BGP見た記念に。よくあるとは思うけど、そこはそこ。よかったら読んでってくだせえ。

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102期の妹分概念

 

 もういつのことだったか思い出せはしないけど、今でも脳裡に焼きついている光景がある。

 9色の光の海。ステージの上で舞い踊る9人の少女達。わたしの横で興奮しながらペンラを振る幼かった頃の姉。

 

『ほら、素敵でしょう? ラブライブ! っていうのよ。あの子たちみたいに──私も、ぜったい、優勝してみせるんだから!』

 

『じゃあ、わたしはその瞬間を一番いいところで見てようかな』

 

『ええ、楽しみにしてなさい。幹』

 

 姉の声は確かな情熱を孕んでいて、それがわたしにはとても眩しかった。

 

 …………

 …………

 

「……まさか、20分に満たない乗車時間で寝るとは……。まぁ昨日夜更かししたからねぃ……」

 

 バスの中で寝落ちして、夢を見ていた。

 ……そういえば、こんな頃も確かにあったのだ。

 世界が眩しいもので溢れていると素直に信じることができたあの頃。

 高校生になって世知を知ってしまった今、信じることができないもの。

 後年になって、ラブライブ! はスクールアイドルと呼ばれる高校生(主に)の少女達の大会であることを知った。

 つまりは大会であるということは優勝劣敗の法則が適用されるということで、結果を残したスクールアイドルの裏には当然涙を飲んだ少女達の影が長く伸びていく。

 それを知ってからは、わたしのラブライブ! への熱は姉ほどは高まらなかった。

 だから、スクールアイドルへの知識は世間一般の人ほどではないが知っている……俗に言うにわか程度に落ち着いた。

 

「その程度の熱量のわたしがあの夢を見るということは……。うん、やっぱりお姉ちゃんと関係がないわけないよね。だって行き先が蓮ノ空なんだもん」

 

 ひとりごちる間にもバスはどんどん山の斜面を登っていく。金沢の市街地の北東、卯辰山の山中へ分け入った先に目的地である蓮ノ空女学院があった。

 1世紀を超える歴史を持つ、金沢の名門。芸術に力を入れており、数多くのOGがそちらの方面でご活躍をされている。

 スクールアイドルに関しても、スクールアイドル黎明期に芸学部からスクールアイドルクラブに衣替えをして、一度ラブライブ! でも優勝を果たした北陸でも指折りの強豪としても知られていた。

 ……まぁ、わたしは入学するつもりはなかったけれど。

 堅実に勉強して市内で一番偏差値の高い県立高に入ってある程度潰しが効くような人生設計を考えていたが、あえなく不合格。

 仕方ないので一芸入試で既に受かっていた蓮ノ空に入ってきたというわけだ。

 

「……来てしまったものは、仕方ないか。まーわたしなりにゆるっとやらせていただくとしますかね……」

 

 生ぬるめの決意表明とほぼ同時にバスが学院にたどり着く。

 写真ではなんども見た風景。

 山を切り拓いた広大な敷地に咲く色とりどりの花々。茶色を基調としたクラシックなセーラー服を着て歩く少女達。

 目には鮮やかでまるでここが桃源郷か何かのように思える。

 けれど、わたしは知っている。

 桃源郷の本家本元と同じようにまさにこの蓮ノ空女学院は外界から隔絶された場所。全寮制で規則なんかももりもりで、そして近くにうら若い少女達が遊べるようは場所はないことを。

 姉がいるのもそうだけれど、帰り道に気ままに買い食いすることすらままならないこの環境こそが、わたしが蓮ノ空に行きたくなかった理由だった。

 

 *

 

 つつがなく入学式が終わり、教室でクラスのみんなと顔合わせ。

 わたしとしてはおとなしくモブとして埋没していたかったけれど、自己紹介で自らの名前を明らかにした時にわあっとクラスのみんなに囲まれた。

 わたし自身が特別なことを話したわけではなく、言うまでもなく姉と同じ姓だということがバレたからだ。

 

「さすが、あの人の妹だね。かわいー」

 

「ってことは、幹ちゃんもスクールアイドルアイドルクラブに入るの?」

 

 当人達にとっては悪意はないのだろうけれど、わたしの心はざらつく。

 ……わかってた。蓮ノ空に入ればこうなることぐらい。

 当人は自信なさげにしているけれど、姉が放つ光は眩しい。だからこそ、妹であるわたしを否応なく強く照らし、そして長い影が伸びる。

 

「……みんなが期待しているところ、悪いけどわたしはスクールアイドルクラブには入らないよ。──代わりに軽音楽部に入るよ。一応、一芸入試をギターで入ってきたわけだからね」

 

 そう明言してしまえば、すぐにクラスのみんなは静かになった。

 姉は姉。わたしはわたしだ。

 お願いだから、そこを履き違えないで欲しい。それだけだ。

 

 *

 

 教室でのオリエンテーションが終わると今度は寮に足を向けた。

 学院から寮まではドアトゥドアで10分を切る。これなら割と直前まで寝ていられそうだ。

 寮母さんからは寮の規則の細々を聞いた。一応、外出届を出せば外には出られるらしいが、部活とかのちゃんとした理由がなければ頻繁に外には出られなさそう。それに学院と外界への足がない。週一のスクールバスと一日三、四本の市内循環バスしかないのはあまりに痛い。

 

(多分これ、外出た場合は自力で歩いた方が早い説あるよ、これ)

 

 色々と情報を仕入れた後は自室の荷解きが待ってる。なんだこれ、忙しすぎるでしょ。中学出たばかりの小娘にやらせることじゃないでしょ、こんなの。

 ひいひい言いながら、持ってきた漫画や服やらを箱から開封すること数十分。

 ようやく部屋らしい見た目になってきたのを確認したら、タオルとパジャマを持って部屋を出る。

 割とボロクソにけなしたが、蓮ノ空にもいいところがある。それが大浴場だ。

 なんとここの蓮ノ空の大浴場は小規模ながら天然温泉らしい。少し加水はされているけれど、本物の温泉に毎日入れるのはあまりにも贅沢だろう。

 

「あら、あなたも来ていたのね。幹」

 

 ただ、浮かれ気分でいられたのは長くはなかったらしい。

 ……そりゃあいるよね。それに、相手も学生だ。だから、生活リズムが重なることもあろう。ただ、入学初日には会いたくなかった。

 

「……お姉ちゃん。それに、夕霧先輩」

 

「やあ、みき。げんきにしてた? 

 

 長い紫色の髪をサイドポニーにした物腰柔らかな少女と、赤いメッシュが入った白い髪の長身の少女。

 2人ともただ単に立っているだけで華があり、周囲の生徒の目を引きつけていた。

 普通に出会しただけならぞんざいな対応をしてこの場から逃げ去ればいい。しかし、それを周囲の目線が許さなかった。

 

「お久しぶりです。夕霧先輩とお姉ちゃん。これからお風呂ですか?」

 

「ええ、私達もお風呂をいただくつもりだったけれども。幹もかしら?」

 

「そうだよ。開梱で疲れたから」

 

 ローテンションで話すわたしに対して

「なら、一緒に入りましょうか。互いに積もる話もあるでしょうし」と姉は微笑む。

 どうしようもなく断りにくい流れになってしまって、仕方なくわたしは二人についていくことにした。

 

 *

 

 湯気が立ち込める大浴場。固まった体が温泉に浸かるとじんわりと温まっていく感覚が心地よい。肩まで浸かりながらぼんやりと考え事を続ける。

 

「ねぇ、幹。本当に入らないの?」

 

 不意に姉が口を開いた。

 

「スクールアイドルクラブのこと? もちろん。さっきも言った通り」

 

「そうなの? てっきりみきはそのために蓮ノ空にきたんじゃないかと思ってたけど」

 

 さも当然のように夕霧先輩が言うが、違う。

 

「そもそもわたしの第一志望は蓮ノ空じゃなかったんですよ。一般入試前に一芸入試で受けれたから滑り止めに使っただけです」

 

「滑り止めとはいえ、蓮ノ空の入試は難しいのよ? それで受かるなんて中々だわ」

 

「お姉ちゃんほどではないけど、わたしも楽器は出来るからね。ギターの一芸入試で入ったから、そのまま軽音にでも行こうかなって思ってる」

 

「……そう」

 

「こず、みきにやりたいことがあるならしかたないんじゃないかな? スクールアイドルはやらされるものじゃない。なりたくてなるものだから」

 

 でも、とそこで夕霧先輩は一旦区切る。

 

「……ボクはみきがいないのはすこしさびしい」

 

 そう、手を胸を当てて言う夕霧先輩の姿は見ていて痛々しい。

 実のところ、姉に対しては思うところはある。けれども、夕霧先輩に関してはそうではない。むしろ、少し憧れていた。

 この人は、わたしが心底欲しかったものを持っている。皮肉なことに当人はそれにあまり価値を見出していないようだけれど。

 

「……ごめんなさい、夕霧先輩。わたしはもう」

 

「ボクの方こそごめん、みき。きみを困らせてしまった」

 

 あの後、何が起こったのか朧げながらに分かっているくせに、また夕霧先輩を置いて行こうとする自分が嫌になる。けれど、そうする他なかった。

 

「……わたしは十分に温まりましたので上がりますね。次に会う時はステージを見上げる形になるんですかね? いつかはわからないけれど、楽しみにしてます」

 

 半ば一方的に会話を打ち切って大浴場を出る。

 ……仮に今ここで湧き上がる良心に従ったとしても、今更どの面下げてわたしは戻れるというのだろうか。

 

『こんなのお姉ちゃんじゃない! わたしの憧れたお姉ちゃんを返してよ! ……だったら、わたしはどんな気持ちで今まで……!』

 

 あぁ、ついに思い出してしまったか。嫌な記憶を。

 あの日、わたしは姉を完膚なきまでに否定し、夕霧先輩を置き去りにした。

 あれだけ好きだった蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ102期はもういない。




読んで下さりありがとうございます。
……あとは野生の文豪に託します。

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