次回投稿時に、「R-18タグ」をつけさせて頂きます。
困る方はお手数ですが下記活動報告へ連絡頂けるか、メッセージをください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=344508&uid=81163
玄関の鍵を閉め、誘うように銀さんの腕を引く。部屋の奥でその背中を壁へ押しつけ、唇を重ねた。
合わせた唇から水音が響く。
いつもの日常に淫猥な気配が混じる。
「ぎ……さん」
着流しにすがり付いたまま、身体が揺れた。
背中を撫でる手が気持ちいい。
口の中を銀さんの舌が、探り、かき回し、欲望を暴いていく。
足りない。身体の芯が熱くもっと欲しいと訴えている。首の後ろに手を回し、深く深くキスをする。
「ん……っ」
息は乱れ、全身が沸騰するように熱かった。
ずるずると崩れ落ちる銀さんに、のしかかるようにキスをする。
手が背中を上下に撫でる。それが気持ちよくて喉が鳴る。
「はぁ……はぁ……」
膝立ちで銀さんを見下ろしながら帯を解き、着物を肩から落とす。
銀さんの視線が下がるのが分かった。
「銀さんも」
その声に応えて、銀さんも自身の腰に手をやり、着流しの帯を外す。
そのまま中の上着のチャックに手を掛けたところで――目が覚めた。
「夢……?」
生々しすぎる夢に思わず唇に手を当ててしまう。
ついで、下着の濡れた感触に絶望し、そのまま死にたくなった。
なんで? なんてカマトトぶるつもりはなかった。
『欲求不満』それ以外のなんだというのだろう。
ユングもフロイトも指を差して笑うに違いない。
まだ疼く熱に、顔を覆って布団の中で身を縮こませる。
銀さんとは深いキスを何度か重ねた。
けれど、隠されたところを暴くような接触はされてないし、私自身もそういった触れ方はしていない。
それなのに――なんでまたあんな。着物を落とし、誘うように全身を晒す真似をしたのだろうか。
もっとこう、平和的なものでもよかったのに。
プールで、銀さんに触れてしまったのが駄目だったのだろうか。
掘り起こした『夢の記憶』は酷く淫猥で、認めたくないほど魅力的だった。
変な夢をみたからと仕事を休める訳もなく、準備をし普通に仕事にでかける。
終業間際、買い物に来た銀さんとレジで顔を合わせた。
仕事が終わるまで待ってもらい、一緒に万事屋まで歩いて帰る。
「お惣菜の割引き狙ってきた感じ?」
「それとお前を拾いに」
「へぇ~」
たまに素直になるのやめて欲しい。
レジ袋が夕日に赤く染まっている。
「それにしても今日は暑いな」
そんなことを言いながら銀さんが胸元のチャックをわずかに下ろす。首筋を伝った汗が、開いた胸元へ流れ落ちた。
それを目で追ってしまっている自分に気付き、視線を逸らす。
フラッシュバックする――着物を落とし、誘うように。
「銀さん! コンビニでアイス買おう!」
視線の先にあるコンビニを指さす。
「夕飯前だぞ」
「硬いこといわない。パピコ半分こしよう」
「仕方ねぇな、お前のおごりな」
「なに言ってるの? 割り勘に決まってんじゃん」
まただ――。畳へ銀さんを押し付け、またがっている。
着物は脱ぎ散らかされ、夢中で何度も唇を重ねていた。
指先が銀さんの耳元から首筋、胸を通り、上着の合わせ目を広げていく。
汗の浮く胸をペロリと舐め、嬉しそうにキスをしていた。
「欲求不満すぎやしませんか」
目覚めたところで、見慣れた天井へ向かってぼやく。
さすがに連日ともなれば、自分へ文句の一つも言いたくなる。
窓の外はまだ薄暗く、水でも飲もうかと立ち上がり、台所へ向かう。
結局、眠れないまま仕事へ向かうことになった。
昼間、休憩室でうとうとしたところ、また同じような夢を見る。職場でというのが最悪だった。
さすがにないでしょと、一気に目が覚める。思えばこの時からおかしかったのだ。
万事屋へ電話を入れ、今日は仕事が遅くなると嘘をつき、寄らないことを伝える。
眠かったのもあったし、銀さんに近づきたくなかったのだ。
浅ましく淫猥な己を知られたくなかった。
夢の中で私は一度も銀さんを見ていなかった。何を感じ、何を望んでいるのかも考えず、その身体を使っていた。
いつもより早く床に入った私は、身体の中心に指を這わせた。反対の手で胸の先を触り、気持ちよくなろうと刺激する。
けれど、快感が積み重なるだけで、上手く導くことができない。
「ぎ……んさん」
思わず零した声に、呼応して波打つように快感が高まる。
大きく分厚い手が私の身体を撫で、中心へ太く節くれだった指が伸びてくる。
そんな想像が私を高めて行った。パチンと弾けるような快楽と、汚れた己の手に嫌悪が募る。
けれど、これであんな夢を見ることもないだろうと、身体を整え眠りに落ちた。
夢だ。そう思いたかった。事実そうなのだろう。
裸になった私は、銀さんの手を取り、胸、そして下肢へ導いていた。
自身で導いた銀さんの手に腰を擦り付け、何度も何度も身体を揺らしていた。
むしゃぶりつくように唇を合わせながら、浅ましく
目覚めは最悪だった。自身で解放した筈の性欲が増幅されたような夢だった。
それから連日、何度も似たような夢を見る。解放しても関係ない。むしろ悪化するばかりだ。
眠ることが嫌になった。
CDプレイヤーのイヤホンを耳につっこみ、好きでもないコーヒーを流し込む。
横になると眠ってしまいそうになるため、壁に背を預けて座り、照明を明るくつける。
それでも意識の狭間に夢を見る。徐々に、現実と夢の境が曖昧になっていく。
「仕事だけは」と気力を振り絞ってこなしていたが、それも限界に近かった。
今日はもう帰りなさいと言われたのは、レジ金が合わなくなった日のことだった。
よほど酷い顔をしていたらしい。どうやって帰ったかも分からないまま床に倒れ込む。
もうどうでも良くなってしまう。現実と夢が混じり合い、自分がどちらにいるのかも分からなくなっていた。
背中へ腕を差し入れられ、上体を抱き起こされる。目を開けると、銀さんがいた。ああ、夢かと思った。
手を伸ばし頬に触れ、唇を合わせる。舌をからませしゃぶりつく。温かな熱がじんわりと広がる。
自らの腰に手を伸ばし、帯を解く。最初からこうしていれば良かったのだとすら思った。
快楽のままに全てを明渡し、食べ尽くしてしまえばいい。
ふいに抱きしめられる。
「キリ」
切羽詰まったような声が聞こえた。
「銀……さん?」
「聞こえるか? 分かるか?」
身体が傾き、視界が揺れる。私を抱えたまま、床へ座ったのだろう。
これは現実? はっとして、逃げようと身を
「待て!」
強く抱きしめられ、動きを止められる。
「離して。お願い」
現実だと分からないまま、私は酷いことをしようとしていた。
羞恥と嫌悪から混乱のまま距離を取ろうとする。
「頼むから、落ち着いてくれ」
けれど、銀さんはもがく私に被さるように強く抱きとめる。
腕をつっぱっても緩む気配はない。
徐々に思考が鮮明になる。離してくれなさそうな気配に諦め、小さく謝る。
「ごめん」
「大丈夫か?」
腕の力を緩められ、顔を覗き込まれる。
目が細まり眉が寄っていた。心配しているのだろう。
「どうして? 銀さんが」
「職場に寄ったら、今日は帰したと言われてな。最近、様子おかしかったろ、お前。それで気になって見に来たら鍵も開いてるし、本当に大丈夫か? いや、大丈夫そうなツラしてねぇな」
銀さんの顔が歪んでいた。それだけ酷い状態なのだろう。
そっか、鍵、締め忘れてたのか。
温かい体温に安心して、眠りに落ちそうになる。
「酷い夢を見て……。ごめん離して、眠りそう。眠りたくないんだ。逃げないからお願い」
拘束が弱まった腕から、這いずるように抜け出す。
壁に身体を預けるように座った。
腰紐だけで留まる着物が乱れ、みっともない。ただそれを事務的に処理した。
「夢?」
銀さんは頓着せず、それだけを聞いた。
「そう夢。どうしたらいいか分からなくて、ごめん。心配かけた」
「どんな」
「酷い夢だよ。毎日毎日、おかしくなりそう」
いや、おかしくなりかけてるのか。現に夢と現実の区別がつかなくなっていた。
「同じ夢か?」
「内容は違うけど、似たような夢。振り払っても振り払っても同じ夢をみちゃう」
「お前、ニュースみてねぇのか?」
「ニュース?」
思考が四散する。考えることが億劫だ。
「変な病が流行ってるって。お前のそれだろ」
「びょーきなのこれ? どうりでおかしいと思った」
カクリと意識が一瞬飛ぶ。
「おい!」
「ちゃんと起きてるよごめん。えっとなんだっけ?」
「
びょうき、病気。そうだ、病気の所為だった。
「どうしたら治る? 薬あるの?」
病院に行けばいいのだろうか。
「叶わねぇ願いを抱え込んでる奴がかかる病だとよ。願いを叶えるか、それに近いことをすりゃ治るつってた」
願い? 私があれを願っていた?
「嫌だ。いいよ、このままで。大丈夫」
「大丈夫なわけあるかよ。お前、限界だぞ」
限界だろうとなんだろうと、嫌なのだ。だってあんな酷い。
見せたくない。見られたくない。
「どんな夢なんだ?」
「いわない」
「じゃあ勝手に推測していいか?」
「ダメ!」
嫌だ。涙がぼろぼろと落ちる。感情が制御できない。
言葉の代わりに、何度も首を振って拒絶する。
「分かった。もう聞かねぇから、少し寝ろ。頭回ってないだろ」
「いや」
「無茶苦茶だな」
近づいた銀さんは、親指で頬を伝う涙を拭った。
「側にいてやるから、寝ろ」
「いや」
「何も聞かねぇし、見ねぇよ。それでもダメか?」
「絶対?」
「絶対」
銀さんは私を抱き寄せると、あやすように背中を叩く。
温かな体温とリズムにあらがう気力もなく、優しい銀さんの嘘を信じて、微睡みの中へ落ちていった。