沈む 沈む
暗い 重い
されど浮遊感のある感覚
緑の光が見える
父様の声が聞こえる
『何故あの子を否定する!?』
怒号の先の男性は落ち着いている
『俺は、お前とラルゴの事が心配なんだ。』
誰だっけ 見覚えはある
父様と兄さんを?一体何を
『私はお前の味方だ。』
兄さん いつかの記憶
何を教えられても失敗していた自分を慰めてくれたんだっけ
『例えお前が・・・・・・何がどうなろうと、俺は。』
『━━━━━━━━━━』
この人は 母様だ
記憶に無いけど 父様と結婚した記念絵で何度か見た
産んだ日に死んでしまった 母様
『━━━━━━━━━━』
言葉が聞こえない だって話した事もない
けど途中の四文字だけ口の動きで察する事が出来た
『ごめんね。』
緑の光が見える。
緑の光が見える。
何故だろう、この光を昔から見ていた気がする。
もっと昔からこの光と。
そして横にあるのは最近になって見慣れた魔剣。
隣同士のそれらが近づく。
緑と黒が混ざり 光が大きくなり
最後には私を
浮かぶ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「・・・?」
見慣れた天井だった。
割り振られた自室。
綺麗にしているが、そもそも物を増やす事もないので散らかす心配もない部屋。
「俺は・・・昨日・・・何があったんだっけ?」
記憶があやふやで頭が痛い。
何か壮大な事をやらかした様な気がする。
「昨日の記憶が抜けるなんて一体何を・・・」
「もう一昨日の話ですよ。」
起き抜けから心臓が飛び出そうになった。
自室に他の人がいるなんて思いもしないだろう。
件の人物は室内のキッチン部から歩いてきたのだ。
空色の髪、緑の目、そして何より彼女はメイド服を着ていた。
「全く・・・殿下達が働いている中、1日寝たっきりなんて
そんなので従者が務まるのですかぁ?」
顔合わせ一発目に詰られて面食らったが、以前にソナタ様から聞いていた人物だった。
「ロンド・・・様・・・ですよね?」
「はーい
・・・何故か何を言ってもぶっきらぼうに返される。
「あの、私に何かしましたか?」
「いいえ?むしろ
・・・非常に非常な宣告に冷や汗が垂れる。
と、ここで自分の腹が鳴ってしまう。
先程から良い匂いを感じていたからだ。
「・・・ま、なんにせよ腹拵えからですね。
水は時折含ませていましたが、腹の虫はそうもいかない様子。」
そう言い、後ろ手に持っていた鍋を寝具のサイドテーブルに置かれた。
鍋を後ろ手に持つ事なら家政として当然のスキルだ。
「お、おお!」
「グアードバード・・・いえ、エルスタニアでなら『
胃に優しいように肉と脂は最小限、野菜も繊維状になるまでライスと一緒に煮込んでいます。」
見るからに美味しそうなリゾットが置かれた。
見える全ての具材がスープを吸ってクタクタになっていて匂いから全ての旨みが詰め込まれているのが見て取れる。
「ああ、ありがとうございます!
いただきます!」
一緒に置かれたスプーンをとり、1口。
美味い、既にホロホロになっている鳥肉のガツンと来る旨味の後ろに気遣いを感じる優しさもある。
そしてその旨味の中に微かな酸味を感じた。
「・・・柑橘?」
「オレンジを絞ってスープに溶かしています。
ビタミンが不足していましたから。」
なかなかのメイドだと再認識した。
これからの執事としての腕前はこの方に師事してみようかと心に残す。
「ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。」
食べ終わると同時に鍋と器具を回収してキッチン部に持っていく。
その所作には確かな気品も感じる。
だが、違和感をずっと持っている。
言葉に出来ない、何かも分からない違和感を。
「さて、お腹一杯になって下さいましたかね?」
「ええ、ありがとうございます。」
「えぇえぇ
それでは。」
そう言うとロンドがベッドに座るレントを押し倒したのだ。
「ロンドさんの聞きたい事、話してくれますよねぇ?」
レントはロンドの言葉が入ってきていなかった。
「い、『イル=クローディア』!?何故貴方がコレを」
「質問に質問で返さないで下さい!!
黙って質問に答えろってんです!!」
普段の彼女を知っている人ならひっくり返るような怒号。
それは同時に彼女の焦りのようなものも滲み出ていた。
「不死は死なない、なれど
ロンドは凶器となったスプーンを近づける。
「ハイかイイエで答えてください。
それ以外を喋るなら喉を切り潰します。」
「・・・・・・」
レントは状況を観察し始めた。
彼女もカノン様と同胞のブレイドラインの一人のはず。
何故このような強行に及んでいるのか、調べたかった。
だが、その目論見も一言目に瓦解する。
「《アレグロ》という男を知っていますね?」
「!?な、」
「二度は言いません。」
レントは少し逡巡して頷いた。
その名前を知っていた。
「二つ目、貴方は彼と関係者ですか。」
「・・・ハイ。」
「三つ目、貴方と彼は親戚ですか。」
「・・・ハイ。」
「四つ目、貴方と彼は会ったことはありますか。」
「・・・イイエ。」
その言葉に何故かロンドの琴線に触れた。
「嘘つかないでちゃんと答えて下さい。」
「本当ですよ、私はその人と面識なんて無い。」
本当だ、
「なら五つ目です。
『レント=バラードを見定めろ』という言葉の真意は分かりますか?」
その言葉には心底疑問しか湧いてこなかった。
だって私は彼と会った事すらない。
「イイエ。」
「だからっ!」
「貴女が何を知りたいのか知りませんが、俺はあの人に会った事なんてない!!
俺が知っているのは名前と
知っている情報のほぼほぼ全てを詰め込んで叫んだ。
叫びから程なく沈黙が訪れる。
こちらが沈黙した事によってロンドは聞く事が無くなったのか、レントの上から降りた。
「・・・そんな・・・なんで・・・」
「何を聞きたかったのか、知りたかったのか知りません。
ただ、こちらも聞かせて下さい。
貴女はあの人のどういう関係なんですか。」
五つ目の質問の意図も未だ解さない。
代わって質問をしようとした所でロンドを見れば大粒の涙を流していた。
「・・・うっ・・・ぐすっ・・・」
「え、あの、え!?」
目の前で泣かれ、ベッドにシミが増えてしまっている。
どうしようと手をこまねいてる時、
扉がゆっくりと、開く音がした。
「ロンドちゃんが看病してるからって様子を見に来てみれば〜・・・・・・
突然大声が聞こえてきたかと思えば〜・・・・・・・・・
中を見たらロンドちゃんが泣いてて〜・・・・・・
一体何してるのかな〜?お仕置、必要かな〜♪」
扉の先がなぜか闇で、
その闇に浮かぶ人影。
闇の先で漆黒のシスター服を纏っている。
ピンクの髪が揺れ、顔が見える。
「ぎゃ、ギゃアアぁあアァああああ!!!!」
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怖かった、絶叫した。
まさかシスター様がこんなに恐怖の対象になるとは思わなかった。
「はい、お水♪」
「ト、トロイさん、ありがとうございます・・・」
ロンドはシスターに介抱してもらい落ち着きを取り戻していた。
執事とメイドとシスターが一室に集まっている。
このヘンテコな光景に自分も少し平静を取り戻す。
「じゃあ何でロンドちゃんを泣かせてたのか、話し合いをはじめよっかぁ♪」
「誤解です!一度話を聞いて下さい!」
レントは一生懸命説明した。
質問の内容や回答はぼかして伝えた。
「ふーん、そっかー。
真実が分かってなお、笑顔が怖いシスター。
この方の名前もソナタ様から既に聞き及んでいた。
「トロイメライ・・・様で宜しかったでしょうか。」
「そうだよー♪
ヨハンナ=トロイメライ=シュミット、トロイさんで良いからねー♪」
「分かりました、トロイメライs」
「トロイさんで良いからねー♪」
「・・・トロイ様。」
流石、騎士団。
所属している人も女性といえど強い方ばかりだ。
・・・体も心も、決して強情だと思っても言えない。
この人への失言は=死だと思って接しよう。
「ん〜及第点かな〜?草〜♪」
「ふぅ、すみません!
ロンドさん、回復しました!」
小さくなっていたメイドが立ち上がる。
泣いた跡も無い、完全に持ち直したようだ。
「本当〜?試しに一本いっとく〜?」
「トロイさん!?それは本当に
「あはは〜本当に回復して花〜♪」
トロイは取り出した赤い針をポケットに戻す。
・・・本当にシスターなのだろうか。
「さて、今度はこちらから質問を返しても良いでしょうか。」
「・・・はい。」
ロンドも今度は真っ直ぐとこちらに見やる。
「なんだか流れで居るけど、トロイさん離れた方がいい〜?」
トロイを見れば自分で顔を突っ込んだ手前、少し気まずそうだ。
「・・・いえ構いませんよ、聞かれて困る事はもうありません。
言っていく上でブルーさんと風雅さんには知られている話をきっとしますから。」
ロンドは何か覚悟ある目をした。
「・・・では。
貴女はアレグロ・・・私の叔父のアレグロ=バラードとはどんな関係なんですか。」
「・・・端的に申し上げれば、あの人はロンドさんの師匠です。
もっと言えば師匠の一人と言いますけど。」
「・・・叔父も執事だったはず、その人が師匠となると同僚としての関係だったのですか。」
「・・・・・・違います。
あの人は私に
「え?」
「な?」
「彼はエルスタニア名家のバラードだと名乗り、仕官を嘆願してきたのです。
素行調査したメイドからは大層不遜な方だと毛嫌いされていました。
それでも彼は実力を周囲に見せつけ、周りから認められていました。」
驚愕の事実しか無かった。
仕官? メイド? 認められた?
いや、それより。
「貴女は貴族だったのですか!?」
「は、はは、そうです。
プレギエーラ家、と言えば伝わるでしょう?」
「は!!?」
プレギエーラ家、何かと黒い噂があったエルスタニア帝国の黒貴族の一つ。
周りの人間が死んでいき、本家がどんどん成長していった。
それはプレギエーラ家には暗殺者だの死神がいるだのと噂がまことしやかに囁かれていた。
「貴女が・・・その御息女なのですか!?」
「たはは、そんなに驚かれるとは・・・
自ら明かしていくのも
ここまで漏れていないのも、また『完璧』故か。
と、ロンドは小さく零した。
「クローディアを持っていたのはつまりそういう事でしたか・・・」
「それについてはロンドさんも
『聖式イル=クローディア』代々プレギエーラ家に伝わる秘術。
その正式な伝承者として継いだロンド。
それを何故、レントが知っているのか。
「・・・クローディアは元々、初代バラードなのです。」
今度はロンドが驚く番だった。
自ら使っていた技のルーツが名家バラードのものだとは。
「彼女が使っていた暗殺の技。
それが『イル=クローディア』。」
それからレントはバラード家の歴史を語った。
「初代は暗殺者として当時のエルスタニア皇帝を狙って襲いました。
しかし、失敗に終わり捕まった彼女を皇帝は放免とした上で登用する事に決めました。
その事に感動した彼女は以来、皇帝の周りの世話をする家政と護衛の役割を得て、バラードと名乗り今代までのバラード家が生まれました。」
「そして数代の後、護衛として暗殺の技など必要なくなった彼女の残した技の正式な使用者がバラード家を追放されました。
それにより、バラード家にはクローディアが使っていた暗殺術は失われ、以来口伝による伝説しか残っていません。
おそらくロンド様の家に伝わったそれはいつかの『不忠者』の逃亡先だったのでしょう。」
ロンドは固まっていた。
まさか自分の家にそんな話があったとは。
驚愕するロンドの横で静聴していたトロイが口を開いた。
「『不忠者』って?」
「バラード家はそれなりに歴史がある家でして、やはりそれなりの分家にはエルスタニア皇室には仕えないという方もいまして。」
「そういう方をバラードとは名乗らない事を条件に追放されています。
その人を本家である我々は『不忠者』と呼んでいました。」
レントの話にロンドが挟まった。
「アレグロも、ですか。」
「はい、そう聞いています。
私が生まれる前の話ですが、当主の父と喧嘩したようで自ら家出したそうです。
なのに、何故バラードと名乗り図々しく仕官など・・・」
ロンドが引っかかりを覚える。
「
「はい、そこが一番の疑問なんです。
何故私が生まれる前に家を出ていった叔父が自分を見定めるなんて貴女に託したか、これも叔父の言葉なんですよね?」
ロンドは一つ頷いて言葉を紡いだ。
「彼は私に優しくしてくれていました。
『完璧』を求められる家で彼と当時のメイド長、2人だけが親身になってくれていました。
不相応だと思いますが、2人目の父とも感じていました。」
にへらと笑顔を浮かべる。
それ程の思い出があるのだろうと感じる。
しかし、
「しかし彼は殺されました。」
途端に寂しそうな顔を浮べる。
「いえ、
「え?」
今度は驚いたのは自分だけで。
トロイ様には少し心当たりがあるような顔をして。
「彼がバラード家としてクローディアを奪い返しに来たと思った両親に命令されました。
その中で彼も殺される覚悟を私に向けてきて・・・」
少しロンドの肩が震えている。
「彼、死ぬのが分かっていたようなのです。
だから私のナイフが心臓を貫く前に言ってきたのです。」
そこで一呼吸、心を落ち着かせて吐いた。
「『カノン殿下の付き人のレント=バラードを見定めろ』と言いました。
それが彼の最後の言葉でした。」
その言葉にまた不気味な文言があった。
「
ちょっと待ってください、何故叔父がカノン様と・・・」
「知らないからロンドさんは貴方に聞きたかったんですよ!
何で私はお世話になったあの人の遺言すら理解出来ないんですか!?
私は・・・私は一体どうしたら・・・!?」
その時、ロンドの頭を撫で自身の胸に抱き締めた人がいた。
「よーしよし、トロイさんが迷える子羊の悩みを溶かしてあげるからねー」
トロイが頭と背中をとんとんと叩く。
「今は期待していたものが外れただけ、ゆーっくり皆で考えてこ。
誰も急かさないし責めないよ。」
その見た目は子供をあやす修道女そのもので、レントは口を出せずにいた。
「・・・・・・申し訳ございません、私からは言える事などありません。
けど、これだけは言えます。」
座り直し、ロンドを真っ直ぐ見つめる。
「私は逃げませんし、一緒に考えます。
どうやら私も無関係では無いようですし。」
言える分は言った。
後はロンドが落ち着くまでなのだが、
「・・・・・・大丈夫ですよ。
・・・全く、今日だけでどんだけ
落ち込み気味なロンドにトロイは笑顔で答える。
「じゃあロンドさんのお願い事一つ聞いてあげたら戻るかなー?」
その言葉にロンドの目が光った。
「お、トロイさん?駄目ですよぉ?
傷心者のメイドに『何でも』お願い事を聞いてくれるだなんて
「何でもは言ってなくて草ー森ー♪」
トロイはいつもの調子を装ったが、内心『言ってしまった』と後悔していた。
このメイドに自身の自由を与えては何をするのか分からないからだ。
「むふふ、どうしましょうかねぇ?
これはブルーさんも呼んで大パーティーですよ!
レントさんも如何です!?」
レントは逡巡の後、腰を上げた。
「・・・そういえば以前運命様とカノン様に歓迎会と称する催しに呼んでいただいたのですが。」
トロイは安堵していたのだ、この男は自分に負い目があるはず。
話を聞かずにブルーに襲いかかり、止められたという・・・
「せっかくカノン様が開催した催しに参加しない不届き者がいたようなのですよ。」
「へ?」
トロイの頭のヴェールがズレた、それ程ショックな言葉が届いた。
「その方にも参加して頂けるなら、ロンド様の計画に賛同致します。」
「ロンドでいいですよぉ、同僚になる訳ですしぃ?」
「ふふ、分かりましたロンド。
ブルー様にも謝辞も述べたかったので宜しくお願いします。」
「へ、あのー、ちょっとー?」
「パーティ用の部屋を
「了解しました、私はカノン様とソナタ様に連絡を。
後に買い出しを行います。」
「無視かなー?無視だなー?トロイさん怒っちゃうなー?」
「では行ってきます。」
「トロイさん!後で部屋を連絡しますので来てくださいね!」
バタンと閉じられた扉に主不在の部屋、静かな部屋にシスターが置いてけぼりにされた。
この状況に一言。
「・・・草ー♪」
その声には何をされるのか分からないという恐怖と
何が起きるのか楽しみだという声音が含まれていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
大編の話も考えていますが、どの辺りで差し込むか悩み中です。
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