本日二度目の投稿。
四人が診察室へ近づいた、その時だった。
開いた扉の向こうから、ゾンビが勢いよく飛び出してきた。
次郎が一歩踏み込み、トマホークが振り下ろされる。
ゾンビの頭部を叩き割り、続いて二体目が飛び出してくる。
次郎が身体を横へずらしてかわし、そのままトマホークを首元へ叩き込む。
その後ろから、さらに一体。
「俺がやる」
小室が前へ出て、トマホークを振り抜く。
ゾンビの頭部に食い込み、その身体が崩れ落ちた。
中岡も拳銃を使わず、警棒で一体の目を突く。
平野はライフルに装着された銃剣を構え、飛びかかってきたゾンビの額を突き刺した。
診察室から出てきたゾンビをすべて倒すまで、銃声は一発も響かなかった。
しばらくして、動くものがなくなった。
「……もういないようです」
平野が周囲を確認する。
「冷蔵庫を探そう」
次郎が診察室へ入る。
四人で室内を確認する。
ゾンビが潜んでいないことを確認してから、改めて室内を探した。
診察台の下。
カーテンの裏。
隣接する小部屋。
小部屋へ入ると、平野が声を上げた。
「あ、あれじゃないですか?」
平野が白い小型の冷蔵庫を指差す。
小室と中岡も小部屋へ入る。
「よかった……」
中岡が安堵する。
しかし、平野が扉を開けようとして手を止めた。
「……鍵が掛かってる」
小室が周囲を見回す。
冷蔵庫の周辺には、それらしい鍵は見当たらない。
「せっかく見つけたのに……」
小室が困ったように息を吐く。
次郎が錠を確認する。
一般的なシリンダー錠とは違う、少し特殊な構造だった。
「……これは」
次郎は右胸のポケットからピッキングツールを取り出した。
錠の内部を確認する。
工具を差し込み、慎重に探る。
「開けられそうだが……時間がかかりそうだな」
その時だった。
廊下の向こうから、低い呻き声が聞こえてきた。
続いて、足を引きずる音。
一つではない。
次第に数が増えていく。
中岡が小部屋の入口から廊下を覗く。
「……かなり来ています」
次郎は錠から目を離さない。
「三分ほど時間を稼いでくれ」
小室が振り返る。
「三分?」
「ああ。その間に何とかする」
次郎はその場にしゃがみ込み、ピッキングツールを錠へ差し込んだ。
小室が廊下へ向き直る。
「分かった」
平野もライフルの銃剣を構える。
中岡も拳銃を手にした。
次郎は三人に背を向け、錠だけに集中する。
内部の感触を確かめながら、テンションを掛ける。
工具を僅かに動かす。
カチッ。
一つ目のピンが動いた。
次郎はその位置を維持したまま、次のピンを探る。
カチッ。
二つ目。
さらに奥へ工具を進める。
カチッ。
三つ目。
だが、そこで動かなくなった。
次郎は一度テンションを緩め、内部の感触を探り直す。
順番通りではない。
奥のピンを先に合わせる必要があるらしい。
角度を変え、慎重に工具を動かす。
カチッ。
内部の感触が変わった。
次郎はそのまま残ったピンへ移る。
カチッ。
カチッ。
あと一つ。
最後のピンは抵抗が強かった。
力を加えすぎれば、これまで合わせたピンまで戻ってしまう。
次郎は僅かにテンションを緩める。
そして、工具の角度を変えた。
ゆっくりと持ち上げる。
――カチッ。
その瞬間、錠が回った。
カチャン。
同時に――。
――ズドンッ!
背後からショットガンの轟音が響き渡った。
次郎は振り返らない。
錠を外し、冷蔵庫の扉へ手を掛ける。
扉を開いた瞬間だった。
――ピィィィィィィィィッ!!
病院内に警報が鳴り響いた。
耳をつんざくような大音量だった。
冷蔵庫には、正規の鍵を使わずに扉が開けられた場合に作動する警報装置が取り付けられていた。
独立した電池式だったため、病院が停電していても警報だけは作動する。
正規の鍵がない以上、どの道この警報は避けられなかった。
次郎は眉一つ動かさず、冷蔵庫の中を確認する。
棚には赤血球製剤が並んでいる。
ラベルを確認する。
O型の赤血球製剤。
「これだな」
次郎は保冷バッグを開く。
必要な分を一つずつ取り出し、慎重に詰めていく。
警報は鳴り続けている。
小室たちがゾンビの相手をする中、次郎は回収を黙々と続けた。
必要な分を確保し、保冷バッグを閉じる。
そして冷蔵庫の扉を閉めた。
――警報が止まり、病院に一瞬だけ静寂が戻る。
次郎が保冷バッグを持ち上げる。
「よし」
その直後だった。
廊下から、再びショットガンの轟音が響いた。
次郎が振り返る。
廊下へ出ていた三人が診察室へ駆け込んできた。
「玄関は多すぎて無理だ!」
小室はすぐに診察室の扉を閉め、鍵を掛ける。
扉の向こうから、いくつもの呻き声が響いてくる。
ドンッ。
扉が揺れた。
次郎が近くにあった本棚へ駆け寄る。
「これで塞ぐぞ!」
次郎が小室と本棚を動かし、扉の前へ押し付ける。
その直後だった。
ガシャーン!
窓ガラスが突然砕け散った。
「きゃっ!」
中岡が身を引く。
窓の外を見ると、窓枠を埋め尽くすほどのゾンビが群がっていた。
そのうちの一体が、割れた窓から手を伸ばしている。
「外も駄目だ!」
平野が叫ぶ。
「くそ、逃げ道がない!」
小室が周囲を見回す。
扉の向こうからは、さらに激しく衝撃音が響いている。
その時、中岡が天井を見上げた。
「……上です!」
「え?」
「天井を撃ってください!」
中岡が指差す。
「天井から二階に逃げられるかもしれません!」
小室が天井を見る。
石膏ボードなら、ショットガンで穴を開けられる。
「やってみる!」
小室がショットガンを構えた。
――ズドンッ!
天井が大きく崩れる。
「もう一発!」
――ズドンッ!
さらに撃ち込む。
天井に、人一人が通れるほどの穴が開いた。
「これなら行ける!」
平野が叫ぶ。
次郎は室内を見回した。
「足場がいるな」
近くにあった事務机へ手を掛け、そのまま持ち上げる。
机を穴の真下まで移動させた。
「これを使え」
「ありがとうございます!」
平野が机へ乗る。
天井の縁を掴み、身体を持ち上げる。
続いて中岡。
最後に小室が登る。
三人が天井裏へ上がった。
その直後――。
バキッ!
本棚が大きく動いた。
「来るぞ! 佐藤さん、急いで!」
小室が二階から叫ぶ。
次の瞬間、扉が破られる。
大量のゾンビが診察室へ雪崩れ込んできた。
同時に、窓からもゾンビが入り始める。
次郎は天井の穴を見上げた。
三人はすでに上へ逃げている。
だが、今から自分が机へ乗れば、足元へゾンビが殺到する。
次郎は状況を一瞬で判断した。
「……このまま上がるのは無理そうだな」
トマホークを握り直す。
「三人とも、援護を頼む」
「佐藤さん!」
中岡が身を乗り出す。
「上からの援護を頼む」
次郎はそれだけ告げると、迫ってくるゾンビへ向き直った。
次郎は迫ってきたゾンビの腕をかわし、トマホークを頭部へ叩き込む。
まず一体。
刃を引き抜き、振り向きざまに横から迫った二体目の頭部へ振り下ろす。
そのまま前へ出る。
三体目の腕を掴んで引き寄せ、バランスを崩したところへ頭頂部へトマホークを叩き込む。
次郎の周囲へ、さらにゾンビが押し寄せる。
退かず、足を止めず、トマホークを淡々と振り下ろす。
その背後から、一体が迫る。
――ズドンッ!
小室のショットガンが響く。
次郎の背後にいたゾンビの頭が吹き飛んだ。
次郎は振り返らない。
目の前の一体へ踏み込み、トマホークを叩き込む。
その直後、平野のライフルが火を噴いた。
次郎の横から迫ろうとしていたゾンビの頭部を撃ち抜く。
中岡も別の一体へ銃口を向ける。
――パンッ!
ゾンビが倒れる。
三人の援護が、それぞれ別の方向から次郎の死角を潰していく。
次郎はその隙を利用して、群れの中を切り開いていった。
トマホークが閃く。
一体。
また一体。
さらに一体。
倒しても次が来る。
それでも次郎は一歩も退かなかった。
やがて、診察室へ侵入していたゾンビの数が目に見えて減っていく。
次郎は最後に残った一体へ踏み込んだ。
トマホークが頭部へ振り下ろされる。
ゾンビが崩れ落ちた。
次郎は刃を引き抜き、事務机へ向かった。
二階へ上がった四人は、そのまま屋上へ出た。
病院の周囲には、まだゾンビの姿がある。
だが、屋上までは追ってこられない。
四人は屋根伝いに移動を続けた。
やがて、ショッピングモールが見えてくる。
次郎たちはモール手前の民家の屋根へ移った。
次郎が屋根の端から地上を確認する。
道路にも、建物の周囲にもゾンビはいない。
「ここからなら降りられそうだ」
次郎が屋根から地面までの距離を確認する。
「俺が先に降りる」
次郎はそのまま屋根から飛び降りた。
着地して、周囲を確認する。
「大丈夫だ」
小室が続いて飛び降りた。
「よっと!」
小室も無事に着地する。
残った中岡と平野は、屋根の端で足を止めていた。
「……ちょっと高いですね」
平野が下を見る。
「私も、これは……」
中岡も躊躇する。
次郎が二人を見上げた。
「大丈夫だ」
「でも……」
「絶対に受け止める」
次郎は両腕を広げた。
「飛んでくれ」
中岡がしばらく次郎を見る。
「……分かりました」
意を決して、屋根から飛び降りる。
次郎がしっかりと受け止めた。
「きゃっ……」
中岡の身体が次郎の腕の中に収まる。
次郎の胸元に身を預けたまま、中岡は頬を僅かに赤くする。
「……次郎さん」
「大丈夫か?」
「はい……」
中岡は次郎を見上げた。
その表情には、先ほどまでとは違う熱が宿っていた。
「これからは……あさみって呼んでください」
「……え?」
次郎の表情が固まる。
中岡は微笑んだ。
「あさみ、です」
「……わ、分かった」
次郎は戸惑いながらも、中岡をゆっくりと地面へ降ろした。
「ありがとうございます」
中岡は嬉しそうに微笑む。
「次は、俺ですね」
平野が屋根の端へ立つ。
「大丈夫だ。絶対に受け止める」
次郎が構える。
「来い」
平野が飛び降りる。
「うわっ!」
次郎が両腕で受け止めた。
ずしりとした重量が腕に掛かる。
それでも次郎は微動だにしない。
「……少し重いな」
「す、すみません!」
平野が慌てて降りる。
「大丈夫だ」
次郎が平野を地面へ下ろす。
その一連の光景を見ていた小室が、思わず声を漏らした。
「……すげえ」
四人はそのままショッピングモールへ向かった。
無事に戻ると、鞠川がすぐに駆け寄ってくる。
「戻ったのね!」
「ああ」
次郎が保冷バッグを差し出す。
「ご注文の品だ」
「ありがとう!」
鞠川がバッグを受け取る。
中身を確認すると、すぐに老婦人のもとへ向かった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ついにモール編のクライマックス、命がけの大脱出劇が目前に迫ってきました。