普通のヴィランが一人の少女を助けるだけのお話

1 / 1
エリちゃんが好き。それだけ。


前編

 若頭には失望した。

 つい先日、私は私の所属する組織である「死穢八斎會」の若頭が幼女を分解・修復して"個性"を破壊する薬を使っている事を知った

 きっかけは、若頭…治崎廻に呼ばれ、名も知らぬヒーローのもとへその幼女…エリを迎えに行った事だ。

 

 

 

「………識飼(しきがい)。お前今暇か?」

「暇ですよ。どうかされましたか?」

 

 識飼不見(しきがいふみ)。それが私の名前である。両親は子供の頃家が火事になった事で他界。ボロボロになっていた所を治崎の前の組織のボスに助けられ、そのまま死穢八斎會の人間として生きて来た。年齢は16歳。本来なら高校に通っている年齢である。

 

「急用ができた。お前の"個性"が要るかもしれない。本来ならバレたくなかったが……まぁ仕方ない」

「……?」

「外に出る準備をしろ。一刻を争う事態だ。組の命運がかかってる」

 

 やけに焦っているような仕草で、私に早くしろと急かしてくる。私の"個性"は《認識不可》。私と私の触れた物、生物を完全に「見えなく」する。それだけでなく、出る音や起こる影響も認識できなくする事ができる。ただし効果時間が非常に短い。人数や対象とする物が増えれば増えるほど頭痛がして短くなる。ただそれだけの"個性"。

 しかしヴィランともなるとその価値は非常に高い。私の存在を知っているのは組の中でもごく僅かで、それこそ幹部のような人しか知らない。もちろんヒーローや警察も知らない。

 

「いいか、お前は決して人の前に顔を出すな。フードを被って行動しろ。基本的に路地裏で待機して、外に出る時は"個性"を使え」

「了解です」

「行くぞ」

 

 治崎について行って、外へ出る。フードをなるべく深くかぶり、顔を隠す。私自身の見た目はどこにでもいるような普通の少女だが、この世界には"個性"を他界でもしない限り全く同じ人間の顔は存在しない。似た顔なら私のように沢山いるのだろうが。それだけだ。

 

 

 

「……見つけた。お前はここで待機しろ。子供を連れて来たらそいつごと全員に"個性"を発動するんだ。いいな」

「はい。子供ですね」

「ああ、じゃあ行ってくる」

 

 そう言って、治崎は路地裏から出ていく。少し覗いてみる。

 すると、そこには二人のヒーローらしき青年と、包帯だらけの角の生えた少女が居た。何故あんなに包帯を巻いているんだろうか?というか、あの少女が治崎の言っていた「組の命運がかかってる」子なのだろうか?

 そんな事を考えていると、治崎が少女を連れて路地裏に入って来た。

 

「……頼む」

「分かりました。この子ちょっと抱っこしますね」

「……!」

 

 何故か怖がられた。いやこれは……私が怖がられている、と言うのもあるがどちらかと言うと……自分か?

 

「あー、それはやめといた方が……いや、もしかしたらお前の"個性"のデメリットを消せるかもしれない…か?」

 

 何やら治崎が独り言を呟いているが、まぁ関係ない。二人と自分に"個性"を発動し、「見えなく」なる。後ろに人の気配がした気がしたが、先程のヒーローだろうか?

 この"個性"を使った時、デメリットとして頭痛がするだけでなく自分の感覚…「認識」さえも少し疎かになってしまうのだが…よく分からないな。「認識」が疎かになっている状態ではじっくりとものを考えるというのができない。全くと言っていいほどできない。だから考えても結論は出ないのだろう。それが悪いこととは思わない。時には結論を出さない方が幸せなこともある。たまに、ずっとこの状態であればいいと思うから。

 

「……君、名前は?」

「……ぁ」

「……壊理(エリ)だ」

「なるほど、エリちゃんか。エリちゃんは好きな食べ物とかあるのかな?」

「………リンゴ」

「そっか、リンゴか。じゃあ今度お姉さんがリンゴ買って来てあげようね」

「……本当?」

「うん、勿論本当だよ。若頭、いいですよね?」

「……好きにしろ。というかそうだな…お前にはエリの世話係を任せようか。下っ端に適当に任せるよりかはよっぽど信頼できる。それに"個性"を使っていれば消える心配もない」

「これでも10年以上組に居るわけですからね」

 

 時折会話を交わしつつ、組へと戻る。今何か消えるとか言っていたような気がするが、きっと気のせいだろう。

 

 

 そういえば、今日はずっと頭痛がしない。調子がいいのかもしれないな。

 

 

 

「…つまり、若頭はこの子を無理矢理薬にして売り捌いていると、そう言うわけですね?」

「言い方に棘があるな……だがまあそう言うことだ。またこうして外に出られちゃ敵わん。さっきも言ったがエリの"個性"に現状対抗できるのがお前しかいない。だからお前が世話係になってくれ。これも組の存続の為だ。理解してくれ」

「…………はい」

 

 組に戻った後、寝たエリちゃんを見守っていると治崎からエリちゃんについて教えられた。

 エリちゃんの"個性"は《巻き戻し》といって、物の時間を「戻す」事ができるらしい。治崎はそれを利用して、"個性"を破壊する薬とその血清をヒーローとヴィランにそれぞれ売り付け組を再建しようとしているという。

 

 ───失望した。

 元から何かを望んでいる訳ではなかったが、前の組長には恩があった為に、心底失望した。

 

「まぁ、とにかくよろしく頼む」

 

 そしてこの瞬間、私は決意した。

 エリを攫ってどこかへとっとと逃げてしまおう───と。




好評なら続くかも。私のゆるゆるの基準で。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。