chapter5-1
〈左右田の学級裁判翌日未明〉
頭が痛い。ここはどこだ。真っ暗闇の中では何も視界に捉えることはできない。手を伸ばして辺りを探ろうとしても動かない。どうやら後ろ手に縛られているみたいだ。ついでに足も。
ズキズキする頭で俺は直前の記憶を思い出してみる。
真夜中だけど眠れなかった俺は夜風にあたって気分転換しようと散歩をしていた。そうするとまたカムクラの記憶が頭の中に流れ込んで来て頭が痛くなってそこからの記憶はない。俺は倒れたんだと思う。
その時、部屋の電気がパッとついた。急に光の中に放り出された様に一瞬目が眩むが目に映り込んできたのはファンシーなインテリア群。ここはモノミハウスだった。
「目が覚めたみたいですね。」
その声は聞き覚えのある声であり俺はその声の主を睨みつけ答えた。
「どういうつもりだ、罪木。お前が俺を拉致したのか?」
「拉致だなんて人聞きが悪いですよぉ。倒れていたんで連れて来ただけじゃないですかぁ。」
そう言われると確かにと思いかけたがそもそも善意で拘束をする奴なんて聞いたことがない。
「まだこんな事をするのか...。でもジャバウォック公園のタイマーがゼロになったらコロシアイも終わる。あと数日で俺たちは黒幕と戦う。」
「黒幕ですか?そういえばそこだけはさっぱり分からないんですけど誰なんですか、私たちを閉じ込めているのは?」
「江ノ島盾子だ。」
「江ノ島盾子様!?それは本当ですか?」
「本当だ。お前は江ノ島盾子を慕っているかもしれないけどあいつにとってはお前ですら絶望を得るためのコマでしかないんだ。だからこんなコロシアイを仕掛けてる。」
「ああ、蘇っていたなんて流石です!やっぱりあの方は格が違います!日向さんありがとうございます、特別にいい事教えてあげますね!」
「お前がそう言うと良い事とは思えないんだけど?」
「私はこれからネズミー城に行ってきます。そこに良いものを残しておくので後で覗いてみて下さいね。」
「それは何かの情報か?」
「さあそれはお楽しみです。あと最後にもう一つだけ。」
罪木はいつになく真面目な顔でこう言った。
「あの方はどこまでいっても絶望的なまでに絶望志向です。気まぐれで論理性なんて微塵も感じないあの方の唯一の軸。そこにヒントがあるかもしれませんね。」
【chapter 5】
君は希望という名の絶望に微笑む
今の時刻は午前7時。私たちは朝から食堂に集まっている。
が、朝食を食べる為ではない。もっと重要な事項について話し合うためだ。
「応、辺古山!もう来ておったか!」
朝から騒々しい程に巨大な声をあげるのは弍大、そしてそれに続くように田中、西園寺、ぼっちゃんが集まった。ここに日向がいないのは私にとっては自明の理だ。それについてこれから話す。
「みんな聞いてくれ。実は今朝私のところにこんな手紙が届いていてな。」
「えっ!辺古山おねぇも!?」
「どうやらそのようだ。では貴様の元に届いた物にもまたこう書かれていたのか?」
『日向創は預かった。返して欲しければヒントを集めここへたどり着くことだ。ヒントの在り処は殺人現場、そして第五の島のモノクマ製造工場近くの倉庫。』
「こんな事をするのはあいつしかいねーな。」
「罪木の事じゃな。」
全員がそれについては誰も否定の声を上げない。満場一致で罪木の仕業だと思っている。かくいう私もそうだ。
「それでどうする?殺人現場ということは恐らく今までの4つの殺人事件の現場の事だろうが倉庫にはまだ私達は行ったことがない。それにモノケモノだっている。易々と通して貰えるとは思えんが。」
「殺人現場ってのが趣味わりいな。」
「とにかく考えるのは後じゃ。まずは日向の身の安全が最優先。ということでワシは旧館を調べて見ることにするかのう。」
「俺様は小泉の命が奪われた地、ビーチハウスへと向かうことにしよう。」
「では私は病院へ行く。これを仕掛けたのが本当にあいつなら一番何かがありそうな場所だからな。」
「俺はドッキリハウスと言いてえところだがあそこに自由に入れるかも分かんねえから俺は先に倉庫へ向かう。時間は無駄にできねえしな。」
「ではドッキリハウスは手の空いた者から向かうとしよう。西園寺は食堂に残っていてくれ。何かあった時の為に自由に動ける人間がいた方がいい。」
半分本心、半分は西園寺を気遣ってのものだ。まだ私達に協力するべきか決めかねている西園寺への。
しかし...
「私がドッキリハウスに行くよ。」
「大丈夫なのか?これを仕掛けたのは罪木である可能性は高い。ならば当然罠の可能性もある。お前は先日襲われたばかりだ。私達への負い目なら気にする必要は...。」
「負い目じゃないし!ていうかもう嫌なんだよ、私が立ち止まってる間に誰かがいなくなるのは!」
西園寺の心からの叫びが食堂に響き渡る。
「私が何もしない事で何かが変わったのかな?また別の誰かが殺されて処刑されての繰り返し。小泉おねぇも澪田おねぇもそうだった。それにこれからも私がこのまま何もしなかったら本当にみんなが私の所からいなくなっちゃうから。本当に独りぼっちになるから。」
「西園寺...。」
「正直言うとね、最初は学級裁判になってもやらなくちゃならないからって理由つけて割り切る事ができたんだ。でもいつ頃からかな、何でか分からないけどそれも辛くなってきて頭の中がぐちゃぐちゃになって誰かが手を差し伸べてくれてもそれを取る余裕もなかったの。」
「でもずっと考えてたら気づいたんだ。小泉おねぇみたいに芯を持って、澪田おねぇみたいに希望を持って前向きに生きる事がなくなったからだって。答えはずっと私のすぐ近くにあったのに気づきもしなかった。今の私に必要なのはずっと小泉おねぇ達が私に見せてきてくれてたことだったんだね。
だからもうウジウジはやめ!それにゲロブタの奴に調子に乗られたままだとなんか腹立つし!」
「西園寺...お前さん...。」
「な、何?ジロジロ見て。気持ち悪いんだけど。」
そうは言うが皆が西園寺に注目するしかなかった。何せあの西園寺がここまで素直に心情を吐露することなど見たこともないしこの先あるかも分からないからだ。
「ぼっちゃんの気持ちが届いたのでしょうか。」
「九頭龍は関係ないよ。私はこいつに励まされるほど落ちぶれてないから。」
「そうだ、西園寺が自分で決めた事だ。俺は関係ねーよ。ていうかペコ、何でお前その事を知ってんだ?」
「失礼ながらドッキリハウスでこっそりと...。」
「チッ、まあいいけどよ。お前はいい加減ぼっちゃんって言うのやめろや。俺たちはもう対等だって言っただろ?」
「心がけます。」
私自身としては以前よりはぼっちゃんに歩み寄れていると思うのだが、ふとした瞬間に長年染みついた癖が出てしまう。剣術については自信があるがただでさえコミュニケーションが得意な方だとは言えないからな。なかなか難しいものだ。
「そんなことより私が協力してあげるって言ってんだからテキパキ動いて早く日向おにぃを見つけてよね!」
「張り切るのはいいが魔の者による攻撃に足元をすくわれない事だ。」
「そうだな。危険だと思えば深追いはするな。何か危険があればすぐに私か弍大に知らせろ。」
そう最後に言い午前7時30分、私達は日向の捜索に取り掛かった。
一方、その頃、モノミハウスでは...
ったくどうしてこんな事になったんだよ。手足がずっと縛られて体勢が固定されてるから身体中が痛くなってきた。狛枝はよくこんな苦行に耐えてたよな。
完全に放置されている囚われの俺はする事が無さすぎてどうでもいい事ばかり考えていた。時計の針は既に午前8時を指している。
そもそも罪木に捕まったのも全部あのカムクラの記憶のせいだよな。あれがなかったら倒れることもなかったわけだし。
最初にカムクラの記憶を思い出したのは前周回の最後の学級裁判の最中だ。江ノ島の反応を見る限り彼女自身もそれをバグだと形容していたぐらい意味不明な出来事らしい。とにかくあれからだ、カムクラの記憶が段々と蘇り始めてきたのは。
大体何なんだよ。俺はカムクラじゃない日向創だ。俺の体に何が起こっている?待てよ、体?
もしかして現実世界の俺の体に何かが起こっているのか?もしそうならプログラム世界の方から打つ手はない。未来機関の連中が気づいてくれる事を待つしかないってことかよ。
くそっ!
俺は縛られた両足で近くにあった小物を蹴り飛ばした。
「えっ!?誰?」
声と同時に恐る恐るその人物は俺のいる部屋に入ってきた。
「日向おにぃ!」
「西園寺!」
俺たちが互いを認識したのはほぼ同時だった。
その後の西園寺はというとすぐに俺の拘束をとき始めていた。
「西園寺助けに来てくれたのか!でもよくここだって分かったな。」
「ドッキリハウスに行くつもりだったんだけど、ここを通りがかったときにドアは開けっぱなしで中から音が聞こえてきたからさ。」
監禁しておくのにドアを開けっぱなしは逆に不自然な感じもするけど今はそれどころじゃない。
俺たちはすぐに互いの状況は手短に伝えた。
「やっぱりゲロブタの仕業だったんだ。今度こそカニさんを頭に乗っけて体中に落書きしてやる!」
「おい!待てよ!」
そう言うやいなや、俺からネズミー城に罪木が向かったという話を聞いた西園寺は駆けて行き、俺もまたそれを後ろから追った。
たどり着いたネズミー城は、前周回で狛枝がコテージを破壊した時と同じ様に入り口が爆破されていた。十中八九、罪木がオクタゴンの爆弾を使って破壊したんだろうな。
西園寺は城の中へと入っていく。
「出てこい、ゲロブタ!今日という今日は許さないから!今までの仕返ししてやる!」
「待てよ。何があるか分からないから慎重に行った方が...。」
西園寺が凝視している視線の先にあったものを捉えて俺も言葉を失った。
十の字の体、左右に広げた状態で縛られた両手、両足を貫通し壁に突き刺さっているメス、そして胸の中央には弾丸が。
ネズミー城の入り口から入り込んでくる光に照らされて磔にされた罪木蜜柑はポタポタと滴る吐血により自らの体の下におぞましい真紅の泉を作り上げていた。