本日二度目の投稿。
銃器の確認を終え、平野が金庫の扉を閉めた。
小室が部屋を見回す。
「テレビ、つけてみるか」
小室がリモコンを手に取り、テレビの電源を入れる。
画面が映る。
ニュース番組だった。
『――こちら東京駅前です』
画面には、大勢の人間が集まっている様子が映し出されていた。
プラカードを掲げ、声を上げる人々。
その周囲には警察官も配置されている。
『現在、東京都内では複数の左派系団体が集まり、今回の事件について政府への抗議活動を行っています』
画面には、政府やアンブレラ社を批判する言葉が書かれたプラカードが映し出される。
『参加者は、政府とアンブレラ社が開発した生物兵器によって殺人病が蔓延したとして、政府に対して徹底した情報公開と責任追及を求めています』
「……こんな時にまでやってるのかよ」
小室が呆れたように呟く。
「人が大勢死んでるっていうのに……」
平野もテレビを見ながら呆れた顔をする。
「これだから左翼は……」
小室が吐き捨てるように言った。
「政府を批判するのはいいとしても、今やることなのかな」
平野も呆れたように続ける。
次郎は何も言わなかった。
ただ、テレビの画面を静かに見つめている。
『一方、政府側は現在確認されている情報について――』
ニュースキャスターが淡々と状況を伝えていく。
その背後では、抗議する人々と警察官が対峙している。
次郎は画面から目を離さなかった。
政府。
アンブレラ。
生物兵器。
殺人病。
そして、今回の事件。
いくつもの言葉が並んでいるが、今の段階では何が真実なのか分からない。
「……」
次郎は黙ったまま、テレビを見続けていた。
ニュースは、なおも続く。
『――現場の警察から、先ほど新たな情報が入りました』
画面が切り替わる。
東京駅前に集まった左派系団体と、警察官たちの映像だった。
『警察は現在、集会を続けている団体に対し、直ちに解散するよう要求しています』
現場の警察官が拡声器を手にしている。
『周囲には多数の感染者が確認されています。大声や拡声器、その他の音響によって感染者を引き寄せる危険があります。直ちに解散してください』
しかし、集団は応じない。
プラカードを掲げたまま、警察に抗議を続けている。
『繰り返します。ここで音を出し続ければ、感染者を引き寄せます。直ちに――』
警察官が警告を続ける。
それでも、集団は解散しようとしなかった。
次郎は黙って画面を見つめている。
やがて、警察官の一人が前へ出た。
『これ以上は……やむを得ない』
その声とともに、警察官が団体のリーダーと思われる男へ近づく。
銃を抜く。
男の頭へ銃口を向けた。
そして――。
乾いた銃声。
周囲から悲鳴が上がり、画面が大きく揺れる。
次の瞬間、映像は砂嵐へと切り替わった。
「……」
誰も言葉を発しない。
しばらくして、次郎がリモコンを手に取った。
テレビの電源を切る。
その直後、次郎の背後に誰かが這い寄る気配。
「次郎さーん!」
次郎が振り返るより早く、背後から鞠川が抱きついてきた。
「……」
風呂上がりで髪はまだ濡れている。
そのまま次郎の頬へキスをする。
一度。
二度。
さらにもう一度。
「ちょ、鞠川先生!?」
小室が慌てて立ち上がる。
「何やってるんですか!」
平野も思わず目を逸らした。
次郎は特に慌てた様子もなく、鞠川の様子を観察する。
「……酔ってるな」
「ええー?」
鞠川が楽しそうに笑う。
「次郎さんも一緒に飲みましょうよ」
「俺はやめておく」
「どうして?」
「体質的にアルコールが駄目なんだ」
次郎は淡々と答える。
「飲むとすぐに酔って、眠くなってしまう」
「そうなの?」
「ああ。だから酒は飲めない」
「残念ねえ」
鞠川はそう言いながら、また次郎に抱きつく。
「次郎さん、大好きー」
「……やっぱりかなり酔ってるな」
次郎は冷静に判断した。
「お風呂上がりに飲んだんですか?」
平野が尋ねる。
「少しだけよー」
鞠川が答える。
「少しだけでこれですか……」
小室が呆れる。
次郎は鞠川の身体を支える。
「はいはい。もう寝ような」
「えー」
「このままだと転ぶぞ」
次郎はそのまま鞠川を抱き上げた。
「佐藤さん!?」
小室が驚く。
「酔ってる人間を放っておけないだろ」
次郎は淡々と言った。
「一階のソファで休ませる」
「……そういうことですか」
平野も納得したように頷く。
次郎は鞠川を抱えたまま階段を下りていく。
一階には、風呂を終えた高城、宮本、毒島も戻ってきていた。
三人とも着替えを用意できなかったため、ひとまず下着などに身を包んでいる。
次郎は余計なところへ視線を向けないようにしながら、そのままソファへ向かった。
「ここで休んでくれ」
鞠川をソファへ寝かせる。
「次郎さん……」
「おやすみ」
鞠川は満足そうに目を閉じた。
次郎は毛布を掛ける。
そして立ち上がり、他の女性陣へ視線を向けることなく、すぐに階段へ向かった。
余計なところを見ないようにしながら、次郎は階段を上がっていく。
途中で一度、足を止める。
廊下の照明が点いたままだった。
「……明るすぎるな」
次郎はスイッチを切る。
続いて、使っていない部屋の照明も消していく。
必要な場所だけを残し、それ以外は暗くする。
外から見れば、明かりは人間がいる場所を知らせる目印になる。
音は感染者を引き寄せ、光は生存者を引き寄せる。
今は、無駄な光も音も減らした方がいい。
次郎は一つずつ照明を消しながら、二階へ戻る途中の事だった。
――ガァンッ!
二階から大きめの銃声が響いた。
さらに一発。
――ガァンッ!
次郎は足を速めた。
二階へ戻ると、窓際で平野がライフルを構えている。
その後ろでは小室が慌ただしく動いていた。
「佐藤さん、ちょうどいい所に!」
小室は話しながら、腰に拳銃を差し込む。
「さっき平野と外を見てたら、生存者を見つけたんだ。女の子が奴らに囲まれかけてる」
次郎は横目に小室の拳銃を見た。
刻印はSAKURA。
日本の警察官が使用する拳銃だ。
この状況で小室が持っているということは、警官の死体から回収したのだろうと結論づける。
小室はバールを手に取る。
「俺が助けに行く」
「分かった」
次郎が頷く。
「平野、援護を頼む!」
「任せろ!」
小室はそのまま階段へ駆けていった。
平野が再びライフルを構える。
――ガァンッ!
少女へ迫っていたゾンビの頭部が弾ける。
続けて一体。
――ガァンッ!
さらに一体。
――ガァンッ!
すべて頭部を正確に撃ち抜いていく。
「……やっぱり凄い」
平野自身が自分に驚いていた。
そして、徐々に口元が緩む。
「僕、天才じゃないですか?」
次郎は呆れたように平野を見る。
「自分で言うな」
「でも、これ試射もしてない他人の銃ですよ?」
平野はライフルを構えたまま、得意げに笑う。
「それでこの距離から連続ヘッドショット。やっぱり僕は天才だ!」
次郎は小さく息を吐いた。
「……まあ、腕は認める」
「ですよね!」
その時、一階から門の開く音が聞こえた。
次郎もトマホークを片手に階段を下りる。
門の前では女性陣が待機していた。
小室がバイクへ跨る。
「行ってくる!」
「気をつけて、孝!」
宮本が声を掛ける。
「ああ!」
小室はすぐにバイクを発進させた。
少女のいる方向へ走り去っていく。
だが、先ほどから続いている銃声と今のバイクの音によって、周囲のゾンビが次々と集まってきていた。
塀の外にも、すでに何体もの姿がある。
次郎はトマホークを握った。
「……こっちは俺が片付ける」
門から外へ出て、閉めると同時にゾンビが一斉に次郎へ向かって集まってくる。
次郎は最初の一体へ踏み込んだ。
トマホークを振り下ろす。
顔が縦に割れる。
続いて迫った一体の腕をかわし、首へ刃を叩き込む。
さらに一体。
頭部を掴み、壁に叩きつけて砕く。
次郎は塀の外で、集まってきたゾンビを一体ずつ確実に仕留めていった。
その間も二階からは、平野の銃声が響いている。
――ガァンッ!
また一体の頭部が弾けた。
「……本当に調子に乗ってるな」
次郎は苦笑しながら、迫ってきたゾンビへトマホークを振り下ろした。
数分後。
塀の周囲に集まっていたゾンビをあらかた片付け終えた次郎は、トマホークを握り直した。
「そろそろ迎えに行くか」
小室が向かった先へ進む。
道路には、まだゾンビの姿が残っていた。
次郎は立ち止まらず、迫ってくるゾンビを一体ずつ片付けながら進んでいく。
トマホークが閃き、一体の頭部を切り裂く。
横から迫る別のゾンビの首を返す刃で断ち切る。
さらに前へ進む。
その時、次郎の目に妙な光景が映った。
「……あれは」
少し先。
住宅街の塀の上を小室が歩いていた。
その背中には、一人の少女が背負われている。
少女は小室の首に腕を回し、しっかりと掴まっていた。
道路には無数のゾンビが群がっている。
小室はその群れを避けるように、住宅の塀から塀へと移動していた。
「なるほど……」
次郎は感心した。
「そんな方法があったか」
道路を無理に突破するのではなく、地形そのものを利用している。
次郎はその方法を頭に入れながら、再びトマホークを振るう。
近づいてくるゾンビを片付け、塀の周辺を確保していく。
「小室くん! こっちだ!」
次郎が呼びかける。
「佐藤さん!」
小室は背中の少女を庇うように次郎のところまで寄ると、少女を背負ったまま塀を飛び降りた。
「助かりました!」
小室が息を整える。
「この子を見つけた時には、もう囲まれかけていて……」
背負われた少女は怯えた表情で小室にしがみついている。
「でも、無事に連れ出せて良かった」
「そうか」
次郎は少女の無事を確認して頷いた。
「なら、早く戻ろう」
「ええ」
次郎が先行する。
前方から近づいてくるゾンビをトマホークで倒して道を作る。
小室は少女を背負ったまま、その後ろをついてくる。
道路にはまだ無数のゾンビがいる。
だが、二人は互いに周囲を警戒しながら、歩き出した。
その時だった。
遠くからエンジン音が響いてきた。
次郎が足を止める。
住宅街の角から、一台のハンヴィーが姿を現した。
運転席には鞠川。
後部座席には高城、宮本、毒島、平野が乗っている。
「佐藤さん!」
鞠川が窓から声を掛ける。
「小室くんも!」
ハンヴィーが二人の前で止まった。
小室の背中には、救出した少女がいる。
宮本が安心したように微笑む。
「無事だったのね」
「ああ」
小室が答える。
次郎が車内を確認するが、後部座席は空いていない。
「どうする?」
小室が尋ねる。
次郎はハンヴィーの荷台へ目を向けた。
「上に乗ろう」
「そうだな」
小室は少女を背負ったまま車体後部へ回る。
荷台部分にある金属製の蓋へ足を掛け、そのまま上へよじ登った。
次郎も続いて乗り込む。
小室は少女を自分の前に座らせ、しっかりと身体を支える。
次郎も蓋の上に腰を下ろした。
「落ちないように気をつけてね」
鞠川が声を掛ける。
「ああ」
小室が答える。
「じゃあ、出すわよ」
鞠川がアクセルを踏み込む。
ハンヴィーが再び走り出し、住宅街を抜けて川沿いへ向かう。
しばらく進むと、前方に川が見えてきた。
「橋は使えないから、川沿いを進むしかないな」
毒島が車内から言う。
やがて、川沿いへ出た。
目の前には、幅のある川が流れている。
橋は使えない。
そして、辺りはすでに夜になっていた。
「……この暗さじゃ、渡るのは危ないわ」
次郎は車の上から周囲を見回した。
しばらく注意深く確認する。
「……周辺に奴らはいない」
小室も周囲を確認する。
「今のところ、見当たりません」
毒島も川の向こうへ視線を向ける。
「ならば、今夜はここで休もう」
次郎も頷いた。
「無理に渡る必要はない」
ハンヴィーを川岸から少し離れた場所へ移動させる。
周囲を確認した後、交代で見張りをすることにした。
救出した少女には車内で休んでもらう。
残った者たちも、それぞれ身体を休めた。
夜は静かだった。
遠くから、時折ゾンビの唸り声が聞こえてくるが、こちらへ近づいてくる気配はない。
次郎は夜を徹して周囲を確認した。
そして――。
東の空が白み始め、朝が来た。
「そろそろ行けそうだな」
次郎が川を見る。
昨夜とは違い、浅瀬の状態まで確認できる。
毒島も川岸へ歩いてくる。
「明るくなった今なら渡れそうだな」
鞠川が運転席へ戻る。
「じゃあ、行きましょう」
ハンヴィーがゆっくりと川岸へ近づいていく。
次郎は荷台の蓋の上から川を確認する。
浅瀬で、流れもそれほど速くない。
「ここなら大丈夫だろう」
「分かったわ」
鞠川がハンドルを握り直す。
ハンヴィーが浅瀬へ入る。
タイヤが水へ沈み、車体が大きく揺れた。
水飛沫が左右へ大きく跳ねる。
次郎は蓋の縁を掴む。
小室も少女の身体を支えながら、もう一方の手で車体を掴んだ。
「結構揺れるな!」
小室が声を上げる。
「しっかり掴まって!」
鞠川が声を掛ける。
ハンヴィーは川底を確実に捉えながら進んでいく。
途中で車体が大きく傾いた。
小室が少女を抱き寄せる。
「大丈夫か?」
少女は小さく頷く。
次郎は川の流れと車体の傾きを確認する。
「そのまま進んでくれ!」
鞠川がアクセルを踏み込む。
エンジン音が響く。
ハンヴィーが水を押し分けながら進んでいく。
やがて、水深が徐々に浅くなる。
対岸が近づいてきた。
ハンヴィーが最後の浅瀬を抜ける。
前輪が岸へ乗り上げた。
続いて後輪も川から抜ける。
車体が大きく揺れた。
ハンヴィーが完全に岸へ乗り上げる。
次郎は荷台の蓋の上から飛び降りると、そのまま川岸を歩いて堤防を登る。
堤防の上へ出ると、次郎は周囲を見回した。
道路。
住宅街。
その先まで視線を巡らせる。
ゾンビの姿はない。
次郎はしばらく周囲を警戒した後、ハンヴィーへ振り返った。
「大丈夫だ。上がってきていいぞ」
次郎は再び周囲へ目を向けた。
ひとまず、渡河直後に襲われる心配はなさそうだった。
――Chapter2・完――
学園黙示録原作ファンの方には申し訳なく思いますが、この作品に犬のジークは登場しません。
犬の挙動は書きにくいので仕方なしです。