氷叢家の種馬(ガチ)   作:のりしー

29 / 36
雄英体育祭5

 

 

 

白状しよう。

 

 

 

 

(……正直、カスみたいな大人達の所為で、ガキ共が道を踏み外す瞬間を見るのは気分が悪ぃ!!)

 

 

 

 

「クソぉ!!クソぉ!!もうこうなりゃヤケだ!!やってやる!!やってやるぜ!!」

 

「こんのクソガキ……人の気も知らねえで……!!」

 

増強型の個性の持ち主であるクソガキ。

追い詰められてヤケになったのだろう。

 

自分の限界まで肉体を強化し、これが最後の悪あがきとばかりに俺に襲いかかって来た!!

 

その突進を躱しながら頭を色々と回転させる。

 

刻一刻と迫るタイムリミット。

興奮し過ぎて冷静になれそうもないクソガキ。

 

……ったく……しょうもねえ。

 

それらの状況を整理し、改めて方針を固める。

 

つまり。

 

 

 

(……俺が(・・)コイツらを救う事を諦める!!)

 

 

 

 

「うおおおお!!!」

 

「いい加減……やかましいんだよクソガキ!!」

 

「……な!!……ギャッ!!ぐへ!!」

 

強化した身体能力で俺に殴りかかってきたガキのパンチを躱しつつ懐に潜り込む。同時に伸びた腕を掴み一本背負い!!相手の勢いを利用して地面に向かって投げ飛ばす!!

 

「……がっ!!!」

 

「……はい、しゅーりょー……ったく手こずらせやがって」

 

 

んで地面に叩きつけたガキにスタンガンを押し当てて鎮圧完了。

 

 

「……何とか校長のオーダー通りに仕上がったかな?全く……ハードだったぜ」

 

 

周囲にはスタンガンの電圧で失神し倒れた3人のガキ共。

それを校長が手配したのであろうロボットが何処かに運んで行く。

 

これにて一件落着。

華やかな雄英体育祭の裏で密かに進行していた子供を使ったテロ。

それはこうして未然に防がれたワケではある……が、

 

(……これだけで終わらせる……ってのも、な……)

 

 

……運ばれているガキ共を見送りながら、俺はスマホを操作する。

 

通話はすぐに繋がり、そして……

 

「……ねー校長。とりあえず終わったんだけどさ、ちょっと相談があんだけど………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side少年A

 

 

「……ぉぃ……ぉぃ……起きろ……起きろ!!起きろってば!!」

 

 

「……………」

 

 

 

「……あちゃあ……ダメかなコレ?」

 

「いや、ちょっと目が開いて……おい!!おい!!起きろ!!起きろ!!」

 

……うっすらと……ボヤける意識の中で聞き慣れない奴らの声が聞こえる。

待ってくれよ……今、気持ち良く寝てるんだからよ……あんま邪魔すんなっての……

 

 

久しぶりに穏やかな気分で寝れているのだ。

雄英高校ヒーロー科の入試に落ちてからずっと荒ぶっていた俺の心。

ずっと納得いかなかった。収まらなかった気持ち。

あの緑谷とかいう0ポイント野郎が受かってると知ってからはもっと酷くなった。

 

毎晩毎晩……まともに夜も眠れないくらいにムカついていた。納得いかなかった。怒りが収まらなかった。

 

合否発表の日からずっと……

 

だから、今の俺は何故か知らないけどそんな全ての暗くて黒いネットリねっちょりとした思いから解放されて、数ヶ月ぶりに穏やかな眠りの中で微睡んでいるのだ……

 

 

 

 

 

 

「……す!!すいませんオールマイト!!」

 

「忙しい中!!無理してわざわざ俺達の為に会いに来てくれたのに!!」

 

 

 

 

…………………………………………………………え?

 

 

……ん?あの……あれ?

 

 

 

「ハッハッハ!!まあプロが使うスタンガンの出力はかなりのものだからね!!少年が起きれないのも無理はないさ!!」

 

 

「本当に!!本当にすみませんでしたオールマイト!!」

 

「俺達本当に反省しています!!」

 

あ……あれ……あの……こ!!コレって!!

 

 

ずっとこの穏やかな微睡みの中でダラダラとしていたい。

 

そんな俺の思い。その全てを吹き飛ばすような!!

 

そんな!!憧れのヒーローの声!!

 

「…………お!!」

 

「「「……ん?」」」

 

 

ガバっ!!と俺は身体を起こし!!

 

 

 

「オールマイト!?」

 

「ハッハッハ!!お目覚めだね少年!!」

 

目の前で笑う憧れのヒーローの姿に、一瞬で目を覚まされた。

 

 

 

「オールマイト……本物だ……本物の……オールマイトだ……」

 

 

 

 

目の前で笑うオールマイトの姿を見て、様々な思いが胸をざわつかせる。

   

ずっとオールマイトみたいなヒーローになりたかった。

憧れていたヒーロー。

だから、オールマイトが卒業した雄英ヒーロー科に入り、そしてオールマイトみたいに卒業したかった。

 

そんな、物心ついてからずっと憧れていたヒーロー。

 

そのオールマイトが俺の前で笑っていた。

 

窓の無い倉庫みたいな空間。

暗くて仲間2人の顔もろくに見えない。

なのに、何故かオールマイトの顔だけは……本当に、不思議なくらい鮮明に見ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side校長

 

「オールマイトから連絡があったのさ。例の子供達は今回の件を心から反省し、二度とこんな事はしないと約束したようなのさ」

 

「……そ?なら良かったんじゃね?」

 

ここは雄英高校の仮眠室。

 

オールマイトの助手という、色々と複雑なポジションの氷叢くんの為に用意した部屋だ。

 

3分で強個性持ちの子供3人の鎮圧……というなかなかハードなミッションを終えて、氷叢くんは椅子にぐったりと座っている。

 

 

 

「……君は、今回の件はこれで良かったのかな?」

 

「………」

 

 

 

子供達を鎮圧した氷叢くんはすぐこちらに連絡してきた。

内容は、

 

 

『オールマイトをちょっと貸して欲しい』

 

 

簡単に言えばそんな内容だった。

 

雄英高校のヒーロー科を゙受けたけど落ちてしまった子供達。

 

そんな3人が、二度とこんな事をしないように、かつ再起のキッカケをあげて欲しい。つまりはそういう内容だった。

 

 

本人達的にはテロと思っていないテロ行為。

それを失敗した子供達への、オールマイト直々のお説教。

 

そして……

 

『……君達がやった事は紛れもなく犯罪行為だ。本来であればこの後警察に引き渡される。今、君達が所属している地元の高校のヒーロー科も退学させられるだろうね。本来であれば』

 

 

オールマイト直々のお説教からの脅し。それを受けて凹んだ子供達に。

 

 

『……だけど、君達の負けん気だけは私は評価したい。雄英高校のヒーロー科に落ちてなお折れない心……その気持ちだけは大切にして欲しい。そして、今回のような犯罪行為ではなく、正当な手段として雄英高校のヒーロー科に仕返しをして欲しい。私はそれを望んでいる。君達は雄英出身のプロヒーローにはなれない。だがしかし、雄英高校ヒーロー科出身のヒーローよりも優れたヒーローになって欲しい。それをもって君達の復讐として欲しい。私は……そういう未来を期待している』

 

 

まあ要約するとそんな話なのさ。

 

 

SNS上での顔も知らない誰かの悪意を。

リアル上でのオールマイトで塗りつぶす。

 

顔も知らない誰かに煽られてテロ未遂の事をしでかした甘い考えの子供達だ。圧倒的なリアルヒーローis平和の象徴にその上から煽られれば、その甘い考えを上書きするのなんて簡単だろう。

 

 

テロを阻止し、叱り、更生し、そして未来へ向かえと。

悪意を、圧倒的な善意(オールマイト)で塗りつぶす!!

 

 

 

『実際にテロ未遂の事をしでかした子供達への処分にしては甘過ぎる!!』

 

 

 

その批判は甘んじて受けようと思う。

だけど……

 

 

 

 

 

 

『大人達の所為で道を誤ったガキ共に、たったの一度も更生の機会を与えないのがヒーローの……教師のやる事かよ?』

 

 

 

 

 

氷叢くんの言葉。

それは甘い……あまりにも、甘い理想ではあるが……

 

(……同感なのさ)

 

子供達の考えが甘いって?そんなの当然だ。

だって彼らはまだ未成年なのだから。

大人が守ってあげなければならない。教え、導いてあげなければならない。そういう存在だ。

そして、実際に罪を犯してしまった後なら難しいが……未遂で終わったのであれば、更生の機会を与えてあげたい。

 

そして、それでも彼らが将来ヴィランとして生きるというのならば……大人として責任を持って止めよう。そう3人で決めたのだ。

 

甘い考えだ。けれども。子供達の未来を信じられなければ教育者などとてもやってはいられない。

 

だから、雄英高校の校長である自分はこれでいいと思う。

けれど。

 

「……これで、本当に良かったのかな氷叢くん?」

 

「………」

 

校長であり、教師である自分はこれでいい。

だが、彼は……氷叢くんは教師では無い。

 

「……テロを企んだ子供達を武力で鎮圧するという悪役だけをやって、肝心の子供達のフォローを全てオールマイトに任せる……正直、君にとって損な役回りだったと思うのさ」

 

「……構わねえよ。そもそも男から自分がどう思われてるかなんて考えた事もねーし。悪評の一つや二つ今さらだろ」

 

氷叢くんは『これぐらいはどうという事もない』と、そう言ってのける。

 

それは本心なのだろう。

 

ヒーローランキングを気にも止めない彼らしい言葉だ。

 

例えあの子供達に恨まれたとしても気にもしない。

 

………本当に、氷叢くんらしい。

 

 

そんな事を考えていると、仮眠室の入口のドアを叩くノックの音がして、

 

「……ただいま戻りました」

 

「おーお疲れーオールマイトー」

 

「ご苦労さまなのさ」

 

 

子供達のお説教などの諸々を行っていたオールマイトが戻って来た。

 

「子供達の様子はどうだったのかな?」

 

「反省し、二度とこんな事はしないと固く誓いました。今日残り一日は例の場所で反省させる予定です」

 

「……そうか。無駄に広いと言われる雄英高校の敷地もこういう時は役に立つのさ」

 

「だねー」

 

「「急に軽くなるねー君は」」

 

 

はっはっは……と軽く笑い合う。こうして今回の雄英体育祭の陰の功労者である3人が揃う事となった。

 

 

AFOのタチの悪い企み。

成功しても失敗しても遺恨を残したであろう企ては……こうして世間的には何事も無く阻止する事に成功した。

 

それは世間的には目立たず些細な勝利なのさ。

だけど、

 

 

 

「……さて、君たちのおかげで雄英体育祭は無事に進行し、こうして何事も無く(・・・・・)第二種目も終わり昼休憩になったのさ。ここで細やかながら昼食を取りながら祝杯でもあげたいと思っているけれど……2人から異議はあるかな?」

 

「「………」」

 

……だけど……それを喜んでいけない理由もないのさ!!

 

 

不幸にならなかった3人の子供達がいた。

テロで体育祭が中止にならず、無事イベントを終えられた学生がたくさんいた。

それで十分なのさ!!

 

 

校長の特権で使うロボット達が外の屋台から様々な食事を運んで来る。焼きそば。お好み焼き。たこ焼きに焼き鳥……仮眠室のテーブルが一気に華やかになる。

 

「……氷叢くん。今日だけ特別に君用の飲み物を用意しているのさ……冷蔵庫を確認してみるといい」

 

「……へえー……いーのー?この流れだと期待しちゃうよー俺?」

 

「はっはっは!!なのさ!!」

 

「うっひょーい」

 

氷叢くんは立ち上がり冷蔵庫を開けて、

 

「オリンピックの代替イベントを見るのにノンアルコールってのは趣が無い……そう思わないかい?」

 

「思う思うー♫思っちゃうー♫」

 

「うーん……いいのかなぁ?仮眠室の冷蔵庫がビールで埋まってる……相澤くん辺りがブチギレそうだけど……」

 

喜ぶ氷叢くんと戸惑うオールマイト。

オールマイト。君は飲んじゃダメなのさ。この後もやる事があるだろう。でも、氷叢くんの仕事は今日はこれで終わりなのさ。

だから、これが最後の仕事なのさ!!

 

 

 

「氷叢くん……君の本日の最後の仕事は、この冷蔵庫の中にあるアルコール飲料を全て退治する事なのさ!!相澤くんとか厳しい教師もいる!!彼らに見つからない用に迅速に!!正確に!!確実に処理を頼むのさ!!」

 

「わーい校長♫俺、こーいうの大好きー♡マジ尊敬してるし愛してるーう♡」

 

「うーん……まあバレなきゃいいか……バレたら確実にうるさいけど……」

 

 

プシュ!!と早速冷蔵庫から取り出したビールをスタンバイする氷叢くん。

 

 

 

「雄英体育祭がオリンピックの代替イベントだとするのならば、オリュンポスの神々よご照覧あれ!!表裏問わずこの体育祭に関わる全ての人々に献杯!!乾杯なのさ!!」

 

「献ー杯(けーんぱーい)!!乾ー杯(かーんぱーい)♫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideオールマイト

 

 

……こうして、何だかんだと無事にその後の雄英体育祭は進んでいった。

 

仮眠室にもモニターはある。それで3人そのままここで体育祭を見ることとなった。

 

 

昼休憩が終わりレクリエーション。からの第三種目であるガチバトル。

 

「おー出久きゅん残ってるのねー……がんばがんばー」

 

 

片手にビール。片手にたこ焼き。

零至くんは実に楽しそうに緑谷少年を応援していた。

 

1回戦の苦戦では「およ?どしたん?どしたん出久きゅん?」と戸惑って、その後の勝利に「よっしゃ!!」と思わず手を叩いたり。

 

一巡してからの緑谷少年と轟少年の戦いに関しては……

 

 

「……………うーん」

 

 

無言……からの困ったような……そして何か眩しいものを見るような目で、零至くんは緑谷少年と轟少年の戦いを見ていた。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

そんな零至くんが心中で何を考えていたのか……正直な所、私にはよくわからない。

 

 

 

 

「……損な事ばかりする奴だね出久も。アイツ基本ヘタレだからさ……自分の為だけに、あんなに自分の身体をボロボロにするような事しないじゃん基本。全く……あのバカは……」

 

 

でも……そう、呆れたような顔でそんな事を言う零至くんの口元が微かに緩んでいて……

 

 

 

(君達……不思議と何処か似てるんだよね。零至くんと緑谷少年って)

 

 

誰かを救うために、助ける為に無意識に動いてしまう君達。

 

 

緑谷少年は不器用に動き、零至くんは捻くれた感じで動くけれど……

 

 

(……君達2人はきっと気が合う。最初にそう思った私のカンは……やっぱり外れて無かっただろう?)

 

今も激しい戦いを続ける緑谷少年と轟少年。

その戦いをじっと見ている零至くん。

 

……その様子を見て、前から思っていた事が間違って無かったのだと確信する。

 

 

 

(……頼むよ、緑谷少年……)

 

 

 

……多分、屈折した零至くんの心に光を灯せるのは……君みたいな純粋な少年少女達なんだと思う。

 

零至くんは大人には何も期待せず、無条件で守るべきモノは未成年だけだと決めている。

だからこそ、自分が守るべき存在だと決めている子供達が見せる心の光に、零至くんは無意識に惹かれているのだと思う。

 

 

私にとって、零至くんは得難い友人だ。

そんな彼の心の奥底にある闇に、私は干渉する事が難しいのだと思う。

 

(だからこそ……緑谷少年……もしも余裕があったらでいいから……)

 

 

……頼むよ。

 

私の友人である零至くんに、君の心の光を当てて欲しい。

 

彼を救えとは言わない。言うつもりも無い。

多分、彼もそれは望んでいないから。

 

でも……

 

 

(零至くんの心が少しでも楽になるような……そんな、何かがあればいいな、って……ああ、すまない。求め過ぎてしまったね緑谷少年……)

 

 

……こうして、裏方達の体育祭は終わりへと向かって行く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。