80歳のハリーポッターが11歳に戻った場合   作:金縛り

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3年目 残り三つ

 グリンゴッツへの侵入実験から一週間。

 

 グリモールド・プレイスの食堂は、作戦会議室になっていた。

 

 大きな机。

 

 羊皮紙。

 

 ブラック家の系図。

 

 レストレンジ家の財産記録。

 

 グリンゴッツとの契約書。

 

 ベラトリックス・ブラックが、ロドルファス・レストレンジと結婚した際の持参品一覧。

 

 その量は、学校の課題より多い。

 

「何で純血家の結婚に、こんなに書類があるんだ?」

 

 ロンが言った。

 

「財産が多いからよ」

 

 ハーマイオニーが答える。

 

「土地、家、金、宝飾品、魔法道具、所有権、相続権」

 

「結婚するだけだろ」

 

「家同士の契約でもあるの」

 

「面倒だな」

 

「ウィーズリー家は?」

 

「金がないから簡単だと思う」

 

 自分で言い、少し傷ついた顔をする。

 

「代わりに家族は多い」

 

 ハリーが言う。

 

「金よりいい」

 

「急にどうした?」

 

「何でもない」

 

 シリウスは、ブラック家の古い契約書を読みながら、何度も頭を掻いている。

 

「文字が細かい」

 

「以前も言っていましたね」

 

 ハリーが言う。

 

「何で百年前の契約まで読む必要がある」

 

「過去の条項が、現在も有効かもしれないからです」

 

「オクタヴィウスに任せれば」

 

「本人が、当主も理解しろと言っています」

 

「雇い主は俺だぞ」

 

「仕事をする雇い主になってください」

 

「お前、俺に厳しくないか?」

 

「今年は働く年です」

 

「もう三年目は終わった」

 

「夏休みまでは今年度です」

 

「そういう数え方か?」

 

 クリーチャーが、古い木箱を机へ置く。

 

「ベラトリックス・ブラック様の婚姻時に、レストレンジ家へ移された品の一覧でございます」

 

「ブラックではなくレストレンジだ」

 

 シリウスが言う。

 

「記録上、婚姻前の名で整理されております」

 

「何がある?」

 

 ハーマイオニーが羊皮紙を開く。

 

 銀の食器。

 

 宝石。

 

 肖像画。

 

 古い杖。

 

 魔法薬の材料。

 

 ブラック家の家紋が刻まれた箱。

 

 呪われた首飾り。

 

 黒魔術書。

 

「普通の贈り物はないの?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「銀食器が」

 

「人を噛まない?」

 

「記録にはございません」

 

「ブラック家基準だな」

 

 ハリーは一覧を見る。

 

「これらが、レストレンジ家の金庫に?」

 

「一部は邸宅。一部はグリンゴッツでございます」

 

「区別は?」

 

「印がございます」

 

 金庫。

 

 十一点。

 

 ブラック家由来の品。

 

「シリウスに、確認権は?」

 

「通常はない」

 

 食堂へ入ってきたオクタヴィウス・ブレッチリーが答えた。

 

 ブラック家の法務代理人。

 

 相変わらず、感情の薄い顔。

 

「通常ではない場合は?」

 

 ハリーが尋ねる。

 

「ベラトリックス・レストレンジ氏および夫ロドルファス氏は、終身刑に近い長期収監中です」

 

「はい」

 

「夫妻に子はいない。レストレンジ家の財産管理者は、ロドルファス氏の叔父に当たるカシウス・レストレンジ氏」

 

「協力しますか?」

 

「しないでしょう」

 

「なぜ?」

 

「ブラック家と財産争いを起こす理由がないからです」

 

「争うのではなく、確認」

 

「確認を認めれば、金庫内の資産状況を知られる」

 

「嫌がる?」

 

「当然です」

 

 純血家。

 

 財産。

 

 秘密。

 

 信用しない。

 

「ただし」

 

 オクタヴィウスは書類を出す。

 

「ブラック家由来の品に、重大な呪いが確認された可能性があると主張すれば、共同調査を求めることはできます」

 

「嘘になる」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「重大な呪いがある品は、本当に含まれています」

 

「どれ?」

 

「呪われた首飾り」

 

 シリウスが一覧を指す。

 

「触ると?」

 

「七代先まで悪夢を見ると」

 

 ロンが顔をしかめる。

 

「七代?」

 

「本当に七代続くか確認した者はいない」

 

「当たり前だろ」

 

「それが、管理不良で封印を破っている可能性を主張する」

 

 オクタヴィウスが続ける。

 

「金庫内部を開け、確認する必要があると」

 

「カップではなく、首飾りを理由に?」

 

「はい」

 

「小鬼は?」

 

「金庫契約者、財産管理者、元所有家の三者が合意すれば、立会調査は可能です」

 

「カシウス・レストレンジを説得する必要がある」

 

「その通りです」

 

「金?」

 

 シリウスが尋ねる。

 

「買収は勧めません」

 

「なぜ?」

 

「記録に残る」

 

「では、何を?」

 

「彼が恐れるもの」

 

 オクタヴィウスは別の書類を出す。

 

「レストレンジ家は、戦後に複数の資産を魔法省へ申告していません」

 

「脱税?」

 

 ロンが言う。

 

「正確には、戦時中に所有者不明となった財産の隠匿」

 

「犯罪?」

 

「立件可能です」

 

「脅すの?」

 

 ハーマイオニーが険しい顔。

 

「交渉材料です」

 

「最近、そればかりね」

 

 リータ。

 

 未登録アニメーガス。

 

 レストレンジ家。

 

 資産隠匿。

 

「合法的な交渉です」

 

 オクタヴィウスは平然としている。

 

「共同調査へ同意すれば、ブラック家は過去の資産移動について争わない」

 

「同意しなければ?」

 

「魔法省へ確認を求める」

 

「脅迫では?」

 

「権利の行使です」

 

「言い方だけ変えてる」

 

 ロンが言う。

 

「法律とは、言い方が重要です」

 

 オクタヴィウスは真顔で返した。

 

 シリウスが嬉しそうにハリーを見る。

 

「お前と似てるな」

 

「僕は、ここまでではありません」

 

「最近、かなり近い」

 

「失礼です」

 

「どちらに?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「両方」

 

 合法的な経路。

 

 共同調査。

 

 小鬼立会い。

 

 金庫を開ける。

 

 問題。

 

 カップを持ち出せない。

 

「調査中に、カップが分霊箱だと証明できれば?」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「危険物として回収できない?」

 

「小鬼が、顧客の財産を渡すとは限らない」

 

 ハリーが答える。

 

「魂の欠片が入った闇の魔法道具よ」

 

「小鬼から見れば、魔法使いが作った物。持ち主も魔法使い」

 

「でも、銀行自体が危険になる」

 

「金庫内に封じてあるなら、銀行は管理できていると主張する」

 

「その場で破壊する?」

 

 ロンが言う。

 

「小鬼の許可が出れば」

 

「出なければ?」

 

「別の方法」

 

「妖精魔法」

 

 シリウスが言う。

 

 全員が黙る。

 

「合法的に金庫を開ける」

 

 シリウスは続ける。

 

「ハリーは、その時に中の位置を正確に把握する」

 

「立会調査へハリーを入れられますか?」

 

 オクタヴィウスを見る。

 

「難しい」

 

「なぜ?」

 

「ブラック家の財産確認に、ポッター氏が立ち会う理由がない」

 

「シリウスの名付け子」

 

「法的な関係はありますが、レストレンジ家との関係はない」

 

「透明マント」

 

 ロンが言う。

 

 ハーマイオニーが睨む。

 

「合法的な話をしているのに」

 

「途中から不法侵入を混ぜるんだろ?」

 

「その通りです」

 

 ハリーが答える。

 

「認めないで」

 

「シリウスが、合法的に金庫へ入る」

 

「俺に確認権が出ればな」

 

「クリーチャーも、ブラック家の品を識別するため同行」

 

「小鬼が認めるか?」

 

「純血家の財産調査では、屋敷しもべ妖精が同行する例がある」

 

 オクタヴィウスが言う。

 

「なら、クリーチャーは入れる」

 

「僕は、クリーチャーの魔法へ追従」

 

 ハリーは続ける。

 

「透明マントの下で」

 

「グリンゴッツの入口から?」

 

「金庫が開いた瞬間」

 

「中へ直接?」

 

「ああ」

 

 自分の金庫。

 

 妖精魔法。

 

 成功。

 

 今回は。

 

 クリーチャー。

 

 ブラック家由来の品。

 

 シリウスの確認権。

 

 正規に開かれた金庫。

 

 抵抗は、さらに弱まる可能性がある。

 

「入った後」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「カップをどうする?」

 

「破壊する」

 

「その場で?」

 

「バジリスクの牙を持ち込む?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「危険物検査で見つかる」

 

「妖精魔法で牙も移動」

 

「小鬼に見られる」

 

「透明マントの下」

 

「カップを刺したら音が出るわ」

 

「分霊箱も抵抗する」

 

 日記。

 

 ロケット。

 

 指輪。

 

 髪飾り。

 

 すべて。

 

 破壊時に、魂の欠片が反応した。

 

 悲鳴。

 

 煙。

 

 魔力。

 

 隠し通すのは難しい。

 

「持ち出す方がいい」

 

 ハリーが言う。

 

「どうやって?」

 

「妖精魔法でカップだけ移動させる」

 

「所有権の抵抗は?」

 

「物単体なら、空間の防護より弱い可能性がある」

 

「試せない」

 

「ブラック家由来の品を、一つ」

 

 シリウスが一覧を見る。

 

「正当に回収する」

 

「それを妖精魔法で移動?」

 

「許可された品なら、抵抗の強さを確認できる」

 

 ハーマイオニーは、頭を押さえた。

 

「合法的な調査の中で、不法侵入と窃盗の練習をするの?」

 

「言い方が悪い」

 

「事実でしょう!」

 

「ヴォルデモートの魂です」

 

「だからといって、方法が何でもいいわけではない」

 

「分かってる」

 

「本当に?」

 

「カップ以外は取らない」

 

「そういう問題では」

 

「なら、小鬼へ話す?」

 

 ハリーは尋ねる。

 

「分霊箱。ヴォルデモート。魂。カップ。全部」

 

 ハーマイオニーは考える。

 

「アメリアさんを通して、正式に危険物として差し押さえる」

 

「令状を出すには証拠が必要」

 

「ハリーの証言」

 

「未来の記憶は、法的な証拠にならない」

 

「魂の反応を、ダンブルドア先生やスネイプ先生が確認」

 

「金庫を開けないと確認できない」

 

「共同調査で開ける」

 

「開いた後、確認。危険物と分かれば、その場で魔法省へ」

 

「小鬼が拒否したら?」

 

「銀行内の重大な危険として交渉」

 

 完全な合法。

 

 時間。

 

 交渉。

 

 多くの関係者。

 

 その間。

 

 ヴォルデモートが知る可能性。

 

「現実的ではある」

 

 ハリーは言った。

 

「でしょう?」

 

「でも、小鬼が金庫を閉じる可能性がある」

 

「閉じる前に、魔法省の封鎖命令を」

 

「グリンゴッツ内部で、魔法省の命令が通る?」

 

「……分からない」

 

「小鬼は魔法省の下部組織ではない」

 

「なら、最初から小鬼へ協力を求める」

 

「応じると思う?」

 

「説明次第よ」

 

「魔法使いが戦争を起こし、顧客の物を危険だから渡せと言う」

 

「銀行もヴォルデモートに支配されれば困るでしょう」

 

「小鬼は、魔法使いの支配者が誰でも同じだと思うかもしれない」

 

「本当に?」

 

「前世では、完全には協力しなかった」

 

 グリップフック。

 

 グリフィンドールの剣。

 

 小鬼の所有権。

 

 魔法使いとの価値観の違い。

 

「でも」

 

 ハーマイオニーは諦めない。

 

「最初から騙すのではなく、交渉を試すべきよ」

 

 正しい。

 

「分かった」

 

 ハリーは答えた。

 

「本当に?」

 

「共同調査を成立させる。小鬼へ、危険な闇の魔法道具がある可能性を説明する」

 

「分霊箱とは?」

 

「最初からは言わない」

 

「なぜ?」

 

「情報が漏れる」

 

「小鬼を信用しない?」

 

「銀行として、顧客へ報告する義務があるかもしれない」

 

 ベラトリックス。

 

 収監中。

 

 それでも。

 

 代理人。

 

 レストレンジ家。

 

 情報が伝わる可能性。

 

「カップを確認した時点で、ダンブルドア先生とスネイプ先生が危険性を証明」

 

「それから小鬼へ破壊を求める」

 

「ああ」

 

「拒否された場合だけ?」

 

「妖精魔法で回収する」

 

 ハーマイオニーは長く考えた。

 

「それなら」

 

「認める?」

 

「完全には」

 

「では」

 

「でも、最初から盗むよりはいい」

 

 ロンが手を上げる。

 

「僕は?」

 

「何が?」

 

「同意者に入ってる」

 

「意見は?」

 

「小鬼に話して、駄目なら盗む」

 

「単純ですね」

 

「同じ結論だろ」

 

 スネイプ。

 

 通信鏡。

 

 計画を説明。

 

『問題が多い』

 

「具体的には?」

 

『共同調査へ、ダンブルドアと私が同行する理由』

 

「呪いの専門家」

 

『小鬼側の専門家で十分だと拒否される』

 

「ブラック家が、独立した専門家を求める」

 

『ダンブルドアが独立していると思うか?』

 

「では先生だけ」

 

『私も、ヴォルデモートとの関係を疑われる』

 

「表向きは魔法薬と闇の魔術の専門家」

 

『経歴を調べれば元死喰い人だ』

 

「ルーピン先生」

 

『狼人間であることを公表する気か?』

 

「フリットウィック先生」

 

『呪文学の専門家としては適任だ』

 

「未来の記憶は話していません」

 

『分霊箱の存在を共有する必要がある』

 

「ダンブルドア先生から」

 

『また知る者が増える』

 

「信用できます」

 

『私もそう思う』

 

 フィリウス・フリットウィック。

 

 呪文学。

 

 小鬼の血を引くとも言われる。

 

 正確な家系は知らない。

 

 ただ。

 

 小鬼との交渉でも。

 

 ダンブルドアより、警戒されにくい可能性がある。

 

『フリットウィックへ話す』

 

「先生が?」

 

『校長と私からだ』

 

「僕も」

 

『必要ない』

 

「カップの位置を」

 

『未来の情報だけ伝えろ』

 

「本人へ説明した方が」

 

『十三歳の生徒が、銀行の金庫へ不法侵入する計画まで話すのか?』

 

「最終手段です」

 

『印象は最悪だ』

 

「分かりました」

 

 スネイプの判断。

 

 正しい。

 

「同意は?」

 

『条件付きだ』

 

「条件は?」

 

『小鬼との交渉が決裂するまで、妖精魔法で金庫内へ入らない』

 

「交渉中に金庫が閉じられたら?」

 

『閉鎖を防ぐ契約を、先に結ばせる』

 

「小鬼が応じますか?」

 

『オクタヴィウスの仕事だ』

 

 法務代理人が頷く。

 

「可能な条項を考えます」

 

『次。カップを破壊する際は、銀行外へ移送する』

 

「はい」

 

『移送先はグリモールド・プレイスではない』

 

「なぜ?」

 

『ブラック家には、すでに多くの闇の魔術品がある』

 

「学校?」

 

『論外だ』

 

「では?」

 

『魔法省の危険物処理室』

 

「魔法省へ話す?」

 

『アメリア・ボーンズ一人へ』

 

「協力しますか?」

 

『クラウチの件以降、お前の情報を無視はしない』

 

 アメリア。

 

 信頼できる。

 

 組織全体ではなく。

 

 本人だけ。

 

『最後』

 

「まだ?」

 

『最も重要だ』

 

「何です?」

 

『お前は、金庫内へ入らない』

 

 ハリーは黙る。

 

「位置を知るのは」

 

『クリーチャーが探す』

 

「分霊箱を見分けられない」

 

『フリットウィックと私が外から探知する』

 

「金庫内の呪いが」

 

『クリーチャーは、人間より影響を受けにくい』

 

「でも」

 

『お前が入れば、カップが反応する』

 

 ヴォルデモートの魂。

 

 ハリーの中の欠片。

 

 互いに。

 

 感知。

 

『警報を鳴らす可能性が上がる』

 

「妖精魔法で隠せます」

 

『必要性がない』

 

「僕が」

 

『任せろ』

 

 短い言葉。

 

 スネイプ。

 

「先生が?」

 

『クリーチャー。フリットウィック。ブラック。私。必要ならダンブルドア』

 

「ダンブルドア先生は、小鬼と話し始めます」

 

『交渉役ではなく、破壊確認だ』

 

「僕は?」

 

『外で待て』

 

「また?」

 

『まただ』

 

「自分の分霊箱です」

 

『カップはお前ではない』

 

 正しい。

 

『今年、お前は何度も人へ任せた。その結果、指輪もナギニも破壊できた』

 

「はい」

 

『今さら戻るな』

 

 ハリーは。

 

 一覧を見る。

 

 カップ。

 

 自分。

 

 本体。

 

「分かりました」

 

『本当に?』

 

「金庫内へ入りません」

 

『約束?』

 

「約束します」

 

 シリウスが嬉しそうに笑う。

 

「何です?」

 

「スニベラスが、お前を扱えるようになってる」

 

『その呼び方をやめろ!』

 

「聞こえてたか」

 

『通信鏡だぞ!』

 

「シリウス」

 

「悪い」

 

『謝罪が軽い』

 

「セブルス」

 

 リーマスまで。

 

 いつの間にか食堂へ入っていた。

 

「君も、ハリーの作戦へ参加するのか?」

 

『私は監視役だ』

 

「誰の?」

 

『全員だ』

 

「大変だね」

 

『原因の一人が言うな』

 

 計画。

 

 合法的な共同調査。

 

 小鬼との交渉。

 

 ブラック家由来の呪物。

 

 レストレンジ家の資産隠匿。

 

 カップ。

 

 分霊箱。

 

 拒否された場合。

 

 妖精魔法。

 

 ただし。

 

 ハリーは入らない。

 

 四年目を待つ必要はない。

 

 夏休み中。

 

 準備が整い次第。

 

 レストレンジ家の金庫を開く。

 

「だいぶ前倒しですね」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「前世では七年目だった」

 

「四年も?」

 

「ああ」

 

「その時は、追い詰められていた?」

 

「かなり」

 

「今回は?」

 

「準備がある」

 

「なら、同じ失敗はしないで」

 

「分かってる」

 

「ドラゴンを逃がさない」

 

「はい」

 

「小鬼へ服従の呪文を使わない」

 

「はい」

 

「銀行を壊さない」

 

「努力します」

 

「約束して」

 

「銀行の構造次第では」

 

「ハリー」

 

「壊しません」

 

「本当に?」

 

「意図的には」

 

「条件をつけない!」

 

「分かりました。壊しません」

 

 ロンが笑う。

 

「グリンゴッツへ行く前から、銀行を壊さない約束をする奴も珍しいな」

 

「未来で壊したからよ」

 

「ドラゴンで」

 

「正確には、ドラゴンが」

 

「乗ってたんでしょう?」

 

「はい」

 

「同じです」

 

 シリウスが杯を上げる。

 

「残り三つに」

 

「乾杯する話ですか?」

 

 ハリーが尋ねる。

 

「五つ壊した。祝ってもいいだろ」

 

「まだ終わっていません」

 

「だから」

 

 シリウスは言う。

 

「ここまでを祝う」

 

 前世のハリーは。

 

 終わるまで。

 

 休まなかった。

 

 勝つまで。

 

 喜ばなかった。

 

 失った者を思い続けた。

 

「一つずつだ」

 

 シリウスが続ける。

 

「日記。ロケット。指輪。髪飾り。蛇」

 

「ナギニです」

 

「五つ」

 

 杯。

 

 ハーマイオニーも上げる。

 

 ロン。

 

 リーマス。

 

 クリーチャー。

 

 オクタヴィウスは仕事中なので断った。

 

 通信鏡のスネイプは、無言。

 

「先生も」

 

 ハリーが言う。

 

『何を?』

 

「杯」

 

『私は学校だ』

 

「何か飲み物を」

 

『仕事中だ』

 

「もう夜です」

 

『切るぞ』

 

「照れていますね」

 

『グリフィンドールから五点』

 

「夏休みです」

 

『来年度分だ』

 

「できるんですか?」

 

『今、可能にする』

 

 通信が切れた。

 

「怒った?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「いつも通りです」

 

 ハリーも杯を持つ。

 

 中身は、クリーチャーが用意した果汁。

 

「五つの分霊箱へ」

 

「破壊した方だぞ」

 

 シリウスが言う。

 

「分かっています」

 

「残り三つにも」

 

 ハーマイオニーが続ける。

 

「そのうち一つはハリーだ」

 

 ロンが言い、顔を曇らせる。

 

「分かってる」

 

 ハリーは答えた。

 

「方法を見つける」

 

「必ず」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「皆で」

 

 リーマスが続ける。

 

「一人で死の呪文を受けに行くなよ」

 

 シリウスが言った。

 

 冗談ではない。

 

 前世。

 

 禁じられた森。

 

 ヴォルデモート。

 

 死の呪文。

 

 ハリーは一人で歩いた。

 

 今回は。

 

 同じ方法を使わない。

 

「約束します」

 

 ハリーは言った。

 

 全員が、少し驚く。

 

「何です?」

 

「素直だな」

 

 シリウスが言う。

 

「何度も言われたので」

 

「成長した」

 

「中身は」

 

「そこは今いい」

 

 杯が触れる。

 

 小さな音。

 

 三年目。

 

 本来なら。

 

 シリウスの無実を知り。

 

 ピーターを逃がし。

 

 吸魂鬼と戦う年。

 

 今回は。

 

 シリウスは自由。

 

 ピーターは収監。

 

 ルーピンは教師を続けている。

 

 指輪。

 

 髪飾り。

 

 ナギニ。

 

 三つの分霊箱を破壊。

 

 クラウチ・ジュニアも捕まえた。

 

 そして。

 

 グリンゴッツへ入る方法まで見つけた。

 

 前倒し。

 

 大幅な改変。

 

 未来の知識は。

 

 もう、道順としては役に立たない。

 

 それでも。

 

 目的地は変わらない。

 

 カップ。

 

 ハリー。

 

 ヴォルデモート。

 

「次はグリンゴッツですね」

 

 ハリーが言う。

 

「お前は外で待つ」

 

 シリウスが即座に返す。

 

「分かっています」

 

「本当に?」

 

「約束しました」

 

「ならいい」

 

 グリンゴッツ。

 

 世界一安全な銀行。

 

 レストレンジ家の金庫。

 

 ヘルガ・ハッフルパフのカップ。

 

 妖精魔法。

 

 小鬼との交渉。

 

 次の戦いは。

 

 呪文より。

 

 契約と所有権と、互いの信用を巡るものになる。

 

 ハリーは。

 

 少しだけ。

 

 ヴォルデモートと戦うより面倒そうだと思った。

 

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