カルネ村。
青々とした畑。
新しく建てられた木造の家々。
高く頑丈になった柵。
村中ではゴブリンたちが荷車を押し、人間たちと一緒に働いていた。
その様子を見ながら、ナーベラル・ガンマは思わず足を止める。
「……」
「前より大きくなってない?」
隣を歩くルプスレギナが得意げに頷く。
「ああ。」
「アインズ様の命令で、ここをナザリックの支配モデル地区にするっす。」
「支配モデル地区?」
「そっす。」
ルプスは村を見渡した。
「薬草採取の頃とは全然違うっすよ。」
「施設も増えたし。」
「柵も強化されたし。」
「人口もかなり増えたっす。」
ナーベも周囲を見る。
確かに以前とは別の村だ。
活気がある。
「へぇ……」
ルプスは続ける。
「エ・ランテルや王都から移住者を受け入れてるっす。」
「今じゃ辺境の寒村じゃないっすね。」
「小都市って感じっす。」
ナーベは静かに頷く。
「誰がまとめてるの?」
「エっちゃんっす。」
「エンリ?」
「あの小娘だった人間。」
ナーベは少し驚いた。
「あの?」
「そっす。」
「今じゃゴブリンを率いて村をまとめる指導者。」
「みんなからは――」
ルプスは大げさに手を広げる。
「エンリ様!」
ナーベは目を丸くする。
「……本当に?」
「本当っす。」
「今じゃ何十ものゴブリンが言うこと聞くっす。」
「へぇ……」
以前の、おどおどしていた少女を思い出す。
まるで別人だった。
ルプスはさらににやりと笑う。
「それに。」
「カルネ村へ移ってきたンフィーレアと毎日ラブラブっす。」
ギヒヒ、と下品な笑いを浮かべる。
「朝も昼も夜も。」
「夫婦仲最高っす。」
ナーベは露骨に嫌そうな顔をした。
「あなた。」
「趣味悪いわね。」
「愉悦勢っすから。」
悪びれもしない。
少し歩いたところで。
ルプスは横目でナーベを見る。
「そういや。」
「ナーベもここで武蔵との新居探すといいかもっすね。」
ぴたり。
ナーベの足が止まる。
「…………」
「ここ静かで住みやすいっすよ。」
「庭付き一戸建て。」
「家庭菜園。」
「武蔵が山で捕まえた獣を料理して――」
「あなたねぇ!!」
ナーベの顔が一瞬で真っ赤になった。
「な、何言ってるのよ!」
「誰があんな変態と!」
「えー。」
「この前キスまでしてたっすよ?」
「そ、それは……!」
「勢いよ!」
「勢いでキスする人初めて見たっす。」
「うるさい!」
ナーベの怒声が村中に響く。
村人たちが何事かと振り返る。
ルプスは笑いをこらえながら手を振った。
「エンちゃーん!」
畑で指示を出していたエンリが振り返る。
「あ。」
「ルプスさん!」
ぱっと笑顔になる。
「お久しぶりです!」
「久しぶりっす。」
ルプスは親指で後ろを指した。
「今日は仕事で来たっす。」
「あと。」
「ナーベの恋愛相談も兼ねて――」
「兼ねてない!!」
ナーベの拳がルプスの後頭部へ飛ぶ。
ゴッ!!
「いったぁ!」
エンリはきょとんとした顔で二人を見比べた。
「……仲がいいんですね?」
「「よくない(っす)!」」
二人の声がきれいに重なり、エンリは思わず苦笑いするのだった
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カルネ村。
村の広場では、エンリがゴブリンたちに指示を出し終えたところだった。
ルプスレギナは本題を切り出す。
「エンちゃん。」
「ちょっと聞きたいことがあるっす。」
「はい?」
「武技。」
「武技について知ってる人いないっすか?」
「武技?」
エンリは首を傾げる。
「そうっす。」
「武技を調べてるっす。」
「うーん……」
腕を組んで考える。
「私は農民ですし。」
「ンフィーレアも薬師だから詳しくないですね。」
しばらく考え込んでから、ぽんと手を打つ。
「あ!」
「そういえば!」
「新しく村へ来たブリタさん!」
ルプスが反応する。
「ブリタ?」
「はい。」
「エ・ランテルで冒険者をやっていたそうです。」
「武技も知ってるかもしれません。」
ルプスはにっと笑う。
「ありがとっす。」
「助かるっす。」
エンリは少し安心したように笑う。
だが。
「あの……」
今度はおずおずとナーベを見る。
「なによ。」
ナーベは相変わらずぶっきらぼうだ。
「以前……」
「ンフィーレアが薬草を採りに行った時。」
「漆黒の剣士さんと一緒にいた女の方。」
「あなたによく似ているんですけど……」
「ご本人ですか?」
ルプスが横で口元を押さえる。
(来たっす。)
ナーベは一瞬だけ考え――
何事もない顔で答えた。
「ああ。」
「あれは私の双子の片割れよ。」
「双子……。」
エンリは納得したように頷く。
「そうだったんですね。」
「すごくお綺麗だったので印象に残っていて。」
ナーベは少しだけ目を逸らす。
「……あら。」
「そう。」
「伝えておくわ。」
口調は素っ気ない。
だが。
ほんの少しだけ口元が緩んでいた。
ルプスはその変化を見逃さない。
(褒められて嬉しいんすね。)
にやにや。
にやにや。
「ナーちゃん。」
「なによ。」
「双子の片割れさん。」
「今ちょっと嬉しかったっす?」
「……。」
「別に。」
「耳赤いっすよ。」
ぴくっ。
ナーベは無言で振り向く。
ルプスは一歩下がる。
「冗談っす。」
「本当に冗談っす。」
しかし遅かった。
ゴッ!!
「いたぁっ!」
ルプスの頭に拳骨が落ちる。
エンリは慌てて間に入る。
「あ、あの、お二人とも!」
「喧嘩は……」
「してないわ。」
「じゃれ合いっす。」
二人は息ぴったりに答えた。
エンリは苦笑しながら思う。
(本当に仲がいいんだなあ。)
その勘違いは、ますます深まっていくのだった