退学を言い渡された日、俺は人生が終わったと思った。
教室を出ても、誰も追い掛けてこない。
校門を出ても、引き留める声はない。
あれほど長く感じていた学校生活は、拍子抜けするほどあっけなく終わった。
「俺って、こんなもんだったのか」
その言葉だけが頭の中を何度も繰り返した。
実家へ戻ってもしばらくは何もする気が起きなかった。
ゲームをして、寝て、起きる。
そんな毎日を過ごしているうちに、親父から一冊の参考書を机に置かれた。
「このままでいいのか」
それだけだった。
説教でも怒鳴り声でもない。
だからこそ胸に刺さった。
俺は少しずつ机に向かうようになった。
誰かを見返したいわけじゃない。
ただ、あの日で人生が終わったと認めたくなかった。
何とか高校を卒業し、公務員試験を受けた。
最初は落ちた。
二回目も駄目だった。
三回目でようやく合格通知を手にしたとき、自分でも信じられなかった。
警察学校は甘くなかった。
体力も規律も勉強も、高校時代の俺には想像もつかない世界だった。
逃げ出したい夜は何度もあった。
それでも辞めなかった。
一度逃げた人間が、また逃げたら本当に終わる気がしたからだ。
警察官になった理由なんて、大したものじゃない。
正義感があったわけでもない。
人を守りたかったわけでもない。
制服を着て、拳銃を持てる。
それくらいの理由で十分だった。
皮肉なことに、仕事は案外性に合っていた。
犯人を追い、事件を解決する。
感謝されることもあった。
「退学した負け犬」だった俺でも、少しくらいは社会の役に立てている。
そう思い始めていた。
だから油断した。
ある事件で、俺は判断を誤った。
重要参考人を取り逃がした。
新聞には小さく記事が載り、署内では責任の押し付け合いが始まった。
失敗したのは俺だ。
でも、全部が俺の責任だったわけでもない。
そんな言い訳に意味はなかった。
数日後、一枚の辞令が机に置かれた。
地方への異動。
表向きは人事交流。
誰が見ても左遷だった。
荷物を段ボールへ詰め終え、ロッカーを閉める。
財布から一枚の写真が滑り落ちた。
制服姿の高校生。
裏には、かすれた字で名前が書いてある。
『山内春樹』
「……まだ持ってたのか」
苦笑して写真をしまう。
あの日、退学になった俺は、人生は努力すればやり直せると思っていた。
違った。
頑張っても失敗する。
真面目に働いても報われない。
結局、社会は学生時代と何も変わっちゃいなかった。
辞令をバッグへしまい、駅へ向かった。
電車のドアが閉まる。
ガタン、と車体が揺れ、ゆっくりとホームを離れていく。
窓の外には、毎日のように見ていた街並みが流れていた。
高層ビルは少しずつ小さくなり、見慣れた景色が遠ざかっていく。
これから赴任する町の名前すら、まだよく知らない。
ガラスに映る自分へ、小さく笑いかけた。
「……世の中クソだな」
あとがき
「山内春樹って足立透に似てない?」
そんな雑談をChatGPT 5.5にしたら、「じゃあ書いてみよう」という流れになって生まれた短編です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。