武蔵転生記   作:masasoukoku

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第七十六回 【いいかげんにしなさい!】

カルネ村。

 

 青々とした畑。

 

 新しく建てられた木造の家々。

 

 高く頑丈になった柵。

 

 村中ではゴブリンたちが荷車を押し、人間たちと一緒に働いていた。

 

 その様子を見ながら、ナーベラル・ガンマは思わず足を止める。

 

「……」

 

「前より大きくなってない?」

 

 隣を歩くルプスレギナが得意げに頷く。

 

「ああ。」

 

「アインズ様の命令で、ここをナザリックの支配モデル地区にするっす。」

 

「支配モデル地区?」

 

「そっす。」

 

 ルプスは村を見渡した。

 

「薬草採取の頃とは全然違うっすよ。」

 

「施設も増えたし。」

 

「柵も強化されたし。」

 

「人口もかなり増えたっす。」

 

 ナーベも周囲を見る。

 

 確かに以前とは別の村だ。

 

 活気がある。

 

「へぇ……」

 

 ルプスは続ける。

 

「エ・ランテルや王都から移住者を受け入れてるっす。」

 

「今じゃ辺境の寒村じゃないっすね。」

 

「小都市って感じっす。」

 

 ナーベは静かに頷く。

 

「誰がまとめてるの?」

 

「エっちゃんっす。」

 

「エンリ?」

 

「あの小娘だった人間。」

 

 ナーベは少し驚いた。

 

「あの?」

 

「そっす。」

 

「今じゃゴブリンを率いて村をまとめる指導者。」

 

「みんなからは――」

 

 ルプスは大げさに手を広げる。

 

「エンリ様!」

 

 ナーベは目を丸くする。

 

「……本当に?」

 

「本当っす。」

 

「今じゃ何十ものゴブリンが言うこと聞くっす。」

 

「へぇ……」

 

 以前の、おどおどしていた少女を思い出す。

 

 まるで別人だった。

 

 ルプスはさらににやりと笑う。

 

「それに。」

 

「カルネ村へ移ってきたンフィーレアと毎日ラブラブっす。」

 

 ギヒヒ、と下品な笑いを浮かべる。

 

「朝も昼も夜も。」

 

「夫婦仲最高っす。」

 

 ナーベは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「あなた。」

 

「趣味悪いわね。」

 

「愉悦勢っすから。」

 

 悪びれもしない。

 

 少し歩いたところで。

 

 ルプスは横目でナーベを見る。

 

「そういや。」

 

「ナーベもここで武蔵との新居探すといいかもっすね。」

 

 ぴたり。

 

 ナーベの足が止まる。

 

「…………」

 

「ここ静かで住みやすいっすよ。」

 

「庭付き一戸建て。」

 

「家庭菜園。」

 

「武蔵が山で捕まえた獣を料理して――」

 

「あなたねぇ!!」

 

 ナーベの顔が一瞬で真っ赤になった。

 

「な、何言ってるのよ!」

 

「誰があんな変態と!」

 

「えー。」

 

「この前キスまでしてたっすよ?」

 

「そ、それは……!」

 

「勢いよ!」

 

「勢いでキスする人初めて見たっす。」

 

「うるさい!」

 

 ナーベの怒声が村中に響く。

 

 村人たちが何事かと振り返る。

 

 ルプスは笑いをこらえながら手を振った。

 

「エンちゃーん!」

 

 畑で指示を出していたエンリが振り返る。

 

「あ。」

 

「ルプスさん!」

 

 ぱっと笑顔になる。

 

「お久しぶりです!」

 

「久しぶりっす。」

 

 ルプスは親指で後ろを指した。

 

「今日は仕事で来たっす。」

 

「あと。」

 

「ナーベの恋愛相談も兼ねて――」

 

「兼ねてない!!」

 

 ナーベの拳がルプスの後頭部へ飛ぶ。

【挿絵表示】

 

 

 ゴッ!!

 

「いったぁ!」

 

 エンリはきょとんとした顔で二人を見比べた。

 

「……仲がいいんですね?」

 

「「よくない(っす)!」」

 

 二人の声がきれいに重なり、エンリは思わず苦笑いするのだった

 

-------------------------------------------------------------

カルネ村。

 

 村の広場では、エンリがゴブリンたちに指示を出し終えたところだった。

 

 ルプスレギナは本題を切り出す。

 

「エンちゃん。」

 

「ちょっと聞きたいことがあるっす。」

 

「はい?」

 

「武技。」

 

「武技について知ってる人いないっすか?」

 

「武技?」

 

 エンリは首を傾げる。

 

「そうっす。」

 

「武技を調べてるっす。」

 

「うーん……」

 

腕を組んで考える。

 

「私は農民ですし。」

 

「ンフィーレアも薬師だから詳しくないですね。」

 

 しばらく考え込んでから、ぽんと手を打つ。

 

「あ!」

 

「そういえば!」

 

「新しく村へ来たブリタさん!」

 

 ルプスが反応する。

 

「ブリタ?」

 

「はい。」

 

「エ・ランテルで冒険者をやっていたそうです。」

 

「武技も知ってるかもしれません。」

 

 ルプスはにっと笑う。

 

「ありがとっす。」

 

「助かるっす。」

 

 エンリは少し安心したように笑う。

 

 だが。

 

「あの……」

 

 今度はおずおずとナーベを見る。

 

「なによ。」

 

 ナーベは相変わらずぶっきらぼうだ。

 

「以前……」

 

「ンフィーレアが薬草を採りに行った時。」

 

「漆黒の剣士さんと一緒にいた女の方。」

 

「あなたによく似ているんですけど……」

 

「ご本人ですか?」

 

 ルプスが横で口元を押さえる。

 

(来たっす。)

 

 ナーベは一瞬だけ考え――

 

 何事もない顔で答えた。

 

「ああ。」

 

「あれは私の双子の片割れよ。」

 

「双子……。」

 

 エンリは納得したように頷く。

 

「そうだったんですね。」

 

「すごくお綺麗だったので印象に残っていて。」

 

 ナーベは少しだけ目を逸らす。

 

「……あら。」

 

「そう。」

 

「伝えておくわ。」

 

 口調は素っ気ない。

 

 だが。

 

 ほんの少しだけ口元が緩んでいた。

 

 ルプスはその変化を見逃さない。

 

(褒められて嬉しいんすね。)

 

 にやにや。

 

 にやにや。

 

「ナーちゃん。」

 

「なによ。」

 

「双子の片割れさん。」

 

「今ちょっと嬉しかったっす?」

 

「……。」

 

「別に。」

 

「耳赤いっすよ。」

 

 ぴくっ。

 

 ナーベは無言で振り向く。

 

 ルプスは一歩下がる。

 

「冗談っす。」

 

「本当に冗談っす。」

 

 しかし遅かった。

 

 ゴッ!!

 

「いたぁっ!」

 

 ルプスの頭に拳骨が落ちる。

 

 エンリは慌てて間に入る。

 

「あ、あの、お二人とも!」

 

「喧嘩は……」

 

「してないわ。」

 

「じゃれ合いっす。」

 

 二人は息ぴったりに答えた。

 

 エンリは苦笑しながら思う。

 

(本当に仲がいいんだなあ。)

 

 その勘違いは、ますます深まっていくのだった

 

 

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