曇らせ書くの練習してぇなぁと思って書き始めました。曇らせ初心者です。書きたいキャラを書き切ったら終わります。


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英雄の足跡

 

 突然だが、俺、雨宮 海斗は転生者である。……いや、転生者と言うよりかは『逆行者』とでも言うべきか?まぁ、ここは俺の前世とはまた違う世界線だし、転生でいいだろう。

 

 俺が転生した理由。それは、俺が大学から我が家へ帰る道でのことだった。その日は、台風やら大雪やらの特別に天気が荒れていた訳でもない、なんて事のない過ごしやすい秋晴れの一日だった。

 俺は『帰ったら何の本を読もうか』なんて、益体もないことを考えながらポケットに手を突っ込んで家までの路を歩いていた。

 何とはなしに周りを見れば、下校途中なのか小学生が5,6人ほどで固まってガヤガヤと話ながら歩いていて、それと俺はすれ違った。子ども達を暖かく見守る近所のおばさんやおじさんがにこやかに子ども達へ声を掛けている。そんな平和な日常風景を俺もぼけーっとしながら歩いている。

 

 そんな時だった。自棄にフラフラと蛇行しながら此方に迫ってくるトラックが視界に入った。俺は嫌な予感で身の毛がよだつ感覚に包まれた。トラックは俺が歩いている方のガードレールにぶつかり、ギャリギャリと鉄同士がぶつかる嫌な音を立てながら、大きなクラクションの音と共に此方へと突っ込んでくる。幸いなことに、俺はガードレールの内側にいるお陰で直撃することなく助かるだろう。国土交通省万歳である。

 

 しかし、不運なことにトラックとガードレールの衝突音、そして、大きなクラクションの音は俺のほんの少し後ろを歩いていた小学生の一人を驚かせて、転ばせた。更には神の導きと言うべきか、不運というものは得てして重なるもので、その小学生が転んだ場所はたまたまガードレールが途切れた所で、しかも上半身を車道に投げ出してしまったのだ。

 目を丸くして呆然とトラックを見あげる小さな子ども。周りの大人が悲鳴を上げる。一番近くにいるのは……俺。

 

 気付けば俺の身体は弾かれたように動いていた。自分語りをするようで申し訳ないが、俺はよく友人達にバカだと言われる。だが、俺は決して自分がバカだなんてこれっぽっちも思っていない。むしろ、賢い選択ができている方だと断言できる。

 底辺のFラン大学ですら単位が危うい俺なんかより、この若く未来ある若者が生きるべきだ。そう思ったから、俺は子どもを引っ張り歩道へと強引に戻す。そして、そのまま鉄の塊の圧力に意識を闇の中へ飛ばした。

 

 

 

 

 そして、次に俺が目を覚ましたのは病院で、俺が大学で上京してからの三年間もご無沙汰していた母の腕の中で目覚めたのだ。そこで、俺は母が記憶よりも遥かに若々しいことと、自分の小さな赤子の手を見て自分が転生したことに気付いたのだ。尤も、この時は前世と同じ両親に、見覚えしかない懐かしき故郷こと盛岡郊外の田舎風景だったことからつい過去に逆行したものだとばかり思っていたが。

 では、何故俺が前世とはまた違う世界に来たと断言できるのか。余りにも子どもらしからぬ大人しさ故に両親がハッスルし、前世ではいなかった弟と妹が三人も産まれたから?違う。それとも、小学校入学時に、本来であれば幼稚園で別れていた幼馴染みがいたことか?それも違う。

 

 ――太平洋沖にて、無数の米軍潜水艦が同時多発的に消息不明!

 

 それは、俺が中学三年の秋の高校受験を控えた頃の話だった。新聞の一面、朝の情報番組のトップを飾ったそのニュースが事の始まりだった。いつも通り弟妹達の面倒を見ながらぼけーっと歯ブラシを咥えて視ていたニュース。そんな時に前世では全く聞いたことのない大事件がいきなり報道されたことで、余りの驚愕に俺の口からこぼれ落ちた歯ブラシが俺の膝の間で寝癖を梳かしていた妹の頭にコツンと当たって落ちた。妹にはバチボコに怒られた。

 そんな俺にとって天地がひっくり返るレベルの大事件だが、当然ながら世界中で話題になるホットニュースとなる……筈だったが、この事件はこの後に続く艦艇連続沈没事件の一例でしかなくなったのだ。一週間後には、大西洋でイギリスとアメリカ、スペインの軍艦および漁船が。二週間後にはオホーツクの海でロシアの船が。そして、一月も立つ頃には全ての海で船の失踪が相次いだ。原因もこの事態を仕立て上げた元凶も分からない状況に世界情勢は大いに混乱した。

 そんなにっちもさっちもいかない状況に一石を投じたのは、意外にも()()()マスメディアであった。彼らは漁業組合および通信会社と提携して漁船に詰め込めるだけの通信設備を詰め込み、最低限航行できるだけの装備を施した、現状では最早自殺行為とも呼べる改造漁船を複数用意して出港した。

 

 そして……それだけの準備をしてなお得られたものは僅か10秒の、しかも砂嵐とノイズが混じる中継映像だった。海上に浮かぶ真っ黒な装甲と病的なまでに白い肌をしたヒトガタが、同じような黒い色の甲殻を持ったエビらしきものを引き連れた姿だった。そして、ソレは銃口のようなものを向けて狂ったような笑みを浮かべる。そして、それからは砂嵐とノイズがどんどんと強く酷くなり、ドンッという砲声とクルーの悲鳴、最後まで実況を試みるアナウンサーの声を最後に中継は途切れた。

 この配信で弟妹達は恐怖のあまり泣いていた。そして、一週間近く俺から離れることはなかったことを心の日記に書き留めておく。口に出したら不貞腐れるからな。そこもかわいいのだが。

 

 この時、関係各所は大いに炎上した。とは言え、船の操縦をしたのも、実際に船の上でヒトガタと対峙した記者も、それぞれが各組織の重鎮達であったため、賛否両論が別れるものであった。批判の方が圧倒的に多かったが。

 俺自身、よくもまあこの平和ボケした日本でそんなことができたもんだと思いつつ、その命を犠牲にしてまで真実の一端を解き明かした蛮勇に近しい勇気と覚悟に思わず尊敬の念を浮かべてしまった。その裏にどんな欲があったのかは知らないが。

 

 さて、そんな訳でこの人間社会を揺らがしかねない未知の存在を観測した我ら人類だったが、奴ら――《深海棲艦》と名付けられた存在達に対する対応策は見つけられなかった。核兵器を含む現代兵器は軒並み有効打とはならず、傷一つ付けられない。

 あの中継映像の時に映ったエビこと《駆逐イ級》を米軍のイージス艦四隻を犠牲に鹵獲したものの、彼らの装甲とも呼べる甲殻の研究すらろくにできなかった。そうして成果を上げるどころか、塞いでいた口から強引に放たれた砲弾により、研究所諸とも自爆された。ついには、報復とばかりにロサンゼルスとシアトルの港が深海棲艦の襲撃により壊滅させられた。それに続くように各国の主要な港が攻撃され、我々日本も札幌と横須賀などが壊滅的な被害を受けた。俺の故郷、岩手の宮古港も攻撃されてしまった。

 シーレーンだけではなく、海への玄関口である港までもが深海棲艦によって落とさたことで、完全に制海権を人類は手放した。よもや、人類はこのまま深海棲艦に手も足も出ない状況で滅ぼされるのかと思われた。だが、『捨てる神あれば拾う神あり』とは良く言ったもので、突然現れた彼女らのお陰で人類の歴史はもう少しばかり続くことになった。

 

「綾波型駆逐艦「漣」です、ご主人さま。こう()書いてさざなみと読みます。これからよろしくお願いしますね!」

 

 第二次大戦の終戦以降、およそ70年ぶりに復活した『海軍兵学校』にて、今しがた入学式を終えた俺の前に現れたのは、ピンク色の髪をツインテールにしたセーラー服の少女。少女は良くて中学一年生くらいの身長をしており、かわいらしい丸みを帯びた字で『漣』と書かれたノートの切れ端を持ちながら俺へと名乗りを上げた。

 綾波型駆逐艦だなんて自称するおかしな少女に見える彼女だが、彼女――漣の言うことは何も間違いではない。この地球に深海棲艦が現れて二ヶ月が経った頃、突如として現れたのが第二次世界大戦に活躍した軍艦の名前と魂を持つ少女達――通称『艦娘』。彼女達は艤装を装備することで過去の軍艦と同等の力を発揮することができるとされ、更にはその艤装の力は現状で唯一の深海棲艦に有効打を与えることが可能なのだ。

 

 『艦娘』が現れたことで深海棲艦への抵抗が始まり、世界情勢は新しい形に適応したことで――少しずつ落ち着きを取り戻し始めている。しかし、制海権を取り返すことは叶わず、せいぜいが陸地を攻撃されない程度に戦線を押し返し、両者拮抗の状況を作れた程度だった。

 とは言え、状況が好転したのは間違いなく、少しばかりの余裕ができた以上、二手三手先を見越して準備を行うのは必然のこと。そして、その準備を行う為に用意されたのがこの海軍兵学校である。俺はこの海軍兵学校の一期生として入学し、漣はいずれ俺の初期艦として配属される予定のこの学舎で共に学び高め合う相棒となる。

 

「海軍兵学校一期生、雨宮 海斗だ。こちらこそ、これからよろしく頼む。この国を守る為に共に強く賢くなろう、漣」

「は、はいっ!」

 

 俺は漣の挨拶に返しながら右手を差し出す。漣も右手を差し出し俺との間でガッチリと掴み合った。

 

 

 ————————

 

 

 そうして、俺と漣の海軍兵学校での生活が始まった。のだが、幾つか俺の身に不思議なことが起きたのだ。

 

「なぁ、漣」

「なんですか、ご主人さま、?」

「さっきから気になってたんだが、その肩に乗ってるナマモノはなんだ?」

 

 それは、漣が初の海上演習に参加した後の昼食でのことだった。俺がきつねうどんを啜っているとどうも漣の方から漣とは別の視線を感じて、そちらを見れば小人のような自棄にデフォルメされたナマモノが此方を見ていたのだ。

 演習前に漣と会ったときにはこんなナマモノはいなかったから、恐らく演習後に漣へ取り憑いたのだろうが、果たしてコイツの目的は何なのか。漣は何か知っているのではないかと彼女へと話を振った。

 

「え、ご主人さまは妖精さんが見えるんですか!?」

「妖精さんってのは、今も俺のうどんを狙っているらしきちっこいナマモノだよな?バッチリ見えてるぞ」

「えぇー……妖精さんは普通の人には見えないんですよ……?見えるのは元帥様とか大将様とか港湾部奪還の英雄くらいなんですよ、ご主人さま」

 

 どうやら漣達艦娘には普通にこのナマモノは見えているらしい。しかも、普通の人間にはナマモノが見えていないらしい。確かに、周囲を見回してみれば艦娘の肩には漣と同じようにナマモノが乗っかってるように見えるが、艦娘達と会話している殆どの学生達はナマモノに気付いている様子はない。しかし、どうやら一部の学生達は俺と同じく見えているようで艦娘の肩に視線をチラチラと向けていたり、肩を指差して何かしら言葉を発しているのが見える。

 

「まぁ、確かに俺はどうやらナマモノが見える適性がある稀有な人種らしいが、そんなに珍しいものではないらしいぞ」

「そうみたいですねぇ、はぁ……ご主人さまがチートみたいな人じゃなくて、漣は安心しましたよ」

「なんだその言い種は」

「だって、ご主人さまが有能な人材だったら危険な戦地に二人だけで飛ばされたりしそうじゃないですか。いずれ行くならともかく、いきなり最前線に行くのなんて、漣は嫌ですからね」

 

 おい、国を守る艦娘がそんなことを言っていいのかよ。とは思いつつも、漣のその言葉には激しく同意である。そもそも、俺がこの学校に来たのだって家族が安全かつ幸せに暮らせるようにするためだ。

 嬉しいことに、今回の俺は前回と比較しても家族との仲は良好だ。何せ、俺が兵学校に行くと決めた時には家族全員から号泣して止められるくらいには愛されているのだ。だからこそ、俺の帰りを待ってくれている家族に悲しい想いをさせないためにも、簡単にくたばるわけにはいかないのだ。いずれ命を掛けてでも立ち向かわないといけない壁もあるだろう。

 しかし、それは序盤も序盤でやることではない。命を掛けるのは戦争終盤のここぞという時の一回きりだけでいい。と、そう心に決めている。勿論、それは俺だけじゃなくて俺に着いてきてくれる漣達艦娘もだ。

 

「俺も、最初から最前線は嫌だな。無駄死にはしたくない」

「ですよね!」

『おい』

「んあ?」

 

 そんな兵士としてあるまじき会話をしていると、不意に俺の下から声が聞こえた。漣も俺の下にあるうどんが入った丼の近くに視線を落としている。

 

『おい、てーとく。そのうどんよこせ』

「おい、漣。なんだこのナマモノいきなり図々しいんだが」

「ご主人さま妖精さんの声も聞こえてるんですか!?……ま、まずい漣達もしかしたら本当に最前線コースかも……!」

 

 図々しくも俺に飯の要求をしてきたナマモノがいた。どうやら腹を空かしているらしい。頼み方がなっていないが、まぁそこら辺は教育していけばいいだろう。俺はカトラリー入れにあった大きめのスプーンに細かくきったうどんを載せてナマモノの前へ置いた。箸は……仕方ないが爪楊枝を折って代用しよう。

 

「熱いぞ、火傷すんなよ」

『ありがとう、てーとく』

「あぁ、あと爪楊枝折ったせいで、ささくれ立ってるからケガに気を付けて」

『わかった、ありがとう』

 

 俺がうどんを渡すと素直にお礼を言うナマモノ。ナマモノはちっこい身体を頑張って動かしてうどんをハムハムと食べ始める。なんだコイツ結構かわいいぞ。

 

「ふふ、ウマイか?」

『うん、おいしい』

「そうか、お代わりはいるか?」

『いる!でも、あとでほしい』

 

 愛いヤツめと、ナマモノの頭を人差し指で軽く撫でてやると心地良さそうに目を細めるナマモノ。凄い落ち着くなーと、ほのぼのしていると目の前から視線。

 

「…………」

「……どうした、漣」

「いえ、なんかご主人さまがお兄ちゃんみたいだなーって」

「俺は四兄弟の長男だからな」

「はぇー、やっぱり。……って、違います違います。そんなことより、ご主人さまが妖精さんの声を聞こえているのはかなりマズいですよ」

 

 そんな漣の言葉でまったりとした俺たちの空気が引き締まった。漣が言うには、ナマモノの言葉を理解できるのは艦娘だけで、人間には今のところ一人も会話できる人間がいないのだとか。

 

「なぁ、漣。それの何が問題なんだ?さっきから思ってたんだが、そこのナマモノがそんなに重要な存在には見えないんだが?」

「はぁ、分かってないですねぇご主人さま。この漣ちゃんが教えてあげましょう!」

 

 漣曰く、ナマモノこと妖精さんは艦娘の艤装に入り込んで、砲の命中率だったり、艦載機の操縦だったりをしてくれるサポーターなんだとか。他にも、艦娘の建造だったり、艤装の開発にも妖精さんの力は必要不可欠なんだとか。

 つまり、妖精さんと意志疎通を図れると言うことは艦隊指揮において大きなアドバンテージを発揮するのだそうだ。漣と相談した結果、この能力については教官に伝えることにした。伝えるよりも伝えなくてバレた時の方が怖かったからだ。

 

 その結果、案の定この切羽詰まった状態でそんな強力な人材を腐らせる筈もなく、最前線行きが確定で決まってしまったのだった。しかし、鎮守府着任時には多大なバックアップをして貰えたから良しとするが。

 

 そう、これが俺の身に起きた不可解な出来事の一つ。妖精さんとの意志疎通能力である。

 

 

 ——————

 

 

 そして、もう一つ俺に不思議なことが起きた。それは、始めての対抗演習の時だった。

 

「漣、調子はどうだ?」

『完璧ですね、ご主人さまこそ大丈夫ですか?始めての演習ですからねぇ緊張とかしてないですか?』

「漣となら問題ない。必ず勝てるさ」

 

 俺は演習場がよく見える指令室で漣と無線でやり取りをする。漣の戦意は程よく高い状態を保っていて、俺も漣も多少の緊張感こそあれど、視野は広く保てている。漣が言うには、妖精さんの士気も最高潮。まさに絶好調の状態だ。

 

「対戦相手は軽巡一隻で此方が火力面で劣っている。しかし、機動力は俺たちの方が上だ。作戦は昨日立てた通り、煙幕炊きながら突っ込んで接近戦でボコす。相手の弾と魚雷は気合いで回避。以上」

『いやー、昨日はハイテンションで決めましたから気になりませんでしたが、なかなかぶっ飛んだ作戦じゃないですかねぇ、ご主人さまァ!?』

「健闘を祈る」

 

 俺はそれだけ言ってマイクを切る。回線では未だに漣がギャーギャーと作戦に対して文句を言っているが、俺の予想ではこのままの作戦で問題ないだろうと睨んでいた。

 証拠は、俺の視界に浮かぶ漣の《ステータス》。どういうわけか、今回の演習が行われると周知された時から、正確には漣を俺の艦隊として指揮をすると明確に意識した時からこの情報が見えている。

 俺が見える情報は『耐久』、『火力』、『装甲』、『雷装』、『回避』、『対空』、『対潜』、『速力』、『索敵』、『射程』、『運』、そして、装備している艤装の情報だ。

 

「ふむ、やはり向こうの命中よりも漣の回避の方が数値が高い。速力も高速だし、安定して回避できる可能性がある」

 

 そして、この指令室に着いて敵方の資料を、読んだ時には、相手の敵艦の情報が同じように数値として見えた。その数値を比較して恐らく問題ないと判断したが故の今回の作戦である。

 この数値化する能力はかなり有能で、艦娘の能力の数値化だけでなく、被弾箇所の把握までできる。どこの部位にどれだけのダメージがあるのかが図形式で分かるのだ。タル○フの部位ダメージの表記みたいな感じだ。

 

「漣、相手が煙幕に向けて射撃体勢に入った」

『了解です!漣の本気を見せてやりますぞ!!』

 

 そうして始まった演習戦は此方の想定通りに進んでいった。俺は、漣が煙幕を展開して視界が潰されている時に煙幕外での相手の動きを伝えるだけの役割に徹して後は現場の判断に任せている。

 

「漣、相手が煙幕内に魚雷を散布した。本数四本の散布角度およそ45度」

『なんでそこから角度まで出せてるんですかねぇ!?了解です!!』

 

 漣が展開した煙幕に消えていく無数の砲弾と魚雷達。しかし、漣には一発とて当たらず遂に漣は相手の軽巡を射程に捉えた。

 

『反撃開始ですよぉ!!主砲撃てェ!!』

 

 煙幕から飛び出した漣は相手軽巡に向けて連装砲を向けた。ドンッドンッと二度響いた砲音と共に相手軽巡に砲弾が飛んでいく。

 相手軽巡は一発目を回避するが二発目が脚部に命中する。判定は未だ小破だが、脚部の艤装の故障により、機動力が数段落ちている。

 

「漣、相手軽巡の脚部艤装に命中だ。機関部の故障により、機動力低下。チェックだ、畳み掛けろ」

『了解ですぞ!!雷撃戦用意!!』

 

 俺が戦況を伝えると漣は魚雷達を発射した後、漣もまた軽巡へと突っ込んでいく。敵軽巡は慌てつつも回避行動を取ったことで、何とか魚雷を回避することに成功する。

 

「今だ、漣」

『ふっふっふ、そこなのね!チェックメイト!!』

 

 しかし、回避先に回り込み主砲を構えていた漣の主砲斉射がクリーンヒット。クリティカルヒットによる轟沈判定だ。対する漣はノーダメージ。

 

「よくやった、漣。俺たちの完全勝利だ」

『どうです?漣の本気は凄いでしょ?』

「あぁ、流石だな。この調子で一緒に腕を磨いていこう」

 

 教官の勝敗宣言を聴きながら俺と漣は会話を交わす。きっと、俺も漣も始めての演習で納めた初勝利に笑みを浮かべていたのだろう。その日は、夕飯の時から二人でこれからのことを延々と話し続けた。そのせいで、夜遅くになり翌朝二人揃って遅刻したのだが、そこはご愛敬と言うヤツだ。

 

 さて、これが俺に起きた二つ目の変化。艦娘のステータスを確認できる能力。これに関しては、俺と漣、一部の俺配下の艦娘の間だけの秘密で、鎮守府に艦娘が増えた後もそれは変わっていない。妖精さんも知ってはいるが、彼らも秘密にしてくれている。

 

 

 ————————

 

 

 それからの学校生活は特にそれといった特徴はなく、勉強し、特訓し、漣と絆を深め、成績優秀者として追加の艦娘の建造をしたり、長期休みには艦娘を連れて帰郷したりと普通の兵学生生活を行った。

 まぁ、俺の自慢の弟と妹にも妖精さんが見えていたり話せたりとちょっとしたハプニングもあったが、その話しは置いておこう。弟妹三人を兵学校に入学させない為にも、このことは墓まで持っていくつもりである。もしバレても俺の権限で色々とさせて貰うつもりである。

 

 そして、海軍兵学校を首席で卒業した後は、横須賀の第一鎮守府の提督に見事着任。漣を筆頭に、兵学校で俺の部下となった朝潮、時雨、由良、川内の五人を中心に出撃しては深海棲艦の殲滅、出撃しては深海棲艦の撃滅、建造して新しい艦娘を仲間にして、また出撃の繰り返し。

 

 そして、気付けば八年が経ち、もう少しでこの戦争も終わりを迎えそうになっていた。

 

 なんて、色々と思い出してみたが。

 

「ふぅ、ふぅ……あっぶねぇ、意識飛んでた。これが走馬灯ってやつか……」

『てーとく、これいじょうはあぶない』

『にげて!』

 

 横須賀の港が焼けている。俺以外の民間人軍人は既に避難が完了している。ただの軍人が残っても無駄死にするだけだしな。

 

「……まだ、だ、ここで全てを終わらせ、る」

 

 今は、深海棲艦の最後の攻勢の只中だ。眼科に広がる夜の海には未だ砲撃による火花が見える。

 

「まだ、俺の艦隊は戦っている。……戦えている。ぜぇ……ここで、俺が引いたら勝てるものも勝てなくなる」

 

 天井が崩落した瓦礫でぶつけた頭が酷く痛む。通信機を持つ手が震えている。今もこの通信機の先で俺の言葉を聞いて戦っている大切な戦友(家族)がいる。

 

「…………損耗率が上がっている。長期戦による弊害か。妖精さん、ドックは使えるか?」

『もうぜんぶこわれてる』

「チッ、仕方ないか。……総員、中破した艦娘は大破した艦娘を護衛しながら撤退せよ。ただし、海から上がらず艤装は外すな。繰り返す——」

 

 戦闘できない大破した艦娘を下げてドックにて高速修復剤による修理をしようとしたが、使えないんじゃ仕方がない。ないものに文句を言っている余裕はない。

 

「漣、敵の殲滅具合はどれ程だ?」

『ふぅ、ひゅう、ど、どれ程もなにも……暗闇のせいで全部で……何体の深海棲艦がいるのかも、分かりませんよ。何体倒したかも数えてませんし……ふぅ』

「そうか、とにかく戦い続けるしかない、か」

『こふっ、そうなりますねぇ、ご主人さま……。……ッあっぶな。本当に見えない』

 

 漣に戦況を確認しても、あまり的を得た回答を得られない。この夜襲自体が我々には予測不可能であったが故に、完全に対応が後手に回っているのも原因か。

 

「大淀、こちら提督。周囲の鎮守府への援軍要請はどうなっている?」

『こちら大淀、どこの鎮守府からも応援は出せないとのこと』

「何故だ」

『……どうやら、横須賀周囲の海域にも広範囲に渡って深海棲艦が出現しており、そちらへの対応で手一杯とのことです』

 

 なるほど……。俺は通信機のマイクをOFFにした。

 

「ふぅ、詰み、か。これ以上は犠牲なしにこの戦いを納められそうにない」

 

 にしても、暗闇で敵が見えない、か。確かに、深海棲艦どもは黒い個体が多く、夜戦で相手すると黒がそのまま迷彩となって非常にやりにくい。

 待て、俺たちは今まで夜戦をする時には何を使っていた?

 

「探照灯、照明弾……ッ!妖精さん、最後のお願いだ!ありったけの光源を此処から戦場に向けて焚いてくれ!」

『てーとく、それはきけない』

『あぶないよ』

『てーとく、にげて』

「頼む、此処は指令室。此処を、此処にいる俺を潰すことこそが奴らの達成目標だ。だからこそ、それを囮にして、奴らを光の下に引き摺り出す。俺たちの目標は俺の生存ではない。人類の生存だ。だから、頼む妖精さん」

 

 俺は、思い付いた最後の策を実行するために妖精さんへと頭を下げる。多分、漣には死ぬほど怒られるだろう。他の艦娘達にも怒られるだろう。

 多分、俺は死ぬのだろう。だが、日本と深海棲艦の戦争が終わることに比べれば、俺の命一つ程度で済むのなら訳がない。何よりも、俺の部下を一人も死なせないためにも、命を掛ける時が来たんだ。

 

「総員、聞いてくれ。最後の指令だ」

 

 震える手で無線を繋ぐ。妖精さん達が後ろで動いてくれているのが分かる。何人かの妖精さんが泣きそうな声で動いているのが分かる。

 

「これより、二分後に指令室から戦場に向けて光源を放つ。それに合わせて、最後の攻勢を仕掛けて欲しい」

 

 無線機の向こうで艦娘達がざわつく声が聞こえてくる。俺はそれを意図的に無視して言葉を続ける。

 

「恐らく、指令部は吹き飛び、私は死ぬのだろう。だが、君たちが臆することは何一つとしてない。これは、国民の安全、延いては世界の運命を大きく変える戦いだ。何をしても、必ず奴らを殲滅して完全勝利しなくてはならないのだ。また、一説によると、艦娘は沈めば深海棲艦となると聞く。故に、真偽は定かではないが、念のためこの戦いで戦いの後で君たちが沈むことを一切禁ずる」

 

 ざわざわと無線が余りにも多くの艦娘の声が混線して良く聞こえない。やめてくれと叫ぶ声が聞こえる。ダメだと俺を止める声が聞こえる。

 しかし、もう止めるつもりはない。

 

『てーとく……じゅんび、できたよ』

「そうか、ありがとう。君たちは艦娘達のアフターケアを頼む。後は俺一人で何とかしよう」

 

 俺は、集まっている妖精さん一人一人を撫でてから外に逃がした。妖精さんから受け取ったのは一つのボタン。これが全ての光源に繋がっていて、ボタンを押すだけで此処は戦場で一番目立つ場所へ早変わりだ。

 

「漣」

 

 俺は、艦隊全てに繋がるチャンネルで俺が最も信頼する少女へと話し掛ける。それと同時に、無線機の設定をいじくり、漣にも俺と同じ受信設定に切り替える。

 

「これより、この艦隊の全指揮権を譲渡する」

『…………承知、しました。綾波型駆逐艦9番艦 漣 横須賀鎮守府第一艦隊の指揮権を一時的に譲り受けます。必ず、貴方に返しますから』

「あぁ、俺も返して貰うように頑張って足掻くとしよう」

『……約束ですから』

「あぁ、約束だ」

 

 さて、時間だ。俺は無線機の電源を落とした。これで、完全に一人だけとなった。俺は光源のスイッチと拡声器を手に壁が壊れて風通しの良い窓際まで歩いた。そして、スイッチを押す。

 

「全艦注目!」

 

 拡声器で大きくなった声が横須賀湾に響き渡る。それまで疎らに響いていた砲声が聞こえなくなる。そして、よく見えているぞ、深海棲艦。

 

「これが最後の戦いだ!」

 

 深海棲艦達の砲塔が一斉に俺の居るこの部屋に向く。濃く薫る死の気配に思わず背筋が凍って今にも逃げ出したくなる。恐怖か疲労故か足は震えているし、頭を打った視界は既に限界なのか揺れて見えるし、額から溢れた血が滲んで赤くも見える。

 艦娘達は、この死の恐怖と常に向き合って戦っていたのだと思うと、後ろから指示を出すだけだった俺が愚かしく見えてくるものだ。最後にこうして同じ景色を共有できたのが嬉しく思うのはおかしいのだろうか。

 深海棲艦達が俺を撃つ。そう思ったが、その前に艦娘達の砲撃が深海棲艦達を襲った。一番前を走るのは漣で、その後ろをうちの主力の改二改装艦達が追いかけている。一人だけ改改装なのにも関わらず獅子奮迅の活躍を見せる漣に何処か誇らしい感情が湧いてくる。やっぱり、お前に任せて正解だったよ。

 一人の真っ白な深海棲艦と目が合った。ニタァと不気味な笑顔と共に連れている黒いデカブツの開いた口が俺へと向く。あの口が砲塔なのだろうか、とどうでもいいことを考えてしまう。漣が白い深海棲艦に砲撃をするが、近くにいた戦艦ル級が白い深海棲艦を庇って沈んでいく。

 漣が白い深海棲艦に手を伸ばしているのが見えた。でも、きっとその手は届かないのだろう。あの深海棲艦に撃たれる前にこれだけは言わねばならないなと思って口を開く。

 

「各員、暁の水平線に勝利を刻むのだッ!!」

 

 白い深海棲艦の砲声と共に俺の意識は潰えた。世界に誇る横須賀第一鎮守府 陥落の瞬間であった。しかし、翌朝の朝刊には海上に一人佇む漣の写真と共にこんな一面が載っていたのだ。

 

——人類、横須賀の水平線に勝利を刻む!!

 

 この日、日本は世界で初めて深海棲艦から制海権を取り返したのだ。しかし、未だ油断はならない状況にある。

 深海棲艦の残党は各海を跋扈しているし、残存基地だって多く残っている。日本が解放されたとはいえ、海外の諸国は未だに深海棲艦との戦争の只中であり、課題は山積みである。つまり——

 

 

 ——まだ、英雄が眠るには早いのだ。

 





初回は時雨かなぁ。(漣はトリにしたい気分)
まぁ、気分なのでいきなり漣かもしれない。

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