モルデア老は衰えてはいない。ベリル曰く、腰の悪化が道場を渡した理由と言っていたが…老いゆえの体力の低下はあるかもしれないが、再会した時の身のこなしに殺気は昔感じた剣鬼、モルデア・ガーデナントに相違無し。
手合わせを重ねた限り、ベリルの実力はモルデア老を超えてはいる。察するに精神的な問題だ。苦手意識やトラウマ…意識や精神が実力以上に作用するのが実戦であり、剣にも通じる。
荒療治ではあったがベリルに昔の感覚を思い出させる事は出来たし、まだまだ強くなると思う。
夕食を食べ終え、モルデア老とベリルに付き合い、既に何杯目かの冷たく冷えたエールを喉に流し込む。
「ぷは~!良い飲みっぷりだな。ビャクエンよ」
「ありがとうございます」
「ビャクエン、明日出発だろ?親父に付き合って飲んでて大丈夫なのか?」
頬をうっすら赤くしたベリルが聞いてくる。
「心配するな。あいにく酒に酔ったことは無い…昔から酔いが回らない体質らしい」
「なるほどね…あ、親父その辺にしとけよ?」
「馬鹿野郎!この程度で潰れるか!」
2人のやりとりを見ながら、家事をしつつ少し離れて微笑むフレンさんに声をかける。
「フレンさん、なにか手伝いましょうか」
「ふふっ…いいのよ。ビャクエンは明日行ってしまうんだから。今日くらいはお世話させて?それにね、私はあなたのお母さんでもあるのよ。だから…わかるわよね?」
あぁ、なるほど…流石はモルデア・ガーデナントが惚れた女性だ。俺は2人の足元にも及ばないな
「ありがとう。母さん」
その一言で、フレンさん…いや、母さんは満面の笑みを浮かべてくれた。
「で、儂の事はいつ、親父って呼んでくれんだァ?」
「な、モルデア老!?」
「そうだな。確かに俺達は血は繋がってないが、唯一無二の兄弟だ。親父もお袋もお前の親…ビャクエン、呼んでやってくれないか?」
まったく…この家族は、俺の心まで救ってくれる。本当の親の顔すら知らず、このビデン村に捨てられていた俺を…モルデアさんとフレンさんが拾ってくれた。そして、ベリルと同じく愛情をもって育ててくれた
「父さん、母さん…ありがとう」
「ッ…ば、馬鹿野郎…おい!フレン、まだ飲み足りねぇ!こんな日はぶっ倒れるまで飲むぞ!」
「ふふっ…仕方ないわねぇ」
「じゃま、俺も付き合うかね」
戦場で数百、数千、数万の人や魔物を斬り…荒んだ心を大切な家族とのひと時が癒してくれる。人は英雄と俺を呼ぶ、血に染まった俺をだ。俺はな、ベリル…お前に…
夜は更けていく
ビデン村で過ごす最後の夜が