勇者ヒンメルの死から29年後
一級魔法使い試験の3次試験。
ゼーリエとの面接で不合格を言い渡されたフリーレンは、
思い出したかのように同族の話題を振った。
「そういえば彼生きてたみたいだね。
魔族を操るエルフの話が劇になってたよ」
「……なぜそれをわたしに言う」
「ゼーリエは彼と知り合いなんでしょ?」
「フランメから聞いたか。
おしゃべりな奴め」
さっさと不合格を言い渡して帰そうと思っていたゼーリエだが、思い直した。
この情緒が育っていない小娘も巻き込んでやろうと。
今となっては自分しか知らない罪の真実を。
「そうだな、念のためお前には話しておくか」
「念のため?」
「ああ、やつの罪は言いふらすものではないが、
忘れていいものでもないからな」
罪と聞いて頭に疑問符が浮かぶフリーレン。
1000年以上も魔族と戦っている男の罪とはなんだろう。
余程のことじゃなければ帳消しじゃないかな、と。
「フリーレン、おまえは魔族がどうやって生まれたか知ってるか?」
「魔物が言葉を話して人間をおびき出したのが最初でしょ?」
1000年も前にフランメから聞いた話だ。
今でも教養のある人にとっては一番有力な説である。
「ああ、有名な話だ。
では魔物は?どうやって生まれた?」
「どうやってって……、そりゃあ何かから進化したとか」
「魔物は死んだら魔素となって散る。
そんなものがどうやって誕生したのか」
「じゃあ女神さまが」
「魔物に女神の祝福があると?」
「……」
確かに、とフリーレンは思った。
人間にもエルフにも女神の魔法を使える者は存在するが、
魔族では聞いたことがない。
「あらゆる生物は最初は魔力で目を強化しても分からない程の小さな生き物だったという説がある。
そこから環境に適応し、進化して今の形になったらしい。
女神の魔法が使える人類は女神が作り出したと言われているが、
他と同じく獣から進化したという説もある。
正解は分からない。それこそ女神に会って聞きでもしないとな。
だが魔物に関してははっきり分かっている」
ゼーリエは語りだす。
自らが知る魔族誕生の真実を。
「奴らは進化したのではない。
最初から存在したわけでもない。
エルフに作られたのだ」
「……え?」
フリーレンの思考が停止する。
これは、聞いてもいい話なのか?
だがゼーリエは続ける。
「はるか昔、エルフは他種族からの防衛策として獣を召喚する魔法を作った。
今の魔物の元となった存在だ」
召喚獣と呼ばれていたな。
と、ゼーリエは言った。
「当然魔法で生み出したわけだから飯も食わんし繁殖もしない。
あくまでただの兵器だ。
魔法使いであるエルフには前衛が必要だからな」
私も当然使える。
ゼーリエはそう言って5mほどのある熊のような獣を召喚した。
フリーレンの目には、それが魔物にしか見えなかった。
「それが必要なくらい人同士の争いは多かった。
魔物がいないからな。
エルフは魔法で、人間は知恵と数で、ドワーフは腕力で、
すぐに食物連鎖の頂点に立った」
そうなると後は限られた資源の奪い合いさ。
と、ゼーリエは笑う。
皮肉を込めて。
「当然、防衛しきれず争いに負け、
奴隷として飼われるエルフも存在した。
それを解放して回っていたのがエルロンド率いる集団だった」
ゼーリエが首の横をなでる。
何かを思い出すかのように。
「それで終わっていればよかった」
「……まさか」
「察しが良いな」
ゼーリエはニヤリと笑う。
「あいつは元は研究者であったが故か、根本的解決を求めた。
戦争を、いや人同士の争い自体を無くす方法を。
そこでやつは考えた。
人類同士が争うのは外敵がいないからだと。
脅威となる存在がいれば一致団結して戦うはずだと。
そうして生み出したのが自生し繁殖する召喚獣、魔物だ」
魔族を操る魔法が使えるのも当然だ、奴が生みの親なのだから、
そう言うゼーリエを前にフリーレンは茫然と立ち尽くす。
「生み出した当初は実際にそうなった。
人の敵である為に人を狙う本能があったからな。
しつこく狙ってくる強い上に殺しても食えない獣。
脅威だったさ。
だが、すぐに人類はそれを克服した。
数十年で魔物のほとんどが駆逐され、自衛のために大きくなった集団は国家となり、
争いは規模を大きくしていった」
ゼーリエが熊の召喚獣を魔法で攻撃した。
塵に帰った。
「そうして人が再び争い始めた100年ほど後、
言葉を話す魔物が観測された。
今から5000年ほど前のことだ」
「……長生きだね」
「ああ。
知ったのならもっと敬え」
かろうじて軽口を叩くフリーレンに返すゼーリエ。
心なしかすっきりしたような顔をしている。
「このことを知る人類は私とお前以外に存在しない。
多分な」
話は終わりだと言わんばかりに背を向けるゼーリエ。
衝撃的すぎる事実に立ち尽くすフリーレン。
過去の色々な出来事が脳裏をよぎる。
自分の村のこと。
フランメのこと。
魔王のこと。
ヒンメルのこと。
こんなとき、ヒンメルだったら何と言うのだろう。
「お前はやつをどう思う?」
「……あまりに軽率で独善的だったね。
最初の思いはどうであれ、彼は人類の戦犯だ。
どの時代、どの国の法律でも処刑が妥当だよ」
「そうだな」
ゼーリエは自らの掌を眺める。
恐らく、彼女にはそれができた。
ゼーリエなら魔族の父であるエルロンドを処刑できたはずだ。
「ゼーリエは彼のことをどう思ってるの?」
「……さあな」
ゼーリエはそれだけ呟いて、背を向けたまま座り込んだ。
帰れ、ということだ。
フリーレンはもっと問いただしたいが、
これ以上何も教えてくれないだろうと分かった。
故に部屋を後にした。
フリーレンが去った数秒後、ゼーリエはポツリと呟いた。
「顔くらい見せんか、薄情者め」
完結です。
主人公は魔族を狩り続けます。
完全にいなくなるまで。
まあシュラハトさんが彼を殺さなかった時点で……ではありますが。
それはそれとしてゼーリエがピンチになったら現れるかも?
主人公とゼーリエの関係はタグ通りです。