内容:レン、BoB初参戦。シノンと対決。
◆一、 弾丸の交点◆
銃声と硝煙が支配するVRMMO《ガンゲイル・オンライン》。 その最強のガンナーを決める大会《バレット・オブ・バレッツ(BoB)》の本戦は、荒廃した都市エリアを不気味な静寂で包み込んでいた。
「はぁ、はぁ……っ」
崩れかけたコンクリートの壁に背を預け、レン――小比類巻香蓮のアバターは、小さく息を吐いた。 彼女が抱きしめているのは、愛してやまないピンク塗装の相棒、P90の『ピーちゃん』だ。全身を覆うピンクの戦闘服は、砂埃とすすで汚れているが、その身軽さは健在だった。
初参加のBoB本戦。強者ばかりがひしめくこの戦場で、レンは生き残っていた。 しかし、現在の状況は極めて悪い。 視線を数ミリだけ動かし、壊れたビルの窓から外の様子を伺う。 遮蔽物の少ない、広大な瓦礫の広場。そこを抜ければ次の安全地帯へ入れるが、そこを踏み出した瞬間に『あの弾丸』が飛んでくることは明白だった。
(……間違いない。さっき私を狙ったあの超長距離からの弾道、そして耳を劈くような重低音の銃声……)
レンの脳裏に、事前情報で聞いた噂がよぎる。 ――《冥界の女神》シノン。 巨大な対物ライフル《ウルティマラティオ・ヘカートII》を操り、遥か彼方から標的の息の根を止める、今大会屈指の優勝候補。
(私みたいな初心者が、あんな化け物みたいなスナイパーとまともに撃ち合えるわけがない。でも……ここでじっとしてたら、エリア収縮で自滅しちゃう!)
レンはピーちゃんの手元をぎゅっと握りしめた。
「いくよ、ピーちゃん。あいつの目が届かないスピードで、一気に駆け抜ける……!」
赤く光る予測線――《バレット・ライン》は表示されない。初弾の狙撃にはラインが出ない仕様だ。つまり、次に敵が引き金を引く瞬間、レンは自分の直感だけを信じて避けるしかない。
「――ふぅ」
短く息を吐き、レンは壁の影から飛び出した。
超高速の敏捷性(AGI)を極限まで高めたレンの身体が、ピンクの残像となって瓦礫の荒野を疾走する。 その瞬間。
――ズウゥゥゥンッ!!!
大気を引き裂くような重低音が響き渡ると同時に、レンの足元のコンクリートが激しく爆ぜた。 すさまじい風圧と衝撃波がレンの身体を襲う。かすっただけでHPバーが3割も消し飛んだ。
「ひゃうっ!?」
レンはたまらず前転し、瓦礫の山に身を滑り込ませる。
(速い……! 着弾と銃声がほぼ同時……! やっぱり、噂のスナイパーだ……!)
弾丸が放たれた方向。およそ八百メートルは離れた、半壊した高層ビルの最上階。 そこから、一対の鋭い瞳がレンを捉えていた。
「……信じられない。あの速度、本当に人間なの?」
ビルの窓辺に伏せ、愛銃ヘカートIIのスコープを覗き込むシノンは、信じられないものを見たというように目を見開いた。 スコープの十字線の中心に映るのは、ちょこまかと動く小さなピンクの影。
――《ピンクの悪魔》レン。 スクワッド・ジャムという大会で突如現れ、その規格外のスピードと近接戦闘能力で並み居る強豪を蹂躙したという、おちびちゃん。
「どんなに素早くても、二発目は外さない……!」
シノンはボルトアクションを操作し、巨大な薬莢を排出した。チャキリ、と金属音が響き、次弾が装填される。 だが、スコープの先に映るピンクの影は、シノンの予想を遥かに超える軌道を描き始めた。
ジグザグ、という単純なステップではない。 不規則に飛び跳ね、時には地面を滑り、瓦礫を蹴って3次元的に加速する。弾道予測線を出す暇さえ与えない、不規則かつ圧倒的な超高速移動。
「しまっ――」
シノンが引き金を引いた瞬間には、すでにレンはそこにはいなかった。 放たれた五十口径の弾丸は、レンがコンマ数秒前にいた地面を虚しく穿つ。
「嘘……追いきれない……!」
驚愕するシノンの視界の中で、ピンクの影は急速にビルへと近づいてくる。 八百メートルあった距離が、五百、三百、そしてついに、ビルの一階へと吸い込まれていく。 スナイパーにとって、懐に入り込まれることは死を意味する。ましてや、相手は近接戦闘特化のサブマシンガン使いだ。
「……あの子、最初から私を倒すつもりで突っ込んできたのね」
シノンは冷汗を流しながらも、その唇に不敵な笑みを浮かべた。 恐怖はない。あるのは、一人のスナイパーとしての闘志。 シノンはヘカートIIを背中に背負い、腰のホルスターからサブウェポンを抜いた。 頑強な自動拳銃――《グロック18C》。
「来なさい、ピンクの悪魔。ここからは私の時間よ」
ボルトを弾き、至近距離での迎撃態勢を整える。
一方、ビルの一階に滑り込んだレンは、激しく上下する肩を押さえながら、階段を見上げた。 心臓がバクバクと嫌な音を立てている。
(上だ……! このビルの屋上付近にいる! ピーちゃんの射程なら、近づけば絶対に勝てる。でも、相手だって黙って待ってるわけがないよね……)
「よし、やるぞ……!──」
レンは気合を入れ直すと、階段を駆け上がった。 AGI特化の脚力は、重力を無視するかのように階段の壁を蹴り、驚異的な速度で上層へと昇っていく。
最上階のフロア。遮蔽物の少ない、がらんとした空間。 レンが階段の踊り場からフロアへと飛び出した瞬間、待ち構えていた影が動いた。
「そこよ!」
シノンの冷徹な声とともに、グロック18Cのフルオート射撃が炸裂する。 パララララッ! と小気味よい銃声が響き、レンの目の前に弾道の光跡――バレット・ラインが網の目のように張り巡らされた。
「うわあああ!」
レンは身を翻し、床を転がって銃弾を避ける。だが、数発が肩と脇腹を抉り、HPバーが削れる。 シノンの銃撃は正確無比だった。動揺することなく、レンの動きの先を読んだ確実なサイティング。
「でも、ピーちゃんだって負けないんだから!」
転がりながら、レンはP90の引き金を引いた。 秒間十五発という圧倒的なサイクルで、ピンクの銃口からマズルフラッシュが狂い咲く。
ドガガガガガガッ!!!
圧倒的な面圧の弾幕がシノンを襲う。 シノンは素早く柱の影に身を隠したが、レンの弾丸はコンクリートの柱を容赦なく削り取っていく。
(なんて発射速度……! それに、弾が全然切れない!?)
シノンは背中のヘカートIIの重みを感じながら、グロックの残弾を確認する。 このまま削り合いをすれば、装弾数五十発のP90を持つレンが圧倒的に有利だ。
(なら、一瞬の隙を作るしかない……!)
シノンはあえて柱の影から身を乗り出し、グロックを連射した。 レンは即座に反応し、さらに鋭い踏み込みでシノンの側面へと回り込もうとする。 その瞬間、シノンはグロックの引き金を引くのをやめ、代わりに左手に握っていた『何か』のピンを抜いた。
「――っ!?」
レンの危険察知能力が、最大警報を鳴らす。 シノンが投げたのは、手榴弾(グレネード)だった。それも、ただの破片手榴弾ではない。 強烈な閃光と爆音で視覚と聴覚を奪う――スタングレネード。
レンは咄嗟に腕で顔を覆った。
ドンッ!!!
凄まじい白い光が空間を支配する。 レンの視界は真っ白に染まり、耳の奥でキーンという不快な高音が鳴り響く。システム的な気絶(スタン)エフェクトが発生し、身体の自由が数秒間奪われた。
(動けない……! やられる……!)
その白い世界の中で、シノンは動いた。 スタングレネードの影響を最小限に抑えるため、投擲の瞬間に視線を外していたのだ。 シノンはグロックを構え、動けないレンの胸元へと銃口を向ける。
(勝負ありね、ピンクの悪魔)
引き金を引こうとした、その刹那。
「――まだ、動けるもん!!」
気合の叫びとともに、レンの身体が奇跡的な反応を見せた。 スタン状態であるはずのレンが、野生の勘だけで、ピーちゃんをシノンの銃口に向けて突き出したのだ。
「えっ――!?」
シノンが驚愕する。 完全に不意を突かれたシノンのグロックから放たれた銃弾は、レンの肩を撃ち抜いた。 だが同時に、レンのP90からも、怒りの連射が解き放たれる。
ドガガガガガッ!!!
至近距離での激しい火花の散らし合い。 シノンの胸元に複数の着弾エフェクトが走り、同時にレンの胸にもグロックの弾丸が吸い込まれていく。
お互いのHPバーが、目にも留らぬ速さでレッドゾーンへと滑り落ちていく。
「はあああああ!」 「くっ……!」
二人の少女の瞳が、至近距離でまっすぐに交差した。 青い髪のクールな瞳と、茶色い髪の必死な瞳。 お互いに名前も知らない、だけど、この世界で己の限界に挑む者同士としての、無言の敬意がそこにはあった。
そして――。
二人のアバターが限界を迎えようとしたその瞬間、ビルの外から、別の方向から乾いた銃声が響き、二人の間の床を撃ち抜いた。
パララララッ!
「漁夫の利を狙う奴か……!」 シノンが鋭い視線を窓の外に向ける。 「うぅ、誰だよもうー!」 レンも悔しそうに声を上げた。
お互いのHPは残り数ミリ。これ以上の戦闘継続は、第三者による「漁夫の利」を許すだけだった。
シノンはグロックを収め、ヘカートのストラップを掴み直すと、窓の外へ向かって一気に飛び降りた。設置されたワイヤーを使っての離脱だ。
「ここは預けるわ、ピンクの悪魔。……次は必ず、その足を止めてみせる」
風に乗って、シノンの静かな声が届く。
レンは息を荒くしながら、去っていく背中を見送った。
「……うん、私も次は負けないよ、シノンさん!」
お互いの名前を、心の中で確かに刻みつけながら。 BoBの戦場にふたたび静寂が戻り、ピンクの悪魔は、新たなライバルの存在に胸を躍らせながら、次の遮蔽物へと走り出すのだった。
◆二、 光の刃と黒い影◆
あれから、どれほどの時間が経っただろうか。 エリアの収縮はさらに進み、BoB本戦の生き残り人数は片手の指で数えられるほどになっていた。 荒廃した都市のさらに奥、巨大な半ドーム状の旧駅舎ビル。 ひび割れたガラス天井から差し込む月光だけが、暗い構内を青白く照らしている。
(……静かすぎる。誰か、いるの?)
レンは柱の影に身を潜め、五感を研ぎ澄ませていた。 ピーちゃんをしっかりと胸に抱き、索敵画面(レーダー)に神経を集中させる。次の瞬間、背後からかすかな「衣擦れの音」が聞こえた。
「――ッ!」
レンは本能的に前方へ跳び、空中を半回転しながら、音のした闇の方向へとピーちゃんを向けた。 そこに立っていたのは、一人のプレイヤーだった。
(女の子……?)
思わず、心の中で呟いていた。 腰まで届く艶やかな黒い長髪、華奢な体躯、そしてGGOには珍しい漆黒の防具。まるでファンタジー世界の美少女のようなアバター。 しかし、レンが驚愕したのはその容姿ではない。 そのプレイヤーが持っていた『獲物』だ。右手に握られているのは、銃ではない。 それは、暗闇の中で妖しく紫色の光を放つ、光エネルギーの刃――《光剣(フォトン・ソード)》だった。
「いくよ、ピーちゃん!」
お互いに面識はない。だが、ここは戦場だ。 レンは躊躇なく引き金を引いた。 至近距離から、P90の超高速の銃弾が狂暴な弾幕となって黒い影へと襲いかかる。 必中の距離。避ける術などないはずだった。
だが。
――シュウゥゥゥ、ピシィッ! キィィィン、カンッ! と、甲高いうねりと共に、信じられない金属音が暗闇を支配した。
「え……っ!?」
レンの目が限界まで見開かれる。 放たれた弾丸が、網の目のような紫色の光軌によって、ことごとく弾き落とされている。 黒髪のプレイヤーは、信じられない神速の剣技で、空中の銃弾を正確に「斬り落として」いるのだ。光剣の刀身が弾丸に触れるたび、小さなプラズマの火花が飛び散る。
(嘘……! フルオートの銃弾を、剣で防いでるの!? そんなのあり得ないッ……!)
この世界の常識がガラガラと音を立てて崩れていく。 だがその時、レンの脳裏に、かつてスクワッド・ジャムの作戦会議や街の噂話で聞いた、ある「おとぎ話」のような噂が蘇った。
――かつて、銃が支配するこのGGOで、一本の光剣だけを手に戦場を暴れ回った狂人がいる。 ――そのプレイヤーは、狙撃手シノンと共に、第三回BoBの共同優勝を果たした。
(まさか……あの伝説の……!?)
「はあっ!」
驚愕するレンの思考を切り裂くように、黒い影――キリトが床を蹴った。 その踏み込みの鋭さは、AGI(敏捷性)の数値だけでは説明のつかない、実戦に裏打ちされた恐るべき戦闘センス。 一瞬で間合いを詰められ、紫の刃がレンの視界を覆う。
「う、わわわっ!」
レンは持ち前の超高速の脚力でバックステップを踏み、辛うじて最初の一撃をかわした。 光剣が空気を焦がす熱風が、頬をかすめる。
「しつこい、ピーちゃん、いっけぇぇぇ!」
引き下がりながら、レンは狂ったようにP90を連射する。 至近距離での弾幕。しかしキリトは、弾道予測線《バレット・ライン》すら見ることなく、レンの銃口の向きだけで弾道を先読みし、光剣を最小限の動きで合わせていく。 銃弾のいくつかがキリトの肩をかすめるが、致命傷には至らない。
「くっ……!」
キリトは左手に握った大型拳銃《ファイブセブン》の銃口をレンに向け、牽制の銃撃を放った。 レンは瓦礫を蹴って3次元的に回避する。だが、その着地先を予測していたかのように、すでに黒い影がそこに滑り込んでいた。
「これで――!」
囁くような声。 レンの懐に完全に潜り込んだキリトの光剣が、鋭いアッパーカットのように下から斬り上げられた。
――ズバァンッ!
「ひゃああっ!?」
熱い衝撃。レンの身体を、まばゆい着弾エフェクトが包み込む。 ピーちゃんの手元が狂い、空を撃ち抜く。 着地したレンの足元から力が抜け、そのまま床へとしりもちをついた。 視線を落とせば、自身のHPバーはすでに完全なゼロ。レンのアバターはそのまま床へと力なく倒れ伏し、その上空に、真っ赤な半透明のシステム表示――《DEAD》の四文字が冷酷に浮かび上がった。
キリトは光剣のスイッチを切り、静かにその刃を収めた。 倒れ伏し、システムによってコントロールを奪われながらも、まだ辛うじて視界だけが残っているレンを見つめるその瞳は、冷徹な勝者のものではなく、どこか申し訳なさそうな、優しいものだった。
「ごめん。今度こそ、決着をつける約束してるんでね」
その言葉の響きは、不思議と温かく、そして強い決意に満ちていた。
(そっか……。あはは、強かったなぁ……)
レンは動けない体のまま、心の中で、しかし満足そうに呟いた。敗北の悔しさよりも、あの神業のような戦闘を間近で見られた高揚感が勝っていた。 やがてシステムメッセージが視界を覆い、レンの意識は完全に戦場から切り離された。
そして――。
レンが消え去った静寂のドームに、乾いた重低音が響き渡った。 ドオォォォンッ!
天井のガラスを突き破り、キリトの足元に巨大な五十口径の弾丸が突き刺さる。 キリトは驚くことなく、ゆっくりと顔を上げた。 遥か遠く、崩壊したタワーの頂上。 そこからヘカートIIを構え、じっと自分を睨みつけているであろう、青い髪の少女の姿を心で捉える。
「待たせたな、シノン」
キリトは再び光剣の柄を握り、スイッチを入れた。 暗闇の中に、紫色の光刃が再び轟音を立てて産声をあげる。
二人の伝説的な強者による、一騎打ちの火蓋が、今、切って落とされた――。
◆三、 反省会と賑やかな日常◆
「――いやー、負けたぁー!」
システムログによって敗退が確定し、SBCグロッケンの酒場型待機ロビーへと強制転送されたレンは、椅子に深く腰掛けながら、大げさに両手を上げて叫んだ。 すでにゲーム内はBoBの観戦モードに切り替わっており、ロビーに設置された巨大なモニター群には、本戦の熱戦がリアルタイムで映し出されている。
「おっ、レン! お疲れさん! よく頑張ったなぁ!」
ビールジョッキ(の中の炭酸飲料)を片手に、元気よく手を振ってきたのは、相棒のフカ次郎だ。 その隣には、妖艶な笑みを浮かべ、ゆったりとグラスを傾けているピトフーイの姿もあった。
「うぅー、フカ、ピトさん……! 私、もうちょっとで生き残れたのにぃ!」
レンはテーブルに突っ伏して、もごもごと悔しがった。
「まぁまぁ。でもな、あの『光剣使い』とあそこまで渡り合えただけでも大金星よ? モニターで観てて心臓止まるかと思ったわ!」 フカ次郎がレンの背中をポンポンと叩く。
「フフ、そうね。あのキリト相手に、よくあの近接戦で食らいついたわ、レンちゃん」
ピトフーイがグラスを置き、その赤い瞳を怪しく輝かせた。
「ピトさん、あの黒髪のプレイヤーのこと、知ってたの?」
レンが顔を上げると、ピトフーイは深く頷いた。
「ええ。第三回BoBの覇者、キリト。銃だらけのこのゲームで、剣一本で弾丸を斬り落とすキチガイ(褒め言葉)よ。……あぁ、本当に羨ましいわ。私も本戦に出て、あの男と殺し合い(ゲーム)がしたかった。あの細い首を、私の手で……ッ!」
「ピトさん、目が、目が本気で怖いよ……!」
レンはフカ次郎の背後に隠れるように身をすくめた。 フカ次郎は呆れたように肩をすくめる。
「ピト姐さんは相変わらずよなぁ。それよりレン、観てみな! モニター、始まったぜぃ。あの剣士と、スナイパーの姉ちゃんの一騎打ち!」
「えっ!?」
レンが急いで巨大モニターを見上げると、そこには荒れ果てたドームの中で、互いの間合いを測り合うキリトとシノンの姿が映し出されていた。 一方は、妖しく光る紫の光剣を構える黒い影。 もう一方は、冷徹なブルーの瞳で、銃口を狂いなく向ける氷の狙撃手。
二人の間には、第三者が立ち入る隙など微塵もない、極限の緊張感が漂っている。
「……すごい」
レンは息を呑んだ。 自分が戦ったシノン。そして、自分を負かしたキリト。 その二人が、お互いの全存在を賭けて、激突しようとしている。
「どっちが勝つんだろうなぁ。アタシは剣士の姉ちゃん……いや、兄ちゃん? に一票!」
「私はシノンに賭けるわ。スナイパーとしての意地を見せてほしいものね」
ピトフーイとフカ次郎が楽しそうに話す声を、レンは半分聞き流しながら、画面に釘付けになっていた。
(いつか、私も……あんな風に、誰かと魂を震わせるような勝負ができるのかな)
ピーちゃんの手触りを思い出しながら、レンの胸には、敗北の悔しさを遥かに超える、次への闘志とワクワク感が静かに、しかし熱く燃え上がっていた。