鴨ちゃんから誘いがあった、飲まないか? と。坂田君も来るだろうと聞かれたので、銀さんの返事も聞かず頷いた。
それがこんな事になるなんて……。
「なんでてめぇーがここにいる」
「それはこっちの台詞だ。俺は聞いてねぇぞ、コイツがいるなんて」
土方さんと銀さんが睨み合っている。最初にメンチを切ったのが土方さんで、切り返したのが銀さんだ。
ろばた焼きが美味いというお店は、ちょうどかきいれ時で、飲み始めた客で賑わっていた。
「とりあえず、座ろう? 迷惑って知ってる?」
そう言って座らせたのだが、席順が悪かったなと思ったのは後の祭り。
鴨ちゃんの向かいに私が座ったせいで、土方さんと銀さんが向かい合わせで座ってしまった。
座った席でもメンチを切る二人に、メニュー表を渡す。
「何飲む? テキーラ? とりあえず酔いつぶれて転がる?」
「……」
「……」
黙り込んだ後ひそひそと、「あの日か?」「ちげーよ、てめぇがいるからだろ」「喧嘩売ってんのか?」と声が聞こえてきたので、睨みつけておく。
「喧嘩するなら席外して欲しいんだけど?」
せっかく鴨ちゃんが用意してくれた席なのに、大人げない対応しかできない大人は退席願いたい。
そう伝えると、二人ともぴたりと口を閉じてくれた。
「すまない。事前に確認しておけばよかった。土方副長の予定が空いたと聞いたから、急遽誘ったのだが……」
「こちらこそごめんね。楽しく飲めない人間連れてきちゃって」
本当、楽しみにしてたんだよなぁ……。土方さんが事前に来ると聞いてたら銀さんを誘わなかっただろうか。
それはないか。でもなぁー。
「……悪りぃ。少しはしゃぎ過ぎたみてぇだ」
先に口にしたのは銀さん。
「……そ、そうだな。俺もふざけすぎた」
続けて土方さん。
先ほどまで喧々諤々していた二人は、こちらを伺うように謝罪を口にする。
「楽しく飲めそう?」
「あ、ああ」
「も、もちろんだ」
とりあえずは約束してくれたので、無罪放免とする。
「じゃあ、飲もう。私、日本酒で」
俺も、俺もという声で、結局、皆で鴨ちゃんがおすすめだという酒を注文する。
看板メニューの鮎の塩焼きをつまみに、日本酒で口を潤す。
「美味い!」
「お前、ほどほどにしておけよ」
焼き鳥を串から外しながら銀さんが言う。
「分かってますぅー」
「分かってねぇから言ってんだろ。ほれ、食え」
取り皿にモモ肉とネギが乗せられる。
「ありがとう。美味しいね」
「『美味しい』しか言ってねぇじゃねぇか」
「だって全部美味しいんだもん。鴨ちゃんが選ぶお店外れがないね、凄いねぇ」
雰囲気も良いし、お酒だって美味しい。嬉しくもなる。
「そうか、ならよかった」
鴨ちゃんはお猪口を傾けながら、嬉しそうに笑った。
「土方さんとも久しぶりに飲めて嬉しいよ」
「どうも」
土方さんは相槌の代わりにお猪口を少し上げる。
「鴨ちゃんも土方さんを誘ってくれてありがとね」
「そう言ってもらえると助かるよ」
喧嘩をしないのであれば、一緒に飲みたい相手ではあるのだ。
「サラダ食うか?」
「食べる」
銀さんが取り皿にサラダを分けてくれる。
「なぁ、お前らいつもそうなのか?」
「……?」
土方さんがこちらを見てそう言ってきた。
どういうことだろうか。
「いや、いいわ。今ので分かったわ」
「なに? 気になるじゃん」
「……なんつーか。世話、焼かれ慣れてんだなぁと思ってよ。ただそれだけだ」
クイッと酒を飲み干すと、空になった徳利に土方さんは追加の注文を入れる。
世話焼かれ慣れてるか……。確かに?
「ありがとね?」
「……押し付けがましく礼を言うのやめろ」
銀さんは私の礼に対し、ぶっきらぼうに返した。照れているのかもしれない。
「こういう飲み口がスッキリしたのが好きなのか、お前は」
新しく届いた酒を自身のお猪口に注ぎながら土方さんは聞く。
「ああ、軽すぎたかな。重めのが良ければ焼酎でも」
「いや、飲まねぇ種類だが、美味いなと思ってよ。なんだ、空じゃねぇか」
土方さんが、鴨ちゃんに酒をついでいる。
私も差し出せば、ついでにとついでくれた。
「美味しい」
「確かにな」
銀さんもチビリと舐めながら、頷く。
土方さんは懐からマヨネーズを取り出して、こんもりと出汁巻き玉子にかけて食べていた。
味がわかるのだろうか? それを見ながら、そうだと思い出す。
「そう言えばこの前、近藤さんがね」
「あ? 近藤さんがどうしたよ」
「川にお家の鍵落としちゃった子がいたみたいで、泣いてたの。そしたら服が濡れるのも気にしないで、ざぶざぶ川に入っていってさ。その子の鍵探してくれてたの」
「……近藤さんらしいな」
土方さんが小さく笑う。
「でさ、近藤さん鍵見つけたら、自分の宝物みつけたみたいに嬉しそうに笑うから、それがなんか……見てるこっちまで嬉しくなるような顔でさ」
まるで真夏のお日様見たいな顔で「あったぞー」って叫びながら笑うのだ。
泣いてた子も、思わず笑うぐらい、とびっきりの笑顔で。
「あー、ごめん。オチはないんだけどね。なんか近藤さんやっぱり好きだなって思って。それを、土方さんに伝えたくてさ」
「そりゃどうも。けど……そーいうとこも含めて、ウチの大将やってんのがあの人だかんな」
目を細めて、土方さんが口元を上げる。
「なんかさ、たまに頭撫でてくるんだよ、近藤さん。『キリちゃんは偉いなぁー』って。何もしてないんだよ? スーパーでレジ打ちしてたり、迷子の子の面倒見るとか、普通のこと。それをとびっきりの笑顔で褒めるから、照れくさくて」
「確かに、そーいうところあるよな」
「わかる。僕も何度やられたか。いくつだと思ってるのかと聞いたら。『年なんて関係ねぇ』って言うんだろあの人」
思い出すように、土方さんも鴨ちゃんも相槌を打つ。
分厚い手のひらで頭を撫でられると、偉い人間になったような気がして、頑張れちゃうんだよね。
「人たらしってあーいう人のことを言うんだろうね」
人間が集まってくるのも分かる気がした。
決して愉快なことばかりじゃないのに、真選組の結束が硬いのは、そーいうことなのだろうと思う。
「……お前がそれをいうか」
ぼそりと、銀さんが何かをいった。
「なに?」
「なんでもねぇよ」
炙られた枝豆を剥いて口に放り込む。
「炙り枝豆って初めて食べたけど美味しいね」
「確かにな、あまり見かけねぇな。あ、吸っていいか?」
懐からタバコを取り出した土方さんは、思い出したように確認を取る。
銀さんは目線だけで何も言わず、私が「もちろん」と返すと、マヨネーズ型のライターで火を着けた。
吐き出す息から白い煙が昇る。
「煙草って美味しい?」
「さぁな。美味いとか不味いとかで吸ってねぇからな」
そう言いながら、土方さんが咥えた煙草の先端が、ジリジリと赤くなる。
「吸ってみたいって言ったら一本くれる?」
「駄目に決まってんだろ」
「なんでー、ケチ」
「なんでもじゃねぇよ。吸わねぇ方がいいんだよ、こういうのは」
紫煙をゆくらせ、矛盾したことを言っている。
「鴨ちゃんは煙草吸わないよね」
「どうも体質にあわなくてね。吸えた方が良いこともあるんだけどね……」
付き合いとかだろうか。鴨ちゃんは煙草に対してあまり否定的じゃないらしい。
「銀さんは吸ったことある?」
「ん……。ああ、一度だけな。一口でやめた。吸うもんじゃねぇよ」
隣を見上げると、少し間をおいてそういった。急に話を振られたからだろう。
吸ったことはあるんだ。
「なんで?」
「不味いから。あと、口に残んだよ味が」
銀さんは、思い出すように舌を出しながら顔をしかめていた。
口に味が残るんだ。ふーん??
何か引っかかった。
「そいつの言うとおりだ。わざわざ不味いもん口にすることはねぇだろ」
「土方さんは吸うじゃん?」
「俺は美味いとか不味いとかで吸ってねぇからな。いいんだよ」
「屁理屈だなぁ」
慣れると味が分からなくなるのだろう。ニコチンと口寂しさで惰性で吸ってるだけなのだろうと思った。
鴨ちゃんも銀さんもきっと味が分かる側の人間だ。吸い慣れてないから。
ならば私も味の分かる側の人間なのだろうと、思った。
顔をしかめていた銀さんを思い出す。
あんなに顔をしかめるぐらい……。しかめる……ぐらい?
さっき、引っかかったのはここか。
「理屈捏ねたってやらねぇぞ」
土方さんは私が悩んでる理由を、そう捉えたようだ。
「そうじゃなくてさ。銀さん、煙草吸う人とキスしたのかなぁーって」
「ごほっ」
隣で銀さんが盛大にむせた。お絞りを渡すと、手と口元を拭っていた。
「どうしてそうなるよ」
土方さんが目を丸くしてこちらを見ていた。
「一口吸っただけで、あんな身に染みて実感したような顔するかな? って。でも一口しか吸ってないんだよなぁーと。だったら誰かから教えて貰うしかないじゃない? 味を。どうやって? キスしたんじゃないかって」
「なるほどな……」
「キリ君はたまにとんでもないところから、結論を引っ張ってくるな。警察に向いてるよ」
「本当? 真選組に就職できそう?」
感心したような顔で鴨ちゃんがお墨付きをくれた。
「生憎、うちは女人禁制だ」
だが、土方さんには断られてしまった。
残念。
「じゃあさ、代わりに一本……。いや、いいや」
「やけに、あっさり引くな。面白いから、一本ぐらいやろうと思ったんだが」
前言を撤回して土方さんは箱を取り出す。
面白いか、面白くないかでそこ決まるんだ? とは思いつつ。
「だって、味、口に残るんでしょ? しかも不味い」
「……まあな」
土方さんが顔を引きつらせ、銀さんが隣でまたむせてる。
「ちがうよ? お酒、美味しくなくなるでしょう?」
「そういう意味か」
「どういう意味だと思ったの?」
「しらん」
咥えた煙草はまだ長いのに、灰皿に押し付けられて火を消されてしまった。
銀さんを見ると視線を逸らされてしまった。
何も言ってないのに。
「鴨ちゃん、取り皿取って。二枚」
「ああ」
汚れたので、皿を取り替える。
「はい、銀さんの分」
残り一枚を隣に手渡す。
「なんつーか、普通だな」
土方さんは、次の煙草に火をつけてそう言った。
「なにが?」
「もうちょっと、嫉妬とかしねぇのかと思ってよ」
「そうなの? 銀さん」
「俺に振るんじゃねぇよ」
酷く嫌そうな顔をしていた。
自滅とはいえ、可哀想だなという気持ちと、拗ねた姿が可愛いなという気持ちで揺れるが、可哀想に天秤は傾く。
「土方さんだって、ミツバさんに言えない話の一つや二つあるでしょう?」
「ごほっ、ごほっ」
今度は、土方さんが盛大にむせた。
「そーいうことだよ」
銀さんが少し面白そうに笑っていた。
「それにしても君たちは本当に仲がいいんだね」
鴨ちゃんがこちらをみて言った。
「そうかな?」
「少なくとも僕にはそう見えるよ。喧嘩なんてしなさそうだ」
確かに、銀さんと喧嘩らしい喧嘩はした記憶がない。
「鴨ちゃんも、周りと喧嘩しなさそうじゃない」
「喧嘩しないというだけでね、腹は普通に立つさ。坂田君は、キリ君に腹が立つことがあるのかい?」
「しょっちゅうだよ」
「あれ? そんなに?」
「お前が気づいてないだけだろう」
なるほど?
「キリ君は坂田君に腹が立つことはあるのかい?」
「んー。ないかなぁ。なんやかんや言って優しいしね」
腹を立てる理由がないのだ。
そう思うと恵まれているのだろう。
「銀さん腹立つこと多いの?」
「お前、本当に気づいてねぇの?」
「ごめんね? 今度からちゃんと言って欲しい」
「割りと言ってんだけどな。伝わってねぇだけだろ、これ」
呆れたように言われた。そうなの……かな?
言われた記憶が本当にないのだけれど。
「喧嘩にならない訳だ。本当、君たちは面白い」
鴨ちゃんは珍しく腹を抱えて笑ってる。
褒められてると思っていいのかな? まあ、そうしておこう。
「そうやってまとめられんのも、癪に障るけどな。言わんとすることは分かるぜ」
銀さんは深い溜息をついた。
鴨ちゃんと銀さんだけがなんか分かり合ってるようで悔しい。
「鴨ちゃんとも喧嘩しないよ」
「何を張り合ってんだよ、お前は」
銀さんがツッコミを入れる。
「なんだろうね? 鴨ちゃんも優しくて好きって言いたいだけかな?」
「ありがとう。キリ君のそういうところ、僕も好きだよ」
笑いながら「あーおかしい」と言って、鴨ちゃんは目に涙まで浮かべてる。
「銀さんも好きだよ?」
「取って付けたように言うんじゃねぇよ」
土方さんがふっと煙を吐きながら笑う。
「土方さんも好きって言っておくね」
「それこそおまけみたいな言い方だな、おい」
「不満?」
「いや……。なぁ、万事屋、こいつもしかして酔ってるか?」
銀さんが顔を覗き込んでくる。
「あー、だいぶ酔ってるな」
失敬な。ちゃんと酔わない範囲で酔ってますよ。
「酔ってませんー」
「酔っぱらいってのは大概そうなんだよ。水一杯貰えるか?」
通りがかった店員を呼び止め、銀さんは水まで注文している。
「いいじゃないか、どうせ君が送っていくんだろ」
鴨ちゃんが味方してくれる。
「そりゃそうしますけどね。だからといってこれ以上飲ませるのもな」
「個人的には、酔いつぶれるところまで見てみたいんだよ」
「お前、意外と腹黒いだろ」
「今更気付いたのかい?」
鴨ちゃんの言葉に、銀さんは言葉を詰まらせる。
鴨ちゃんが腹黒いのは周知の事実である。それだから、なんだって話だ。
味方をしてくれる今なら、なんだっていい。
「鴨ちゃん、一緒に酔いつぶれよう」
「そうだな、それも面白そうだ」
「おい、土方。お前の部下がとんでもないこと言ってんだが」
「しらねぇよ。就業時刻はとっくに過ぎてんだよ」
届いた水を、一緒に飲んどけと銀さんが押し付けてくる。
「ほどほどって言葉を覚えろよ、そろそろ」
使う気はなかったが、酔い覚ましに魔法を使えればよかった。
永遠に飲んでいたいのだ。
「なんで人は酔ってしまうのか」
「酔うために飲んでんだろ。酔えねぇ酒に価値なんてねぇよ」
銀さんが真理をついてくる。
「確かにな。酔わねぇ酒ってのはジュースだろ。んなの飲んで楽しくもなんともねぇな」
「まぁ、酒とはそういうものだろうな」
土方さんと鴨ちゃんも迎合する。
「でもさ、酔わなかったら、みんなと永遠に飲めるじゃん? 違う?」
なんで皆一斉に視線を逸らすんだろう。
「水、飲んどけ」
水のグラスをほっぺたに押し付けられる。
あえて無視する。今は水より酒の気分だ。
「銀さんはさ、永遠に飲んでたいって思わない?」
「……ただ酒なら幾らでも飲みてぇってそりゃ思うさ」
「そうじゃなくってさ、鴨ちゃんは違う?」
「……そうだな。ただ、そういう訳にもいかないだろう? 現実的には」
「例えばの話でいいんだよ。土方さんは?」
「万事屋、この馬鹿止めろ」
手からお猪口が取り上げられ、水の入ったコップを握らされる。
飲めということらしい。
「まだ飲める」
「分かったから今は水飲んどけ」
銀さんが引いてくれる気配がないので、仕方無しにちびりちびりと水を飲む。
飲み足りないが、フライドポテトが美味いので許すことにする。
「相変わらずだな」
鴨ちゃんは何が相変わらずなのか分からないが、苦笑していた。
水も一緒に飲むことを条件に、銀さんがお酒を許してくれる。
「銀さん優しい。好き」
「酒飲ませてくれるからだろ」
「今はそうだけど、そうじゃなくても好き」
「へいへい」
口こそぶっきらぼうだけど、こちらを見る目は優しく笑っていた。
「随分甘いんだな」
「諦めたんだよ。どうせコイツが飲ませるだろう」
土方さんの言葉に、銀さんは鴨ちゃんを指差しながらそんな捻くれたことをいう。
「君はあまり酔ってないんだな」
「俺まで潰れたらそれこそ地獄だろ。分かってんだよ、これでも」
「ふむ。なら今度は二人で飲まないか? 君が酔いつぶれるところも見てみたい」
「あんた本当に、腹黒いな」
ふわふわとした頭で皆の会話を聞く。凄く楽しい。
鴨ちゃんは人の酔いつぶれるところが見てみたいのかな? きっと違うね。人の本音をみたいのだ。
銀さんの言う「腹黒」という言葉が正しい。
銀さんの本音は……でも、私も見てみたい。
「飲まないから、私も銀さんの酔いつぶれるところ見たい」
「混ざってくんじゃねぇ」
「酷い」
素っ気ない。鴨ちゃんにならいいのかよとヤサグレた気持ちになる。
「うっかり何かを漏らすにしても、他人の方が気楽というものだろう」
「あんたに何か漏らしたらとんでもねぇことになりそうだ。御免被る」
鴨ちゃんの誘いを銀さんは断ることにしたようだ。
結局は、誰も銀さんの本音を聞くことはできないらしい。
「そういや、一回だけあったなお前が酔いつぶれたこと」
「酒の飲み方も分からなかった、昔の話だよ」
土方さんの言葉に、鴨ちゃんは恥ずかしそうにする。
腹黒いけど、自分の失敗は恥ずかしいらしい。
「可愛い」
「君は酔うと全部言葉に出るんだな」
鴨ちゃんは観察するような目つきでこちらを見る。
確かに。するっと出てしまっている。
「そうかも」
「普段から全部口に出してると思ってたのだけれど、抑えてたんだな」
「危ないね?」
「ふふっ、確かに、危ないね。君は秘密も多そうだ」
気をつけないといけない。
「楽しいし、美味しいし、みんなとずっと飲んでたい」
「随分と可愛い秘密だ」
「鴨ちゃん好きー」
「僕も好きだよ」
笑うと、笑い返してくれる。
「他所の女口説かないでくれますかー」
口を尖らせながら銀さんが割り込んでくる。
「嫉妬?」
「誰が」
「銀さんも好きだよ」
「へいへい」
銀さんはそう言って、私の頭をくしゃりと撫でた。
嬉しくなる。
「なぁ、お前は、こんな馬鹿まで抱えて怖くなんねぇのか」
唐突に土方さんはそう言った。
「馬鹿じゃないもん」
「馬鹿だろ」
ぶすくれる私をいなして銀さんは少し悩んでいた。
「怖くねぇかと言われたら怖いさ。こいつ馬鹿だし」
「馬鹿っていう方が馬鹿じゃん」
「お前も馬鹿なんだよ」
反論すると、同類扱いされた。
銀さんも馬鹿で、馬鹿仲間なら馬鹿にしたことを許すと思ってるのか。
でもなんだか優しい目をしてるから許してしまう。
「ならなんで……そんな顔してられる」
一方、土方さんは苦虫を噛み潰したような渋い顔をしていた。
「不幸になる可能性を恐れて、手に入る幸せを諦めるのは馬鹿のすることだって、この馬鹿のお陰で気付けただけの話さ」
「なるほどな。なら、てめぇは少しはマシな馬鹿ってことか」
「他人を馬鹿にするやつは、総じて己の馬鹿さ加減に気づいてないだけだ。てめぇも例外じゃねぇぞ」
銀さんはそう言って鼻で笑う。
「鴨ちゃんも馬鹿の仲間に入る?」
「入れてくれるなら光栄だね」
なんだか嬉しくなって笑う。
これで四人とも馬鹿だ。
「お前ら、酔ってんなぁ……」
土方さんが呆れたように呟く。
「土方さんも馬鹿だよ」
「なんで俺まで入ってんだよ」
「だって銀さんが言ってたじゃん。自分が馬鹿だって気づいてないだけだって」
「認めてねぇよ俺は」
人間の評価というのは、他者によって決まるものだということを土方さんはまだ知らないらしい。
だから土方さんも馬鹿だ。
それを伝えれば、呆れたような顔をされた。
「まあ、いいじゃないか。今夜くらい、四人とも馬鹿で」
鴨ちゃんが笑う。
「鴨ちゃんは酔うと話が早いね」
「君も酔ってるからね」
そう言われて、そうかもしれないと思う。
料理も片付き、なんだか終わりだという雰囲気になる。
「楽しかったね」
「ああ」
鴨ちゃんが頷く。
「土方さんも楽しかった?」
「……まあな」
「銀さんは?」
「楽しかったよ」
即答だった。
嬉しくなって、銀さんを見る。
「じゃあ、また飲もうね」
「お前はまず加減を覚えろ」
「覚えたよ」
「全然、信用できないんだが」
呆れたように言いながら、銀さんは笑っている。
鴨ちゃんも、土方さんも笑っていた。
それを見て、また嬉しくなる。
今日はずっと楽しかった。
美味しいお酒を飲んで、美味しいものを食べて、いっぱい笑った。
こんな日が、ずっと続けばいいのになぁと思う。
「ほら、そろそろ帰るぞ」
銀さんに促されて立ち上がる
「いやだぁー」
「いやだじゃねぇの。お前、さっきから同じこと何回言ってると思ってんだ」
「まだ飲めるよ」
「これ以上飲むつもりか」
「二次会、二次会にいこう」
「いいね、行こうか」
「伊東、お前はのってくんな。いかねぇよ。帰るつってんだろ」
手を差し出される。
仕方なくその手を取って立ち上がると、思ったより足元がふわふわしていた。
「あれ?」
「ほら見ろ」
銀さんが呆れたように言いながら、私の腕を支える。
「思ったより酔ってたみたいだね」
鴨ちゃんも立ち上がって、こちらを覗き込む。
「そうみたい。でも楽しかった」
「それならよかった」
鴨ちゃんは笑った。
「また飲もうね」
「ああ。今度は坂田君も、もう少し飲めるといいんだけどね」
「余計なこと言うんじゃねぇよ」
銀さんが嫌そうな顔をする。
「今度は二人で飲んでくれるんじゃないのかい?」
「言ってねぇよ。あんたが勝手に誘ってただけだろ」
「そうだったかな」
「そうだよ」
土方さんが煙草を消しながら笑った。
「まあ、次もあったら呼んでくれや」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ、また皆で飲もうね」
「……機会があればな」
土方さんが少しだけ口元を緩める。
「じゃあね、土方さん。鴨ちゃんも」
「ああ。気をつけて帰るんだよ」
「お前の言葉には信用がねぇんだよ」
「失礼だなぁ」
銀さんは鴨ちゃんへの警戒心を強めたらしい。
「ほら、行くぞ」
銀さんに腕を引かれる。
店を出ると、夜の空気が少し冷たかった。
さっきまであんなに賑やかだったのに、外へ出ると妙に静かに感じる。
「楽しかったなぁ」
「そうだな」
「また飲みたい」
「ほどほどにな」
「うん」
お酒は飲んでも飲まれるな、か。
でもさ、今度は酔いつぶれるまで飲んでみたいと思うんだ。
銀さんも、土方さんも本音を中々言わないから聞いてみたいのだ。
ダラダラ飲んでるだけの話なんですが、楽しかったので今回は土方を加えてまた書いてみました。
やっぱりこういう話は書いていて楽しいですね。
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