素人なので違和感があったらゴメン。
――夜。
聖杯を囲む円卓には、九人の「王」が集っていた。
誰もが一国を治め、あるいは世界にその名を刻んだ者たち。
最初に盃を掲げたのは、征服王イスカンダルだった。
「さあ、始めようではないか!」
「この聖杯を前にして語るべきは一つ。――王とは何か!」
豪快な笑みを浮かべ、酒を煽る。
「余は思う。王とは誰よりも大きな夢を見る者だ!」
「民はその夢に憧れ、その背を追い掛ける。だからこそ王は誰よりも欲深く、誰よりも先を目指さねばならん!」
英雄王ギルガメッシュが鼻で笑う。
「夢などという曖昧なものではない。」
「王とは生まれながらにして王である。」
「民も国も財宝も、すべて余の庭だ。王とは支配する者。それ以上でも以下でもない。」
「……違います。」
静かに口を開いたのは騎士王アルトリア。
「王とは民を守る者です。」
「誰よりも前で剣を振るい、誰よりも苦しみを背負い、国のために己を捨てる者。それが王です。」
イスカンダルは大きく笑う。
「だからお前は滅びたのだ、騎士王!」
「王が民に尽くすだけでは、民は王を畏れも憧れもしない!」
「王は誰よりも輝き、誰よりも遠くへ進むからこそ、人は命を懸けてついて来る!」
「夢だけでは国は守れません。」
「理想だけでもな。」
低く響く声。
始皇王・始皇帝だった。
「王とは国家そのもの。」
「民意など不要。法を敷き、秩序を築き、永遠に続く国家を完成させる。」
「それこそが王の責務である。」
アルトリアが問い返す。
「民の心は、どこにあるのですか。」
「秩序の中だ。」
始皇帝は迷わず答えた。
「飢えず、争わず、恐れずに済むならば、それ以上の慈悲は存在しない。」
その静かな応酬を見守っていた魔術王ソロモンが、ゆっくりと盃を置いた。
「皆、それぞれ王として歩んできたのですね。」
その声音には誇りも驕りもない。
「私は少し違います。」
「私は王になりたくて王になったのではありません。」
「神に選ばれ、神に王たることを命じられました。」
その場が静まり返る。
「私には、自ら望む人生というものがありませんでした。」
「王として生き、王として裁き、王として国を治める。それが神から与えられた使命でした。」
ギルガメッシュが目を細める。
「ほう。」
「だから私は考えました。」
「王とは、己のために生きる存在ではない。」
「王とは、人々へ未来を託すために存在する者なのだと。」
「民の幸福のために知恵を尽くし、未来へ繋げる。」
「それが私に許された唯一の生き方でした。」
イスカンダルは腕を組む。
「……自由が無かった、と。」
「ええ。」
ソロモンは微笑む。
「だからこそ、私は最後にすべてを返しました。」
「王も、力も、奇跡も。」
「人は人の力で未来へ進むべきだと信じたからです。」
始皇帝が静かに頷く。
「己を捨ててなお民を選ぶか。」
「それもまた、一つの王道である。」
妖艶な笑い声が響いた。
「随分と立派なお話ですこと。」
毒殺王セミラミスだった。
「けれど、歴史は理想では動かない。」
「玉座に座る者が王。」
「毒でも、謀略でも、裏切りでも構わない。」
「勝者だけが王として歴史に刻まれるのです。」
ギルガメッシュが杯を揺らす。
「結果だけを語るか。」
「当然でしょう?」
セミラミスは妖しく微笑む。
「敗者に王冠はありませんもの。」
その言葉に、失地王ジョンが苦く笑った。
「……敗者、か。」
「歴史とは残酷だ。」
「勝者が正義を書き、敗者は愚王と呼ばれる。」
「余は本当に無能だったのか。」
「それとも、都合よく悪役にされたのか。」
誰も答えない。
沈黙を破ったのは勇者王ベオウルフだった。
「はっはっは!」
「難しいことは分からねぇ!」
「怪物をぶっ倒し、民が笑って酒を飲める!」
「王なんざ、それで十分だろ!」
イスカンダルも笑う。
「違いない!」
最後に、建国王ロムルス=クィリヌスが静かに立ち上がる。
「──ROMA。」
その一言だけで空気が変わる。
「王とは築く者。」
「騎士も。」
「英雄も。」
「征服者も。」
「魔術師も。」
「毒も。」
「勇も。」
「敗北すらも。」
「国家という礎となる。」
ゆっくりと両腕を広げ、神祖は高らかに宣言した。
「ゆえに。」
「すべては――ローマである。」
「「「…………」」」
長い沈黙。
やがてイスカンダルが腹を抱えて笑い出した。
「はははははっ! 最後の最後で全部ローマか!」
ギルガメッシュも愉快そうに杯を掲げる。
「よい!」
「その暴論、嫌いではない!」
アルトリアは額に手を当て、小さくため息をつく。
「……そういう話ではなかったと思うのですが。」
ソロモンは苦笑しながら頷いた。
「ですが、国家を築くという意味では、間違ってはいないのでしょうね。」
ベオウルフは豪快に笑いながら杯を掲げる。
「よし! ローマに乾杯だ!」
九人の王は、それぞれ異なる王道を胸に、静かに盃を交わした。
聖杯はなお沈黙を守り続ける。
どの王道が正しいか。
その答えだけは、最後まで誰にも示されることはなかった。