白薔薇家の秘蔵っ子   作:八田里

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7話 こっち見んな、とは言いたいけど言えません

 ごきげんよう。

 現在私は二年の先輩方に囲まれています。

 

 「この子がねぇ。」

 「小っちゃいなー、何センチ?」

 「お菓子食べる?」

 

 いつものように聖様の分のお弁当も持って外に行こうとしたところ、先輩方に遭遇してしまったのだ。「ごきげんよう」と会釈して通り過ぎようとしたものの、「待って」と引き留められたらか弱い一年生は従うしかない。オープンスペースのようなところで5人の先輩方に囲まれていた。

 

 赤い髪が珍しいのか頭を撫でられたり、頬をもみもみされたり、女子校の生徒は距離が近いというのは本当のようだった。流石に顔を触られるのはイヤだったので、掴んで離そうすると「手も小っちゃい」と逆にその手をとられてニギニギされてしまう。だぁ!やめろ!

 

 「ねえ、抱っこしてみてもいい?」

 そのうちの一人がワキワキさせながら近づいてきたので、「おことわりします!」と叫んで逃げた。

 もうどうなってもいいや。

 嫌がることをするほうが悪い。イーだ。

 

 走って薔薇の館に行くと、既に聖様が待っていた。他にも薔薇様方以外のメンバーが揃っていた。今日は軽い会議をするとかでお昼だよ、全員集合!らしい。

 

 「おー、今日は遅いじゃん。」

 「色々とあったんですよ。」

 

 何割かは聖様が原因でね。お弁当を渡すと、聖様は嬉しそうに包みをひろげて、蓋を開けた。あとお弁当代は週末にまとめて払うシステムになった。毎回、小銭を用意するのも受け取るのも面倒だしね。

 

 「今日は和食か。」

 「聖。あなたそんなにお腹が空いているの?」

 早速お弁当の蓋をあける聖さまを蓉子さまが窘める。 

 

 「見るだけだよ。まだ食べないって。」

 「わっ。ちょっと聖様!」

 「ふふふ。よいではないか。よいではないか。」

 聖様が私を膝の上に座らせて、後ろから抱きしめてくる。祥子に助けてくれるように目で訴えるけど、礼儀に厳しい彼女も関わりたくないようで無視された。令はずっとお外をみている。この場で唯一のクラスメイトなのに。

 

 あ、そう令と祥子の呼び捨て事件。しっかり確認しました。恥ずかしがりながら「祥子」と呼び捨てにする令が可愛かったです。私も便乗して呼び捨てにしました。

 

 「シャンプー変えた?」

 「嗅がないでください!」

 「いつもと違う匂いがする。」

 スンスン匂いを嗅いでいた聖さまがガッツリ髪に顔を埋めてくる。まさか、さっきの先輩方の匂いのこと?どんな嗅覚をしているんだよ(戦慄)。

 

 「やめてください。」

 「もうちょっとだけ。」

 聖さまだから許すけど、他の人なら怒るからな。

 そこんとこわかったうえでやってる? 

 

 「そろそろ薔薇様が来ますから降ろしてください。」

 「なら、ロザリオを受け取ってよ。」

 いつの間に懐から取り出したのか、ロザリオを眼前に突きつけられる。

 

 「いい加減、受け取ってあげたら?」

 黄薔薇のつぼみが退屈そうに言う。最初は面白そうにしていたけれど、いい加減同じパターンに飽きたのだろう。

 

 「お断りします。」

 「何でよ。令に聞いたけど親しい上級生は他にいないんでしょ。」

 「なぜそれを。」

 チラッと令をみるとダラダラ汗を流していた。敵は身内にいた。おのれ、そういうとこだぞ。由乃ちゃんに「へた令」とか言われるのは。

 

 「わからないですよ。令とは同じクラスですけど四六時中一緒にいるわけではないですし。」

 胸を張って強がってみる。聖様の膝の上のままだからイマイチしまらないけれど。さっきだって上級生のお姉さま方に可愛がられたんだからな(なお逃走)。

 

 「は?」

 「ピッ」

 底冷えする「は?」をいただきました。怖い、怖いよ。前で組まれていた手に徐々に力がはいっているよ。腹筋のない柔らかいお腹にめり込んでいるよ。

 

 「誰?名前を言ってごらん。」

 「え、えっと。」

 「言えないの?まさか本当にいるの?」

 「苛めるのはそこまでにしなさい。」

 

 見かねた蓉子さまが助け船をだしてくれるも、聖さまの追及は止まらない。ヒョイと身体の向きを変えられて向かい合う体制になる。いくら丈が長いとはいえ、スカートで膝の上に跨がるのって色々ヤバいと思うんですけど。

 

 「ただ知りたいだけよ。ねえ、モーディ。」

 「聖さま、近い、近いです。」

 「姉妹なら当然の距離よ。」

 「だから姉妹じゃないですよね!?」

 ぐぐっと腰を引き寄せるから、腕を突っ張って踏ん張る。やめろぉ、健全なリリアン生はこんなことしない。ここをどこだと思っている。マリア様のお庭だぞ。

 

 「あらあら、聖が闇落ちしている。」

 「お姉さま。あ、モーディ!」

 

 ヒーローは遅れてやってくる。

 我らが白薔薇様が部屋にはいってきた。弛んだ腕から脱け出して、祥子の後ろに隠れる。なんだかんだ聖さまに甘い蓉子さまや白薔薇のつぼみの妹にと援護射撃する薔薇様方と違って、祥子は聖さまに負けないし守ってくれる。

 

 令?

 彼女は自分の身を守るので精一杯だから(目反らし)。

 

 「そろそろ観念したら?そうしたら白薔薇のつぼみも落ち着くと思うわよ。」 

 「本当にそう思う?」

 「さあ、どうかしら?」

 乱れたタイを直してくれる。紅薔薇さまといい、蓉子さまといい、紅薔薇に連なる人は世話好きなのだろうか?

 

 「祥子にとられた。」

 「なら、取り返せばいいでしょ。」

 「そうですね、お姉さま。」

 両手をひろげて「おいでー」と近づいてくる聖様は怖い。顔のよさでカバーできないほど怪しい。祥子の制服をキュッと掴むと、さりげなく前に立ってくれた。

 

 「桜は、私の隣に座らせます。」

 「さすが祥子さま!格好いい!」

 私の言葉にふふんと髪をかきあげる祥子はマジ祥子さま。

 反対に聖さまは悪役みたい。

 

 「おのれ祥子。モーディーを独占して。」

 三下の台詞っぽいですよ。聖様。

 

 「さてと、今日の議題は学園祭にむけての出し物ね。本格的に始まるのは二学期にはいってからだけど、早くから始めて損はないでしょう。」

 「異議なし。」

 「さっさと始めてしまいましょう。」

 

 全員が揃って会議が始まる。なお、私がいることに誰も疑問を口にしない。着々と外堀が埋められている現実にタイムリミットがすぐそこまで迫っていることを示されている気がする。

 

 「今年は何をしましょうかね。」 

 原作だと確か手話劇だったか。とくに案もないので黙っている。

 

 「赤毛のアンはどう?」

 「いいわね。」

 「ちっともよくないです。」

 油断も隙もない。今、チラっと私のこと(正確には髪)を見ていたの気づいていましたからね。

 

 「いくらなんでも山百合会以外の生徒を主役に据えるのはよくないわ。」

 「私も紅薔薇様と同じ意見です。」

 紅薔薇様と紅薔薇の蕾が反対する。さすが優等生の紅。もちろん他の薔薇様方も本気で提案したわけではないと思うけど、ノリのよさで進めてしまうことが無きにしも非ずってことに最近気づいた。

 

 此処の人たちって総じて基本のスペックが高い。だから普通の人なら尻込みすることでも、やってのけてしまう。もちろん、その分の労力とか各所の伝達とか増えるのだけど、本当に高校生かと疑いたくなる処理能力で企画を進めていく。

 

 ほら、私がぼんやりしている間に文化祭の出し物が決まった。

 内容はもちろん手話劇。

 題材は「白雪姫」に決まった。

 

 ところで、薔薇様方。

 私はあくまでお手伝いですからね。

 そこら辺考慮してくださいね。

 

 王子役は満場一致で聖さまに決まった。

 令も名前が挙がったけど、黄薔薇の蕾が反対したので取り下げられた。

 

 「さて、お姫様役はどうしましょうか。」

 「蕾から選ぶなら蓉子ちゃんか江利子ちゃんなのだけど。」

 いやー、お相手がミスパーフェクトの蓉子さまか、才女の江利子さまって贅沢ですね。両手に高嶺の華なんてそうそうあることではないですからね。

 

 だから、聖様。

 こっちを見ないでくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書館の前にひとりの少女が立っていた。

 

 ふわふわの髪に青い瞳の西洋人形のような女の子。

 通り過ぎる生徒は天使のような美少女が誰を待っているのかと噂する。

 

 しかし、その少女は周りの反応を気にせず、ただ高等部の校舎を眺めていた。




 ここまでよんでくださりありがとうございました・
 これで一章は終わりです。
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