戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
——湾岸エリア・巨大電力施設。
「ハハハハッ! 喰らい尽くしてやるゾ、海斗!」
ミカ・ジャヴカンが鋭い爪を振りかざして突進してくる。
その攻撃は空気を鋭く切り裂いた。
——ガキィィィィンッ!!
「くっ……重い……ッ!」
海斗はアロンダイトの聖域剣でミカの爪を受け止めるが、足元のコンクリートが激しい衝撃でクモの巣状に砕け散る。
『……主よ、敵への哀情は生存率を激減させる……。』
胸元でアロンダイトが無機質な音声を響かせる。
「分かってる……分かってるけどよッ!」
海斗は踏み込み、ミカの爪を弾き返した。
「ミカ! 俺がお前に言った『街でハンバーグを食べに行こう』って約束は……適当なお世辞なんかじゃねぇ! 本当にお前と一緒に、美味しいものを食べたかったんだよッ!」
「——ッ!?」
ミカの赤い瞳が、一瞬だけ揺らぐ。
だが、次の瞬間、ミカは自らの額を強く叩き、牙を剥き出しにして叫んだ。
「うるさいゾッ! アタシはマスターに作られた自動人形(オートスコアラー)だゾ! 余計な思い出なんかでアタシを惑わすんじゃないゾッ! アタシの命はマスターのためにあるんだッ!!」
全身から爆発的なエネルギーを放出し、ミカが全速力で肉弾戦を仕掛けてくる。
「ミカぁぁぁぁッ!!」
海斗は刃を白銀の光で包み込み、正面から駆け抜けた。
——ズバァァァァンッ!!
すれ違いざまの一閃。
交錯した二人の影。
海斗の聖剣が、ミカの胸の中央——コアを正確に撃ち抜いていた。
「あ……れ……?」
ミカの動きがピタリと止まり、その身体の端から、サラサラと金色の光の粒子が崩れ落ち始めていく。
「ミカ……!」
海斗が振り返り、膝をつくミカへ駆け寄る。
ミカは己の崩れゆく手を見つめ、それから海斗の顔を見上げた。
その表情からは先ほどの凶暴さが消え、どこか幼く、寂しげな笑みが浮かんでいた。
「へっ……強いじゃねぇか、海斗……。……なぁ、ハンバーグって……本当にそんなに美味ぇのか……?」
「ああ……めちゃくちゃ美味いよ。温かくて、ジューシーで……最高の味がするんだ」
「そっか……食べて……みたかったゾ……」
ミカはニシシと野性的に笑うと、最後の力を振り絞って海斗の胸を指先でトンと叩いた。
「約束……破ったら化けて出ルゾ……」
「ミカ……。」
次の瞬間、ミカの身体は光の粒子となって、潮風の中へと消えていった。
◇
---
一方、数百メートル離れた水上プラットフォーム。
——ドドォォォォンッ!!
「きゃぁぁぁッ!?」
ガリィの操る巨大な水流の蛇が、黒き旋風によって真っ二つに切り裂かれた。
「嘘……アタシの水が……!? 奏者ひとりの力で突破されるなんて……ッ!」
「海斗の思い出を勝手に絞り尽くすとか言ってたなぁ……?」
煙の中から現れた天羽奏の全身からは、恐ろしいほどの黒き怒りのオーラ(と凄まじいフォニックゲイン)が立ち上っていた。ガングニールの槍が過剰なエネルギーでバチバチと放電している。
「海斗が向こうでどんな目にあっていたかと思えば……嫉妬で頭がどうにかなりそうなんだよッ! この泥棒猫……じゃなくて泥棒人形がぁぁぁッ!!」
「な、何なのよこの女ぁぁぁっ!?」
「ハァァァァッ! 穿てぇぇぇっ!!」
奏の一撃が、音速を超えてガリィの胸を貫いた。
「マスター……役目は果たしましたわ……」
ガリィは水飛沫とともに爆砕し、跡形もなく消滅した。
二機のオートスコアラーが倒され、戦場に残されたのは——錬金術の光を纏うキャロル・マルス・ディーンハイム、ただ一人となった。
◇
---
「ミカとガリィが破れたか……。」
キャロルが巨大な錬金陣を展開し、空間を歪めるほどの圧倒的なエネルギーを解き放つ。
「「させないッ!!」」
響と奏の叫びが重なり、二人の胸元に宿るガングニールが不吉で禍々しい黒き燐光を放ち始めた。
『——イグナイトモジュール抜剣!——』
二人が同時に胸元の抜剣レバーを力強く押すと、抑え込まれていた力が爆風となって周囲を吹き飛ばした。
次の瞬間、響と奏を纏うガングニールは、禍々しくも力強い漆黒の装甲へと変貌を遂げる。全身から立ち上る黒きオーラが、キャロルの錬金エネルギーを真っ向から押し返していく!
「響ッ! 奏さん! 畳み掛けるぞッ!」
海斗、響、奏の三人が同時に飛び出した!
海斗がアロンダイトの盾でキャロルの魔力放射を正面から真っ向から相殺する。
「何……!? オレの錬金術を無効化しているだと!?」
「今だ、響ッ!」
「みんなの想いと……私個人の怒りを込めてぇぇぇッ!」
「いっけぇぇぇぇッ!!」
響の拳と、奏の槍が、海斗がこじ開けたキャロルの死角へ同時に突き刺さる!
——バカァァァァンッ!!
「グガッ……!? ぐ……おのれぇぇぇっ!!」
激しい爆発とともに、キャロルが吹き飛ばされ、地面を何十メートルも転がった。
「ハァ……ハァ……やったか……!?」
煙が晴れると、立ち上がろうとするキャロルの身体に異変が起きていた。
その肌にメリメリとガラスのようなヒビが入り、内側から不気味な赤黒い光が漏れ出している。
「フフ……ハハハハッ!」
キャロルは自らのヒビ割れる手を見つめながら、嘲笑するように高らかに笑い出した。
「まさか、……ここまで早く限界を迎えるとはね。だが……喜びたまえ、奏者ども」
「何……!?」
「これは終わりの始まりに過ぎない……。私という絶望の本質を、お前たちはまだ何も知らないのだから……ッ!」
——パリーンッ!!
乾いた音とともに、キャロル・マルス・ディーンハイムの身体がまるで繊細なガラス細工のように粉々に砕け散り、その場から完全に消失した。
完全に沈黙した電力施設。
残されたのは、崩れた瓦礫と海斗たち三人だけだった。
「キャロルちゃん……」
響が呆然と呟く。
海斗は静かに歩み寄り、ミカが消えた地面を見つめた。
胸の奥に、ぽっかりと穴が開いたような切なさが広がる。
「ミカ……約束、守れなくて……ごめんな……」
海斗がしんみりと呟いた、その時だった。
——ゾクッ!!
背後から、氷点下を超える絶対零度の殺気が海斗の首筋を刺した。
「……で? 海斗?」
響が、見たこともない暗い笑顔で海斗の肩に手を置いた。
「『俺がお前に言った『街でハンバーグを食べに行こう』って約束は……適当なお世辞なんかじゃねぇ!』って……なぁに? あたしとだって、まだファミレスにしか行ったことないのに……?」
「そうだな海斗。それにあの幼女(キャロル)が言っていた『キス』の続きとはどういうことだ? 俺たちに隠れて、一体どんな濃厚な交流を楽しんでいたのかなぁ……?」
奏もガングニールを握りしめ、ニッコリ(目は全く笑っていない)と笑いかけてくる。
「ひ、ひえぇぇぇぇっ!? 違うんだ! キスは事故で、ミカのハンバーグはただ飯食わせろって言われたからで——ッ!」
海斗の悲鳴が、誰もいなくなった施設に空しく響き渡るのだった。
◇
---
——数時間後、S.O.N.G.指令室。
海斗が正座でお説教(と未来からのゴミを見るような冷たい視線)に耐えている間、地下工房ではエルフナインによる作業が最終局面を迎えていた。
「……完成しました! 全員のギアへ『イグナイトモジュール』の組み込み、無事に完了です!」
台座の上に並ぶ、修復された聖遺物のペンダントたち。
翼の天羽々斬、クリスのイチイバル、切歌のイガリマ、調のシュルシャガナ、マリアのアガートラーム——その全てが、アロンダイトの力とイグナイトの黒き炎を秘めて、禍々しくも力強く輝いていた。
「よし! これで翼たちのギアも完全に復活だな!」
風鳴弦十郎が拳を強く握りしめる。
これで反撃の陣形は完璧に整ったはずだった。……しかし。
「エルフナイン……何か気になることでも?」
海斗がお説教から解放され、浮かない顔をしているエルフナインに声をかける。
エルフナインは画面の走査データを眉間にシワを寄せて見つめていた。
「……はい。あの電力施設で倒したキャロルですが……崩壊したエネルギーの残滓を解析した結果、あれは『純粋なホムンクルス(人工の肉体)』に過ぎなかったことが判明しました」
「……器に過ぎなかった、ってことか?」
「ええ。それに……キャロルの配下であるオートスコアラーは全部で4体います。そして残りの2体は、あの場に現れませんでした」
「……キャロルは生きている。本物の『本体』が、どこかに隠れているってことか……」
海斗が呟いたその時——。
——ズガァァァァァンッ!!
突如、日本全体、いや地球全土を揺るがすような不気味な地鳴りと巨大な魔力の波動が、特務二課の指令室全体を激しく揺らした!
「な、なんだッ!? 何が起きた!?」
「司令! ヨーロッパ全域の電力が急速に喪失しています! さらに……現地の廃城の地下から、巨大な構造物が浮上してきますッ!!」
モニターに映し出されたのは、雲を突き抜けるほどの巨大な錬金要塞——『チフォージュ・シャトー』の姿だった。
そして、その要塞の頂点に立つ、本当の姿を取り戻した「真のキャロル」の映像が、全世界へ向けて映し出される。
海斗は胸元のアロンダイトを強く握りしめた。
ミカたちとの決着、そして一度目のキャロル撃破を経て……真の決戦の幕が、今まさに上がろうとしていた。