だからお前はエースになれって言ってんだろうが! 作:Aっていうよりクローバーの2
今だ錬成お守りガチャが終わらないんで、やることはあるんですよ。最近ネフィ◯ムアームに業鎧が付きました。逆恨みレベル下がりましたけど。
技術系は適当です。なんかあったらマグヌスニキの如く笑って許してください。
楊舜臣は、青道と薬師の試合を観に球場へ来ていた。秋に向けての練習は大事だが、それはそれとして身体を休める時間も必要だ。なら、他校のプレーを見た方が今後のためになる。
もちろん、自分達が負けた相手の結果が気になるというのもあるが。
まだ序盤だが、試合経過は青道が勝っている。が、試合が落ち着かない。打撃戦というより荒れたゲームそのものに対しては、守備力に劣る薬師の方が慣れている。また打撃面では、今回一番バッターで、本来はクリーンナップに座る轟雷市の破壊力は都内トップレベル。そこだけは青道を上回るかもしれない。
現状は青道有利、しかし薬師が食う可能性も十分ありうる。
(……負けてくれるなよ。青道)
どこが勝っても負けた自分達には関係ないというのに、自分達に勝った相手が一番強くあって欲しい、そんな幼稚な感情に楊は鼻を鳴らしてしまった。
「お隣、良いですか?」
それはそれとして、自分ならどうやって轟を抑えるか考えていた楊に声がかかる。
女の声だった。少し驚きながら声がした方に振り向こうとして、想定外の肌色が目に入ってきて、一瞬思考が停止した。
「あ、あぁ……構わない」
強靭な意思の力で目線を上に動かすと、なんと呼ぶのか分からないがスカートとショートパンツを合体させた様なものを履いている。太陽光を反射する健康的な太ももが眩しい。上は水色ベースのTシャツに実用性重視の大きめのショルダーバッグ。
そして帽子を被りつつも、そもそも日焼けをあまり気にしてなさそうな、女のガキ大将がそのまま高校生になったような、そんな少女が立っていた。
「ありがとうございます。では、失礼して」
花の様な、と例えられそうな色気とか清楚さは皆無だったが、人懐っこそうな笑顔だった。これまで野球一筋で、女っ気皆無の高校球児でも、話題を振りたくなるような。
着飾れば駅前でナンパされるような顔をしているのに、んなもんに興味はないと言わんばかりの、男が使うようなゴツいショルダーバッグと、ファッションという言葉とは真反対の野球帽がこれまた良く似合う。
失礼だと思いつつも、運動部の女子マネージャーとも違う、自分達と似た匂いを楊は感じた。勿論、体臭という意味では無い。
割りと初対面から楊の好感度は高めだったが、流石に話し掛けられるほどではない。しばらくは楊も隣も黙って試合を観ていた。
隣が初めて口を開いたのは、薬師のピッチャーが変わって投球練習を始めた時だった。
「うわぁ、出て来た。あー、でもこのタイミングでの登板なら引きずり出したのが正しいか」
「……知っているのですか?」
青道と違って薬師の情報を楊は持っていない。市大三高が上がってくると思っていたからだ。また、現在マウンドに上がった真田という選手は、映像はおろか公式戦の記録もほとんど残っていない。
「別に知ってるわけじゃないですよ? ただ、さっきまでの選手と違って、投げてるボールがピッチャーのボールっぽいなって」
その言葉を聞いて、改めてマウンドを注視する。コントロールは決して良くない、だがボールに勢いがある。詳細は分からないが、最高速はおそらく140キロを越えるだろう。
確かに、仮に素人目でもこれなら分かりやすい。「まあ。そんなものか」と思って試合に集中しなおそうとして。
「いわゆるバネで投げるタイプですね。あのピッチャー。そこそこボールのイメージと噛み合う感じがするから、ちょっと力任せな所があるかもですけど」
想像以上に野球を知っている人間の言葉が聞こえてきた。ギョッとして横を見る。隣の少女は座りつつも、軽く左手を構えてタイミングを計っている。眼光は女子とは思えない程鋭い。
「うん。うん。フォームとボールのイメージは合う。じゃあ、手も足も出ない感じじゃない」
左手が振り切られる。手の甲を意識して立てる、経験者特有の払うような振り方だった。それも相当な。
「青道は打てそうですか?」
「この回は分かりません。でもどこかで捉えると思ってます。そこで点を取れるかですね。あの手の上半身主体のピッチャーって、どこかで乱れるタイミングがあるんですよ。疲労や体温の上昇で、身体の跳ね方が変わる瞬間が」
あまりにスルスル情報が出てくるものだから、何を返して良いか分からなくなる。楊の沈黙をどう捉えたのか、「ごめんなさい。適当なこと言いました」と謝って来た。
そういう訳ではない。訂正する前に相手が口を開く方が早かった。
「明川の楊選手ですよね? 浅いこと言ってお耳汚ししていたのなら、ごめんなさい」
「そんなことは……。何故、自分のことを……」
先程から驚かされっぱなしだった。視覚と聴覚から情報の洪水をワッと浴びせられて戸惑ってばかり。
「実は青道高校で、自分の同級生が出場してたんですよ。だから相手チームのエースである貴方のことは、殊更印象に残ってたんです」
「なるほど。ちなみにその同級生というのは誰……、いえ。どなたですか?」
敬語を使うのはまだ難しい。だが自分が憧れた日本という国らしい細やかさだ。語学留学生として、そこは意識したい。
楊の質問に、少し困ったようで目を泳がせるが、観念したように苦笑した。
「台湾出身なのに、日本語お上手ですね。……栄純です。沢村栄純」
「沢村」
彼の打席は今も鮮明だ。何なら現在進行形で毎晩夢に出てくる。あの時の呼吸、5,6球目からロジンを付けなくなって、克明になっていく血の流れとボールの縫い目。投げる毎に増していく圧迫感。それに反発するように、或いは歓喜するように熱を帯びていく右腕。意地の張り合いなんて柄でもないのに。
そして最後の澄んだ金属音。
個人への恨みや怒りはないが、敗北の味を飲み込めているかというと、それは全く出来ていない。事実、次の言葉が喉の奥から中々出て来ない。
しかし、ベストを尽くせたという事実と納得は確かにあった。
「……沢村くんにはやられました」
「相性が悪かったですね。アイツ馬鹿なんで読み合いも何もなかったでしょう? コントロール良いピッチャーほどペースが分からなくなると思いますよ」
「彼に打撃を教えたのはアナタですね?」
「うぇっ!?」
ゲームは6番キャッチャーの御幸が、インコースのカットボールに詰まらされゲッツーでチェンジ。青道にとってはワンナウト満塁を活かしきれず、何となく嫌な流れ。
当然、薬師の攻撃に入るが、沢村はものともせず、リズムの良いピッチングで薬師打線を凡打で打ち取っていく。天秤はまだ揺らいでいる。
楊が黙っている間に「微妙に詰めが甘いんだよね。のび太くんは」とか、「まだタネが割れてないから打ち取れてるけど……」とボソボソ呟きつつ、口許に手を当てて眺めていた少女が取り乱した。精々同じ指導者から教わったのかと思ったが、動揺を見るに本当にこの少女が教えたようだ。
ただ、楊は驚きつつも、妙にピースがハマる感じがしていた。
「教えたって程でもありませんけどね……。楊さんって私より上級生ですよね? 気を遣ってもらわなくても大丈夫ですよ?」
「自分も敬語を使われるのは苦手だ。……彼は不思議なプレーヤーだ。ピッチングもフィールディングも、どことなく中学生レベルの粗が残っているのに、打撃だけはしっかりとした土台があった。何故打撃だけ?」
「……では遠慮なく。自分は野手なんで。投手のことは投手の方から教わるべきなんでしょ。特に左投手を教えられる人は限られてる。守備もあの緩すぎる関節と動くボールのせいで、内野は出来なくて。外野は上手いフライ打てる人間がいなかった。必然的に私が教えられるのはバッティングしかなくて」
1年生の時は直す所しかなかったから、何から手を付けて良いか分からない状態だったけど。
マウンドの沢村はこの回も0点で抑える。このままいけば次の回には打席が回るはずだ。
「そんなに酷かったのか?」
「なんなら当時はバッティングが一番ひどかった。少年野球やってたとか言って、ティーバッティングで三振したからね」
「それは重症だな」
「そもそも自分がどこ振ってるか分かってない。ボールを最後まで見るを本当に最後まで見る。そのくせ打つ時は頭から動くし、身体を留める軸も無い」
「なんで野球してたんだ……?」
重症どころか、医者が黙って首を振る惨状だった。野球をやってる人間なら、どれか一つでも致命的な悪癖である。それがどうしてああなったのか。
教えた本人が、医者の様に頭が良くなかったのが主な原因だったりする。
ネクストバッターズサークルで、バットを振って準備をしている沢村を見る。
「何言っても分からないなら、身体で覚えるしかないよね? まずは腕以外物理的に拘束して、ひたすら素振りと、ティーバッティングさせた」
「練習というより調教だな……」
「まぁ。今も出来の悪いチワワみたいなヤツだけど。順次動かす所増やしていこうと思ったら、次のステップにいくとすぐ前のこと忘れてさ。結局、私そっくりの動かない……、動けない、か。バッターになっちゃって」
んなことまで似なくていいのに。
前のバッターは内野ゴロに打ち取られ、いよいよ沢村がバッターボックスに入る。
「相手は厄介な投手だが、先程の貴方の発言を聞くにどうにかなりそうに思える。アナタなら何を狙う?」
「んー。狙うっていうより、タイミングが合ったらいくタイプだから素直に直球基準で待つかな。実際に打席に入らないと分からないけど、印象とボールは噛み合ってる。そういう意味では楊さんと似ているかも」
「似ている?」
楊の疑問と同時に金属音。沢村の打った打球はファーストの頭を越えてライト線を転がっていく。
「……ポイントがズレてる。反応の良いファーストなら捕られてた。ビビッてボール半個引き付け損なったな。ヘッドは立ってたから打球はキレなかったけど、あとで説教」
眼を細めて呟く少女。同級生が活躍しているというのに、ニコリともしない。
楊は軽く戦慄した。
〜薬師ベンチ〜
「おいおいおい……! ちょいと面倒なピッチャーだとは思ってたが、バッターとしてはそれ以上かよ」
薬師の監督は思わず悲鳴染みた感嘆の声をあげた。状況は2アウト2塁。真田のボールは内角の厳しい所に投げ込まれたはずだが、軽く打ち返されて、打球はライトのライン際に突き刺さった。
芯で捉えても、いや。芯で捉えれば通常はファールにキレていくコース。それをフェアゾーンに打ち返すというのは相当な高等技術である。やり方は色々言われるが、恐らく身体の回転を止めて、頭を動かさずに上体の肘と肩の柔軟性を活かしてヘッドを引っこ抜くようにして打つタイプ。フォロースイングもヘッドが立ってるから打球に角度が付きやすく、ボールの内側を叩いているからライン際でもボールはキレない。
金属と木製の違いはあれど、それこそプロの3割バッターでも、安定してやれるプレーヤーは果たして何人いるか。
(あれを自力で身に着けたのか? いや。あのスイングに高校生のガキが自力でたどり着くってのは考えづれぇ)
ファーストの三島が「すんません!」と帽子を取っているが、あれは責められない。トップをはじめから作っておいて、脚を引かずに僅かに前方に踏み出すだけのステップ。打球も速かったが、それ以上に異様に
桁外れのスイングスピードを持つ雷市でも、打つタイミングは分かる。だから内野の一歩目のリズムは取れる。
が、あれは初見では分からない。守っている方がタイミングを見失う。三島の反応が遅れるのも無理はない。
理にはかなっている。だが同時に、一人では絶対にたどり着けないフォームだ。
「正しいことは苦しいこと」という言葉があるが、それはバッティングにも言えると雷蔵は思っている。そして、楽なスイングが打てるスイングとは限らない。
脇を締めて構える。頭を動かさない。途中で回転を止める。フォロースイングを成り行きに任せない。相当深いところでバットを振れる人間が近くにいないと教えられない部分だ。なにせ実践できるバッターじゃないと、教わる方が打ちづらくてすぐやめてしまう。
沢村栄純というバッターは才能によって生み出される塑像ではない、凡人という木偶を削り出して現れた彫像に近い。
仏師はただの木偶に仏を見出す。木偶は自身の内にあるものを知らない。仏師が彫って、初めて人に見える形で顕れるのだ。
無銘だ。だが誰かの作品であるのは間違いない。
「バッターの端くれとして、一度話してみてぇもんだな。あんまりのんびりしてると、ポックリ逝っちまう大先輩かもしれねえ」
雷蔵「お前本当に16か? 人生2週目だったりしねえ?」
ある意味一番話は分かるんですよね。指導面でかみ合うのは片岡監督ですけど。