仮面ライダーになってしまった男(多分死ぬ) 作:愉快な大いなる闇
───暖かい
最初に出て来た感想はこれだった。
揺れる感覚と共に伝わってくる仄かに心地良い暖かさ。
夢を見ているようなボンヤリとした感覚で揺れていた。
「───お、目が覚めたか?」
頭のすぐ近くで声が聞こえる。
重い瞼を開き、僅かに瞳に差し込む光。
それのせいで誰なのかはわからない。
ただ自分がその人におぶられている事はわかった。
「まだ動けない……か。まぁしゃーない。頭をやられてるわけだしな。このまま少し揺られていてくれ」
頭の事を言われて改めて意識する。
ズキズキと鈍い痛みが後頭部から伝わって来た。
思わず顔を顰めてしまう。
「応急処置はしておいた。怪我も見といたが大事はなかった。ただしっかりあとで医者には診てもらえよ。俺のアギトの目で見て判断しただけだから」
そのアギト?というのはわからなかったが、確かに頭を処置されたのだろう。
頭に何か包帯の様な物を巻かれている。
「ン……ッ?!」
すると突然白いモフモフとした物を顔に押し付けられる。
視界が白いモフモフで埋まった。
そして甘いけど仄かな火薬の匂いが鼻に伝わる。
「ペロロ様グッズを集めるのはいいがここに来るのはもう辞めておけよ。最近は特に危ないからさ。それのお詫びと言っちゃなんだがそれをやるからよ」
───なんでペロロ様が趣味なのを知っているんだろう
そんな曖昧なボンヤリとした事を頭で考える。
顔に押し付けられた物は大好きなペロロ様の人形だった。
思わず与えられた人形をキュッと抱きしめる。
思考が上手く纏まらない。
ふわふわと浮いているような感覚だ。
本当に夢を見ているんじゃないのかとさえ思う。
ただその人の声はとても暖かった。
「───君って確か二年生だったよね?って事は今は数学Ⅱ・Bとかやってるのかな?俺ってば数学が得意な方だったんだけどねー。数学Ⅱ・Bで一気に苦手になったような、なかったような気がするんだよねー。特に数列。あれ本当に嫌いでさー」
その人は私を背負って歩き続けている間、飽きないよう色々な話を振ってくれた。
「───いいかい?神様は世界にたくさん居るけどテオスって神だけは信仰しちゃ駄目だよ?あの神はちょっと人間にどつかれただけで即人間滅ぼそうとするし、メンタル豆腐だし、何よりアギト好きじゃないから酷いことするし。多分あれ邪神の類いだよ。うん」
ちょっとちんぷんかんぷんな訳のわからない話もあったが、その人が喋るその話たちは何処か面白かった。
一緒に居て心地よかった。自然と笑みが溢れてしまうぐらいには心地よかったのだ。
「───到着っと。ここなら君の学園の生徒が発見してくれる。それに君に手を出すような悪人も居ない筈だ」
背負われて歩き続ける事、数十分。
目的の場所に到着したのだろう。
ゆっくりと私の身体がベンチに降ろされる。
そしてペロロ様の人形を優しく握らされた。
「その人形要らなかったら売るなり捨てるなり好きにしていいよ。ただ拾ったやつを押し付けただけだからさ」
その人は背を向けて歩き出す。
ついぞその人の顔を見ることは叶わなかった。
まるで不思議な魔法にかけられたような気分だ。
「それじゃ、お大事にー」
私を助けてくれた人。
その人の背がだんだんと離れていく。
せめて。せめて私は名前だけでも知りたかった。
このままでは恩も何も返せない。
そんなのは嫌だった。
「あ、あな……たはいったい……誰なん……ですか……?」
思うように動かない重い口。
それを精一杯必死に動かして絞り出した言葉。
届くか心配だったがその人はしっかりと拾ってくれた。
その人は私の言葉を聞いて困った様に立ち止まる。
「そうだなーうーん、あッ!俺の事は無名の司祭ぶち殺し隊って覚えてくれればいいよ!それじゃッ!」
その人は何処か慌てた様に走り去っていく。
───絶対にそんな変な名前じゃない
そんな確信と共に限界が来たのか急激に瞼が重くなる。
意識が遠のいていくのが感じられる。
今動く事の出来ない自分を恨めしく思う。
結局あの人の本当の名前は知れてないし、お礼もありがとうも直接言えていない。
届く筈のない腕を小さく精一杯に伸ばす。
走り去っていくその人を目に私はゆっくりと瞼を閉じた。
▼▼
「───おし。無事に学園の生徒に見つけてもらえたみたいだな。これでひとまず安心ってやつか?」
とあるトリニティの時計塔の天辺。
そこで津上は少女が無事に発見されるのを見守っていた。
勿論AGITΩに変身した状態である。
AGITΩの目は10km離れた場所でも人の顔を識別出来たり、厚さ5m程の剛鉄の壁を透視することが出来る。
津上はそれによって少女を見守っていたのだ。
(あとは救護団に任せれば大丈夫そうだな………)
少女はこのまま救護団に任せれば無事に治療されて、元の生活に戻る事が出来るようになるだろう。
これで津上の役目は終わりだ。
あとはサッサと帰るだけ。
津上は今トリニティに潜入している。
少女を送り届ける為という目的ではあったがやっている事は、要は自治区の不法侵入、更には学舎への不法侵入という訳である。
見つかればただでは済まない。
津上は
見つかれば途轍もなく酷い目に遭う事だろう。
なので津上は早々に帰ろうと撤退の準備をする。
(あっ、、、)
そこでとある人物と津上は目が合う。
それは鋭く暗い紅の真っ赤な瞳をしていた。
その人物は距離の離れた時計塔に居る筈の津上の事を、逃さない様、ジッと真っ直ぐ見つめている。
口元が笑みを浮かべた。
黒いセーラー服が怖さを助長する。
(やべぇッ!!)
津上は即座に時計塔から飛び降り駆け出す。
剣先ツルギに見つかってしまった。
あの様子だともう元々津上がこの場に居る事自体バレている可能性もある。最悪の事態はもう既に正義実現委員会に伝わっている事だ。
津上としてはトリニティで戦闘をするのは勘弁したい。
トリニティの最強格相手ともなれば更にだ。
(なんであの距離から見えてるんだよ?!化物か?!)
AGITΩの脚をフルに使う。
念のためマシントルネイダーも呼んだ。
トリニティの自治区を抜ければ権力の関係や他の自治区との問題などで、正義実現委員会は津上に手を出す事は出来なくなる。
つまりはトリニティの自治区を抜ければ勝ちだ。
走ること数分。
もう既にゲヘナとトリニティを結ぶ境界線である橋が見えてきた。
あとはトリニティからさっさと抜けるだけ。
それで終わりだ。
「───そこまでです」
「ッ?!」
───なのだが人生はそう上手くはいかない。
津上の進路を潰す様、大量の弾丸が津上へと襲いかかる。
津上は直撃を避ける為に即座にブレーキをかけ、身体を後ろに飛んで引く。
逃げ道を潰された。
周りの物陰からゾロゾロと人が出てくる。
正義実現委員会の制服だ。
全員津上へと銃口を向けている。
「貴方の事を現ホストの命で捕縛させていただきます。念のため言わせてもらいますが、抵抗はしない方が身の為と」
部隊を指揮っているであろうリーダー。
羽川ハスミが前へと出てくる。
その津上を、仮面ライダーを見つめている瞳には嫌悪と冷たさが含まれていた。
(クソッ!あのババアのせいで!)
津上は内心でこの原因となった存在へと毒づく。
津上からしたらトリニティで、嫌悪の感情を多数に向けられるような事をした覚えはないのである。
なんなら賞賛されるような事をしたという自負しかない。
だが結果はこのザマだ。
津上は多くのトリニティ生に恨まれてしまっている。
「よくもこのトリニティの敷地に堂々と入ってこれましたね。貴方のやった行いを忘れたとは言わせませんよ?」
「……………」
「だんまり……ですか。まあいいでしょう。捕まえたあとに全て聞けばいいだけなんですから」
ハスミが手を上へと挙げる。
津上を囲む正義実現委員がねらいを定め、トリガーに指を掛けた。
逃げる隙はない。
「一応聞いておきます。投降する気はありますか?」
ハスミの問いに答えるよう、静かに構えをとる。
津上の答えとしてはこうだ。
こんな所で捕まるわけにはいかない、というわけだ。
「聞くだけ無駄でしたね───やりなさい」
津上を囲む銃口から大量の弾丸が襲い来る。
四方八方からの銃弾。避ける手段はない。
全て直撃すれば流石のAGITΩと言えどひとたまりもないだろう。
津上はやむを得まいと判断し、『超越精神の青』。
その一片を解放する事を決意する。
ベルトのサイドバックルを軽く叩く。
その瞬間。
青の光がAGITΩを包み込み、蒼風が巻き起こった。
▼▼
「───な、何が?!」
ハスミは驚愕していた。
仮面ライダーを一斉射撃した直後。
仮面ライダーが不審な行動をしたと思ったその瞬間。
その場に竜巻が出来たと思う程の暴風が仮面ライダーを中心に巻き起こり、全ての弾丸を逸らしたのだ。
「何をしたんですか?!」
ハスミはただそこに佇んでいる仮面ライダーへと問う。
ハスミはその目で見たのだ。
今は先程までと変わらない姿をしているが、サイドバックルを叩いた直後。その姿は青の光と共に変わり、何より棒状の"何が“を抱えていた事を。
そしてその棒状の“何か"でこの惨状を引き起こした事を。
「ッま、待ちなさい!!」
呆然とする正義実現委員の面々を見渡した仮面ライダーは逃走出来ると判断し、包囲網を抜けていく。
ハスミはそれに一歩遅れたが、逃すまいと追いかける。
この先にあるのはゲヘナとトリニティを結ぶ境界線だ。
ゲヘナに逃げ込まれたら彼女たちは手を出せなくなる。
「ツルギッ!!」
ハスミの横を黒い残像を残して一人が通り過ぎる。
トリニティの『歩く戦略兵器』
剣先ツルギが飛び出した。
「きえええええええーーーッッ!!」
獣の唸り声の様な甲高い奇声を発声しながらツルギは仮面ライダーに突進する。
そのスピードは凄まじく、距離の離れた仮面ライダーとの差をどんどんと縮めていく。
二挺持ちのショットガンから繰り出される重たい攻撃。
今まで喰らった事のない衝撃を仮面ライダーは喰らった。
「ツッッ!!」
「ギャハハハハッ!!!」
足を止めてしまった仮面ライダー目掛けての連撃。
鋭い蹴りが腹部を狙って突き刺さる。
「…………クッ!」
突然の事で防ぐことが出来ず、もろに蹴りを喰らった仮面ライダーは後方へと飛ばされる。
これで橋との間をツルギに陣取られてしまった。
「グシャグシャにしてぇ…… 破壊だ!破壊してやるぅぅ!!!!」
狂気的とも言えるその咆哮。
赤黒いその瞳が真っ直ぐ仮面ライダーを射抜く。
「ハァァァ………」
仮面ライダーは賢者の石によるオルタフォースを腕へと集中させ、拳を強く握り締める。
ツルギが再度突撃して来た。
仮面ライダーは体勢を低く沈ませ保ち、まるで抜刀をするが如くその狙いを定める。
「ふっふっふ…死ねぇ!!!」
ツルギが二挺のショットガンを突き出し、仮面ライダーの頭部と腹部を狙ってトリガーを引こうとする。
その瞬間だった。
一瞬の間に仮面ライダーが地面を蹴り前へと前進し、ツルギへと急接近した。
「なぁッ?!!」
仮面ライダーの光の拳【ライダーパンチ】は凄まじい衝撃と共にツルギのショットガンをアッパーカットの形で上へと殴り飛ばした。
ツルギはあまりの衝撃により腕が痺れてしまう。
「………すまない」
「カハッ……?!」
動揺と痺れ。それにより一瞬硬直してしまったツルギ。
その隙を逃さない様、仮面ライダーは発勁をツルギへと喰らわせる。
内部を揺らす衝撃。激しい揺れを体内で起こされたツルギは立っている事が出来ずに膝をつく。仮面ライダーはツルギを戦闘不能にさせるに充分なダメージを与える事に成功した。
「ツルギ!!」
ハスミがツルギの元へと駆け寄る。そしてそれに追従する様に遅れて正義実現委員会の面々がやって来た。
ハスミはダメージによって膝をつくツルギを見て、あり得ない現実を見たかの様に目を見開く。
「ツルギ大丈夫ですか?!何処か怪我は!」
「ふぅ……ふぅ。平気だ……何処も怪我はしていない」
ハスミがツルギの容態を案じている中、その他の正義実現委員会の面々は仮面ライダーを囲むようにして警戒する。
だが先程のようにすぐに発砲するような事はしない。
皆あの突然の暴風である竜巻を恐れているのだ。
「ハスミ……気を付けろ。思ったよりアイツは頭が切れる。私の身体は確かに硬いが内部はそうじゃない。だからアイツは確実にダメージを与えられるよう内部にだけ集中して私にダメージを与えてきた。しかも手加減までしてだ!!」
ツルギの怒りの声がこだまする。
ツルギとしては手加減されて相手をされた事がよっぽど屈辱的だったのだろう。何せ少し油断していたとはいえ、決着自体はあの【ライダーパンチ】を直に喰らえば付いていたのだ。
だが仮面ライダーは敢えてそれを避けた。
まるで此方を怪我させないよう配慮しているかのように。
「一体……どうすれば………」
ハスミは仮面ライダーを相手に攻め方をあぐねていた。
ただ攻撃するだけではまた先程のように暴風で飛ばされてしまうかもしれない。かといって近距離で相手をするにも仮面ライダーは近距離でツルギを倒した猛者だ。近づく事はあまり的策とは言えない。
「───ならこうすればいいんじゃない?」
ハスミたちの前に一人の正義実現委員が出てくる。
そこでハスミは違和感を抱いた。
ハスミは正義実現委員会の面々はほぼ全員顔と名前は覚えれるよう努めてきたつもりだ。だが今自分たちの前に出てきた、この正義実現委員にはまったく顔に心当たりがない。
嫌な予感がハスミを震わせる。
「待っ───」
「こうすれば確実にダメージを与えられる」
ずっと隠し持っていたのかその正義実現委員は巨大なバックからロケットランチャーを取り出した。そしてあろうことか適当に見繕ったその他の正義実現委員に向けてトリガーを引く。
ロケットランチャーが発射された。
それは凄まじいスピードで呆然としてしまっている正義実現委員の面々に迫る。
「え、うそ………」
「コハルっ!!!!」
運悪く標的にされてしまったピンク髪の少女があまりの事に呆然とし、尻餅をつく。
下江コハルはスローモーションのようにロケット弾が自身に迫るのを見て、恐怖のあまり目をギュッと瞑った。
次の瞬間には激しい痛みが襲ってくる。
その筈だった。
「───?」
コハルはいつまで経っても襲って来ない痛みに不思議に思い、恐る恐る目を開ける。そして驚愕した。
「な、なんで………」
「……………」
なんと仮面ライダーが身を挺してコハルを庇っていた。
衝撃や熱が伝わらないよう、一身にダメージを全て請け負っていたのだ。
ダメージのあまり仮面ライダーはコハルにもたれかかるように倒れる。
変身が解けていないだけ奇跡と言っていいだろう。
「え、あ……早く、治療。そうだ早く治療しないと………」
コハルが突然出来事のあまりパニックになってしまう。
ハスミはこの出来事を起こした張本人に詰め寄ろうとするも、既にその本人は忽然と姿を消している。ハスミはこの奇妙な事件に何とも言えないような怒りを抱いた。
『─────』
ブォォォンというエンジンの音がコハルたちに近づく。
ハスミたちは警戒して臨戦体勢に入るも、それは反応出来ない程高速でコハルたちの横を通り過ぎ、負傷した仮面ライダーを回収した。
そしてそのままトリニティとゲヘナの境界線である橋を渡ろうとする。
「……っ!」
「やめておけハスミ。今更追いかけても無駄だ」
ハスミは追いかけようとするもツルギに静止される。
「ですが!!」
「アイツがしでかした事もあるが今回私たちは確かにアイツに助けられたんだ。私たちはそれを認めないといけない」
「くっ…………」
ハスミは悔しさのあまり歯を食い縛り、制服のスカートを握り締める。捕まようと攻撃していた相手に逆に自分たちが助けられてしまった。
これは正義実現委員会にとって、いやハスミにとって恥だった。
この日の出来事。
それはハスミたちにとって忘れられない一日となった。
▼▼
「───さ、サンキュー。トルネイダーちゃん」
マシントルネイダーの上。
そこで津上は力が抜けたように横たわっていた。
その様子は何処かボロボロで今にも死にそうな程疲弊している。身体の所々からも血が流れていた。
AGITΩの肉体は普通の人と比べれば頑丈だが、防御力はそこまで高いというわけではない。ロケットランチャーを直に喰らえばこうなるのは必然といえた。
「とりあえずあの子が怪我しなくてよかったー………」
津上はコハルに怪我がないようで安心していた。
これでもし怪我でもしていたなら津上は絶対に後悔をしていた事だろう。
「今日はとにかく疲れたなぁ………」
身体の休息と修復の為か津上に急激な睡魔が襲って来る。
オルタリングの力もあるのでこのまま寝て安静にしていれば、明日には無事に怪我は治っているだろう。
外はもう暗い。
津上は空に浮かぶ煌めく星々を眺めながめる。
(あー忌々しいテオスたちを思い出すー)
津上はそんなどうでもいい事を考えながら意識をそっと手放すのだった。
おかしい……気付いたら主人公はボロボロ。
そして俺の貯蔵庫もすっからかん。
なんてこった!
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