WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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【WILK避難民受入・再配置記録 一九四〇年六月初旬】

フランス北部からの撤収が。

一段落した。

しかし。

逃げ切ることと。

生活を再開することは。

同じではなかった。

宿泊。

食料。

衣類。

医療。

家族照合。

仕事。

学校。

移動。

帰還。

そして。

帰れなかった場合の。

次の生活。

一九四〇年五月から六月にかけて。

フランスでは。

膨大な数の民間人が。

戦火を避け。

道路へ流れた。

その一部は。

故郷へ戻ることになる。

その一部は。

長く帰れない。

その一部は。

新しい場所で。

暮らし直すことになる。

WILKは。

一か所へ。

大量の避難者を。

固定して収容することを避けた。

倉庫。

社員寮。

宿。

空き家。

農家。

工場町。

教会関係施設。

地方支部。

それぞれが。

受け入れられる数だけ。

小さく。

分ける。

現場では。

それを。

「収納」

と呼ぶ者が現れた。

元独立運動家は。

最後まで。

その呼び方を。

嫌った。

――WILK戦時生活支援史より



第235話 着いたら、次の住所を決めろ

 

久しぶりに。

 

創業者五人が。

 

同じ会議室へ。

 

集まっていた。

 

元白軍将校。

 

元ドイツ軍技術者。

 

ユダヤ人実業家。

 

元独立運動家。

 

ポーランド軍将校。

 

元金持ち。

 

元税務官。

 

さらに。

 

次世代の五人。

 

机の上。

 

報告。

 

山。

 

工場。

 

倉庫。

 

車両。

 

船舶。

 

航空機。

 

行方不明。

 

避難者。

 

家族。

 

食料。

 

寝床。

 

全部。

 

同じ紙の山になっていた。

 

元金持ちが。

 

一枚。

 

持ち上げた。

 

「で」

 

皆。

 

見る。

 

「いくら失った」

 

元税務官が。

 

別紙を見る。

 

「まだ確定していません」

 

「概算」

 

「概算でも嫌になります」

 

「言え」

 

読み始める。

 

フランス国内の倉庫。

 

複数。

 

工作機械。

 

多数。

 

商品。

 

未回収債権。

 

車両。

 

燃料。

 

船。

 

Taureau。

 

その他。

 

元金持ちが。

 

途中で止めた。

 

「もういい」

 

元税務官が。

 

顔を上げる。

 

「聞いたのはあなたです」

 

「思ったより多かった」

 

---

 

元白軍将校が。

 

別の紙を。

 

指した。

 

「人」

 

元独立運動家の娘が。

 

答える。

 

英国側。

 

アイルランド側。

 

フランス西部。

 

その他。

 

確認済み。

 

人数。

 

未確認。

 

人数。

 

行方不明。

 

家族分離。

 

元白軍将校が。

 

損失額の紙を。

 

横へ押した。

 

「こっちを先に片付ける」

 

元税務官が。

 

ため息。

 

「最初からそう言ってください」

 

---

 

元独立運動家が。

 

受入状況を。

 

見る。

 

「ここ」

 

指。

 

大きな倉庫。

 

「多すぎる」

 

英国側担当者が。

 

聞いた。

 

「一時収容です」

 

「一時は何日です?」

 

「二日」

 

「三日になったら?」

 

答え。

 

ない。

 

元独立運動家が。

 

指を折る。

 

「水」

 

一つ。

 

「便所」

 

二つ。

 

「病人」

 

三つ。

 

「子供」

 

四つ。

 

「食事」

 

五つ。

 

「家族探し」

 

六つ。

 

「仕事」

 

七つ。

 

「喧嘩」

 

八つ。

 

元金持ちが。

 

言った。

 

「最後の二つが急に現実的だな」

 

「人間を何百人も一緒に置けば起きます」

 

---

 

大規模受入所は。

 

便利だった。

 

一度に。

 

名前を取れる。

 

医者を置ける。

 

食事を作れる。

 

だが。

 

人間は。

 

倉庫の商品ではない。

 

元独立運動家が。

 

言う。

 

「入口だけ作るな」

 

「では?」

 

「出口も作れ」

 

---

 

翌日。

 

机。

 

増えた。

 

家族照合。

 

医療。

 

宿泊。

 

仕事。

 

移動。

 

子供。

 

帰還希望。

 

その他。

 

元金持ちが。

 

最後を見る。

 

「その他が一番混みそうだ」

 

元税務官。

 

「すでに混んでいます」

 

---

 

避難民。

 

一人。

 

男。

 

旋盤工。

 

妻。

 

子供。

 

「英国に親族は?」

 

「いません」

 

「職業」

 

「旋盤工」

 

受付係。

 

顔を上げる。

 

「旋盤?」

 

別の机へ。

 

工場担当。

 

「フライスは」

 

「少し」

 

「図面」

 

「読める」

 

「英語」

 

「ほとんど」

 

「問題ない」

 

その日のうちに。

 

工場町近くの住宅へ。

 

一時配置。

 

翌週。

 

技能確認。

 

男が。

 

聞いた。

 

「もう働くのか」

 

担当者は。

 

答えた。

 

「まず寝てください」

 

「でも仕事を聞いた」

 

「寝る場所を決めるのに、仕事が分かると便利なんです」

 

---

 

別。

 

乳牛農家。

 

家族。

 

英国農村。

 

受入農家。

 

「向こうは知らない人ですよね」

 

「はい」

 

「大丈夫ですか」

 

担当者。

 

少し考える。

 

「向こうもあなたを知りません」

 

老人。

 

不安そうに。

 

見る。

 

「でも」

 

担当者。

 

紙を見る。

 

「あなたも向こうも、牛は知っています」

 

老人。

 

少し。

 

笑った。

 

---

 

元独立運動家が。

 

会議で言う。

 

「住所を一つにするな」

 

英国担当者。

 

「一つにするな?」

 

「今いる場所」

 

一つ。

 

「帰る場所」

 

二つ。

 

「帰れない場合の次の場所」

 

三つ。

 

元金持ち。

 

「住所が増えてるぞ」

 

「人は動きます」

 

---

 

正式名称。

 

『避難者一時受入・分散配置・再統合支援制度』

 

長い。

 

誰も。

 

呼ばない。

 

現場。

 

「収納」

 

元独立運動家。

 

怒る。

 

「人間を収納するな!」

 

元金持ち。

 

「じゃあ配置」

 

「軍隊みたいだ」

 

「再配置」

 

「荷物みたいだ」

 

元税務官。

 

「正式名称を使えばいいでしょう」

 

皆。

 

紙を見る。

 

長い。

 

沈黙。

 

元独立運動家。

 

「……収納よりはましだ」

 

---

 

その日の夕方。

 

受入所から。

 

連絡。

 

「まとまった集団が来ました」

 

元独立運動家の娘が。

 

聞いた。

 

「何人」

 

「八十人ほど」

 

「家族?」

 

「混じっています」

 

「所属」

 

少し。

 

間。

 

「昔の会社だそうです」

 

「会社?」

 

「ポーランドの」

 

娘は。

 

紙を取る。

 

「会社名」

 

聞く。

 

止まった。

 

聞いたことが。

 

あった。

 

---

 

会議室。

 

扉。

 

開く。

 

最初に。

 

若い男。

 

入る。

 

三十代には。

 

まだ。

 

少し。

 

届かない。

 

服。

 

よれ。

 

靴。

 

泥。

 

鞄。

 

一つ。

 

後ろ。

 

人。

 

男。

 

女。

 

老人。

 

子供。

 

技術者。

 

事務員。

 

倉庫係。

 

経理。

 

工員。

 

その家族。

 

元金持ちは。

 

若い男を。

 

見た。

 

しばらく。

 

何も。

 

言わなかった。

 

若い男が。

 

先に。

 

言った。

 

「久しぶり」

 

元金持ち。

 

口。

 

開く。

 

閉じる。

 

「……お前」

 

元白軍将校が。

 

横を見る。

 

「知り合いか」

 

元金持ち。

 

「息子だ」

 

全員。

 

見る。

 

若い男は。

 

少し。

 

嫌そうな顔。

 

「その紹介の仕方はどうなんだ」

 

---

 

その後ろ。

 

老人が。

 

前へ出る。

 

元金持ちを見る。

 

止まる。

 

目。

 

大きくなる。

 

「社長?」

 

元金持ちも。

 

見る。

 

「……お前」

 

別。

 

「社長!」

 

別。

 

「生きてたんですか!」

 

元金持ちが。

 

怒鳴る。

 

「それは俺の台詞だ!」

 

一瞬。

 

空気が。

 

崩れた。

 

笑う者。

 

泣く者。

 

両方。

 

いた。

 

---

 

彼らは。

 

元金持ちの。

 

旧会社社員だった。

 

一九三九年。

 

ポーランド戦役。

 

会社は。

 

潰れた。

 

誰かが。

 

宣言したわけではない。

 

清算手続きを。

 

終えたわけでもない。

 

工場が。

 

一日で全部。

 

消えたわけでもない。

 

古参経理社員が。

 

言った。

 

「毎日少しずつ潰れました」

 

元金持ちが。

 

椅子へ。

 

座る。

 

「話せ」

 

---

 

「社長が行方不明になって」

 

一日。

 

二日。

 

三日。

 

最初は。

 

待った。

 

「四日目には銀行が来ました」

 

「五日目には取引先」

 

「六日目には社員家族」

 

元金持ち。

 

聞く。

 

「工場は」

 

「その時はまだ」

 

「倉庫」

 

「ありました」

 

「金」

 

「一部」

 

「じゃあ」

 

経理社員は。

 

首を振った。

 

「会社として繋がらなくなったんです」

 

---

 

注文。

 

消える。

 

輸送。

 

止まる。

 

銀行。

 

動かない。

 

債権。

 

回収できない。

 

原料。

 

来ない。

 

取引先。

 

消える。

 

工場。

 

占領区域。

 

支店。

 

連絡不能。

 

倉庫。

 

接収。

 

東側にあった資産。

 

戻らない。

 

西側。

 

管理者。

 

変わる。

 

工場長だった男が。

 

言った。

 

「機械は残っていました」

 

「でも」

 

少し。

 

間。

 

「機械があることと、会社があることは違いました」

 

元ドイツ軍技術者が。

 

静かに。

 

聞いていた。

 

---

 

元金持ちが。

 

息子を見る。

 

「お前は」

 

旧社員が。

 

先に笑った。

 

「若旦那は最初、何もしませんでした」

 

息子。

 

「おい」

 

「本当でしょう」

 

「言い方がある」

 

社員。

 

続ける。

 

「“俺は社長じゃない”って」

 

元金持ち。

 

息子を見る。

 

「言ったのか」

 

「言った」

 

「で」

 

元社員。

 

「誰も聞かなかった」

 

息子。

 

「聞けよ」

 

何人か。

 

笑った。

 

---

 

しかし。

 

誰かが。

 

決めなければならなかった。

 

給料。

 

残った現金。

 

食料。

 

倉庫。

 

家族。

 

車。

 

誰を。

 

どこへ。

 

移す。

 

何を。

 

捨てる。

 

何を。

 

持つ。

 

息子が。

 

一つずつ。

 

決め始めた。

 

社長ではない。

 

役員でもない。

 

正式な。

 

後継者手続きも。

 

していない。

 

ただ。

 

必要だった。

 

---

 

倉庫主任。

 

言う。

 

「商品を守ろうとしたんです」

 

「当たり前だ」

 

元金持ち。

 

答える。

 

主任。

 

首を振る。

 

「途中から無理になりました」

 

食品。

 

衣類。

 

日用品。

 

「売る先がなくなった」

 

「なら」

 

元金持ち。

 

見る。

 

主任。

 

言った。

 

「社員家族に配りました」

 

元金持ち。

 

少し。

 

間。

 

「ああ」

 

それだけ。

 

---

 

工場長。

 

続ける。

 

「旋盤も守ろうとしました」

 

元ドイツ軍技術者が。

 

顔を上げる。

 

「で?」

 

「若旦那に言われました」

 

息子。

 

嫌そう。

 

「それ言うのか」

 

「言います」

 

工場長。

 

息子の真似をする。

 

「旋盤はまた買える」

 

一つ。

 

「旋盤工は歩いて逃げろ」

 

元ドイツ軍技術者が。

 

即答。

 

「正しい」

 

息子。

 

見る。

 

「当時は正しいか分からなかった」

 

技術者。

 

「正しい」

 

「だから二回言わなくていい」

 

---

 

元金持ちが。

 

聞いた。

 

「金は」

 

空気が。

 

少し。

 

変わった。

 

経理社員が。

 

鞄から。

 

帳簿を出す。

 

薄い。

 

古い。

 

擦れている。

 

「口座の一部は、何とか使える形で持ち出せました」

 

元金持ち。

 

身を乗り出す。

 

「残ってる?」

 

経理社員。

 

少し。

 

困った顔。

 

「かなり減りました」

 

「何に」

 

「給与」

 

一つ。

 

「食料」

 

二つ。

 

「薬」

 

三つ。

 

「家族の移動」

 

四つ。

 

「宿」

 

五つ。

 

「国境を越える費用」

 

六つ。

 

「フランスへ入ってからの生活費」

 

七つ。

 

さらに。

 

「社員ではない人にも」

 

元金持ち。

 

聞く。

 

「どれくらい」

 

経理社員。

 

数字を。

 

言う。

 

元金持ち。

 

口笛。

 

吹きそうになり。

 

やめる。

 

「使ったな」

 

経理社員。

 

頭を。

 

下げる。

 

「すみません」

 

元金持ち。

 

眉を寄せる。

 

「何で謝る」

 

「会社の金です」

 

「会社は?」

 

経理社員。

 

黙る。

 

元金持ちが。

 

もう一度。

 

聞く。

 

「会社は」

 

「……潰れました」

 

「なら」

 

後ろ。

 

見る。

 

社員。

 

家族。

 

子供。

 

老人。

 

「こいつらをここまで運ぶための金だったんだろ」

 

経理社員。

 

顔を。

 

上げた。

 

元金持ち。

 

言う。

 

「なら使ったんじゃない」

 

少し。

 

間。

 

「使えたんだ」

 

---

 

ユダヤ人実業家が。

 

初めて。

 

口を挟む。

 

「全部は使わなかった?」

 

息子が。

 

答えた。

 

「残しました」

 

「なぜ」

 

「逃げ切ってからも」

 

一拍。

 

「金が要るから」

 

実業家。

 

じっと。

 

見る。

 

息子。

 

続ける。

 

「途中で全部使えば、もっと楽に連れてこられた」

 

「でも」

 

「着いた瞬間に全員無一文じゃ、逃げ切ったことにならない」

 

元金持ちが。

 

ゆっくり。

 

息子を見る。

 

「それ」

 

「何」

 

「俺が教えたか」

 

「知らん」

 

---

 

元税務官が。

 

帳簿を。

 

受け取る。

 

見る。

 

「証憑は」

 

息子。

 

「逃亡中だぞ」

 

「分かっています」

 

「じゃあ」

 

「分かっていますが」

 

ページ。

 

めくる。

 

止まる。

 

「……結構ありますね」

 

旧経理社員。

 

「できるだけ」

 

元税務官。

 

顔を上げる。

 

「領収書も?」

 

「取れる所では」

 

「支払記録」

 

「あります」

 

「為替」

 

「一部」

 

元税務官が。

 

旧経理社員を見る。

 

しばらく。

 

「働きません?」

 

旧社員。

 

「今?」

 

「はい」

 

元金持ちが。

 

頭を抱える。

 

「うちの息子より先に社員を採るな」

 

---

 

ポーランドから。

 

フランスへ。

 

着いた時。

 

彼らは。

 

百人を越えていた。

 

社員。

 

家族。

 

知人。

 

途中で。

 

合流した者。

 

全員が。

 

旧会社社員ではない。

 

しかし。

 

誰かを。

 

置いていけば。

 

次に。

 

その人間を探す者が。

 

残った。

 

だから。

 

名簿を。

 

作った。

 

誰が。

 

どこにいる。

 

誰が。

 

行方不明。

 

誰が。

 

死亡確認。

 

誰が。

 

別経路。

 

息子が。

 

鞄から。

 

別の紙束。

 

出す。

 

元白軍将校が。

 

聞く。

 

「最初は」

 

「百二十七」

 

「今」

 

「ここに八十四」

 

「残り」

 

「死亡確認十二」

 

少し。

 

間。

 

「行方不明九」

 

さらに。

 

「別経路で移動中か、現地残留二十二」

 

「確認方法」

 

「連絡先を残した」

 

元白軍将校。

 

紙。

 

見る。

 

「名簿まで」

 

息子。

 

「必要だった」

 

---

 

旧社員が。

 

横から言った。

 

「若旦那が人を集めたんじゃありません」

 

元金持ち。

 

見る。

 

「じゃあ?」

 

「散った社員が」

 

息子を見る。

 

「若旦那のところへ戻ってきたんです」

 

息子。

 

顔をしかめる。

 

「やめろ」

 

「本当です」

 

社員。

 

続ける。

 

「誰がどこにいるか」

 

「どこに金が残ってるか」

 

「どこなら泊まれるか」

 

「どの車が動くか」

 

「誰がフランス語を話せるか」

 

「若旦那のところへ行けば、何か分かった」

 

少し。

 

間。

 

「だから戻った」

 

---

 

その集団が。

 

フランスへ。

 

ようやく。

 

逃げ込んだ。

 

そして。

 

一九四〇年五月。

 

ドイツ軍が。

 

また。

 

来た。

 

旧社員が。

 

笑った。

 

乾いた。

 

笑いだった。

 

「正直」

 

「笑いました」

 

元金持ち。

 

「何を」

 

「やっとポーランドから逃げたと思ったら」

 

肩。

 

すくめる。

 

「またドイツ軍ですよ」

 

別の社員。

 

言う。

 

「若旦那に聞きました」

 

息子。

 

嫌な顔。

 

「言わなくていい」

 

「“今度はどこへ逃げるんですか”って」

 

元金持ちが。

 

息子を見る。

 

「何て答えた」

 

「知らん」

 

「それで?」

 

旧社員。

 

笑う。

 

「でも逃げました」

 

---

 

フランス。

 

再び。

 

道路。

 

列車。

 

馬車。

 

トラック。

 

徒歩。

 

今回は。

 

途中から。

 

見慣れない。

 

印。

 

見つけた。

 

WILK。

 

旧営業社員が。

 

看板を見た。

 

「これ」

 

止まる。

 

「昔、うちと取引ありましたよね」

 

息子。

 

「たしか」

 

「社長」

 

「俺は社長じゃない」

 

「あなたじゃなくて」

 

少し。

 

「親父さん」

 

息子。

 

止まる。

 

元金持ち。

 

会議室で。

 

それを聞きながら。

 

顔を。

 

伏せた。

 

---

 

WILK取引店。

 

倉庫。

 

馬車。

 

地方担当。

 

彼らは。

 

そこから。

 

WILK避難網へ。

 

拾われた。

 

社員名。

 

職種。

 

家族。

 

人数。

 

そして。

 

受付で。

 

息子の姓。

 

止まる。

 

「お父上のお名前は?」

 

息子。

 

答える。

 

担当者。

 

少し。

 

妙な顔。

 

「……元金持ちさん?」

 

息子。

 

「誰だそれ」

 

「弊社の」

 

「待て」

 

一拍。

 

「本人か?」

 

担当者。

 

「たぶん」

 

「たぶんって何だ」

 

---

 

そして。

 

ここへ。

 

来た。

 

元社員。

 

家族。

 

息子。

 

皆。

 

元金持ちを見る。

 

一人の古参社員が。

 

静かに。

 

言った。

 

「社長」

 

元金持ち。

 

「もう社長じゃない」

 

「こっちにとっちゃ社長です」

 

少し。

 

沈黙。

 

「会社は」

 

社員。

 

言葉を。

 

選ぶ。

 

「なくなりました」

 

元金持ち。

 

頷く。

 

「そうか」

 

「工場も」

 

「ああ」

 

「倉庫も」

 

「ああ」

 

「金も」

 

「かなり使ったな」

 

「はい」

 

「でも」

 

社員は。

 

後ろを見る。

 

人。

 

家族。

 

技術者。

 

事務員。

 

経理。

 

工員。

 

「残った分は」

 

少し。

 

笑う。

 

「若旦那が連れてきました」

 

元金持ちは。

 

何も。

 

言わなかった。

 

---

 

元ドイツ軍技術者が。

 

聞く。

 

「図面は」

 

「一部」

 

「治具」

 

「少し」

 

「測定器」

 

「少し」

 

「技術者」

 

息子。

 

後ろを指す。

 

「ここ」

 

元ドイツ軍技術者が。

 

見る。

 

旋盤工。

 

工具工。

 

整備工。

 

工場長。

 

黙る。

 

「なら」

 

皆。

 

見る。

 

「工場は作れる」

 

---

 

元独立運動家。

 

聞く。

 

「家族は」

 

息子。

 

答える。

 

「できるだけ」

 

「社員だけ?」

 

「違う」

 

「なぜ」

 

息子。

 

少し。

 

考える。

 

「置いていったら」

 

後ろの社員を見る。

 

「こいつらも残るから」

 

元独立運動家。

 

一度。

 

頷く。

 

「よろしい」

 

---

 

ユダヤ人実業家は。

 

ずっと。

 

息子を。

 

見ていた。

 

会社。

 

失った。

 

設備。

 

失った。

 

資金。

 

減った。

 

それでも。

 

人。

 

技能。

 

記録。

 

名簿。

 

少額の金。

 

残した。

 

そして。

 

二度。

 

逃げた。

 

実業家が。

 

言った。

 

「働きます?」

 

息子。

 

止まる。

 

「……何を?」

 

「WILKで」

 

元金持ち。

 

顔を上げる。

 

「待て」

 

実業家。

 

「何です?」

 

「俺の息子だぞ」

 

「知っています」

 

「今来たんだぞ」

 

「ええ」

 

「休ませろ」

 

実業家。

 

考える。

 

「では明日から」

 

「早い!」

 

---

 

息子が。

 

聞いた。

 

「何の仕事です?」

 

ユダヤ人実業家。

 

答える。

 

「今やったこと」

 

「今?」

 

「人を数えた」

 

一つ。

 

「金を残した」

 

二つ。

 

「必要な時は使った」

 

三つ。

 

「技能を失わなかった」

 

四つ。

 

「行き先を決めた」

 

五つ。

 

「分からないことを分からないまま放置しなかった」

 

六つ。

 

「そして」

 

社員たちを見る。

 

「人があなたのところへ戻ってきた」

 

息子。

 

少し。

 

黙る。

 

実業家。

 

続ける。

 

「そういう仕事です」

 

「名前は?」

 

元金持ちが。

 

横から。

 

笑う。

 

「ない」

 

息子。

 

父を見る。

 

「ないの?」

 

「俺もなかった」

 

元税務官。

 

小声。

 

「だから困ってるんですよ」

 

---

 

元白軍将校が。

 

言う。

 

「採用」

 

ポーランド軍将校。

 

「面接は」

 

「今した」

 

「どこが」

 

元白軍将校。

 

旧社員。

 

指す。

 

「八十四人いる」

 

「それが?」

 

「推薦状だ」

 

旧社員たちが。

 

笑う。

 

息子。

 

頭を。

 

抱える。

 

---

 

元金持ちが。

 

息子を見る。

 

しばらく。

 

何も。

 

言わない。

 

そして。

 

「帰って寝れる程度に働け」

 

息子。

 

即答。

 

「父さんが言う?」

 

「だから言う」

 

---

 

翌朝。

 

机。

 

一つ。

 

増えた。

 

肩書き。

 

なし。

 

部署。

 

未定。

 

最初に。

 

置かれた紙。

 

『旧ポーランド企業関係者・再配置表』

 

次。

 

『技能一覧』

 

次。

 

『残存資金及び使用履歴』

 

次。

 

『家族未照合者』

 

次。

 

『再雇用候補』

 

息子は。

 

しばらく。

 

紙を見る。

 

隣。

 

父。

 

通る。

 

「どうだ」

 

息子。

 

答える。

 

「多い」

 

元金持ち。

 

「減らんぞ」

 

「知ってる」

 

「何で」

 

息子は。

 

紙を。

 

一枚。

 

取る。

 

「もう二回見た」

 

元金持ちは。

 

少し。

 

笑った。

 

その日。

 

後に。

 

WILKの次代を。

 

まとめる側へ回る男の。

 

最初の勤務が。

 

始まった。

 

彼は。

 

会社を。

 

一つ。

 

失っていた。

 

だが。

 

会社を。

 

もう一度作れるものを。

 

持って。

 

帰ってきていた。

 

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