本日二度目の投稿。
次郎は曲がり角の手前まで進むと、壁から僅かに顔を出して先を覗き込んだ。
一人の男が道路を塞ぎ、周囲を確認している。
暗部の工作員だった。
迂回できる道はない。
この先へ進むには、どうしてもこの道を通らなければならない。
工作員はこちらにはまだ気づいていない。
次郎は状況を確認する。
「……仕方ないな」
次郎はその場から飛び出した。
その瞬間、工作員が次郎の姿に気づいた。
視線が交わる。
暗部の工作員がアサルトライフルを構えた。
次の瞬間――。
銃声が響いた。
銃弾が次郎へ向かって飛来する。
次郎は身体を僅かに傾けた。
銃弾が頬の横を通り過ぎる。
続けざまに放たれる銃弾。
次郎はそれらを次々と躱していく。
だが、すべてを避けているわけではない。
飛来する銃弾の軌道を見極め、トマホークを振るう。
銃弾そのものを切断するのではない。
側面を僅かに当てることで、軌道を逸らしていた。
暗部の工作員が驚愕する。
次郎はその隙を見逃さず、一気に距離を詰める。
工作員が絶叫しながら後退して銃口を向け直す。
だが、間に合わない。
次郎のトマホークが振り抜かれ、刃が工作員の首を捉える。
工作員はその場に崩れ落ちた。
次郎は周囲を確認する。
新たな敵の姿はない。
しかし、次郎は淡々と指示を出す。
「音を響かせすぎた」
「奴らが来ない内に移動しよう」
そして、倒した工作員のアサルトライフルを回収した。
次郎はそれをエレンへ渡す。
「これはエレンが使ってくれ」
「分かったわ」
エレンはアサルトライフルを受け取ると、手早く状態を確認した。
扱いに迷う様子はない。
四人は再び移動を開始した。
しばらく進んだところで、カルロスが口を開いた。
「なあ、ジロー」
「何だ?」
「さっきのアレ、どうやってやった?」
「銃弾を避けたり、トマホークで軌道を逸らしたり、漫画みたいな事してただろ」
「……ああ」
「何か特殊な技術でもあるのか?」
「技術ってほどのものじゃない」
「じゃあ、何だ?」
「動体視力と反射神経が良すぎるだけだ」
「それだけ?」
「ああ。撃つ直前の動きと、銃口の向きがはっきりと見える」
「だから、どこへ飛んでくるのかを、ある程度予測できる」
「それで避けてるのか」
「そういうことだ」
次郎の説明にカルロスは呆れたように息を吐いた。
「いや、それを『それだけ』とは普通言わねえんだよ」
「今の俺にとっては、それが普通だからな」
次郎は苦笑する。
「……なるほど」
「やっぱり、とんでもない奴だな」
「真似できそうにないから、俺は普通に銃を使うことにするぜ」
「ああ。その方が確実だ」
それから四人は、慎重に進んだ。
目的地へ近づくにつれて、暗部の工作員の姿が増えていく。
進路を塞いでいない工作員は、できる限り避けて進む。
どうしても避けられない場合だけ、次郎が先頭に立って素早く排除していった。
途中ではゾンビの群れにも遭遇した。
こちらも可能な限り戦闘を避け、別の道へ回る。
それでも進路を塞がれた時には、次郎がトマホークで道を切り開き、カルロスがアサルトライフルで援護する。
あさみは拳銃を使い、確実に敵を仕留めていった。
エレンもまた、手にしたアサルトライフルで敵を撃ち抜いていく。
その動きに躊躇はなかった。
銃を扱うことにも、人を撃つ覚悟にも既に迷いはない。
エレンは周囲を警戒しながら、ノートPCで周囲の情報を確認する。
やがて、目的地が見えてきた。
国会議事堂近くに設けられた、臨時の政府防衛拠点。
周囲には自衛隊と警察、そして暗部の工作員が配置されている。
厳重な警備だった。
「……すごい警備ね」
エレンが小さく呟く。
「紫藤がいる場所だ。これくらいは当然だろうな」
カルロスが周囲を確認する。
「正面から入るのは無理だな」
「ああ」
次郎も周囲を見渡す。
監視カメラ。
警備兵。
検問。
正面からの侵入は不可能に近い。
四人は建物の陰に身を隠しながら、侵入できそうな場所を探した。
その時だった。
次郎が古い石垣に目を留めた。
周囲には雑草が生い茂っている。
だが、一部分だけ不自然に草が密集していた。
次郎が近づき、草を払う。
そこには古びた金属製の蓋があった。
「……これは」
次郎が蓋を開ける。
地下へ続く階段が現れた。
「地下道?」
カルロスが覗き込む。
「ああ。昔の避難経路だ」
「知ってるのか?」
「昔、似たような場所を使ったことがある」
次郎は階段を見下ろした。
「見た目からして、昭和の頃に造られたものだろう。今は使われていないはずだ」
四人は地下施設の奥へ進んでいった。
そこには、古い書類や備品が保管されている。
見たところ、使われなくなった地下資料保管庫だった。
しかし、そこには現在の政府拠点へ続く階段は見当たらなかった。
三人が室内を調べ始める。
次郎は壁際を調べ、カルロスは棚の裏を確認する。
あさみは床や壁を調べながら、隠し扉がないか確認していく。
「階段がないな」
カルロスが周囲を見渡す。
「ああ」
次郎も壁を調べる。
「地下から上へ通じる道がない」
次郎は周囲を見渡した。
「そんな筈はない」
「必ずどこかにあるはずだ」
あさみが壁を軽く叩きながら確認する。
「見たところ、扉らしいものもありませんね」
その一方で、エレンは部屋の中を見渡していた。
そして、部屋の隅に置かれた一台のピアノに目を留める。
古びたピアノだった。
長い間使われていないようで、表面には薄く埃が積もっている。
だが――。
譜面台には、一枚の楽譜が置かれていた。
エレンがピアノへ近づく。
「……月光?」
楽譜には、ベートーヴェンの『月光』がセットされていた。
エレンは楽譜とピアノを交互に見つめる。
こんな場所にピアノがある。
しかも、楽譜まで置かれている。
何となく気になった。
エレンは椅子を引き、腰を下ろす。
その様子に次郎が気づいた。
「エレン?」
「……」
エレンは楽譜を確認しながら、演奏する準備を始める。
「おい、今はそんな事をしている暇はないだろう」
次郎が言うが、エレンは少しだけ振り返った。
「ごめんなさい。でもちょっと気になるの」
そう言って、エレンは鍵盤へ指を置いた。
そして、『月光』を弾き始める。
静かな旋律が、地下室に響き渡る。
次郎、カルロス、あさみは手を止め、エレンの演奏を見ていた。
そして――。
最後の音が響き、エレンが演奏を終えた。
その瞬間だった。
ガコンッ。
部屋の奥から、低い音が響いた。
「……何?」
エレンが顔を上げる。
次郎たちも音のした方向へ振り向いた。
すると、壁の一部がゆっくりと横へ動いていく。
その奥から、上へ続く階段が姿を現した。
「隠し階段……」
カルロスが呟く。
あさみも階段を見上げる。
「まさか、ピアノが仕掛けだったなんて……」
エレンが立ち上がり、階段を見つめる。
「偶然だけど、上手く行って良かったわ」
次郎が階段へ近づく。
壁の奥には、政府拠点へ続く古い階段が隠されていた。
「これなら上へ行けるな」
次郎が振り返る。
「エレン、どこに繋がっているか分かるか?」
エレンはノートPCを開き、現在の施設の図面を確認する。
「この位置からだと……政府拠点の東側に出るはずよ」
あさみが階段の先を見つめる。
「正面から入るより安全に行けそうですね」
「ああ」
次郎が頷く。
「分かった。行こう」
四人は隠し階段へ足を踏み入れた。
現在の政府拠点へ向かって、階段を上っていく。
そこからは、さらに慎重な行動が必要だった。
警備兵の位置を確認し、必要であれば気絶させ、監視カメラの死角を選んで進む。
エレンがノートPCを確認しながら、先の状況を伝える。
「この先を進めば、紫藤のいる区画へ繋がるわ」
「行こう」
次郎の言葉に、三人が続く。
四人は足音を抑えながら、政府拠点の奥へ進んでいった。
――Chapter6・完――
日本の暗部が張り巡らせた謀略の網を破り、ついに首謀者・紫藤一郎の元へと辿り着いた次郎たち。
しかし、追い詰められた権力者が縋ったのは、狂気の力だった。
交わされる戦火と謀略の果てに、真の「英雄」として祭り上げられるのは誰なのか。
次回、Chapter 7『巨人』。
サブタイトルは半分ネタですが、エレンの名前にはちゃんとした意味があります。