Fate/atlantis:衛宮切嗣生存stay night 作:星P/すたーりん
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リビングへ戻ると、遠坂とセイバーが談笑していた。
ついさっきまでの空気が嘘みたいに、そこには穏やかな時間が流れている。
微笑ましい光景―――のはずなのに、胸の奥に残ったざらつきは消えてくれない。
あの後、赤い男は姿を消した。
消えた、というより霊体化したのだろう。
……あの質問は、なんだったんだ。
どうしてあいつが、あんなことを聞いてきたのか。
俺はあいつに自分の目標を話した覚えなんてない。まして遠坂にも、そんなものを口にしたことはない。
なのにあれは、間違いなく『正義の味方』という、衛宮士郎を形作るものそのものを突く問いだった。
同時に、ぞくりと背筋が粟立つ。
まるであの男が、俺自身であるかのような―――そんな、得体の知れない悪寒。
「あ、衛宮くん。お爺さん、見つかった?」
「……え? ああ。結局見つからなかったよ。多分、出かけてるんじゃないかな」
不意に声をかけられ、思わず返事が遅れる。
「どうしたのよ、そんなに驚いちゃって。……なに? 何か隠してることでもあるの?」
「い、いや、ほんとに何もないから! そ、そうだ。それより飯でもどうだ? あれから何も食ってないだろ」
遠坂に、さっきのことを話すべきか。
……いや、まだだ。
あいつの真意が分からないうちは、下手に遠坂を動かしたくない。
「まあ、たしかにお腹は空いたけど……」
「なら飯にしよう! 俺が作ってくるよ!」
半ば逃げるように、足早に台所へ向かう。
「あ、ちょっと!」
遠坂の制止も聞かず、そのままキッチンへ滑り込んだ。
このままそこにいたら、きっと余計なことまで口にしてしまう。
「シロウは元気いっぱいですね」
背後から、セイバーのどこか見当違いな感想が飛んできた。
違うぞセイバー!。
「......え、何——?」
まだ遠坂が何か言っているようだが、どうせさっきの追求の続きをセイバーと話しているのだろう。
今日は少し手間をかけて、うまい飯でも作ろう。
そうしてなんとか誤魔化そう......
*
「——何?」
「言葉通りよ。……あら? でも、あなた、よく見たらマスターじゃないじゃない」
キャスターが切嗣を見る。
一瞬の間。
そして切嗣が話し出す。
「……ああ、そうだ。僕はマスターじゃない」
淡々と答える切嗣に、キャスターはわずかに目を細めた。
フードの奥から覗くその視線は、獲物を値踏みする蛇のように冷たい。
「ふうん。ま、一般人じゃないってことはわかってたけど、サーヴァントを前にしてその態度。只者じゃないって——」
切嗣がキャスターを遮って問う。
「昨今のガス事件。犯人はお前か?」
その瞬間、空気が張り詰めた。
夜気が肌を刺すように冷たくなる。
キャスターは口元に笑みを浮かべたまま、しかしその瞳だけはすっと細めていた。
「あら、マスターでもない人間が、私にそんな口を利くなんて。よほど自分に自信があるのか、それとも―――ただの命知らずかしら」
「質問に答えろ」
キャスターが切嗣を睨む。
「……そうだ、と言ったらどうする?」
「なら、ここで君を見過ごすつもりはない。それだけだ」
切嗣は静かに引き金へ指をかけた。
無駄のない動き。わずかな隙もないその構えに、張り詰めた殺気が宿る。
その気配を感じ取ったのか、キャスターの笑みが深くなった。
次の瞬間、彼女の眼前に魔法陣が展開される。
「じゃあ、私も遠慮はいらないわね」
放たれた魔弾が一斉に切嗣へ襲いかかる。
切嗣は即座に射線を切り、境内を横切って森の中へ飛び込んだ。
―――起源弾は、あいつに通じるだろうか。
相手はサーヴァントだ。だが同時に、魔術師でもある。
魔術師である以上、起源弾が効く可能性は高い。だが、確実ではない。
追ってくる魔弾を木々の陰へ誘い込みながら、切嗣は太い幹の裏へ身を滑り込ませる。
「ふふ、どこに隠れたって無駄よ」
森の入口で足を止めたキャスターが、さらに魔法陣を展開した。
―――今だ。
木陰から身を乗り出し、切嗣はトンプソン・コンテンダーを構える。
装填されているのは起源弾ではない。通常弾だ。
ただし、ただの一発ではない。魔術による強化を施した高火力弾。
狙うのは、攻撃体勢を整える前の一瞬。
引き金が引かれる。
轟音と共に放たれた一撃は木々の隙間を裂き、一直線にキャスターの胸元へ突き刺さった。
「ぐっ……!」
キャスターの身体が大きく揺らぐ。
展開しかけていた魔法陣が崩れ、紫の光が霧散した。
どうやら、まともに入ったらしい
だが、それで終わりではない。
今の一撃には神秘がない。サーヴァントを仕留めるには至らず、せいぜい一瞬動きを止めるのが限界だ。
そして次は、もう同じ手は通じない。
銃という武器の脅威を理解した以上、キャスターは次の一撃を必ず魔術で防いでくる。
―――いや、そうしてくれなければ困る。
切嗣はわずかに目を細める。
相手が銃弾を防ぐために魔術を使う、その瞬間こそが唯一の好機。
起源弾を“防がせる”ことさえできれば、魔術回路ごと叩き潰せる。
「……油断していたわ。思ったより痛いじゃない」
胸元を押さえながら、キャスターがゆっくりと体勢を立て直す。
その声に苦悶はあっても、致命傷を負った気配はない。
「でも、そんな攻撃で私を倒せないことくらい、分かっているんでしょう?」
「…………」
切嗣は答えない。
「それとも、誰かお仲間が来るまでの時間稼ぎかしら?」
キャスターが再び魔法陣を展開する。
今度は一つではない。攻撃用とは別に、いくつもの術式が彼女の周囲へ浮かび上がる。
おそらくは迎撃、あるいは自動防御の類。
―――かかった。
切嗣は無言のまま、トンプソン・コンテンダーに起源弾を装填する。
指先に伝わる感触は、冷たい確信そのものだった。
「今度こそ、あなたの身体を引き裂いてあげるわ!」
魔法陣に魔力が奔る。
切嗣もまた、銃口をまっすぐキャスターへ向けた。
互いに必殺の間合いへ踏み込んだ、その瞬間。
「何をしている、キャスター」
「なっ……!」
聞こえた声に、キャスターの表情が凍りつく。
「そ、宗一郎様!?」