ひぐらしのなく頃に 時明し編 (圭一×レナ)   作:晃晃

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時明し編(7)事件の謎に迫りましょう

昨日はあれからアルバイトを終えた詩ぃちゃんまで合流して賑やかなことになってしまって、最終的には詩ぃちゃんのマンションに泊めてもらっての大騒ぎ。

 

詩ぃちゃんとはたった一晩でずいぶん仲良くなれて頼もしさを感じる反面、油断のならない双子相手にちょっと身の危険を感じたりもして……なんとも忙しい夜だった。

 

「そうですか、沙都子が……うん、ちょっぴり安心しました。あの子が頑張っている姿、悟史くんに見せてあげたいですね」

 

詩ぃちゃんがそんなことを言って微笑っていたのが印象に残った。……いつだったか魅ぃちゃんと入れ替わって学校に来たときの詩ぃちゃんは沙都子ちゃんに苛立ちをぶつけていたけど、悟史くんがいなくなってからは毎週のように魅ぃちゃんに学校での沙都子ちゃんの様子を知りたがったりしていたらしい。

 

……詩ぃちゃんは悟史くんのことが好きだった。

 

だから、一時は追い詰められた悟史くんを心配して妹の沙都子ちゃんにその原因を求めたこともあったけど、彼が姿を消した今は残された沙都子ちゃんが元気で過ごしているかどうかを気に掛けている。

 

「……それで月に1回くらい様子を見に来てるんだね」

 

私がそう言ったら、一瞬目を丸くした。

 

「ぁ、あははは! 気づいてたんですか、レナさん。お姉と一緒に暮らしてる鬼婆でさえ気づかないってのに」

 

「ときどき、ちょっとだけ魅ぃちゃんの様子がおかしいことがあったから……そういうとき、決まっていつもよりも沙都子ちゃんのほうを気にしてたり、お弁当にカボチャのおかず持ってきたたよね。いつもの魅ぃちゃんとはちょっぴり味付けが違ったりしてたから、へんだなって思ってた」

 

詩ぃちゃんと魅ぃちゃんは顔を見合わせて笑う。

 

「あははは、こりゃとんだ名探偵がいたもんです!」

 

「ほ~んと、凄い凄い、さすがレナだよ!」

 

そんなわけで翌日、遅めの朝ご飯をすませた私たちは詩ぃちゃんの電話を借りて圭一くんの家に連絡を入れた。

 

『……おう、魅音。おはよ』

 

圭一くんの眠そうな声が受話器の向こうから漏れる。

 

「おっはよ~、圭ちゃんっ!」

 

隣で笑いを噛み殺している魅ぃちゃんと詩ぃちゃんを見ながら、魅ぃちゃんの口調を真似てみた。最初に出た圭一くんのお母さんには魅ぃちゃんが話して圭一くんを読んで貰ったから、圭一くんは電話の相手が魅ぃちゃんだと思ってるはずだから……、

 

『あれ、レナか? お袋、魅音だって言ってたのに』

 

驚きで思わず受話器を取り落としそうになった。

 

……なんでわかるんだろ?

 

「う、うん……よくわかったね、圭一くん」

 

『はぁ? 長い付き合いなんだから、声と喋り方でわかるだろ』

 

……えぇっと、夢の中ではともかく、この世界ではまだ一週間の付き合いなんだけどな。

 

「意外だね~、圭ちゃん鈍そうなのに」

 

「電話じゃわかりにくいのに一発で聞き分けちゃうなんて、こりゃ~脈あるんじゃないですかレナさん?」

 

『後ろで声がするな。魅音もそこにいるのか?』

 

「あ、う、うん。魅ぃちゃんに代わるね」

 

最初からの計画どおり、二段構え。

 

詩ぃちゃんに受話器を渡した。

 

「あっははは、案外鋭いじゃ~ん、圭ちゃん。もしかして圭ちゃんってば、声フェチなんじゃないのぉ~?」

 

……凄い。

 

声の調子も表情も、完璧に魅ぃちゃんそのもの。

 

おかしな様子さえ見せなければ、私もこの二人の入れ替わりを見抜くのは無理かもしれない。

 

『…………誰だ? 魅音のほかにも誰かいるのか?』

 

「へっ!?」

 

今度は3人で顔を見合わせる。

 

圭一くんは、詩ぃちゃんが魅ぃちゃんではないと、声だけで見抜いたのだ。どうなってるの……!?

 

『声は似てたけど、明らかに別人だろ。ったく、朝っぱらからみんなで悪戯電話とか、暇な連中だな!』

 

こともなげにそう言う。魅ぃちゃんが受話器をとり、

 

「や、ごめんごめん。びっくりしたよ、いまのっておじさんの双子の妹で詩音って言うんだけど。声とかもそっくりだって言われるのに、よくわかったね?」

 

『だから、俺がお前等の声を聞き違えるわけないだろ。……それより、なんの用だよ。部活か!?』

 

圭一くんの中では、あれはなんでもないことらしい。

 

時々圭一くんはよくわからない特技を見せてくれる。

 

……う~ん、私の声だけを聞き分けてくれたのなら、素直にどきどきできるところだったんだけどな……。

 

すこし残念に思ったけど、魅ぃちゃんは話を進めた。

 

「う~ん、ちょっと違うんだな。えっとさ、圭ちゃんにちょっとばかり相談事があるんだよね。お昼食べてからでいいから、この前のダム現場に来てくれないかな?」

 

あの場所なら人に聞かれる心配はしなくてすむ。

 

図書館では結構神経を使ったから、その点は反省した。

 

『ああ、いいぜ。来るのは魅音とレナか?』

 

思ったとおり、圭一くんは快諾してくれた。

 

「うん、そうだよ」

 

『なら詩音に言っといてくれ。……俺は、絶対にお前を魅音と間違えたりしないってな。じゃあな』

 

言うだけ言って、電話は切れた。

 

すこし、沈黙が降りた。

 

「……えっと、お姉。圭ちゃんって、この前言ってた転校生ですよね。何者なんですか……?」

 

戸惑った様子で言う詩ぃちゃん。

 

「いやぁ、普通だと思うけど……女装が似合ったり声フェチだったり百合に寛容だったり殴られキャラが定着しつつあったり、よくわからない奴かもねぇ」

 

「……それ、全然普通じゃないですって」

 

そうは言っても、私たちにとってもさっきの圭一くんは不可解だった。それに、面識もない詩ぃちゃんに伝言というのもよくわからない。

 

「と、とにかく、私たちも雛見沢に向かわないと」

 

気を取り直して、圭一くんとの待ち合わせに間に合うように動き出すことにした。

 

「……あ、それなら葛西を呼びますよ。自転車も乗せられる車で送るように言いますから」

 

詩ぃちゃんが車を手配してくれることになった。

 

これはありがたい。雛見沢までの上り坂を二人乗りは大変だし、自転車を押して歩いていくと今からじゃぎりぎりになっちゃう。

 

「サンキュ。恩に着るよ、詩音」

 

「そのうち返してもらいますよ、お姉。……あっと、そうだ。なんの相談事か知りませんけど、面白そうなことや沙都子も巻き込まれるようなことなら、いずれは私も一枚噛ませてくださいよ? 私の知らないとこで気がついたら全部終わってた、なんてのはなしですからね?」

 

……姉妹だからなのか、ほかに理由があるのか。

 

魅ぃちゃんと私の抱えている問題が大きいことを見透かしたように、詩ぃちゃんはそう言ってくれた。

 

そうして私たちは葛西さんの運転する車で昼前には園崎本家に到着、軽めの昼食をすませてのんびりダム現場に向かうことができた。

 

ほどなくして圭一くんも現れた。

 

「やっほ~、圭ちゃん!」

 

「お、おはよう、圭一くんっ!」

 

「おう、待たせちまったな。……って、もうおはようの時間じゃないだろ」

 

圭一くんの言うことはもっともだけど、

 

「今日最初に会うんだから、おはようがいいな……」

 

と言ったら、圭一くんは笑った。

 

「ははっ、そうだな。レナらしいな」

 

……やっぱり、どこか深いところで私たちと圭一くんはつながっているのかもしれない。

 

私の夢、魅ぃちゃんの夢、夢か現実かもよくわからない幾千幾万の世界で、私たちはきっと仲間だった。

 

そういうことなんだろう。

 

「そ、それでね。圭一くんに聞いてほしいことがあるの……ちょっと、突拍子もないことかもしれないけど」

 

「あぁ。俺に何ができるかわからないけど、それでいいならいくらでも聞くぜ」

 

やっぱり即答した圭一くんに、私はあの記憶をかいつまんで話し、魅ぃちゃんがところどころ補足する。そしてその未来を現実にしないために、魅ぃちゃんに協力してもらっているんだと話をしめくくった。

 

「なるほど……」

 

ひととおりの話を聞いた圭一くんは、腕組みをしながら深く頷いた。

 

「……つまり、俺が百合っ娘二人をまとめてお持ち帰りすれば、全て丸く収まるってことだな!?」

 

快音一閃。

 

……言うまでもなく、圭一くんは空を舞っていた。

 

「圭一くんは、なにを聞いてたのかな、かなッ!?」

 

ゴミ山に埋まった圭一くんを叱責する。

 

正直、私と魅ぃちゃんの一大決心を返してほしい。

 

ほら、魅ぃちゃんだってすっかり呆れて……、

 

「その手があったかッ!」

 

即座にシャイニングウィザードで吹っ飛ぶ魅ぃちゃん。

 

「魅・ぃ・ちゃ~ん……!?」

 

指を鳴らしながら迫ると、慌てて復活した魅ぃちゃんがわたわたとあとじさって圭一くんの方に逃げる。

 

「あ、レナ、ごめんごめん、つい本音が」

 

……本音なんだ?

 

「じゃなくて、圭ちゃん。冗談はそのくらいにしよう。レナは怒ると洒落にならないから、うん」

 

そう言って魅ぃちゃんが掘り出した圭一くんは、へんな方向に曲がっていた首を両手でぐきりと直した。

 

「……死ぬかと思ったが、とりあえず話はわかった」

 

真面目な顔ではあるけど、底の抜けたバケツを頭にかぶっているのがちょっぴりかぁいい。

 

「とりあえず、どのくらいの猶予があるかが問題だな」

 

「……っていうと?」

 

「梨花ちゃんとか、その富竹さんとか鷹野さんって人が殺される時期。それにガス災害の起こる時期。それは、レナの夢の中でそうだったってだけで、必ずしもその日までは安全ってわけじゃないんだろ?」

 

う~ん、どうだろ。梨花ちゃんの死がオヤシロさまの祟りとは関係ないのであれば、確かに日付に意味はない。

 

「……でも、富竹さんが死んじゃうのと鷹野さんが行方不明になるのは、その日でないと意味がないんだよ」

 

考えてみれば、これはこの話を考えるうえでの大事な前提条件だ。転校してきたばかりで村にいい印象しか持っていない圭一くんに聞かせるにはすこし躊躇う内容だけど、話しておくべきだと思った。

 

雛見沢村連続怪死事件、通称オヤシロさまの祟り。

 

圭一くんに、この村で数年にわたり起きている連続怪死事件について説明する。二人の死はその一環として行われている可能性が高いことを含めて。

 

「ん~……そのへんも、すこし考え直してみる余地はありそうだけど、とりあえず梨花ちゃんの死とガス災害、この二つについてはいつでも起こりうるって前提で、考えたほうがいいんだろうな」

 

……うん。それは賛成。

 

夢で見た通りの日に起こると思って油断していたら突然ガス災害で村が全滅、なんていうのは確かに遠慮したい結末かもしれない。

 

「まず、俺はそのガス災害ってのがよくわからない。噴火ならともかくさ、ガスだけがあふれて人里が全滅なんてあり得るものなのか?」

 

とりあえず、起きたが最後みんなが死んでしまいかねないガス災害について意見を交わすことについては、私も魅ぃちゃんも異存はなかった。

 

「それについては、図書館で関係ありそうな本を借りてきたんだけどさ……うちらじゃよくわかんなくてね」

 

魅ぃちゃんの差し出した何冊かの専門書を受け取った圭一くんは、しばらく目次と内容をいったりきたりしながら拾い読みしていた。

 

「ん~……、結局のところ、日本のどこだろうと可能性としては起こり得るってことみたいだな。これじゃ、村を避難させるような説得力はない」

 

ため息まじりにそう言う。

 

……勉強の得意な圭一くんは、私たちと違って本の読み方というものを心得ているらしかった。

 

「え~、それじゃどうするのさ?」

 

魅ぃちゃんが不満の声をあげる。

 

「もっと具体的な証拠を見つけだす……って言うのは簡単だけど、俺たちは専門家でもなんでもないからな。たとえば俺だったら……そうだな、災害を捏造する」

 

「ね、捏造!?」

 

穏やかじゃない言葉だった。

 

「ああ、偽装でもなんでもいい。別に、ガス災害にこだわる必要だってないんだ。村にいては危険だっていう状況さえ作り出せれば、避難させる口実にはなる。たとえば……この辺なら、山火事あたりがいいかな。いくつか発火装置を仕掛けて大規模な山火事を起こして、村を避難させるってのはどうだ?」

 

……すごい発想だ。

 

圭一くんを仲間に加えることの利点は、明らかにこの二つ。一つは、都会でレベルの高い勉強をしていた分だけ私たちよりも学問への親和性があること。もう一つが、彼自身の個性と言える、ダイナミックな発想力だ。

 

常識にとらわれることなく、常人には思いつかないようなアイディアを出す能力は、私にも魅ぃちゃんにも欠けている部分だ。

 

「う~ん、山火事ってのはスマートなやりかたとは言えないけど……それなら、発煙筒とかを大量に用意して、本当にガス災害を演出するって手もあるかな」

 

このへん一帯の山を所有する園崎家の魅ぃちゃんは、本当に山火事を起こされてはかなわないとばかりに折衷案を提案する。

 

「でも、発火装置も発煙筒も、証拠が残りやすいんじゃないかな。かな」

 

私がそのアイディアの問題点を検討して上げていく。

 

「いや、証拠が見つかってあとで怒られようがしょっぴかれようが、結果として村を全滅から救えれば、それでいいんじゃないか? 別にほめてもらいたくてするわけでもないんだからな」

 

圭一くんの意見もわかるけど、それだけではすこし詰めが甘い気がした。

 

「……それはそうだけど、タイミングも問題だよ。避難するのだって何日もってわけにはいかないもん。その間に何も起きなかったら、ただの大規模な悪戯だよ?」

 

私の指摘に、圭一くんはむむむと唸って腕組みしたまま仰向けに転がった。頭のバケツが小さな音をたてる。

 

やっぱり、ガス災害がいつ起きるのかが問題だ。

 

丁寧に記憶をたどれば、夢の中でいつ起きたかはわかるけど……自然災害なら、どれだけタイミングがずれようともそこに理由なんていらない。

 

これは私たちにとって、思ったよりも厄介な話だった。

 

 

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