが、今日ばかりは違った。

ナルトはこれ見よがしに胸を張り、額で銀色に輝くプレートを誇らしげに周囲に見せつけながら、大通りを堂々と歩いている。

すれ違う大人たちが「おい、あの子……額当てを……」「まさか合格したのか?」と驚きに満ちた声を漏らすが、ナルトはそんな雑音など一瞥もせず、ただ隣を歩く俺の顔を見て、嬉しそうに白い歯をこぼしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日間の短い休息の月日は流れ、アカデミー卒業の熱も冷めやらぬまま、ついにやってきた合格者説明会当日。

 

 

「なんか、キンチョーしてきたってばよー……」

 

教室の前。ナルトは何度も額当ての位置を直しながら、ソワソワと足を動かしていた。いつもの悪戯っ子の顔ではなく、本物の忍としての第一歩を踏み出す緊張感が、その小さな身体から伝わってくる。

 

「そうか?よく似合ってんじゃん、その額当て。それにナルトはもう、イルカ先生も認めた一人前の忍者だろ。もっと自信持てよ」

「……へへ、だよな!なんたってオレは未来の火影になる男なんだからな!」

 

真新しい衣服に身を包んだ俺が、そう言ってナルトの背中をポンと叩く。ナルトがニッと笑うのを確認してから、教室の重い木製の扉をガラリと開けた。

 

それも緊張しているのはナルトだけではない。かく言う俺も、ついに憧れのサクラちゃんを目にする日が来たと思うと手足の震えが止まらない。今日はいつもの十倍ほどそれはそれは入念に身体の汚れという汚れを削ぎ洗ったし、歯磨きだって念入りにした。

 

かつてくノ一クラスで女の子の友達と仲良さそうに話すサクラちゃんを遠くから眺めるだけだったのが、下忍になればもう目と鼻の先で存在を感じることができるんだ。今日の俺はナルトよりも遥かに緊張しもはや緊張の次元を軽く超えそうだが、忍者たるもの感情を顔に出すものべからず。

男にとってファーストコンタクト及びセカンドコンタクトは重要だからな。

 

……そして今日、俺の心のホームランバッターサクラちゃんを除き一番に懸念すべき存在ともご対面の日が来たのだ。

 

「お邪魔しますよっと」

 

扉を開けたその瞬間、教室の中から鼓膜を突き破らんばかりの喧騒が、熱気と共に押し寄せてきた。いきなり大人数が争うような声が聞こえた衝撃で耳鳴りがする。

そこは、すでにある種の異常な戦場と化していたのだ。

 

「ちょっと、そこ退きなさいよ!サスケくんの隣の席は私が座るんだから!」

「何言ってるのよ、イノブタ!私の方が先にサスケくんの後ろをキープしてたわよ!」

 

甲高い黄色い悲鳴を上げながら、一人の少年の席をガッチリと取り囲む女子たちの群れ。

 

その中心に、そいつは座っていた。

 

うちはサスケ。

 

うちは一族の家紋である団扇のマークを背中に背負い、ツンツンに尖った漆黒の髪。顎を手に乗せ、窓の外を見つめながら、あからさまに「オレ、お前ら凡人には興味ありませんから」という、冷徹かつ傲慢なオーラを周囲に撒き散らしている。

 

そして、その女子の群れの中で、誰よりも必死にサスケの気を引こうと、ピンク色の髪を揺らしながら声を張り上げているのは_______我が愛しの、あの日初めて裏山で会った時からは髪を少し伸ばして、一段と大人びて美しくなった春野サクラちゃんの姿だった。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬ……!!!」

 

ナルトと横並びで適当な席につき、机に頬杖をついてサスケの後ろ姿を見ながら、俺は唇を噛み締め血涙を流していた。

 

俺の胸中で、ドス黒い嫉妬の劫火が憎しみを含んだ般若のごとく、または九尾のチャクラ並みの勢いで大爆発を起こす。

あいつだ。あいつが、原作の初期からサクラちゃんの純潔な心を完全に狂わせ、独占し続けている、全サクラガチ恋オタクの不倶戴天の敵、うちはサスケ……!

許せん、イケメンという生き物はすべて爆発して塵に還るべきである。

 

「おい、レイジ。あいつ何気取ってんだばよ、すげーバカにされてる気がしてムカつくぜ」

 

隣で、ナルトが同じように顔のパーツを中央に寄せ、サスケを睨みつけていた。

 

そんなサスケだけを焦点とした恨み言を聴きながら、俺はふと思う。原作と違って、今のナルトはサクラちゃんには恋をしていない。俺が毎日「サクラちゃんマジ天使」と言い続けているせいか、完全に『友人の好きな人』として認識しているようだ。

 

ライバルが減ったのは喜ばしいことだが、それよりも、異性に関心を持つというナルトの精神的成長を、俺のキモオタ全開の執念のせいで妨げてしまったかもしれない。これには俺も何とも言えない複雑な罪悪感を抱いていた。

しかしサスケの存在が気に食わないのは俺も同じ。

 

「激しく同意だ、ナルト。あのスカしたツラ、いつか絶対に俺たちの実力で拝み倒して、地面にめり込ませてやろうぜ」

 

とはいえ、だ。

俺は元々、NARUTOという作品の熱狂的なファンだ。うちはサスケという男が、この直前にどれほど凄惨な一族の崩壊を経験し、どれほど深く暗い孤独の闇を背負い、本当は仲間思いで不器用な熱い男であるかを、誰よりも熟知している。ぶっちゃけ、一人のキャラクターとしては、これまた死ぬほど大好きなのだ。

 

嫉妬の炎を激しく燃やしつつも、心のどこかで「本物だ、クソかっけーな、うちはの血統……」と、オタク特有の感嘆を抱いてしまうジレンマ。

 

すると、周囲の女子たちの雑音を鬱陶しく切り捨てるように、サスケの冷徹な漆黒の眼眸が、スッと窓外から動き、まっすぐに俺の顔を捉えた。

 

「……おい、そこの赤髪」

 

低く、しかし妙に芯の通った声が、教室の喧騒をピタリと静まり返らせる。本来めったに他人に興味を示さないサスケの意外な行動に、取り巻きの女子たちが、一斉に振り返った。

 

「……ん?俺になんか用か、うちはの天才サマ」

 

サスケは席からゆっくりと立ち上がり、長い脚を運んで、俺との距離を詰めてきた。その鋭い眼光は、同い年の子供のそれではない。完全に敵を品定めする忍の目だ。

 

サスケは俺の目の前で足を止め、じっと俺の全身を凝視した。

 

「お前……さっきから、妙なチャクラのプレッシャーを体内で巡らせているな。その歩き方、筋肉の緊張……足元に無駄なブレが一切ない。……お前、何者だ」

 

 

(さすがはうちはの天才、と言わざるを得ないな……)

 

俺が日常の基礎代謝、ひいてはガイ先生との修行の成果として行っているチャクラ循環による常時身体強化の僅かな気配を、写輪眼も開眼していない状態の感覚だけで察知したらしい。

 

教室内が完全に静まり返る。女子たちも「なにあいつ? サスケくんに喧嘩売ってんの?」とヒソヒソと囁き始め、群れの中にいたサクラちゃんも「え……あの時の、裏山の?」という表情でこちらを見ている。

待ってました、と俺は内心でガッツポーズを決め、サスケの目の前でニヤリと挑発的な笑みを浮かべた。

 

 

 

「俺か?……俺は東雲レイジ。将来、そこの春野サクラちゃんと結婚して、この里の未来を守る男だ。覚えとけよ、イケメン」

「………は?」

 

 

教室が完全に静まり返る。

サスケの端正な顔が、生まれて初めて「本気で意味の分からない不審生物を見た」というように、呆気にとられて歪んだ。あのうちはサスケをここまで困惑させるとは、我ながら快挙である。

 

しかしそれ以上に反応したのが、背後で茹で蛸のように顔を真っ赤にしたサクラちゃんだった。

 

「なっ、何言ってんのよ、あの変な赤髪――!!誰がアンタなんかと結婚するおでこよー!!私はサスケくん一筋なんだから!!」

「いやー、怒った顔も天使のように可愛いね、サクラちゃん!」

「き、聞いてないし!!」

 

「なによあいつー!」と赤いリボンを激しく揺らし怒りを露わにしながらも、あまりにストレートすぎる俺の求婚に、若干の照れを隠しきれずに顔を背けるサクラちゃん。……うーん、最高に可愛い。次世代に語り継ぐべき国宝級の愛らしさに目が焼かれる。

 

そんな和気あいあいとした会話も、イルカ先生が教室に入ってきて説明会が始まると、空気は完全に一変した。

 

 

「_______今度は3人1組の班を作り……各班ごとに一人ずつ上忍の先生が付き、その先生の指導のもと任務をこなしていくことになる」

 

 

イルカ先生が手元の巻物を広げ、淡々と下忍としての心構えを話していく。

アカデミー自体の座学こそ前世の知識をもとに適当に流していた俺だったが、体術、手裏剣術、そしてチャクラの練り込みの実技において、俺は5年間のフライング地獄特訓のおかげで、他の生徒たちとは明らかに次元の違う実力を発揮していた。首席のサスケに次ぐ、あるいは部分的にはそれを凌駕する成績。

 

「………………」

 

説明を聞き流しながら、サスケは顎を引いて黙り込み、横目で目立つ赤髪_______レイジのことを、その形の良い瞼を伏せさせながら、値踏みするように睨みつけていた。

 

原作ではナルトだけを唯一無二のライバルとしていたサスケ。しかし、この世界においては、純粋な戦闘力やチャクラの質において、自分の半歩先を常に走り続ける東雲レイジという不気味な存在に、激しい執着とライバル心を抱くようになっていたことをレイジは知らない。

 

それに対しレイジはサスケのことを妬ましくは思っているものの、同じ下忍の仲間として、いつかサスケとも背中を預け合えたらな、と気にかけていた。

 

お互いに背中を追いかけ、高め合う関係。少年漫画としては、まさに最高に熱い展開だ。

 

 

……まあ、サクラちゃんを譲る気は1ミリもないけどな!

 

 

 

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