※本作は、オリジナル小説『きみが人間と呼ぶなら』のキャラクターが、政府のプロパガンダ計画の一環として、某カルト的人気アクションRPGの世界観を模した舞台を演じるという設定のパロディ・クロスオーバー短編です。原作ゲームを知らなくても一本のコメディとしてお楽しみいただけます


登場人物
・千賀睦月(吸血鬼):この物語の主人公。ゲームに疎い
・山村葉一(人間):千賀を飼い慣らしている人間
・槍教授(吸血鬼):千賀を吸血鬼にした親。父さん
・マリア(故人):父さんの昔の思い人
・出水(人間):父さんに仕える人間
・一宮(人間):政府の人間で、今回の企画の立役者。裏方
・神保(人間):人外を狩る狩人
・氏家(人間):神保の同僚
・アンナ(グーラ):グールの女性。普通に街で暮らす人外
・その他、演出などの皆さん(人間、人外含む)

政府から、人外の存在を世間に馴染ませるためのプロパガンダ舞台(ゲームタイアップ)への出演を命じられた千賀と山村。しかし千賀は原作を全く知らない──

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※本作は、オリジナル小説『きみが人間と呼ぶなら』のキャラクターが、政府のプロパガンダ計画の一環として、某カルト的人気アクションRPGの世界観を模した舞台を演じるという設定のパロディ・クロスオーバー短編です。原作ゲームを知らなくても一本のコメディとしてお楽しみいただけます


登場人物
・千賀睦月(吸血鬼):この物語の主人公。ゲームに疎い
・山村葉一(人間):千賀を飼い慣らしている人間
・会田至門(人間):千賀の当時のゼミの同級生の医者
・槍教授(吸血鬼):千賀を吸血鬼にした親。父さん
・マリア(故人):父さんの昔の思い人
・出水(人間):父さんに仕える人間
・一宮(人間):政府の人間で、今回の企画の立役者。裏方
・神保(人間):人外を狩る狩人
・氏家(人間):神保の同僚
・アンナ(グーラ):グールの女性。普通に街で暮らす人外
・その他、演出などの皆さん(人間、人外含む)

 政府から、人外の存在を世間に馴染ませるためのプロパガンダ舞台(ゲームタイアップ)への出演を命じられた千賀と山村。しかし千賀は原作を全く知らない──


きみが人間と呼ぶなら短編 血源活劇

 

 

「ほぅ、山村葉一を探しているねぇ……確かに、君は正しく、幸運だ」

 

 車椅子の男は、包帯の奥から鋭い眼光を覗かせる。

 

「だが、敢えて君に語るべき法もない、まずはこの契約書にサインを……」

 

 俺ーー千賀睦月は、躊躇いなく何と書かれているか分からない契約書に[千賀睦月]と名前を書いた。

 

「なあに……なにも心配することはない……なにがあっても、悪い夢のようなものさね……」

 

 そこで舞台は暗転した。

 

 

 

 気がつくと、俺は陰気なイングリッシュガーデンの様な場所で目を覚ました。

 

「狩人様……」

 

「山村!」

 

「山村じゃねぇっつってんだろ!」

 

 早速山村がいたので、俺は抱きつこうとしたら頭を引っ叩かれてしまった。

 そこで、今は山村は「人形」であることを思い出した。

 

「ああ、狩人様……俺は人形。この夢にあり、あなたを導くもの」

 

 山村は俺の手を取った。

 温かい手だった。

 

「狩人様、血を求めなさい。私がそれを、あなたの力に変換します。あなたが化け物を狩るのなら、あー、ここにいてやるよ」

 

 山村は途中でセリフが飛んだのか、最後に俺をそう励ましてから「あっち行け」と小さな工房の中を指し示した。

 

「やあ、君が新しい狩人かな。ようこそ、私は……槍。狩人の助言者だ」

 

 部屋の中には、車椅子に座った父さん……槍教授がいた。

 父さんはそのポジションなのか。

 

「君は、ただ、獣を狩ればよい。それが、結局は君の目的に適う。狩人とはそういうものだ。直に慣れるからな」

 

「分かりました、父さん」

 

 俺はそう頷くと、父さんから不思議な形の武器を受け取り、また幕が閉まった。

 

 再び幕が上がると、19世紀の欧州の街並みだろうか、あちこちには棺が置かれた場所を、俺はてくてくと歩いていた。

 山村は俺が普段からこんな武器を持ち歩いていたら、普銃刀法違反と言うだろうか。

 

「うおおおお!!」

 

 俺は突然木箱の裏から出てきた男に刃物で襲いかかられたので、普通に武器を振るった。

 ちょっとびっくりしたので手加減が効かず、男は吹っ飛んで倒れた。

 俺は心の中で小さく謝り、道を進んだ。

 

「ホワイホワイ!!」

 

「ビース! ユーフービース!」

 

「カースドビース」

 

 俺は「ホワイホワイ!!」と言って松明を近づけてくる小汚いおじさんをひょいと避けて進む。

 

 ダァン!

 

 痛みの情報に振り返ると、後ろの山高帽の男が俺を撃ったようだ。

 とりあえず鳩尾に軽く一発入れておき、おじさんを寝かせる。

 

「ディスタウンズフィニッシュ……」

 

 おじさんはその謎の断末魔を残して倒れた。

 俺はよく分からないと頭を捻りながらも先に進む。

 その先には、黒い狼を括り付けて料理するキャンプファイアーの現場があった。

 

「香ばしいね」

 

 俺はそう言って、反対側の階段まで一足で跳んだ。

 そしてまた、舞台が暗転した。

 

 

「千賀さん、色々と言いたいことはありますが……ちゃんと武器使って倒して下さいよ。普通に身体スペックで敵を無視するのもやめてください。困ります」

 

「そうだぞ千賀。あそこは全狩人のトラウマの場なんだからあんなに簡単に突破されたら困る」

 

 舞台袖、俺はこの劇の企画者である一宮と山村に小言をもらっていた。

 山村は見慣れないドレス姿で歩きにくそうにしていたので、次の場所まで抱っこをして連れて行った。

 山村は何か言いたげであったが、何も言わなかった。

 

 

 幕が上がると、そこは墓場だった。

 肉を断つ生々しい音と匂いに、俺は興奮する。

 

「どこもかしこも獣ばかりだ……」

 

 包帯で目を隠した神保が、持ち慣れていない斧から血を払った。

 

「貴様もいずれそうなるのだろう……?」

 

 その言葉と共に、神保は散弾銃をぶっ放して来た。

 散弾銃は嫌いだ、肉にめり込んだ弾の後始末が面倒だからだ。

 俺は早期決戦にしようと、死なない程度に神保をボコって倒した。

 そして幕が閉じた。

 

 

「散弾銃はやめた方がいいかもですね」

 

「だが神父は片手で散弾銃を使うんだ、そこは譲れない」

 

 一宮と山村はピンセットを使いながら、俺に刺さった散弾銃の弾を取り除いてくれている。

 

「千賀、神父は初心者の壁なんだ。ちゃんと変身ギミックも用意していたんだからそこスキップするな」

 

 ちなみに、人間ではない感じの敵は、特殊メイクをするかグールの皆さんにバイト代を払って演じてもらっている。

 

「散弾銃は嫌いなんだ」

 

「じゃあ、まぁ仕方ないか……」

 

 山村は不服そうだったが、手先は細かく動いて弾を取り除いてくれていた。

 

 

 重々しい扉の先には、おどろおどろしい像と静謐な空気を湛える教会が待ち受けていた。

 

 俺は適当にそこを抜け、何となく襲い来る市民をボコりながら先へ先へと進んでいくと、[This town is long abandoned. Hunters not wanted here]つまり、狩人は来て欲しくないと書いてあったので、そこで引き返した。

 とりあえず道が塞がったので、別の道を行くと、扉が待ち構えていた。

 

「えっ、行き止まり?」

 

 俺は困って、しかしよく見ると扉の向こう側のレバーに手を掛ける影が見える。

 一か八かで俺はその影に向かって「扉を開けろ」と催眠をかけると、扉を開けてくれた。

 

「よーし!」

 

 そこでまた、舞台は暗転した。

 

 

「ギミック全無視するな、このバカ!」

 

 俺は山村に殴られた。

 

「山村、どうして……」

 

「あのな。旧市街は普通に警告を無視して行くところだし、あの扉は特殊なアイテムがないと開かないって仕組みなんだよ」

 

「へぇー」

 

 俺は感心した。

 文言を守らない人は結構いるみたいだ。

 

「しかも、あの扉のレバーを握る使者は相当啓蒙が高くないと見えない設定なんだ。分かるか? お前が素直なバケモン過ぎるんだよ」

 

「そう言われても」

 

「もうここまで来たものは仕方ありません。次はボス戦を頑張ってもらいましょう」

 

 一宮は俺達のやり取りを見て、諦めた様にそう言った。

 

 

 大聖堂の扉を開けると、そこには一人の女性がいた。グーラの匂いだったので、人間ではないという役なのだろう。

 その後、大きな犬のような獣となった。

 手には何かキラキラしたものを握り込んでおり、その巨大な手を振り下ろして来たので、俺は渾身のお手を受け止めた。

 

 そのまま、ひょいと彼女を壁まで吹っ飛ばすと、彼女はダウンしたようだ。

 気の毒なことをしてしまったかなと思いつつ、祭壇の方を調べてみると、見知らぬ獣の頭骨があった。

 俺は興味をそそられてそれに触れると、プロジェクターで知らない人達の劇が流れた。

 

 そして場面はまた暗転した。

 

 

「お前は化け物RTAでもやってんのか? あぁ?」

 

 俺は山村に詰められていた。

 

「犬のお手は受け止めるものだ」

 

「犬……?」

 

 一宮は信じられないものを見る目で俺を見る。

 山村は「こいつに何言っても無駄だ」と一宮を宥めた。

 

「とりあえず、次は禁域の森ですね。ここは中々にトラウマになるシーンですが……」

 

 一宮はそう言って俺を見る。

 

「とりあえず、くれぐれもよろしくお願いしますね」

 

 一宮と山村は、俺を舞台袖から追い出した。

 

 

 何か合言葉だと言われたので、適当に出て来た言葉を選ぶと、扉が開いた。

 しかも、扉越しに話しかけていたはずの人が死んでいる。

 不思議だなぁと思いながら、螺旋階段を飛び降りるとその先には月明かりが眩しい森があった。

 

 楽しげな唸り声や、油壺を投げてくる人、時折棘だらけの遊具がこちらに向かってくる日曜日の公園のような楽しい森を散歩していると、古びた邸宅が現れた。

 

「……ああ、君、獣を狩っているんだろう? ありがとう。君たちのお蔭で、私たちは助かってるんだ」

 

「あ、はい」

 

 話を聞いている途中に、俺は適当に襲われてしまった。

 

「それは神秘、きっと狩りの力になる。きっとそうなるとも……」

 

 話を碌に聞けないまま、手元には網目模様のある謎の石が残された。

 

「何だ、これは」

 

 俺はどんな素材かと思って少し力を込めて握ってみたら、割れてしまった。

 誤魔化す様にしてそのままポッケに突っ込む。

 

 禁域の森というテーマパークには、犬もいるし遊んでくれる人もいるし、大砲まであった。

 

「ははは」

 

 俺は笑いながら大砲の弾を弾き返し、大砲を撃っていた刀を持つ男には「危ないぞ」と忠告して首を軽く絞めた。

 

 血肉の匂いがしたので、気になってそのまま屋根に飛び乗ると、頭に包帯を巻いた半裸の男がいた。

 これは、人肉を食する食人種だ。

 食事を邪魔してはいけないと思い、俺はこそこそと別の道を進んだ。

 

 頭陀袋を頭に被せた人がふらふらしていたので、困るだろうと思って袋を取ってあげると、中から絡み合った蛇が飛び出して来た。

 山村がこういうのはゴルゴーンの一種とか呼んでいたかなと思い、蛇同士を結んで頭に縛りつけてあげた。

 頭がどっか行ってしまっては不便だろうからな。

 

 その後は何故か蛇がたくさん出て来た。

 蛇の人は結んでやり、蛇玉は道端の小石のように蹴飛ばして遊んでみた。

 途中、ホタルの舞う池や、巨大な豚さん触れ合いコーナー、ホタルイカの化身などの珍しい動物園のような場所を観光しながら、ついに奥地までやってきた。

 

 今回のボス? は三人組だった。

 

「よっ」

 

 俺は炎を避けながら刀を弾き、足払いを仕掛けてはカバーに来る二人をいなし、新手のスポーツチャンバラのような遊びに付き合った。

 途中、また蛇が出て来たのでとりあえず蹴飛ばしていたら、いつの間にか相手の幻影が消え去って先に道が開けた。

 

 そこでまた、閉幕した。

 

 

「おい! おい!」

 

 山村は言葉にならない文句を俺にぶつけてきた。

 

「山村、俺はテーマパークみたいで楽しかったよ」

 

「啓蒙がカンストしているお前の意見は聞いていない」

 

 山村は俺の襟首を掴みながら、「一宮さん、こいつどうしますか?」と聞いた。

 

「このまま行くしかないでしょうが、一度、教会に帰っていただかないと山村くんルートにはならないんですよね」

 

「本当ですか?」

 

 山村もその言葉に頷いたのだから、それは真実なのだろう。

 俺は来た道を戻って、山村ルートに進むこととした。

 

 

「道に迷った」

 

 どこもかしこもアミューズメントパークになっているのが悪い。

 あちこちにいる人は遊んでくれるし、中にはちょっと強い狩人のような人もいた。

 中でも犬と銃撃が飛び交うエリアは中々緊張感があって楽しかった。

 途中、黒いぼさぼさの髪の女性が奇声を上げながら襲いかかってきた時は普通に驚いて「うわぁ」と突き飛ばしてしまったのは悪い事をしたと思っている。

 

 やっと、元来た道を見つけ、あの教会まで帰って来られたのだが、山村ルートへの行き方が分からない。

 仕方ないので舞台袖の山村を見ると、ちょいちょいと蜘蛛のような化け物を指し示す。

 俺はなるほどと思い、壁に爪を引っ掛けて登り始めると、その化け物は何だか慌てている様だ。

 

「(違う! 掴まれるんだ!)」

 

 俺は山村の抑えた声を聞き、成程と壁から降りて化け物を眺めていた。

 化け物は困った様に、しかし覚悟を決めてなのか、俺を掴み上げてから、握り込む様にした。

 

「だから奴らに呪いの声を。赤子の、ずっと先の赤子まで……」

 

 そこでまた、暗転した。

 

 

「お前な、どんだけ世界観を壊せば気が済むんだよ」

 

 俺の行動の何が気に食わなかったのか、山村はずっと小言を言ってくる。

 

「俺はただ楽しんでいるだけだが」

 

「それが困るんだよ、はぁ……」

 

 山村はもう俺に何かを言う事を諦めた様子だ。

 

「一宮さん。これ本当に宣伝になるんですか?」

 

「……とりあえず、最後までやってみましょう」

 

 そういうことになった。

 

 

 教会を出ると、変に明るい世界だった。

 建物や石が捻れて道となっており、尋常な世界ではないと伺える。

 出来損ないの狼人間の様な存在は俺を見て怯え、血で染められた様なシルクハットを被るのは、大ぶりの武器を構えた歴戦の狩人達であった。

 

「ウオオオ!!」

 

 狩人は叫びながら狼人間に攻撃する。

 俺は狼人間達が気の毒になり、間に割って入った。

 また脇から別の狩人が現れ、俺は素手で武器を受け止めた。

 だが、背後の狼人間達からの攻撃までは止められなかった。

 そこで幕が閉じ、場面が切り替わった。

 

 気がつくと、舞台は最初の山村がいたイングリッシュガーデンに戻って来ていた。

 

「おかえりなさい、狩人様」

 

「山村!」

 

「山村じゃねぇと何度言わせる!」

 

 俺は山村に膝蹴りされた。

 スカートだから分かり辛くて避けられなかったし、山村の愛は受け止めたいからね。

 

「はぁ……いいか、お前は油断して倒れたということだ。ここからリスタートになる。裏手の墓に触ると場面が切り替わるから、そうしてみろ」

 

「分かったよ山村」

 

 そしてまた、俺はあの変に明るい世界に戻って来た。

 

 今度は油断はしない。

 

 俺は狩人から武器を奪うと、倒れた狩人の鳩尾をその武器で穿った。

 もう一人は顎を揺らして脳震盪を起こさせる。

 

「君達に構う気は無い」

 

 俺は狼人間達に背を向け、足早にその場から立ち去った。

 

 戦場から離れていて大分勘が鈍っているなと自分で思う。

 足元を固定式の散弾銃が跳ねていくのを眺めながら、俺は油断なくしなやかに歩みを進める。

 一人、また一人と、タスクは少しずつ片付けていくものだ。

 暗がりは私の敵では無く、隠れているつもりの人間も一人ずつ倒していく。

 

 その先は、血の川が広がっていた。

 幻だとは分かっているが、これが本物だったらどれだけ心躍る環境だろう。

 血で腹を満たす怪異の腹に穴を開けつつ、俺は先へ先へと進んで行った。

 

 皮膚を剥がれた男が、門を叩き続けている。

 俺は哀れと思って、息の根を止めてやった。

 

 更に先は、死体溜まりとなっていた。

 本物だったら蝿で前が見えなくなって、すごい腐臭が漂っていたのかも知れない。

 そこでは、馬面の戦士が我を失い暴れていた。

 

「これは俺からの鎮魂歌だ」

 

 突進を避け、ブレスを躱して、天井からの急降下からも身を翻して距離を取る。

 化け物を前にした狩人はこの様な気持ちであったのかと思いつつ、着実に攻撃を重ねていく。

 一度ダウンを取ったところで、舞台袖を見ると山村が満足そうに頷いている。

 これで良いという確信が生まれ、俺のボルテージは上がって行った。

 

「ああずっと、ずっと側にいてくれたのか……」

 

 そう言って、戦士は剣を抜いた。

 これからは、彼は人として戦おうと言うのか。

 

「望む所だ」

 

 俺は手に持つ鉈を鳴らして、彼の出方を窺った。

 巨大な剣撃を右へ、左へ、範囲攻撃は距離を取り、振り下ろしには鍔迫り合いをする。

 久々の血湧き肉躍る戦いに俺は歓喜した。

 

「ふぅ……」

 

 怪物退治とはこれほどまでに達成感のあるものかと噛み締めながら、俺はすっかり手に馴染んだ鉈を鳴らしていた。

 

「……そして君達は、教会の剣とならん……」

 

 そんな声が響く牢には、白面の男と車椅子の老人がおり、俺は興奮のままに薙ぎ払って進む。

 

 カラン。

 狩人の女性二人も、少し本気で脅してやれば武器を置いて尻餅をついた。

 

 そのまま奥に進むと、突然地面が揺れた。

 謎のオブジェはまさかの昇降機だった。

 

「こんなものは秘密ではない。時計塔のマリアを何とかしてだって、むーちゃん」

 

 襤褸を纏い、壁に凭れて額に指を置く会田は様になっていた。

 

「会田、なぜここに」

 

「むーちゃんが来ないから、来ちゃった」

 

 答えになっていないが、そう言うものかと頷いておいた。

 

「この先は結構大変な場所だから、めげたら山村くんに慰めてもらうんだよ」

 

「分かった」

 

 俺は会田の言う事に素直に頷き、タイル張りの床を踏み締めた。

 

 早速、俺は洗礼に遭った。

 グチャグチャと音を立てながら、頭が肥大した人々が襲いかかってくる。

 苦しみを鎮めてやろうにも、数が多く、その悲鳴が耳に残る。

 

「ウワァァァァァア!!」

 

 すごいスピードで全裸の頭肥大人間が襲いかかってきた時は、つい無言で回れ右をして帰りたくなってしまった。

 

「山村……」

 

 俺は次第に山村が不足してきた。

 部屋を覗くと、肥大した頭だけがべちゃりとあちこちに落ちている。

 

「うわぁ……」

 

 これにはドン引きし、俺は素直に山村の下へと帰った。

 

「お帰りなさい、狩人」

 

「山村!!」

 

「だから山村じゃねぇって」

 

 俺はドレススカートを纏った山村に抱きついた。

 山村は何も言わずにぽんぽんと頭を撫でてくれた。

 

「どうしたんだ」

 

 俺は何が辛かったかを山村に話した。

 

「そりゃ実験棟の梅干しだな」

 

「梅干し?」

 

 あまりにもな単語に俺は耳を疑った。

 

「この前もユーザーイベントがあったはずだぞ。梅干しの収穫祭と言って、皆であの肥大した脳を装備して服を脱ぎ散らかしてボスに突貫するって愉快な祭りだ」

 

「へ?」

 

「あぁ、こちらの話だ。理解しなくていい」

 

「分かった」

 

 時折、山村の話はよく分からない。

 だが、山村の言う事に間違いは無いので、俺は素直に頷いて山村を充電した。

 

「いってきまーす」

 

 俺は墓に手を当てて、再び悪夢に挑んだ。

 

「これは演出、これは演出……」

 

 そう唱えながら、次々と襲い来る梅干し達を倒していく。梅干しと思うと、少しは可愛く思えてくる気がしないでも無い。

 

 そうこうしていると、それっぽい扉を見つけたので適当に壁を伝って扉の前まで行き、開いた。

 

 そこには、いつぞやのホタルイカの化身と梅干し人間を足したような者達がいた。

 手を振り回したり、謎の光を放って攻撃してくるのが危ないので、一人ずつのしていった。

 

 手の中には時計塔の鍵。

 それを使い扉を開けると、薄暗い古びた木造の体育館の様な空間が広がっていた。

 

 俺の中にある私の匂い。

 直感的に、マリアなのだと分かった。

 

 美しい女性だった。

 色白で、長い睫毛が僅かに揺れる。

 俺はしばらくの間、マリアを見つめていた。

 

「死体漁りとは、感心しないな」

 

 マリアは痺れを切らしたように立ち上がった。

 この言葉は、マリアの心臓を保管していた父さんへ向けたものなのか。

 

「秘密は甘いものだ。だからこそ、恐ろしい死が必要なのさ。……愚かな好奇を、忘れるような、ね」

 

 そうして、長さの異なる双刀をそれぞれの手に持ち、俺に襲いかかって来た。

 

 

「あれ、本当のマリアなのか?」

 

「正確には違う」

 

 俺ーー山村葉一の問いに、教授が答えた。

 

「あれは、有り得たかもしれない、吸血鬼のマリアの姿だ」

 

 教授はマリアの姿を食い入るように眺めている。

 

「マリアの心臓の欠片を採取し、ドッペルゲンガーに食わせたのだ。だから、あの強さも、あの容姿も、存在していても何らおかしくはない」

 

「その面でも、ここは悪夢の世界なんだろうな」

 

「違いない」

 

 教授は深く頷いた。

 

 

 楽しい。

 

「はははっ!」

 

 楽しい。

 楽しい!

 

 俺の視界には、マリアしか映っていなかった。

 マリアがステップを踏むと、俺も足を下げる。

 マリアが袈裟斬りにすると、俺は半身を逸らして一撃を入れる。

 ギザギザの刃で切り裂かれるのは痛かろうに、マリアは表情一つ変えない。

 

 俺はマリアと踊り続けていた。

 ダァンと攻撃の瞬間に胸を撃たれて膝をつく。

 マリアは俺を見下ろし、慈愛すら感じられる笑みを浮かべて俺の腹をその細い腕で抉り、触れた。

 耳元で何かを囁かれた。

 

「ブラボ最高! 君もブラボ最高って言いなさいね」

 

 そのままマリアは抱えていた俺を離し、俺は床へと倒れた。

マリアはおまけとばかりに俺を床に串刺しにしようとしたので、咄嗟に転がって避ける。

 腕のバネを利用して蹴りをかましながら、俺は上体を起こした。

 

「ブラボ最高……?」

 

 そう呟くと、舞台袖の山村がサムズアップした。

 これで良いらしい。

 俺は右手に鉈、左手は爪を伸ばしてマリアを迎え撃った。

 

 しかし、楽しい時間は長くは続かなかった。

 俺がマリアを追い詰め、最後の甘美な止めを刺そうとしたその時。

 

「すません、タンマ! 時間切れ!」

 

「千賀止まれ!」

 

 マリアがぐにゃりと別人へと変わり、舞台袖からの山村の声で俺は我に返った。

 

「誰……?」

 

「中の人です。はい、これ討伐報酬」

 

 中の人(?)は、黄金の羅針盤の様なものを俺に渡して、そそくさと舞台袖へと去っていった。

 

「えぇー……」

 

 俺は消化不良の気持ちを抱えながら、[そこで時計盤を掲げろ]という山村のテロップに従って、手に持つ円盤を掲げた。

 すると、大きな時計が動き始めた。

 時間は過去へ、右回りと左回りを巻き直して、時間は罪の原点へと巻き戻る。

 

 時計が噛み合った先は、止まぬ雨が降り続く滅びかけの村であった。

 

「呪う者、呪う者。彼らと共に哭いておくれ」

 

 入り口にいたフードを深く被った人に、俺は萎びた生首を渡された。

これをどうしろと?

 よく分からなかったので、その辺の賽の河原の如く積まれた石塔の前に供えて手を合わせておいた。

 

「……さあ、呪詛を。すべての血の無きものたちよ。我らに耳をすましたまえ……」

 

 フードの人はそのままぶつぶつと呟きながら去って行った。

 何がしたかったのかは分からないが、これで良いだろう。

 

 村の入り口には、吊るされた人間の死体と思しきオブジェがあった。

 この模様、どこかで見た事があるな。

 

「山村の匂い?」

 

 水浸しの村を進んでいくと、生臭い半魚人の匂いに紛れて、山村の匂いがした。

 俺は飛んでくる紫色の玉を避けながら、匂いに導かれるままに井戸底へと身を翻した。

 

 そこには、大型魚人と思しき個体が碇を振り回していた。

 あの腕に掴まれたら一巻の終わりだ。

 俺はヒットアンドアウェイを意識しつつ、ちまちまと攻撃を重ねていく。

 すると、大型魚人はくるりと俺に背を向けたではないか。

 今がチャンスだと思い、その背中に襲いかかったその瞬間、俺は壁に叩きつけられた。

 

「がっ!」

 

 もう一体の大型魚人が、俺に突進を仕掛けて来たのだ。

 掴まれなかったのが不幸中の幸いか。

 一対二は非常に不利だが、と、俺はもう一体の大型魚人を見やる。

 そちらは素手であった。

 つまり、先に倒すべきは体力の減っている碇持ちの方だ。

 視界に二体を入れながら、壁を走り、股を抜けて碇持ちの首に鉈を振り下ろすと、雲散霧消した。

 

 その後は消化試合だった。

 大柄で大振りな攻撃は大変避け易く、苦戦する事も無くもう一体も地に沈めた。

 

「千賀」

 

 すると、どこからともなく山村が現れた。

 

「山村!」

 

「ここでは葉一な」

 

 山村は「頑張ったな」と俺の頭を撫でてくれた。

 

「俺は、お前の中のマリアの良心だったのかもな。マリアはそれを捨ててまで教授と共に歩むことを選んだが、俺はそれを捨てずに千賀と共に歩むと決めたんだ」

 

「つまり……?」

 

「ここでゴールだ、千賀」

 

 そうしてフィナーレが鳴り、俺の冒険は幕を下ろしたのであった。

 

 

「言いたい事はたくさんありますが、まずはお疲れ様でした」

 

 一宮がキャストにペットボトルを配っている。

 俺の分は無いので、とりあえず山村の上からのしかかっておいた。

 

「邪魔」

 

 俺は山村にどかされた。

 

「山村が欲しい」

 

「後にしろ」

 

 山村は俺に容赦が無いが、それは俺に対する信頼の裏返しだと知っている。

 

「反省点だらけですが、裏方の皆様。見事なお仕事をありがとうございます」

 

 人間のキャストに、人間では無いキャスト。

 武器を持った人間と狼人間は人間が演じていたのだが、それ以外の敵は幻であったり、人形であったりした。

 特に大型の敵に関しては、グールのキャストを起用して化けてもらっていた。

 そして、マリアはドッペルゲンガーが演じていた。

 

「そして千賀さん。折角用意していたギミックがたくさんあったのに、殆ど使われずに終わりました。ライブ感を大事にしたいとは思っていましたが、ここまで無視されると怒りすら湧いてきます」

 

「そうだそうだ!」

 

 ドッペルゲンガーの人が一宮の意見に賛同した。

 

「うちも墓場で準備しとったのに、出番があらしまへんどした」

 

 これは氏家の言葉だ。

 

「氏家は特殊なイベントだから、旧市街すら素直にスキップしたこいつが分かる訳ないな」

 

 俺は一拍置いて、山村は俺に何かを言ってくれている事に気付いて「山村〜」と甘えに行ったが、「お前のせいだ、お前のな!」と頭をぐりぐりされてしまった。

 山村は可愛いね。

 

「あたしも城の中で待ってたんだよ」

 

 グーラのアンナさんもそう言ってくれるが、どこをどう行けば城に辿り着くかすら分からない。

 

「私も工房の中でずっと待っていた……」

 

 父さん、槍教授は一度話しかけただけで俺に無視された事を根に持っているみたいだ。

 俺は「ごめんなさい」と素直に謝った。

 父さんの隣にいた出水も「塔の上で待っていました」と言う。

 皆のスタンバイに、俺は応えられなかったらしい。

 

「しかも、エンディングとかではなく落ちた山村君を拾ってエンドってどういう事ですか。ちゃんと遺児を倒して、蜘蛛を倒して、赤い月でって段階踏んで下さいよ! こちとら頑張って準備したんですよ、ねぇ?」

 

「そうだそうだ!」

 

 今度はドッペルゲンガーの人の言葉に山村が同意した。

 そして山村は俺に近づいてきて、ガッと首に腕をかけた。

 

「こいつはこの後血質31.5を三個、形状変化ありマイオプを揃えて千景を完成させるまでゲームから解放しません」

 

「おぉ! それはそれは」

 

 ドッペルゲンガーの人だけが意味が分かった様で、山村に握手を求めている。

 

「私は筋神150なのでzc7が主な棲家です。ところで、イズデブは3eq派なのですが、貴方は?」

 

「俺は正方形nkd派なんだ。だが、墓荒らしの同志がこんなところにいるなんてな」

 

「これもまた、聖杯のお導きよ。私はいつも朝ホストやってますんで、よろよろ」

 

「俺は夜なんだよな。まぁまた簡易君の導きがあれば」

 

 ドッペルゲンガーの人と山村はがっちりと固い握手を交わしていた。

 俺はずるいと思ったので手を伸ばすが、山村に「お前はここに入るには1000時間早い」と手を跳ね除けられてしまった。

 

「それで、請求書の方なんですが」

 

「私が受け取ろう」

 

 ここで名乗りを挙げたのは父さん。

 父さんは、グールや面々から請求書を回収し、

 

「良いもの見せてもらった礼だ」

 

 と一宮に支払いを持つと宣言していた。

 一宮は最も懸念していたお金の問題がある程度片付いたからか、ほっとしている。

 

「皆さん、今回は千賀さん達のご縁で我々政府、狩人、人外の方々と様々な面々が一堂に会することとなりました。解散の前に一言お願いしても良いですか?」

 

 一宮がパンと手を叩いてそう言うと、端から一人ずつ感想を述べていった。

 大体が「良い機会だった」とか「学びになった」とかだった。

 

「色々心残りが多いので、今度は私が主人公でやらせて下さい!」

 

 ドッペルゲンガーの人はそう言っていたが、一宮に「あなたの良さが生かせませんから……」とやんわり断られて膝をついていた。

 

「うちの千賀がご迷惑をお掛けしました」

 

 山村はそう言って頭を下げた。

 俺もつられて頭を下げた。

 

「俺は概ね楽しかったです」

 

 俺はそう感想を言うと、「お前はそうだよな」と山村に叩かれた。

 何も悪い事をしていないのに……解せない。

 

「ありがとうございました、各自連絡先を交換したい方がいればご自由にどうぞ。あと30分くらいでここの会場は閉めてしまいますので、それまでに」

 

 一宮の言葉で、人間のキャスト達は「お疲れっしたー」と次々と控室に帰っていった。

 特殊メイクを落としたりするのだろう。

 魔術師や傀儡師はそれぞれ名刺交換をしている。

 

「ではな」

 

 神保は文句を垂れる氏家を引っ張って帰っていった。

 彼等はどちらかと言うと、化け物を狩る側の人間だからか、馴れ合う気は無いとでも言うのだろうか。

 

「助かりました。神父はやっぱり神保さんしかいないと思っていましたから」

 

「素晴らしい配役。これは10点満点」

 

 山村とドッペルゲンガーの人は去っていく神保の背中にそう声をかけていた。

 神保は手を振って応えた。

 

「で、山村さぁん。俺とpsフレコとディスコとエックスの連絡先交換しましょうや……」

 

「よろしく頼む」

 

「へへへ、私はハンドルネームを『アルフェ』で通していますから。実は墓の前でスタンバっていて、今回は女王の前のあの怪演も準備して来てたんですが。ねぇ?」

 

 そこでまた俺は山村に「こいつのせいです」と叩かれた。

 山村は俺の事を自然に叩き過ぎではないかと思う反面、俺は構ってもらえて何となく嬉しくなった。

 

「じゃ、またあなたに簡易君の導きがあらんことを」

 

 アルフェさんはそう言って楽しそうに去って行った。

 

「一宮さん。今回の収穫は?」

 

「山村君。それがですね、私、吸血鬼がちゃんと映像に映り込まない事をすっかり忘れていたんですが、少し見直したら狩人衣装はばっちりだったので、その点は何も問題はありませんでした」

 

「おぉ」

 

 そういえば、俺はちゃんと鏡や映像等に映らない事を自分でも失念していた。

 カメラが回っていたからそんなものかなとしか思っていなかった。

 

「しかし、千賀さんは途中まで観光気分だし、ギミック無視するし、縦横無尽に動くしで、正直、こちらの狙った映像では無いです。ただ、ボス戦……特にマリア戦はハイスピードカメラで撮影していた事もあり、宣伝資料として十分に活躍してくれそうです」

 

「それはよかった」

 

 山村は一宮と一緒に頷いていたので、俺も頷いておいた。

 

「費用とかは大丈夫なのか」

 

「人外キャスト分は大方槍さんが持って行ってしまったので、後は会場代や皆さんの給与などの諸経費で賄えそうなので、プロジェクトとして足が出る事は無いはずです……元々こんな大掛かりでやるつもりではなかったのですが、いつの間にかキャストも増え、あれよあれよという間に今日がやって来て……」

 

「お疲れ様でした」

 

 山村は一宮の背中を叩いて労っていた。

 俺もやって欲しかったので、隣で背中を見せていたら、山村は本気でバチンと手形をつけた。

 山村が俺にマーキングをしてくれて、俺は嬉しくなった。

 

 

 

 帰宅した俺を待ち受けていたのは、先程まで着ていた様な服が映る画面であった。

 

「やれ。技血150で、ステ振りはこれだ」

 

 山村は数値が書かれた小さなメモを手渡してきた。

 

「お前がちゃんとゲームを進めてくれたら、俺は少しずつお前のお願いを聞いてやるから。気張ってやるんだぞ」

 

「山村!」

 

 俺は嬉しくなってしまったので、少しエネルギーは食うけれども、一週間くらいは徹夜でゲームをする事を心に決めた。

 

 この後、山村は「あんなこと言わなきゃよかった」と後悔し、撮影現場で知り合った演出陣はこっそりグループを発足し、有名なミュージシャンのMVなどの撮影に携わっているそうな。

 

おわり。




山村と千賀の、普段の『人間と吸血鬼の主従関係』を描いた本編『きみが人間と呼ぶなら』は、[小説家になろう]にて公開中です!
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