光陰矢のごとし。
アカデミーでの過酷な_______いや、俺にとっては愛しのサクラちゃんを合法的に遠くから眺め、その一挙手一投を脳内に刻み続けるという至福の数年間が、瞬く間に過ぎ去った。
俺は前世の知識というアドバンテージを引っ提げ、座学は「サボっているように見えて実は天才」風を装って適当に流しつつ、実技に関してはガイ先生との地獄の特訓の成果を遺憾なく発揮。結果として、首席のうちはサスケに次ぐ、あるいは純粋な体術やチャクラコントロールのキレにおいてはそれを凌駕するほどの好成績を残し、無事にアカデミー卒業の日を迎えた。
そして、運命の班分け発表の朝がやってくる。
教壇に立つイルカ先生が、手元の巻物を厳かに広げ、下忍となった俺たちの今後の運命を左右するチーム分けを読み上げていく。
「_______次、第七班。うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケ」
ここまでは原作通り。全知の神が定めた絶対の黄金比だ。だが、問題はその次だった。イルカ先生は一度巻物から目を離し、なぜか俺の方をチラリと見て、少しだけ困ったような苦笑いを浮かべる。
「_______そして、東雲レイジ。以上の4名を、臨時の変則体制として第七班とする」
「よっしゃあああああ!!!サクラちゃんと同じ班キタアアアアア!!!」
ガタァッ!と激しく教室の机を叩きつけ、俺は椅子を蹴立てて狂喜乱舞した。脳内ではすでに結婚式のBGM(万雷の拍手付き)が鳴り響いている。
「ちょっとおおお!しゃんなろー!!なんであの変な赤髪と同じ班なのよー!でもサスケくんと同じ班なのは嬉しいー!」
サクラちゃんは両手を頬に当てて身悶えしつつ、俺に対しては完全に不審者を見るような警戒の視線を向けてくる。うん、辛辣。だがその困惑した表情すら控えめに言って大気圏を突破するレベルで可愛いからオールOKだ。
「おっしゃあ!レイジと同じ班だってばよ!……って、なんでサスケのヤローも一緒なんだよ、イルカ先生!」
ナルトが露骨に口を尖らせて隣のサスケを睨みつける。
「……チッ、お前らと一緒か。足を引っ張るなよ」
サスケはいつも通り顎を手に乗せ、窓の外を見つめながらツンとした態度を崩さない。だが、その漆黒の瞳の奥にはアカデミーの実技で自分に肉薄してきた東雲レイジという存在に対する、隠しきれない鋭い闘志がギラリと滾っていた。
さすがはうちはの生き残り、この段階からライバル認定としてのセンサーはビンビンというわけだ。
そうして未だ各自協調性のない足取りを運びながら、俺達は次なるステージへと向かった。
▶
「ここが指定された演習場か」
「ふああ………まだ眠いってばよ………ってなんだあ、ただの森じゃねーか」
指定された演習場へと集められた俺たち4人の前に、だらしなく片目を隠した銀髪の覆面忍者、はたけカカシが、一冊の本を片手に気だるげな足取りで現れた。
……その頭を、未だに教室のドアに仕掛けられていた黒板消しのチョークの粉で白く染め上げながら。
(うおお……本物だ。本物のはたけカカシだ……!)
片方しか露出していない眠たげな、しかし心の底を見透かすような三白眼。だらしない立ち姿なのに、どこか一線級のプロだけが持つ圧倒的な背中の頼もしさ。
前世の画面越しではなく今まさに目の前に立つその姿に、俺の中のオタク心が激しく明滅する。さすがはTVアニメ時代に数々のお茶の間女児の初恋を奪ってきた罪な男だ。
「よーう。お前らが、オレの担当する下忍か。……第一印象は、どいつもこいつもバカっぽくて嫌いだ!」
「うっ……!」
初っ端からド直球の嫌い宣言を喰らい、ナルト、サクラ、サスケの3人が目に見えてげんなりとした表情を浮かべる。だが、カカシ先生はそんな俺たちの反応を意に介さず、腰のポーチからチリン、と涼やかでしかしどこか不吉な金属音を立てる3つの銀色の鈴を取り出した。どうやら早速演習を始めるようだ。
「_______ルールは簡単だ。昼までに、この鈴をオレから奪い取ること。奪えなかった奴は、任務失敗として下忍失格。あそこの丸太に縛り付けられて、目の前でオレが美味そうに弁当を食うのを見せつけられた後、アカデミーへ逆戻りだ。もちろんクナイや手裏剣を使ってもいい。オレを殺す気で来い」
カカシ先生の指先で揺れる3つの鈴。
4人のメンバーに対して、鈴は3つ。つまり、どれほど完璧に全員が立ち回ろうとも、現行のルールでは「最低でも1人が確実に脱落する」という、仲間同士の猜疑心と足の引っ張り合いを意図的に誘発させる最悪の罠だ。
「そんな……っ、せっかく卒業できたのに…!」とサクラちゃんが絶望に顔を曇らせ、ナルトとサスケの身体が、上忍が放つプレッシャーによって緊張で硬くなる。
だが、俺だけはそのカカシ先生の言葉の裏にある真意を完全に知っていた。
(知ってる、知ってるぞ。これは、チームワークを試すための試験……!)
この試験の本質は、個人の卓越した戦闘能力の査定ではない。上忍という絶対的な、個人では絶対に太刀打ちできない壁を前にした時己のプライドを捨てて仲間とチームワークを発揮できるかどうか。これこそが、数多の下忍候補生をアカデミーへと送り返してきたカカシの合格基準なのだ。
「よーい……スタート!」
カカシ先生の冷徹な号令が響いた瞬間、サスケとサクラちゃんは一瞬でその場から気配を消し、周囲の鬱蒼とした茂みへと身を隠した。その身のこなしはさすがの一言である。
……が、案の定、約一名だけがその場に残留していた。
「堂々と真っ向勝負だってばよーーーっ!!!」
ナルトが袖をまくり上げながら、大声を上げて真正面からカカシ先生へと突っ込んでいく。
「あのなぁ、ナルト……」
俺の制止の声が届くよりも早く、カカシ先生の超高速の体術が炸裂した。目にも留まらぬ速さでナルトの背後に回り込んだカカシ先生が、虎の印を結んでナルトの臀部へと指先を突き出す。
「木の葉隠れの里・秘伝体術奥義_______『千年殺し』!!」
「ウガァーーーーーーーーーーッ!?」
お約束のケツへの痛撃。ナルトは文字通り弾丸のような勢いで近くの川へと吹っ飛んでいき派手な水柱を上げた。ここまでの展開、わずか数秒である。
「ったく、あいつは相変わらず学習能力がねえな……」
ナルトが食らったカンチョーの威力を想像して思わず顔を顰めながら、俺は息をひそめ、体内のチャクラを極限まで微弱にコントロールする。ガイ先生との地獄の修行で叩き込まれた、呼吸すら自然の揺らぎと同化させる隠密の歩法。
俺は音もなく木々の影を滑り、先行して身を隠していたサスケとサクラちゃんの背後へと、幽霊のように接近した。
「サスケ、サクラちゃん。ちょっと作戦会議だ」
「っ!? レイジ……!?いきなり背後に立つな、殺されたいのか……!」
サスケが驚愕に細い眉を跳ね上げ、条件反射でクナイを逆手に構える。フッ、うちはの天才がそこまで露骨に戦慄する顔が見られただけで、俺の隠密特訓の苦労は報われたというものだ。サクラちゃんは渡さねーぜ!
「もう、レイジ!急に出てこないでよ!私は今サスケくんの横顔を目に焼き付けてる最中なんだから!」
サクラちゃんが小声で頬を膨らませて憤慨する。くそう、相変わらずサスケ一筋だ。だが、そんな一途なところも最高に愛おしくてたまらん!結婚しよう!
「まあまあ、俺の話を聴いてくれ。ここだけの話、カカシ先生は元暗部のガチ上忍だ。そんな人間に俺たちヒヨッコがそれぞれバラバラに挑んだところで、鈴の紐にすら触れずに撃破されて終わりだぞ。……この試験の本質はチームワーク。4人の個々の能力を完全に掛け合わせて、あのスカした上忍をハメるんだ」
俺は真剣な眼差しで、二人の目を真っ直ぐに見据えて提案した。
だが、サスケのプライドは、まだ他人の力を借りることを許さなかった。サスケは傲慢に鼻で笑い、クナイを指先で弄びながら立ち上がる。
「フン、足手まとい共と組むつもりはねえ。オレはうちはの一族だ。他人の力を借りて合格したところで意味はない。オレは一人であの男を倒し、オレの力を証明する」
「ちょっと、サスケくん!? ……もう! レイジ、私はサスケくんのサポートに行くから、アンタは邪魔しないでよね!」
サスケは俺の言葉を完全に切り捨て、電光石火の速さで森の奥へと飛び出していった。そしてサクラちゃんもまた、サスケの背中を追うようにその後を追走してしまう。
木漏れ日が揺れる静かな森林の中、俺だけがその場にぽつりと取り残された。
「あーあ……やっぱり、口頭の説得だけじゃ、この段階のサスケの厨二病は治らないか」
その後は、概ね原作の歴史通りだった。
一人でカカシ先生に奇襲を仕掛けたサスケは、下忍の域を超えた鮮烈な体術と火遁で肉薄し、一瞬だけカカシ先生の肝を冷やさせたものの、最終的には経験と実力の圧倒的な格差を見せつけられることになる。
カカシ先生の土遁『心中斬首の術』の前に成すすべなく敗北し、首だけを地面から突き出した、なんともシュールで情けない状態で生き埋めにされた。
そしてサクラちゃんは森の中でサスケを捜索している最中、カカシ先生の仕掛けた幻術の罠にまんまと嵌まった。「全身に無数のクナイが突き刺さり、血塗れで虫の息になりながら懇願するサスケの幻覚」を至近距離で見せつけられ、精神的キャパシティを超えた彼女は、黄色い悲鳴を上げてその場にバタリと気絶してしまったのだ。
傍観するような姿勢になってしまったのは居た堪れないが、変に介入してカカシ先生に手中を知られては元も子もない。木の陰からその様子を観察していた俺は、カカシ先生がその場から去ったことを確認した後にサクラちゃんたちの元へと駆け寄った。
「いや、気絶して地面に倒れてるサクラちゃんも、信じられないくらい可愛いな……。マジ天使。っていうか、今なら誰も見てないしどさくさに紛れておでこにキスくらい_______」
いやダメだ!それをやったら俺は本物の犯罪者になってしまう。忍になる前にお尋ね者になるのも御免だが、サクラちゃんの純潔な心に拒絶されるのだけは死んでも御免だ。
「よし……仕込みは終わった。ここからは、俺のターンだ」
俺はディグダのごとく地面から首だけ出しているサスケの前に歩み寄り、その髪を掴んで童話の如くどっこいしょと強引に引き抜き(サスケは「痛っ、ふざけるなレイジ!」と怒っていたが無視した)、目を覚まして過呼吸気味になっていたサクラちゃん、そして川からびしょ濡れで這い上がった後もカカシに挑んだがことごとく潰されたナルトを、強引に演習場の一角へと集めた。
「いいか、みんな。これが、俺たちが忍になれる最後のチャンスなんだ」
レイジは、いつもの明るい表情を完全に消し去り、底冷えのするような真剣な眼差しで3人の顔を見つめた。
「まずサスケ、お前は確かに強い。アカデミーじゃ常にトップを保持してた。だけどさっき、カカシ先生の服の裾一枚にすら、お前の攻撃は通用しなかったろ? それが上忍っていう本物の壁だ。そしてナルト、お前の影分身もただ無策に突っ込ませるだけじゃ、チャクラを無駄に浪費するだけの肉の的にしかならない。そしてサクラちゃん」
「え……?」
サクラちゃんが、不安そうに俺を見つめる。
「君は、自分の力が足りないことを気にして、ただサスケの後ろを追いかけることしかできないと思ってるかもしれない。だけど、君のあのアカデミーで見せた誰よりも優れてる完璧なチャクラコントロールの才能は、こんなところで腐らせていいものじゃないんだ。サクラちゃんはサスケのサポートをしたいんだろ? だったら、全員の力を一つに合わせなきゃ、サクラちゃんの望む『サスケの勝利』も、ナルトの『火影への道』も、ここで、今、全部終わりだ!!」
「……だから、3人の力を、貸してほしい」
俺の魂の底からの説得に、3人が言葉を失い、静まり返る。
カカシによって忍びとしての自信とプライドを折られたサスケが、ぎゅっと拳を握りしめ、地面の土を睨みつけていた。
その隣で、相変わらず全身から水滴を滴らせているナルトが声を荒げる。
「そんなん当たりめーだ!誰か一人が不合格にならなきゃいけないなんて絶対におかしい!だからさ、みんなで合格してやるんだ!……でも、レイジ。……お前は、なんでオレ達のためにそこまで必死になるんだってばよ?」
「俺?俺の理由は決まってる。サクラちゃんに格好いいところを見せたい。そして何より……親友であるナルトと、ライバルであるサスケと、俺の未来の嫁であるサクラちゃんと、この4人で、全員揃って合格したいからだ。上忍がなんだ。4人の力を完全に噛み合わせれば、あの覆面男のツラに掠り傷くらいは拝ませてやれる!」
サスケが、その言葉を聞いてフッと不敵な、うちは特有の傲慢な笑みを取り戻した。
「……フン。……お前の作戦を聞かせろ」
「サ、サスケくんがそう言うなら、私も……いや、私にできること、何でもやるわ!」
サクラちゃんが、瞳に確かな闘志を宿して力強く頷く。
「おう!やってやろうぜ!カカシのド頭をブッ飛ばしてやるんだってばよ!」とナルトが拳を突き出す。
「よし。作戦は_______立体挟撃だ。全員、耳を貸せ」
時計の針は、刻一刻タイムリミットへと近づいていた。
▶
鐘の音が、木の葉隠れの里に遠く響き渡ろうとしていた時。
カカシは演習場の中央にある丸太の横で、相変わらずのんびりとイチャイチャパラダイスのページをめくっていた。
「お、そろそろタイムアップか。まあ、あの子たちには少し、現実が厳しすぎたかねぇ……」
その呟いた瞬間_______カカシの全周囲の茂みから、凄まじい密度と速度を伴った無数の手裏剣とクナイが、空気を切り裂く風切り音と共に飛来する。
「おっと」
カカシは本から目を離すことすらなく、最小限の首の傾げと鋭いステップだけで、その全弾を鮮やかに回避していく。だが、生前でこの戦いを穴が開くほど見た俺、そして今の俺達が、その程度の生ぬるい攻撃で終わるはずがない。それはただの、上忍の視界と機動力を奪うための鋼鉄たる布石に過ぎない。
「いくわよ、ナルト!」
「おう!影分身の術ーーーッ!!」
サクラの凛とした掛け声を合図に、ボボボボボボボン!!! と、凄まじい白煙が演習場を埋め尽くさんばかりに爆発した。
煙の向こうから現れたのは、およそ五十人のナルトのクローン。それらが一斉に、文字通りの肉の津波となってカカシへと飛びかかった。
「ほう、これだけの数の分身を維持できるチャクラ量か。だけどね_______」
カカシは流れるような体術で、殺到するナルトたちの攻撃を受け流し、一撃のもとにその分身を霧へと還していく。だが、ナルトたちの真の目的はダメージを与えることではない。カカシの四肢にしがみつき、その名だたる機動力を一瞬でも固定することだ。
「捕まえたってばよ、カカシ先生ぇぇぇ!!」
三人のがっしりと組み付いたナルトの肉の壁が、カカシの視界を完全に遮断した。衣服を掴まれ、一瞬だけ動きが鈍るカカシ。
「サクラちゃん!」
「分かってるわよ!」
そこですかさずナルトの分身隊の後ろに隠れていたサクラが動く。彼女の完璧なチャクラコントロールによって軌道を完璧に制御された、紐付きのクナイが数本、カカシの腰の鈴を正確に狙って投擲された。
しかし、視界がほとんど見えていないのにも関わらず、カカシは超人的な直感でナルトの猛攻をひらりと躱し、クナイの紐を素手で弾き飛ばす。
「そこだ!!」
しかし、本命はそこではない。ナルトの作った影を縫うようにして、地を這うようにサスケが猛烈な速度で突き進んできた。カカシの背後、完全に死角からの急襲。
印を結ぶサスケの両手が、残像を結ぶ。
『巳・未・申・亥・午・寅――火遁・豪火球の術――ッ!!!』
サスケの口から放たれたのは、下忍の規模を遥かに逸脱した、直径数メートルを超える巨大な炎の球。周囲の草木を一瞬で炭化させるほどの熱波が演習場を包み込む。
ここでカカシの頭脳が瞬時に状況を演算する。
(下を潜り抜けての回避は、サスケの次のクナイ投擲ルート、左右の森林へ退けば、サクラの張ったワイヤーの罠がある。土遁で地中へ逃げようにも、ナルトたちの残骸がまだ足元に組み付いている。……なるほど、オレに選べる退路は上しかないわけだ)
カカシは組み付いていたナルトたちを力ずくで振り払い、眼前に迫る灼熱の炎を避けるため瞬身の術を発動。一瞬にして上空十メートルの空中へとその身を飛躍させた。
完璧な誘導。これこそが俺たちの狙いだ。
空中を舞うカカシが、自身の生存空間を確保し、次の着地ポイントを見定めようとしたその瞬間。
「しまっ――!?」
カカシの目が眩んだ。
サスケが放った豪火球の爆炎の光に紛れ、俺があらかじめ中空へと放り込んでおいた特製の閃光弾が、カカシの至近距離で最悪のタイミングで炸裂したのだ。上忍といえど生身の人間、網膜を焼かれ、完全な盲目状態となったカカシが空中で一瞬硬直する。
そのカカシの遥か頭上_______太陽の光を完全に背に受けて落下してくる、もう一つの巨大な影が存在した。
「そこを狙ってたんだよ、カカシ先生ぇぇぇええええ!!!!」
東雲レイジ。
俺はあらかじめ、サクラちゃんに俺の身体を上空へ全力で放り投げてもらう、文字通りの人間大砲特攻作戦を敢行していた。
『レイジ、本当にやるのね!?下手をしたら二人ともチャクラの反動で骨が折れるわよ!』
『サクラちゃんのチャクラコントロールならできる!俺を信じて、君のすべてのチャクラを拳に集めて、足元から突き上げるように俺をぶん投げてくれ!』
作戦会議の時、俺は彼女の体内に眠る怪力の素質を力ずくで覚醒させた。サクラちゃんが全チャクラを両腕に爆発的に集中させ、俺の足の裏を文字通りロケットの如く打ち上げたのだ。
その推進力に己のチャクラを上乗せすることで、俺はカカシが跳び上がるよりもさらに高く、雲に届くほどの高度まで一気にド外れた跳躍を見せていた。
視界を奪われ、空中という逃げ場のない空間で孤立したカカシに向かって、俺は位置エネルギーのすべてを乗せて垂直落下する。
「はああああああァァァッッ!!!」
前世の知識と、この世界での数年間のガイ先生との地獄の特訓。
そのすべてを、今この一瞬の右拳に凝縮する。
狙うは、ガイ先生直伝の『剛拳』の応用。
体内のチャクラを右拳の一点に、肉体がミシミシと悲鳴を上げるほど限界まで圧縮。そして着弾の瞬間に一気に爆発させることで、相手の強固な防御の上からでも、その内部へと衝撃波を貫通させる決死の破壊体術!
(……っ!この体術の身のこなし……マイト・ガイ……!?)
「くっ……!」
盲目状態のカカシだったが、上空から迫る凄まじい風圧とチャクラの圧力を肌で察知し、極限の反射神経で両腕を交差。頭部と胸部を覆うようにして強固なガードを固めた。
だが、俺の放った一撃は、周囲の空気をゴウゴウと抉りながら、その上忍の絶対的な防御へと容赦なく激突した。
_______ドガアァァァァァァァン!!!!!
演習場全体を激しく揺るがすような、凄まじい衝撃波と爆音。
激突の凄まじさに、周囲の木々が激しくしなり、地面の土砂が津波のように舞い上がる。大気が悲鳴を上げていた。
重力加速度と、全チャクラを解放した俺の拳は、カカシのガードを弾き飛ばす。いや、正確にはカカシのガードの隙間をすり抜け、彼の衣服、その腰元へと、俺の左手が電光石火の速さで滑り込んでいた。
バキバキと俺の右腕の骨が軋む音が響くのと同時に、俺の左指が、確かな金属の感触を捉える。
激しい砂煙が、ゆっくりと風に流されていく。
その中心に現れたのは______________。
上着の片腕の袖が完全に破れ散り、肌には僅かに血の滲むような擦り傷を負いながらも地面に立つ、はたけカカシの姿。
そしてその足元で、全チャクラを使い果たし、右拳の皮をズタズタに破らせながらも勝利を確信した不敵な大笑いを浮かべてへたり込んでいる、俺の姿。
俺の左手の中には、チリン、と涼しい音を立てる、銀色の鈴が3つ、確かに握り締められていた。
「……へへ、獲ってやった……ぜ、カカシ……先、生……」
俺はそのまま、全身をチャクラ切れの凄まじい疲労感に襲われ、地面へとバタリと倒れ込んだ。視界が急速に狭くなっていく。
「「レイジーーーーーッ!!!」」
ナルト、サスケ、気付いたサクラちゃんが、遮二無二なって俺の元へと駆け寄ってくる。
誰よりも早く俺の身体を抱き起こし、その柔らかく温かい膝の上に俺の頭を乗せてくれたのは、我が愛しのサクラちゃんだった。彼女の透き通るような可憐な緑色の瞳には、大粒の涙が溜まっていた。
「レイジっ大丈夫!?バカね、本当にバカなんだから!あんな無茶苦茶なチャクラの使い方して、死んだらどうするのよ……っ!!」
「サ、サクラちゃん……膝枕、最高……。俺、少しは、カッコよかった……?」
「もう!!こんな時にまで何言ってるのよバカ!! でも………うん。信じられないくらい、格好よかったわよ!」
膝枕、最高。最後の景色はここがいい。というか、今ここで人生を終えてもいい。いや良くない。サクラちゃんと結婚するというゴールが俺にはあった。しかしそんな人生の目的さえ一時的に忘れてしまうほど、好きな子の膝の上という至福は東雲レイジを完全に狂わせていた。
サクラちゃんは怒りながらも、その瞳には俺に対する確かな敬意と一人の男としての深い信頼の念が、ハッキリと灯っている。
よし、好感度は確実に、天元突破の勢いで爆上がり(俺調べ)である。
「さっきから妙に胸が痛むな……これ肺やられたかも……サクラちゃん、ちょっと治療してくれない?できれば、人工呼吸で…………」
「な、ななな何言ってんのアンタ!?調子乗ってるとぶっ飛ばすわよ?!」
「なにぃ!?ホントに大丈夫かよレイジ!オレが人工呼吸やってやるってばよ!」
「やっぱ気のせいだった」
ナルトの唇が迫るという未曾有の恐怖に、俺の細胞が一瞬で活性化したのは言うまでもない。
一方、カカシ先生はボロボロになった自分の右腕の袖と、それから俺たち4人の顔を順番に見つめると、観念したようにふっと目を細め、マスクの下で優しく微笑んだ。
なんとなく演習の終わりを悟った俺は、サクラちゃんの膝の余韻を噛み締め、名残惜しいながらも渋々立ち上がる。
「……まさか下忍になりたての初日のヒヨッコたちに、ここまで完璧な連携で一本取られるとはね。……東雲レイジ。お前のその執念と作戦勝ちだ。
_______全員、合格。お前たちは今日から、正式な第七班の仲間だ」
「「「やったあァァァァァァン!!!!!」」」
ナルトとサクラが飛び上がって歓声を上げ、サスケもまた、どこか満足そうにフッと口元を綻ばせる。
俺はサクラちゃんの膝の上で得た温もりの余韻を感じながら、仲間たちとハイタッチを交わした。前世の知識を超えて、俺たちは今、自分たちの力で新しい運命の第一歩を刻んだのだ。