呪術回転    作:Nikich

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プロローグ 牙(タスク)

(なんだ、コイツは……?)

 

 場所は新宿、その路地裏。

 名もなき呪詛師は、人生で味わったことのない恐怖を覚えていた

 

 ある術師が考案し、今や日本全土を巻き込む大規模呪術テロと化した『死滅回遊』。

 新宿も例外ではなく、暴力が通貨となる魔境へと変わり果てていた。

 

 呪詛師がとった行動は、入ってきたばかりの奴や弱そうなやつを殺すいわゆる初心者狩り。それを繰り返し、日に日に増えていく得点に酔いしれた彼は……手(・)を(・)出(・)す(・)相(・)手(・)を(・)間(・)違(・)え(・)た(・)。

 

「……お前は、『敵』でいいのか?」

 

 これまで呪詛師が食い物にし、殺してきた者たちは、例外なく弱(・)者(・)の目をしていた。立ち向かう勇気もなく、自ら道を切り開く覚悟もない者たち。

 だが、目の前の男は違う。騙されたことに憤るでもなく、頭を下げて命乞いをするでもなく、ただ静かに立っている。

 

 そして、その目は――

 

「つまりお前は……『敵』でいいんだな」

 

 漆(・)黒(・)だった。

 

「おい……な、なんなんだよ、お前!」

 

 目の前の男はどうみても強者には見えない。むしろ、痩せ気味ともいえる体つきである。しかし、本能が警告を告げていた。あれは——人殺しの目だ。

 

 両者が睨み合う。重苦しい沈黙は、一瞬で破られた。

 

「死ねェェ!」

 

 耐え切れなくなった呪詛師は、とっさにナイフを抜き放つ。

 しかし——その瞬間、それが合(・)図(・)となった。

 

「タスク(牙)ACT1」

 

 一瞬だった。

 乾いた破裂音が路地裏に響く。男の首から上は、跡形もなく吹き飛んだ。 

 

「5点が追加されました」

 

 どこかおちょぼ口のコガネがポンと現れ、金髪の男に告げる。

 コガネには一瞥もくれず、男は静かに歩き出した。

 

☆

 

「やっぱり覚醒型は微妙だね。私の解釈の域を出ない」

 

 時を同じくして仙台某所。結界上空で、ある人影が不気味な存在感を放っていた。エイのような呪霊の上に悠然と佇み、やや気だるげな様子でコガネが映し出す泳者一覧を眺めている。

 

 男の名は羂索。千年前から肉体を渡り歩き、死滅回遊を計画した怪物である。

 

 特に宛もなく指を動かしていた羂索だが、ある一人の泳者名に目が止まった。その名前と得点を確認すると、不気味な笑みを浮かべる。

 

 「……始まったようだね」

 

 羂索にとって、その泳者は数ある中でも特に期待を寄せている存在だった。現代はもちろん、平安の術師にも引けを取らない精神性。それだけでも十分に魅力的だ。

 

 だが、羂索が最も興味を抱いているのは、新(・)し(・)い(・)呪(・)い(・)の(・)形(・)そのものだった。

 異国の地で遂げた進化なのか。それとも、あの『遺体』による祝(・)福(・)なのか。

 

 いずれにせよ――面白いことになる。

 

 その名は——

 

「スタンド(立ち向かうもの)……か」

 

 抑えきれぬといった感じで笑みを深めた羂索は、ゆらりと天を仰いだ。

 コガネに表示されている名は——『ジョニィ・ジョースター』。

 

 死滅回遊の泳者、そして——

 

 1890年、『S B R(スティール・ボール・ラン)』で、ある遺(・)体(・)を巡る戦いを生き抜いた男である。

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