爆豪勝己の再教育   作:てるみや

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バタバタしていて本日は1話限りとなります…


二度目の麗日戦

選手控えの通路に下りると、グラウンドの熱気が壁ごしに伝わってきた。

 

出久が心操をねじ伏せた余韻が、まだ会場に残ってる。

 

電光掲示板では出久の名がもう二回戦の枠へ進んでいた。その先で待つのは轟だ。

それを横目に勝己はベンチの端へ腰を下ろした。自分の出番はまだ先。トーナメント表の、いちばん後ろの枠だった。

 

『続いて第二試合! 轟焦凍くん、対、瀬呂範太くん!』

 

ミッドナイトの声と同時に二人がフィールドへ出ていく。

瀬呂が肘のテープをほぐしながら肩を回してる。ついさっきまで同じ騎馬に乗ってた男だ。

 

(瀬呂……相手が悪ィな)

 

試合開始の合図。

その刹那だった。

 

轟の足元から白いものが噴き上がった。

 

氷だ。

グラウンドの半分を一瞬で呑む。瀬呂が身構える間もなく、せり上がった巨大な氷塊がそいつごと壁際まで押し流していった。

 

『……瀬呂君行動不能! 勝者、轟くん2回戦進出!』

 

会場がどよめいた。

開始から数秒。瀬呂は指一本ぶんも間合いを詰められずに終わった。

 

凍りついたフィールドを轟が無表情で見下ろしてる。左を使ってねェ。半分だけの力でこれだ。

 

解説席のプロたちまで、しんと言葉を呑んでる。あの氷量を見せられりゃ無理もねェ。

知ってる。あいつが左の炎を封じてるのは親父への意地だ。万年No.2の、あの男への当てつけ。

そして勝己は識ってる。この大会の最後で、自分があの半分野郎とぶつかることも。

 

だが──と思考の隅で滲みが広がった。

USJで盤面はもう動いた。一度目の地図がこの先どこまで当てになるか。確かなものはもう何もねェ。

 

(……まあ、いい)

 

轟がどう転ぼうが、最後に勝つのは俺だ。それだけは変わらねェ。

 

氷上で轟が小さく頭を下げてる。八つ当たり気味に凍らせた瀬呂への詫びだ。あいつなりに、まだ整理がついてねェんだろう。

 

――――――――――――――――――――――

 

試合は淡々と進んでいく。

 

第三試合。塩崎の髪が無数の茨になって伸びた。上鳴が放電を撒く間もなく絡め取られて、ぐるぐる巻きだ。アホ面のまま宙吊りで終わった。

 

(電気野郎……10秒も保たねェのか)

 

第四試合。飯田と、サポート科の発目。

発目が試合そっちのけで、背負った自作アイテムを次から次へと繰り出していく。飯田が律儀に振り回されて、しまいにゃ発目が宣伝に満足して自分から場外へ出ていった。

 

場内が妙な空気で沸いてる。飯田が釈然としねェ顔のまま勝ち上がった。

 

(あのクソ真面目が、いちばん割を食ってやがる)

 

第五試合。芦戸と、青山。

青山のへそからまっすぐな光が走る。芦戸が横っ跳びでかわして、酸を一筋。青山のベルトの留め金がじゅっと溶けた。光の出どころを潰されりゃ、あとはアッパー一発で沈んだ。

 

第六試合。常闇と、八百万。

闇の中でダークシャドウが躍る。八百万が創造の隙を探す、その一拍すら常闇は与えなかった。影に押し切られて八百万が膝をつく。

 

一度目、あいつはこの負けでしばらく自信を失くしてた。期末の、あの試験まで。実力はある女だ。たった一度のつまずきで折れるには、惜しい。

 

そして──第七試合。

 

「うぉおおおッ!!」

 

切島の雄叫びがフィールドに響いた。

相手はB組の鉄哲。硬化と、スティール。

 

似た者同士の、ど真ん中のぶつかり合いだ。硬くした拳と鋼の拳が正面から何度も激突する。火花が散って、どっちも譲らねェ。

 

結局、相打ちのまま動かなくなって──引き分け。決着はまさかの腕相撲だった。

 

歯を食いしばった切島の腕が、じりじりと鉄哲をねじ伏せていく。

 

「っしゃあ──!!」

 

勝ち名乗りを上げる切島を、勝己はベンチから見ていた。

 

(二回戦は……1度目と同じか。クソ髪)

 

知ってる。次の盤面で俺はあいつと当たる。

硬化は厄介だ。だがあいつの硬さには癖がある。一度目で、嫌ってほど見た。

一度目も二度目も、あいつは最後まで折れねェ男だった。あの灰の戦場でも、最後の最後まで隣で吼えてやがった。

 

そこまで思って勝己は小さく息を吐いた。

 

電光掲示板の表がまた一つ進む。

残るのは、最後の一枠。

 

爆豪勝己──対──麗日お茶子。

 

(……ようやく、か)

 

――――――――――――――――――――――

 

勝己は立ち上がった。

 

ベンチを離れてフィールドの中央へ歩いていく。足の裏に、凍ってたのを溶かし直したコンクリの、ざらついた感触。

 

反対側から麗日が出てきた。

チアの衣装じゃねェ。ヒーロー科の、戦う格好に着替えてる。指先には、あのパッドだ。

 

(来たな、丸顔)

 

真っ直ぐな目でこっちを見てる。怯えはねェ。あるのは覚悟だけだ。

 

知ってる。一度目、この女はここで俺に正面からぶつかってきた。何度倒されても立ち上がって。そして最後に──

 

(瓦礫を空に溜めてやがった)

 

あの作戦も、その先の結末も、ぜんぶ識ってる。

だが識ってるからって、手を抜く理由にはならねェ。むしろ逆だ。ここまで自分の足で上がってきたこいつに半端な勝ち方を返すのは、侮辱になる。

 

「……っ」

 

麗日が両の拳をぎゅっと握り込んだ。

小さく唇が動く。何か、自分に言い聞かせるみてェに。

 

『それじゃあ──第八試合ッ! はじめェ!』

 

ミッドナイトの合図が落ちた。

 

――――――――――――――――――――――

 

踏み込んできたのは麗日のほうが先だった。

 

速ェ。だが読める。

勝己は右の掌を、向かってくる麗日の正面へ向けた。威力を絞った爆破を足元へ、ぽんと置く。

 

ドッ、と低い音。

爆風に煽られて麗日の体が横へ流れる。だが倒れない。受け身を取って、すぐに立ち上がってくる。

 

(っ──しぶとい)

 

何度でも来る。倒しても倒しても立ち上がって、間合いを詰めようとしてくる。

あの個性は触れなきゃ発動しねェ。だからこいつは、ただ近づきたい。その一点だけを馬鹿正直に狙ってくる。

 

ように、見える。

 

二度、三度と弾き返した。そのたび麗日は地を蹴り、角度を変えて突っ込んでくる。左から来たかと思えば、すぐ右へ回り込む。読み筋を散らそうとしてやがる。

 

一度、フェイントに乗りかけた。踏み込みと見せて、寸前で身を沈める。その伸びてきた手を、勝己は爆破の風圧だけで弾いた。爪の先が、すぐそこにあった。

 

一度目より、動きが練れてる気がした。いや──一度目の俺が、こいつを甘く見てただけかもしれねェ。

 

だが刻むほどに分かる。こいつの手には、迷いがねェ。倒されても立つ。立てばまた前へ出る。負ける前提で組まれた動きじゃねェ。勝つために、自分の足でここまで上がってきた女の動きだ。

 

それでも決定打には届かない。麗日の手が伸びるたび、勝己は最小限の爆破で軌道を逸らし、間合いを切り直す。触れさせなきゃいい。たったそれだけのことだ。

 

煙が、フィールドに溜まってきた。

爆破の煙幕と、砕けたコンクリの粉塵。視界が白く濁る。

 

その向こうから、ふっと人影が突っ込んできた。

 

(来る──!)

 

反射で掌を向ける。が、寸前で気づいた。形が、軽すぎる。

 

上着だ。

脱いだ上着を囮に放りやがった。本体は──背後。

 

「もらっ……!」

 

振り向きざま、麗日の手がすぐそこまで来てた。

勝己は身を捻って紙一重でかわす。指先が肩の布をかすめて、空を切った。

 

(っ、危ねェ……!)

 

さすがに肝が冷えた。

あと半歩、読みが遅けりゃ触れられてた。触れられりゃ無重力で浮かされて、そのまま場外だ。一発で終わってた。

 

右の掌が、わずかに震えてる。怒りじゃねェ。緊張だ。この張りつめた感覚。久しく忘れてたもんだった。

 

客席の、瀬呂と上鳴の声が風に乗って届く。

 

「うわ、今の惜しッ……!」

「でも麗日ちゃん、不利だよなァ。触んなきゃ発動しねェんだろ? あの反射神経が相手じゃ、近づくだけで精一杯だ……」

 

そうだ。

正面からじゃ麗日に勝ち目は薄い。本人がいちばん、分かってるはずだ。

 

なのに──と勝己は目を細めた。

 

妙だ。

こいつは、さっきからやけに低い姿勢で動いてやがる。攻めることより、足元を撹乱することに気を割いてるみてェに。突っ込んでくる割に、間合いの詰め方がどこか雑だ。本気で触りに来てる動きじゃねェ。

 

(地面を……見てんのか)

 

俺の爆破で割れた、コンクリの破片。

それを踏み散らかすふりして、足元へ転がし続けてる。視線が、ちらちらと上を気にしてやがる。

 

知ってる、この動き。

こいつは今、俺に瓦礫を作らせてる。攻撃で注意を引きつけて、その裏で──

 

(空に、溜めてやがるな)

 

無重力で、ひとかけらずつ。気づかれねェように、頭の上へ。

仕上げに一斉に落とす気だ。物量で詰ませて、回避の隙に触れに来る。陽動と本命を、丸ごと入れ替える作戦だ。

 

撃ち落とすか。

今なら、まだ間に合う。溜まりきる前に上を薙げば、作戦ごと潰せる。簡単に、勝てる。

 

だが勝己は撃たなかった。

 

(……いや。やらせろ)

 

ここで潰しゃ、意味が無ェ。それじゃこいつは、自分の作戦を出しきる前に終わる。納得なんざ、するはずもねェ。

それに──と、頭の隅で別の算盤も弾いてる。まとめて落としてくれたほうが、こっちには好都合だ。バラバラに降ってくるより、一塊にまとまった的のほうが、撃つべき場所を絞りやすい。

 

勝己はわざと足元の破片を蹴り上げ、空中で爆破して砕いてみせた。新しい瓦礫が、また宙へ舞う。それを麗日の指が、すっと撫でていくのが、煙の向こうに見えた。

 

(さあ──もっと溜めろ、丸顔)

 

――――――――――――――――――――――

 

そのとき、客席の空気が濁った。

 

「おい、あの一年……女の子相手に、やりすぎだろ」

「勝負つける気あんのかよ。いたぶって遊んでるだけじゃ……」

 

ブーイングだ。

じわじわと、観客席のあちこちから湧き上がってくる。

 

遊んでなんか、いねェ。

こいつを本気で警戒してるからこうしてる。半端に近づきゃ一発で持っていかれる。それが分からねェ奴は──

 

『──だまれ』

 

解説席から、低い声がマイクに乗った。

 

相澤先生だ。

USJの傷が、まだ顔に巻かれた包帯に残ってる。その下から、気だるげな、だが鋭い目が客席を睨んでた。

 

『今、遊んでるって言ったのはどいつだ。プロか? 何年目だ?』

 

ざわ、と客席が静まる。

 

『シラフで言ってんなら、もう見る意味ないから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』

 

淡々と、だが容赦なく相澤が続ける。

 

『ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろ。本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断も出来ねぇんだろうが』

 

プレゼント・マイクが隣で「イレイザー、言うねェ!」と茶々を入れてる。

だが、客席のブーイングはぴたりと止んでた。

 

(……あんたは、相変わらずだな)

 

胸の奥が、妙に軽くなった。

あの人はいつもそうだ。生徒の戦い方の、いちばん芯のところをちゃんと見てやがる。報われねェ場所でも、ずっと。一度目だって、最後までそうだった。

 

――――――――――――――――――――――

 

その相澤の声が、合図みてェだった。

 

麗日がぴたりと動きを止めた。

肩で息をしながら、まっすぐ勝己を見据えてる。膝がすりむけて血が滲んでた。それでも、目だけは死んでねェ。

 

「……ありがとう、爆豪くん」

 

ぽつりと、そう言った。

 

そして麗日が、両手の指を天へ向かって、ぱっと開いた。

 

ゴ──……ッ。

 

頭上で、空気が鳴った。

 

見上げた勝己の視界いっぱいに、影が広がっていく。

 

瓦礫だ。

俺に割らせた、コンクリの破片。その数えきれねェ塊が、いつの間にか頭上に溜まってた。無重力で、ひとつ残らず。

 

それが今、麗日の手で解き放たれた。

 

客席にいる物間が、誰にともなく種を明かす。

 

「爆豪の距離ならともかく…客席にいながら、気付かずブーイングしてたプロは恥ずかしいね」

 

「ずっと低い姿勢で動いて、爆豪に瓦礫を作らせて、攻撃で気を引いて……その裏でコツコツ無重力で浮かせてた。今ぜんぶ落とせば、回避でも迎撃でも必ず隙ができる。その一瞬に、触れる気だ。陽動を本命にすり替えた、上等な詰め筋だよ」

 

流星みてェに、瓦礫の雨が落ちてくる。

 

ひとかけらが、窓くらいある。それが数えきれねェ。塊同士がぶつかり、欠けて、また噛み合って、ひとつの大きな波になって落ちてくる。

 

逃げ場はねェ。

これだけの物量だ。横へ跳んでも追ってくる。

 

正面から受けりゃ、潰される。

かわしきった、その着地の隙に麗日が触れに来る。

 

一度目は火力とセンスだけで押し切った。今回は違ェ。

 

――――――――――――――――――――――

 

勝己は、落ちてくる瓦礫を見上げた。

 

時間が、伸びた気がした。

 

音が遠のいていく。歓声も、ミッドナイトの声も、すうっと薄れる。視界の中で、降ってくる瓦礫の一つ一つが、やけにくっきりと見えた。

 

一塊に、見える。

だが違う。無重力で溜めて、一斉に解いた瓦礫は、いま互いにぶつかり、噛み合いながら落ちてくる。荷重のかかる線が、塊の中を走ってるのが見える気がした。どこに力が集まり、どこが遊んでるか。

 

その塊の中に──

 

(……あった)

 

要だ。

落下のいちばん下、いくつもの破片が寄りかかり合って支え合ってる、その一点。アーチの頂点みてェな、力の集まる場所。

 

そこを、抜けば。

 

寄りかかってた破片が支えを失う。塊が内側から崩れる。流れが、外へ散る。

 

火力じゃねェ。

どこを撃つか。それだけだ。

 

(一発で、決める)

 

ためらう余地はねェ。外せばそのまま瓦礫の下敷きだ。

 

危ねェ橋。

だが、渡るしかねェ。

 

勝己は右手を上げた。

掌全体で薙ぐんじゃねェ。出力を、絞る。一点に、針の先みてェに束ねる。

 

(……ここだ)

 

撃った。

 

パン、と。

 

拍子抜けするくらい、小せェ音だった。

 

爆発の光が、瓦礫の塊の、たった一点に吸い込まれていく。

 

その、一拍あと。

 

支えを失った破片がぐらりと傾いだ。寄りかかってた塊が、内側からほどけていく。流星の雨が、勝己の頭上で、左右へ、ざあっと散った。

 

頭上に、ぽっかりと道が空く。降ってくるはずだった瓦礫が、要を失って、勝己を避けるように左右へ流れていく。たった一点。撃つ場所さえ間違えなけりゃ、物量なんざ関係ねェ。

 

割れた隙間へ、勝己は踏み込んだ。

降り注ぐ破片の合間を、縫うように。爆破推進で一気に、麗日の懐へ。

 

「──!?」

 

麗日の目が見開かれる。

完璧な詰みが、たった一点を撃たれただけで崩れた。その意味が、追いつかねェ顔だ。

 

勝己は、その鼻先まで踏み込んでいた。

 

「こっから本番だろうが──麗日ァ!」

 

応えようと、麗日が足に力を込めた。

だが──その体が、ぐらりと傾いだ。

 

限界、だった。

あれだけの瓦礫を、溜めて、操って、解き放った。無重力の反動が、こみ上げる吐き気が、こいつの体を内側から削りきってた。

 

膝から、崩れ落ちる。

 

「……っ、父ちぁ……」

 

コンクリの上に、麗日が倒れ込んだ。

立とうと、指が地面を掻く。だが、もう力が入らねェ。

 

『……戦闘、不能! よって──勝者、爆豪勝己くん!』

 

ミッドナイトの宣告が、響いた。

 

わっ──と。

さっきまでブーイングしてた客席が、今度は割れんばかりの拍手と歓声に変わってた。

 

『誰か、リカバリーガールのとこへ運んでやれ!』

 

――――――――――――――――――――――

 

勝己は、肩で息をしながら倒れた麗日を見下ろしてた。

 

(……火力で、勝ったんじゃねェ)

 

あの物量を力で押し返したわけじゃねェ。たった一点を見抜いて撃っただけだ。

半歩、読みがズレてりゃ。今頃、瓦礫の下だ。

 

(……強ェな、麗日)

 

口には出さねェ。

だが胸の内で、それだけははっきりと認めた。救助向きだなんだと侮られる個性で、こいつは俺をあと一歩まで追い詰めやがった。一度目、こいつのこの作戦を「デクの入れ知恵」と片づけて、まともに見ようともしなかった俺の目は、節穴だ。

 

担架が運ばれてくる。

気を失った麗日が運ばれていく。その横顔は、悔しさで歪んでた。

 

俺がかけてやる言葉なんざ何もねェ。同情も慰めも、こいつには侮辱にしかならねェ。

 

だから勝己は、何も言わずに背を向けた。

 

控えへ戻る、その通路で。

 

緑色の影が、壁にもたれて待ってた。

 

出久だ。

何か言いたげな顔で、こっちを見てる。

 

「かっちゃん、今の……」

 

「言っとくぞ、出久」

 

勝己は足を止めずに、先に口を開いた。

 

「あの作戦は、てめェの入れ知恵じゃねェ。麗日が、自分で組んだやつだろ」

 

出久が目を丸くした。

 

「……っ、なんで、それを……」

 

「見てりゃ分かる」

 

ふん、と鼻を鳴らす。

 

「……厄介だった、あいつは強ェよ。てめェの差し金だなんて、思っちゃいねェ」

 

一度目の俺なら、逆だった。

どうせデクの入れ知恵だろうがと、麗日の力をこいつのせいにして、認めようとしなかった。

 

だが今は識ってる。

あの作戦は、麗日お茶子が、自分の頭で、自分の覚悟で組み上げたもんだ。誰の差し金でもねェ。

 

出久が、ふっと何かに気づいたみてェに、口元をゆるめた。

 

「……うん。そうだよ。麗日さんの、作戦だ」

 

「分かってんなら、いい」

 

――――――――――――――――――――――

 

観客席へ戻ると、上鳴がにやにやしながら寄ってきた。

 

「いやー、ダイナマイトさんよォ。あんな、か弱い女の子相手に、あんなデカい立ち回り……ちょっと大人げなくねェ?」

 

勝己は横目で、そいつを見た。

 

「……どこがか弱ェんだよ」

 

は? と、上鳴がきょとんとする。

 

「あいつのどこが、か弱ェんだ。あと一歩で、俺が負けてたんだぞ。……黙れ、電気野郎」

 

「えっ、あ、ごめっ……!?」

 

ベンチに、どさりと腰を下ろす。

 

電光掲示板の表が、また一つ先へ進んだ。

 

一回戦は、終わった。

二回戦の、最初の枠に俺の名がある。相手は──切島だ。

 

(次は……てめェか。クソ髪)

 

握った拳を、開いて、また握る。

さっきの、一点撃ちの感触が、まだ掌に残ってた。掌全体で薙ぐんじゃなく、針の先に束ねて、一点を抜く。火力に頼れねェこの体で、ものにしておくべき形だ。

 

火力じゃ、勝てねェ。

だったら、頭で勝つ。観て、判じて、急所を撃ち抜く。

 

それが、識ってるだけの俺に残された、たった一つのやり方だ。

 

晴れ渡った空の下で、勝己は、次の盤面へ静かに目を据えた。




色々書いてきましたが、2-3話と整合性が取れてない…
近いうち修正させていただきますね…ブレブレで申し訳ないです。
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