金持ち大学生「どうしたん? 大丈夫? 話きこか?」 作:あばなたらたやた
真我は小さく首を傾げた。
「珍しい組み合わせ……なのかな? 二人は仲良かった?」
無言。
真我は静かに席に誘導すると、睦と燈は並んで歩いてくる。多くを語り合うわけでもないのに、不思議と歩幅だけは綺麗に揃っていた。
二人の様子を見比べ、真我は小さく笑みをこぼす。
「二人とも、待ち合わせをしたわけではないんですよね?」
燈が静かに頷く。
「……うん。RiNGへ向かう途中で偶然。それで、一緒に」
「そうですか、それはそれは。睦さんは約束してたからわかりますが、燈さんは何故? 予定とかあったでしょう?」
「……」
席に着くなり、燈が睦をちらりと見て、また言葉を詰まらせた。
「えっと……その……」
真我が続きを促すように待つと、燈は少し考えてから小さく呟いた。
「なんとなく……話したくて。でも一人だとできなくて。でも睦ちゃんがいたから…………」
「燈さんはもともと私と話したかった……のかな? それで途中で睦さんに会えたから、一人で来るより安心して、二人できた、みたいな流れですか?」
燈はほっとしたようにうなずいた。
今度は、睦がぽつりと口を開く。
「燈は……道で止まってた」
「止まってた?」
「うん」
それだけ言って黙り込む睦。
真我が「その続きは?」と視線で促すと、睦は少し考えてから、再び真我へと視線を向けた。
何も言わなかったので、真我は予測を話す
「燈さんがRiNGへ入るのに少し立ち止まっていたとか? 話しかけに行くのは緊張していて、みたいな」
睦は静かにうなずいた。
燈は少し恥ずかしそうに視線を落とす。
「だから睦さんは一緒にきた、と。優しいですね、睦さんは」
睦は視線を逸らす。それに燈は睦に頭を下げた。
「ありがとう、睦ちゃん」
「……うん」
燈が小さく笑う。
そのやり取りを見つめながら、真我のは優しく微笑んだ。
「フィーリングで会話してるんだね、二人は。それで話が通じるのはなかなかスリリングだ」
その言葉に、燈と睦が揃って首をかしげる。
あまりにも息ぴったりの動作に、真我は思わず吹き出した。
「そこまで息ぴったり?」
「……?」
「……?」
二人の疑問符が重なり、真我も小さく笑う。
(二人は言葉より先に空気を共有するタイプなのかな。だから会話というより、『感覚の確認』に近いのかも)
真我は穏やかな口調で言う。
「燈さんは気持ちを言葉にするのが苦手で、睦さんは考えを説明するのが苦手。苦手なものは違いますが、お互いに無理をしないから、一緒にいて疲れない。なるほど、相性良さそうだ」
燈と睦は少し考えてから、小さくうなずいた。
「……うん」
「……そうかも」
短い返事と確かな沈黙。少し会話が落ち着いた頃、睦は静かに真我に視線を向けながら、言った。
「燈は人間じゃない。だから人間になりたいって」
「おぅっ!?」
「???????」
真我は頭の中で整理する。
『人間にではない。だから人間になりたい』というのは言葉通りの意味ではないだろう。何かしらの比喩表現の可能性が高い。
肉体的ではないなら精神的なものだろう。
わかりやすい精神的な特徴として高松燈はコミュニケーションが上手い方ではない。それは技術そのものというより、自らの価値観を表に出すことへの恐怖や、マジョリティとは違う部分があるから言動が一致せず、疎外感や戸惑いを覚えることは想像できる。
つまり睦の言った言葉は『自分と周りの価値観が一致せず、人が当たり前にやっていることができなくて、そのズレが苦しくて、周りの人間みたいに自分もなりたい』という言葉が込められている、と真我は推測する。
「燈さん」
「……うん」
「人間になりたい、というお話は本当ですか?」
燈はわずかに肩を震わせ、小さくうなずく。
「……はい」
「今も、その気持ちはありますか」
沈黙のなか、燈は膝の上でそっと手を重ね、ゆっくりと言葉を探した。
「……ある。私は……みんなと……違う、から」
「違う、と感じるんですね」
「……うん」
ぽつり、ぽつりと断片的な言葉が零れ落ちていく。
「ダンゴムシを見て……いいって思う。でも、他のものが好きな子でも、ダンゴムシは嫌いだった。私は……ダンゴムシいいと思った」
「他のものが好きでも、好きなもの全てが同じではなかった」
「ドラマを見ても……みんな泣いてた。卒業式も……泣いてた。寂しいって言ってた。でも私は……その涙を集めておけたらって。だから泣けなかった」
燈は小さく首を横に振った。
「みんなが大事だって思うものが……わからない。私が大事だって思うものも……わかってもらえない。だから……私……人間じゃないのかなって」
静かな空間に、重たい沈黙が落ちる。
真我は否定も慰めもしなかった。少し間を置いてから、穏やかに口を開く。
「確かに、燈さんは多くの人と感じ方が少し違う。それは事実です。ズレはあります」
「……」
「ありますけれど。ズレがあることと、悪いことは同じではありません」
燈は困ったように眉を寄せた。
「でも……私がズレてると……迷惑をかける。傷つけたり、困らせたり……だから……」
真我は黙り、最後まで待つ。
「だから、私は人間になりたい。みんなみたいにできたら、もっとちゃんと、同じことで笑えると思うから」
「そうですね。それはそうでしょう」
真我が肯定すると、燈は驚いたように目を見開いた。
「その可能性は高いと思います。価値観が違えば誤解も生まれるし、相手を困らせることもある。自分も困るでしょう。だから、生きづらい」
燈は静かに真我を見つめる。
否定されず、ただ見えている現実をそのまま言葉にされたことで、逆に息を吹き返したかのように目が揺れた。
「だから……燈さんは、『みんなみたいな人間になりたい』と願う」
真我は言葉を重ねる。
「ズレているから苦しい。ズレているから息苦しい。だから、人と同じように笑って、同じように泣いて、同じように喜べたら、もっと楽に生きられる。そう思っている」
「……うん」
「これは想像ですが、そう思うこと自体がズレている、恥ずかしい、あるいは何で自分こうなんだろう、って思ったりしてませんか?」
「…………はい」
それは絞り出すような、けれど長い間抱えてきた偽りのない声だった。
真我は静かに微笑む。
「自分はその願いを、とても美しいと思います」
燈が目を瞬かせた。
「……きれい?」
「はい。燈さんは、人を嫌いになったわけではない。『どうして分かってくれないんだ』と、人を責めたわけでもない。『みんながおかしい』とも言わない」
真我はゆっくりと言葉を置く。
「ただ、自分がそういう人になりたいと、手を伸ばしている。分かり合える人間になりたい。誰かと一緒に泣ける人間になりたい。誰かを理解できる人間になりたい。そう願っている」
「……。」
「その願いは、他者を否定するものでも、悪者にするものでもありません。自分が変わりたいという願いです。だから、美しい、と思います」
店内には、カップの触れ合う音だけが小さく響いていた。
「だから、燈さんのズレは否定されるものではありません。息苦しさはあるでしょう。辛いことも、これから何度もあるでしょう」
だけど、しかし、それでも。
「それは、燈さんが人間からズレた悪い存在だからではありません。ズレた人間ではありますが、悪い存在ではありません。それは事実であるだけです。そしてそのズレた苦しさは、知識と経験で埋めれるものだと、保証しましょう」
燈は長い間、何も言わなかった。
やがて小さく息を吸い、少しだけ目を潤ませながら、まっすぐにうなずく。
「……うん……ありがとう、ございます」
その声はわずかに震えていた。けれどそれは、自分を否定された痛みではない。初めて自分の輪郭をそのまま理解してもらえた、確かな安堵の震えだった。
サブストーリーとして一番交流してほしいキャラは?(メインは祥子と初音
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若葉睦
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椎名立希
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長崎そよ
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高松燈
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野良猫
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祐天寺にゃむ
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八幡海鈴
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モーティス