誤字報告、本当に助かっております。編集時にあっち行っちゃこっち行っちゃで飛び飛びになるなどして、チェック漏れや表現の変え忘れがあったりするので……
読み返しやAIによるチェックも増やしていきます。(校閲にAIを使ってる場合って、どういう扱いになるんでしょう。)
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宇宙に点在する歓楽の星の一つ、惑星バッカス。リューベとその知り合い達の行きつけの酒場は、宇宙港から出て数分の商業地区にあった。
その小洒落た酒場の客は皆、戦士や労働者だが、そこに日々の疲れを癒やすべくやってくるのは、場を弁えて賑わう者たちばかりである。
禿頭が見事に輝いている店主が揃えた安酒と銘酒の数々と、酒場としてはとても静かであるところが、リューベの行きつけの理由の一つだった。
そして、八つあるカウンター席の右から三つ目が彼女の定位置だ。頑丈なスツールに腰掛けたリューベの右隣には、皺の深い顔でリューベを見下ろしながら、偉丈夫ガルツが座った。
賑わうガルツのチームの面々たちを背に静かに座り続けていた二人は、酒が来た頃にようやく、口を開いて話を始めた。
「それで……フリーザ軍のサイヤ人について知りたいのだったな」
「うん、元フリーザ軍上級兵士なら知ってると思ってね」
背後の賑わいなど気にせず隣り合うリューベとガルツ。かなり歳が離れた元部下と元上司の関係だが、今や肩を並べる戦友である。
琥珀色の酒を揺らすガルツの横で、口の中で酒を転がすリューベの顔は、十年前とほとんど変わらない。若々しさをほんのちょっとばかし羨みながら、ガルツは問い掛ける。。
「今になってどうした? 軍に居た頃には耳も貸さなかったくせになぁ」
「なあに、アタシのやり方じゃ損ばかりになりそうでね……年長者の説教を頂きに来たのさ」
「ははぁ。どうやらまた、ただ話を聞くだけでは済まんようだな。とうとうツケが回ってきたのではないか?」
「うちじゃツケを作らねえくせになあ」
「ちぇっ、おやじまで口挟むのかい?」
ムスッとして、琥珀色の酒をぐいと口に含む。それに続いて、ガルツもその酒のスモーキーな風味を味わった。何度か飲んだ事がある酒だったが、他人と飲むのはそこそこ久しぶりで新鮮に感じられる。
呑み込んで一息吐いたガルツは、つまみのナッツをポリ、と一つ食べてから話し始めた。
「フリーザ軍のサイヤ人なあ……そうだな、名前と実力は知っているが、何しろ十年ほど昔だ…果たしてアテになるかは全く分からんぞ?」
「いや、助かるよ。知らないよりは何千倍もマシだからね」
「分かった。ならさっさと話そう。そいつらはフリーザ軍の『第一軍』に居た連中だな……お前が入ってくる二年前だったか、その時は俺もまだ『惑星フリーザNo.79』務めでなあ…懐かしい」
「総本山じゃねえか……すまねえ、いきなり話が逸れるけどガルツさんよ、もしかして相当エリートコースだったんじゃねえのか?」
「おお。フリーザの直属部隊候補にもされてたが……同郷の若いの……何と言ったかな。ああ、アプールだ。ソイツがやかましくて仕方なくてな……顔も見たくなくなったから俺から異動を申し出て、第三軍に行った訳だが……」
その時から少し歳を感じていたからな、と付け加えたガルツは少しだけ自嘲気味に笑い、肩越しに後ろを指差した。
「ダーリマン、ジョナ、サンガル、オウキ、トメロ……お前が居た時から変わってないだろう? 俺が第一軍の頃からまるごと引っ連れてきたんだ」
「ま、まるごと…よく許されたもんだなぁ」
フリーザ軍上級兵士ガルツ。当時「ガルツ小隊」を率いて星に高値を付けて回っていた彼は、フリーザ軍の一大拠点「惑星フリーザNo.79」に居たのだ。今の彼のチームの面子は、その頃から変わっていない。
約十二年の付き合いの中で初めてガルツの昔話を聞いたリューベは、しばらく続いた思い出に聞き入っていたが、しばらく話してから「おっと」と呟いたガルツは、指を弾いて話題を戻した。
「まあ、その頃から奴等は居たな……デカいハゲ一人と、デコっぱち二人……よく聞けよ。名前を言うからな。ラディッツ、ナッパ、ベジータだ」
「ナッパ、ベジータ……ん、ベジータ…?」
サイヤ人の故郷の名前ぐらいは、いくら知らぬ存ぜぬ我関せずを貫こうとしてきたリューベですら知るところであった。
ナッツを三つ四つ口の中に放り込んで咀嚼しながら、何処を見るでもなく前を向いた彼女の横で、ガルツは小さく数度頷いた。
「やはり引っ掛かるか。そのベジータってサイヤ人はな、サイヤ人の正当な王子、ベジータ王子その人だ……」
「なんとまあ、そんなヤツが一兵士とは、やっぱりフリーザ軍はとんでもないなあ…」
惑星ベジータのサイヤ人の王、ベジータ王の息子のベジータ王子。一度にあんまり口に出していると訳がわからなくなりそうな文言に舌を出して、なんとも微妙な顔をしたリューベは、地球にいた骸のラディッツの事を問うてみた。
「そういやあさ、アタシはそのラディッツってサイヤ人の事を、ある星で知ったんだ。ソイツはその星でくたばってたんだけど、ラディッツの事を知ってるかい?」
吹き出しかけた酒を苦しそうに飲み込んだガルツは口元を拭い、驚いた顔を向けた。
「なんと、ラディッツが……元々あいつだけは大した事無いと思っていたが死んでいたか……そうだ、口だけは達者なクソガキだった。おお、おお。どんどん思い出してきたぞ。俺の小隊に文句をつけてきた事もあったなあ。そうか、死んだか! ざまあみろだ、ぁあっはっはっはっは……」
「えぇー…嫌い過ぎだろ…」
急に笑い出した隊長に何事かと、ガルツの隊員たちはカウンター席の方を見やるが、何も心配はいらない様子だと見るや、また雑談に戻っていく。
リューベは、ガルツの口からあれよあれよとボロクソにこき下ろされまくるラディッツに、少し憐れみを感じた。死者を愚弄する趣味は彼女と彼のどちらにもないが、流石に良いところ無しにも程があり、彼女は素で引いていた。
性格も悪ければ大して強くもなく、格上の威を借る「ド」が付くチンピラ、自身が敵わぬ強い相手には逃げると来た。そのくせ態度だけはデカいのだから、ラディッツを好く者はほぼ居なかったという。
もうかなり良い歳になってしまったガルツが、ここまで悪口を並べ立てるのだから、そうとう腹に据えていたようである。
ガルツが悪口をまくしたてるところを久しぶりに見たリューベは、少し自分にも被るところがあると感じて口を結び、数度頷いた。そして、彼女はラディッツを自分なりに解釈してから問うた。
「ガルツさんのほうが強かったんだから、数発ぶん殴って分からせてやりゃ良かったのに。やんなかったのかい?」
「んん? ああ、そりゃやめといたな。あんなガキ、骨の一本や二本へし折ってやっても良かったが、ラディッツが腰巾着をやってるベジータはフリーザのお気に入りだったし、何よりベジータは昔から俺より強かった……流石に目を付けられたくはなかったんでな」
「ガルツさんより強いって……戦闘力は?」
「当時にして最低でも1万……今は2万近いかもしれんな。昔からほぼ敵無しだった奴が戦いの中で成長できてるのかは分からんが、お前では逆立ちして勝てるかどうか分からんな」
「……とんでもねっ」
リューベはここに来て、初めて少し酒が不味く感じた。しかし同時に、予想の範疇の中にあったことに安堵した。フリーザ軍の精鋭部隊の予想から大きく外れている訳ではなかったからだ。
だが、彼女はその戦闘力に内心頭を抱えた。地球の連中がいくら鍛錬を重ねたところで、桁違いの強さに対抗出来るとは全く思えなかったのだ。
戦ってやるつもりはまだない星だ。しかし失えば自身の今後に大きな損害を被るし、もう知り合いのようになっている連中は死んでしまう。
自らの保身を取るか、危険を犯してでも僅かな可能性に賭けるか。金だけ失うギャンブルとは違う「もう一回」が利かない賭けは、彼女にとって最も嫌な状況であった。
改めてガルツの顔を横から見上げたリューベは、彼の表情にしわが深くなるところが見えた。
「…ボロクソに言ってみたが、圧倒的な格上が味方に居る以上、ラディッツは卑屈にならざるを得んかったのかもしれんな。10倍近い戦闘力を持つ者が居るんだ、自分が苦労して倒そうとはまるきり思わんだろう」
「そりゃあ、そうかもなあ」
「…ところで聞くが、ラディッツが死んだ星は……生きている星か?」
ガルツの問いに、グラスを口に着けていたリューベは黙って頷き、ガルツは「ふむ、ふむ…」と呟き、指を弾いて話を促した。
「地球って星、知ってるかい? 青くて綺麗な星なんだけど」
「ああ、地球か………田舎星だと聞き及んでいる。居住適性だけは高いが、文明レベルや資源の観点からフリーザ軍でも全く価値が見出されてなかった星だな。ラディッツはそんなところに何の用で来たんだ?」
「さあ? ああ、もしかしたら知ってたかもな……聞いてくればよかったな。でもアタシには関係ないだろうなあ…………ガルツさん、推測でしかないし、長くなるけど良いかい?」
「む、付き合おうか」
姿勢を変えて話を聞く姿勢となったガルツに、リューベは少し顔を近づけて話し始めた。
「地球は有用資源も技術も少ないけど、居住性の高さから値が付くことは確かだ……もしかするとラディッツは実績作りの為に地球に来たんじゃないか、とアタシは思うんだ」
「ほう、それはどうしてだ?」
「ガルツさんのラディッツの評価を基準とするなら、多分ラディッツは、ベジータとナッパとやらの存在ありきになりつつあったのかもしれねえ。プライドは高かったろうし、自分がどうなってるのか分からない程能天気でもねえだろうし?」
「ふむ、まあそうなるな?」
「とするなら、その二人が居なくても『俺一人でも星は落とせるんだ』って感じに、功績を作りに来たとも考えられるぜ。高値が付いて売れさえすれば、上は戦功なんて気にしないだろうし、部隊のスコアも上がる。流石にその二人も悪くは言わないだろ?」
ガルツは、元フリーザ軍上級兵士の彼としての観点から、リューベの予想はそう間違っていないと感じた。
足を引っ張り続けたことで仲間内からの評価も下がっていたのなら、少しでもそれを回復させようと努めるものだ。部隊のスコアは任務報酬にも色が付くのだ。
「ふむ……そこにラディッツ本人の感情を上乗せさせてもらうと……自分だけの力による圧倒的な勝利を久々に味わえる絶好の機会だった、とも考えられるな。格上二人に任せた上での勝利ばかりで、恐らくラディッツ本人の戦績に、満足の行く白星は殆ど無かったのかもしれん」
「かもねえ……まあ、そのゴミと思ってた星の連中にブチ殺されて黒星で終わったのは、何とも可哀想なもんじゃないか? 実際どうかは分かんねえけどな」
「そりゃあ、そうだなあ。しかし気になるな……地球人の戦闘レベルは近海の星々を見てもかなり低い筈だ。それこそ戦闘力一桁から二桁ちょっと………一応はフリーザ軍で通用する戦闘力だったラディッツが、どうやって死んだ?」
ガルツがその疑問を抱くのは当然のことだ。吹けば飛ぶような民族が住む星と軽んじられ、フリーザ軍にすら無視されていた星で如何にしてラディッツが死んだのか。リューベはピッコロやクリリン達の事を思い出しながら語り始めた。
「地球に来て早々、アタシはラディッツのポッドの残骸の近くでラディッツのホトケを見つけてたんだけど、鳩尾にファンレス扇風機みたいな大穴が空いてたぜ」
「なんと……ただの死に方ではないな」
訝りながらグラスに残った酒を飲み干したガルツが、店主を呼んでもう一杯注いでもらうと、リューベもそれに続いてグラスを空にして注いでもらう。彼女は琥珀色の水面を見つめながら話を続けた。
「その技を放った張本人と、あとそのお仲間かな…少しやりあってきたよ」
「なんと。金にならんと拳も握らないお前がか」
「ああ。聞いて驚いてよ、ラディッツをぶっ殺したのはナメック人さ」
「ほう、ナメック人が地球にか…なかなか興味深いが置いておこう。他はどうだった?」
「ナメック人程じゃないけど、あの手この手、そこらのチンピラなんかよりやるよ。でも、そのナッパとベジータって連中には、多分勝てないな…」
「ナメック人が居てもか?」
「そうだなぁ……連中は、地球にやってくる二人組に備えてのトレーニング中ってことだったけど、ラディッツの時は恐らくもっと戦闘力は低かっただろうし、ナメック人もそうだった筈。ラディッツを殺したものであろう技は溜めが長すぎたし、サシでやれたとは思えねえんだ……」
クリリン、ヤムチャ、天津飯、そしてピッコロ。リューベは、自分とやり合ったときの地球人たちの戦闘力から、約半年の鍛錬でどこまで変わるのかを大雑把に考えていた。
ラディッツの戦闘力1500を基準にあれやこれやと頭を捻ってみると、地球人達では話にならない。ピッコロの戦闘力の上昇の仕方を参考にしても、300から400は無いと駄目なのだ。
「つまり…お前はラディッツとの戦いの時に『もう一人居た』と見ているのか?」
「ああ、悪いけどつい今さっきその考えに至ったところだよ。ちょいと省くけど、アタシが戦った地球人達じゃ無理だ。ラディッツの時に既に、ナメック人と同レベルの奴がもう一人居なきゃ話にならねえんだ…」
「むむっ、なるほど、よく考えたもんだ……」
やたら長ったらしい話をして喋り疲れたリューベは酒を飲み干すと、氷水とビールを大ジョッキで頼み、届くとすぐさま水をがぶがぶと飲み始めた。
その横で、ガルツはポリポリとナッツを噛んで考え事に耽っていた。
リューベの話がすべて本当なら、地球の戦士たちとサイヤ人二人組の戦力差はあまりにも隔絶している。助けが欲しいのなら「頼む」と言ってくれれば済む話であるが、リューベはただ「教えてくれ」と言ってきた。
そもそも、なぜリューベは地球なぞに立ち寄ったのか。賞金首が逃げ込んだという話もなく、手首の端末の画面を開き、ずらりと照会しても何もない。ガルツは落ち着いた様子のリューベに問を飛ばした。
「少し尋ねるぞ?」
「良いよ」
「なぜ地球なんかに立ち寄った?」
「休暇だよ。近頃フリーザ軍の勢力拡大が著しいだろ。金もだいぶ貯まったし、少しの間身を隠してゆっくりしてしまおうと思ってさ……」
「なるほど、そこで選んだ地球は、サイヤ人がロックオン済み、というわけか」
「そういう事…普段のアタシなら冗談じゃねえって即サヨナラだけど、今回ばかりはちょっと考えるよ。何せ、物凄く綺麗な青い海で泳げそうなんだ……赤とか緑とか、へんな着色料ぶち撒けたみたいな色してなくて、ちょっと泣きそうなくらい綺麗なんだ」
「ふぅむ………なるほど。サイヤ人とは戦いたくないが、休暇先にピッタリな地球には無事で居てほしい……ぁはははは、そりゃあ悩ましいな」
笑うガルツの横で、リューベは赤らんできた顔の表情をどんどん曇らせていた。大ジョッキの半分を飲んだところで顔を伏せると、かなり沈んだ声で話し始めた。
「……アタシさ、戦わずして逃げる奴らの事を嫌ってきたのに、よくよく考えたらリングに上がってるか否かの違いなだけで、結局はソイツらと全く同じなんだよな」
「…ふむ?」
「金にならなきゃ戦わない、得しないから相手しない……相手の前に立ってから逃げ出すやつの事だけを考えてて、自分の振る舞いなんかサッパリ見てなかったなーって、このクソ面倒くさい状況になって初めて省みたんだよ」
「まあ、そうだな。ダブスタのケツデカ女とは囁かれてたぞ」
「ああそうだよ。最初から会敵してなけりゃ関係ないだろって、他人に押し付けてたのは間違いねえ。今だって、このままどっか別の星を見つけて逃げちまいてえくらいだ……」
「…本当か?」
左腕を枕にしながら、くたりとした様子で答える。
「…………本当だよ。ガラにも無く助けてやりてえ気はある。でもボランティアでやりたくねえってケチな気持ちもあれば、勝てない戦いに行きたくねえ臆病な気持ちもある。全部アタシの本心だよ。でも、どれに従えばいいのか、ずっと危険を避け続けてきたアタシには決められない」
そう言って体を起こし、ビールの残りの半分を一気飲みしたリューベがまた腕枕に顔を伏せると、ガルツは彼女の優柔不断さに、歯に挟まったナッツの詰まりを取るついでに舌打ちした。
サイヤ人という一番いい下地を持っているというのに、なんと勿体ない奴だろうか。真横で自己矛盾に凹む寸詰まりに燃料を注いでやるべく、ガルツは指を弾いて店主を呼んだ。
「オヤジ、俺の奢りで、リューベに特別きっつーいのを頼む。こいつには燃料が要る」
「あいよぉ」
快諾した店主が棚から取ったのは青い瓶の「ブリーズ・サファイヤー」。その突き抜けるような爽やかな風味と共に、酒豪すら「気付け薬」と扱う程の度数の高さを誇る酒。綴りミスをよく疑われる事でも有名だ。
「…ほら、顔を起こせ」
「……ブリーズ・サファイヤーかい」
「ちょっとしおらしいお前にはちょいど良い気付け薬だ。さ、ショット一発決めろ」
バシッと背中を叩かれたリューベは体を起こし、ジョッキを退けてからショットグラスを手に取った。
青い瓶から注がれた、濃縮ミント水溶液のような鮮やかなエメラルドグリーンの酒。名前に偽りありと思いながら、リューベはそれを飲み干した。
直後、スパイスや香草のとんでもない清涼感が内側から引っ叩いた。それに続いてとんでもないアルコールが口と喉を灼こうとする。香り付けした消毒液を飲んだのかとも一瞬思いながら、リューベはカウンターテーブルを数度掌で叩いた。
「…っ!! ごれ゛何度だっげ!?」
「えーーーーと? 85度だな」
流石に割って飲ませてくれ、と苦笑いしながら頭を傾けるリューベ。その仕草だけでもリューベに少し元気が戻ったと見たガルツは、残っていたつまみを流し込んで立ち上がった。
「けほ……急にどうしたんだよガルツさん?」
「ちょっと野暮用に付き合ってもらうぞ。オヤジ、席はそのままで頼むよ」
「おう」
ガルツは少しその場でリューベを待たせると、後ろでずっとワイワイやっていた仲間たちに話し掛けた。
「少し出てくる。すぐ戻るから、あまり羽目を外しすぎるなよ」
「分かってるよ隊長」
ダーリマンが快く答えると、それに合わせて他の仲間もサムズアップで応える。全員かなり出来上がっているが、水が用意してあるなど、備えてはあるようだ。
「さて、行こうかリューベ」
「あ、ああ…」
外へ出るなり空を飛び、市街地を離れてリューベを連れてきたのは、涼しい風が吹くだけの、無人の荒野だった。
◇
○
◇
誰も居ない場所で戦士二人。目の前に立つガルツは、腕を組んでリューベを見据えている。リューベは少し酒が回りつつある頭で、この状況が意味する事のいくつかのうち、一つに見当をつけていた。
「…急だね。やり合おうって事かい?」
「ああ、そうだ。悩んでいられる余裕を持てる強さが、お前にまだあるのか俺が確かめてやる。どうせ格下ばかり相手していたのはラディッツもお前も同じことだろう…!!」
ガルツが構えると同時に、リューベも腰を落とし構える。そして互いのスカウターがサーチ機能で戦闘力を測ると、リューベは数値を見て冷や汗を滲ませながら、ひとつ口笛を吹いた。
「ヒューッ……また強くなってるじゃねえかよ……」
「ふふ、歳は食ったが悪いもんは食わず、トレーニングは継続中だぞ。お前も戦闘力は落としていないようだが、動きはどうかな…!」
皺の多い顔で微笑むガルツをスカウター越しに見据えるリューベ。そのレンズに表示された数値は、リューベを超える「1万3000」。対するガルツのスカウターに表示された数値は「9000」である。
酔っ払いかけている二人はしばし睨み合ったが、ガルツが指の骨を鳴らした瞬間、その睨み合いは終わった。
「イィィヤァッ!!」
「むへえっ!?」
開幕、体ごとの豪快な投擲によって襲い来たのは、なんと195cmのガルツの身の丈ほどもある、エネルギーの巨大な手裏剣。敵設備をまるごとすっぱり輪切りにしたとされる、ガルツの得意技である。
「殺す気かよ!!」
「これぐらいやらんと、お前は本気を出さんだろう!! イィィヤァーッ!!」
電ノコと見紛うばかりの高速回転で飛来する、二枚の巨大手裏剣。あまりの高速に紙一重でリューベが回避した隙を狙い、ガラ空きの腹へと重い蹴りが刺さる。
「ぶぁはっ…!!」
「せっかく良いガソリンを入れてやったんだ、動いてもらわねばな!!」
「そのせっかくの良いガソリンを吐きそうなんだがっ……!!」
蹴り飛ばされたリューベは空中で体勢を立て直しながら、ブーメランのように戻ってきた二枚の大手裏剣を体をひねり、間をすり抜けて回避する。尻の肉が掠った。
地を数メートル滑り止まったリューベは、駆け出しながら両掌から真紅の気弾をショットガンのように放ち、ガルツへと接近していく。
「むっ…!」
狙った場所へ収束するように飛んでいく散弾を放つリューベの技に、ガルツは手裏剣を操るのを止め、飛来する気弾を弾き反らしつつ回避していくが、気弾はどんどん増える一方である。
「食らえっ!!」
飽和攻撃で生じたガルツの隙に向けて、伸ばした二指から、銃弾サイズの高速気弾が放たれる。見た目に似合わず高密度の気弾の炸裂はガルツの防御を崩し、そこへ無数の散弾が襲った。
「ぬううっ…!! エネルギー量は流石だな…!!」
「!」
煙を振り払ったガルツは、気弾をリューベの足元に放ちながら突っ込んだ。煙に包まれたリューベの右頬を容赦なくガルツの拳が打ち据えたが、リューベは負けじと踏ん張った。
彼女のお返しのアッパーカットが、地に降りてきたガルツの腹に刺さるが、即座に肘打ちでリューベの頭が叩き返される。
互いに肉薄した状況で、素早い打ち合いが始まった。しかしいざ技の応酬となると、やはり劣勢となるのはリューベ。単純な戦闘力で劣っている中、リーチでも負けているのだから、やはり苦しかった。
「つあっ!!」
「ぐ…!!」
十字受けごと蹴り飛ばされたリューベは、しびれた腕を振りながら、もう老齢が近い筈の中年戦士のあまりのパワーに舌を巻いていた。
「くうっ…!! いい歳してよお…!」
「はははは……戦闘力は上がったようだが、やはり鋭さが落ちているな……」
「…そう思うかい」
「ああ。殺すしか無いようなクズも、生け捕りの高い賞金のために生かしてきたんだろう? それは良いが、お前は相手が格上なら格上のままでいいや、と放っておく悪い癖もあるだろう」
「べ、別にいいじゃねえか。そりゃアタシの勝手じゃんよ!!」
ガルツは頷きつつ、手に青い気弾を現す。
「まあな。だが、戦闘民族サイヤ人ってのは、戦えば戦うほど強さを増すって話もある。もし本当なら、お前だってもっともっと強くなる筈だろ?」
「…話が見えてこないぜ。どうして欲しいってんだい!!」
「俺がお前にどうして欲しいとは言わん。これを決めるのはお前だからだ!!」
腕が振るわれ、青い気弾が無数に分裂して降り注ぐ。その気弾の雨に混じり、致命的な巨大手裏剣がリューベへと向かって飛翔していく。
「ずあっ!! …ううっぐ…!?」
紅い気を纏って無理矢理弾き逸らすが、腕を腕甲ごと少し切り裂かれたようで、隙間から血が噴き出していた。咄嗟に左腕に強くパワーを込めていなければ両断されていたという可能性を考えたリューベは、背筋がぞわりとした。
「どうだ、顔が変わったな。俺相手でも逃げたくなったか?」
「…本気かよ?」
「ただのスパーリングだとでも思ってたか? お前の錆を落とすために、俺は殺す気で削りに行くぞ。本気でやらんと、最悪首が飛ぶぞ!!」
「う、うおおわあああぉ!!!」
久方ぶりの本気に近い殺気に驚きながら、リューベは両腕に大手裏剣を構えて襲い来たガルツに応戦した。
だが、本気を出したガルツと、長らく同格や格上と戦ってこなかったリューベではかなりの差があった。受ければ捲られ、切られ、蹴りもパンチも防がれ、自慢の重いエルボーやショルダータックルも当たらなければ意味がない。
気功波もそうだ。気合に防がれるわ、エネルギーの手裏剣が散弾を全て切り裂いては一撃離脱を繰り返していくわ、彼女には溜める暇を全く与えてくれなかった。
どれだけ怠けていたのか。どれ程自分の強さに甘えていたのか。積み上げてきた強さが中途半端に高かったが故にどのくらい油断出来てしまっていたのか。ハッキリ言って中年オヤジであるガルツ相手に、全く歯が立たないまま血だらけにされたリューベは、心の中で自分とガルツに向けて何度も悪態を吐いた。
「…………ちくしょう。いい歳して何してんだよ…」
言葉にして口に出せたのは、たったのそれだけだった。ぐらりと背中から地面に倒れた瞬間、彼女の胴鎧は完全に砕け四散した。
◇
〇
◇
流石に心配になり、酒場から一人で様子を見に来たガルツの仲間トメロ。妙齢ではないが、まだまだ若々しい女戦士は、ちょうどスカウターに反応があった荒野へと飛んできていた。
「まったく、年寄が若い娘捕まえて何しようってんだい? お〜い、ガルツ! リューベ!」
荒野のど真ん中でぶっ倒れているリューベを見下ろしていた、少し肩の装甲が壊れた姿のガルツが、トメロに気付いて見上げてくる。
それを見つけたトメロは、リューベの有様にぎょっとして、降り立つなりガルツの顎をアッパーでかち上げた。
「3時間も何処で何してるのかと思ったら、こんなところで若い娘虐めて何してんだい!! 警察だって何だ何だって言ってるよ!?」
「がっ……、す、すまんトメロ!! これには色々訳があってだな……そんな加虐趣味が出来たとかそういうわけではなっ…おっふ…ぉああああ……っ!!!!」
チームの紅一点はいまや赤色巨星。リーダーであるガルツ共々、グンバツボディの三十路の気の強さに逆らえるメンバーは居ない。
弁明しようとしたガルツを金的で沈めたトメロは、胴体の鎧も砕けてボロボロで、意識も飛んで流血までしているリューベの状態を認めると、腰のポーチから取り出したスプレーで止血を済ませ、ずっしりとした傷だらけの体を担いだ。
「何したかは後で聞くけど、とりあえず運んでおくからね。奢ってもらう話で来たのに、奢ってくれる本人をこんなになるまでボコボコにしてどうすんだい! まったく、ボケてきたんじゃあるまいね…!」
「ぬおおおお…あがががが…かっ……わ、悪いって言っているじゃないかっ…」
「もう良いよ。理由はしっかりあるんだろうし、幸い、そこまで深い傷じゃない…」
酒場へ戻る道中、意識が戻ったリューベは視界に映った銀髪と褐色肌から、自分が誰に担がれているのかを把握すると、背中からトメロに向けて話し掛けた。
「あ、トメロさんか……」
「ん、お目覚めかい? まったくタフだねぇ、サイヤ人ってのは」
半分眠っているような意識の中で、リューベはガルツが居るであろう方向に意識を向けながら、かなりいいようにやられっぱなしだった自分の情けなさを恥じた。
そのような体たらくで、向かうも逃げるも長くは続かないだろう。この十年間はただ幸運なだけだったのかもしれない。実力者が捉えようとすれば容易なのだと。彼女はガルツの実力によって、そのように考えさせられた。
「……アタシ、ちょいとガルツさんに鍛え直してもらうことにしたよ……相当錆びついてたよ」
「そうなのかい? あんたの実力ならあまり要らないと思うけどねえ」
「…サビ落としだけじゃダメみたいでさ。油も差してやんないと……」
「ははぁーん、さては相当腕を落としたね? そりゃ後輩好きのガルツがここまでやれちまう訳だわね」
バツが悪そうな顔で、少しまだ下っ腹に苦しさを残したまま黙りこくっているガルツの方をちらりと見やるトメロの背中で、黙って担がれていくリューベは、揺れの中でまた意識を失った。
その後、女を連れ出して痛めつけて帰ってきたと酒場でトメロに言いふらされたガルツは、チームメンバーと店主がこっそり用意していた罰ゲームで口の中を大火事にされた。
そして、意識を完全に取り戻し、応急手当を受けたリューベは店のソファに沈みながら、久し振りに強くなろうと思った自分の顔をトメロが渡してくれた手鏡で見据え、「頑張れよ」と呟き、気付け薬代わりにまた1杯の酒を呷るのだった。
◆
◆キャラクター紹介コーナー その2◆
名前「ガルツ」
身長;195cm
体重:100kg
性別:男
種族:不明(アプールと同族)
戦闘力:13,000
元フリーザ軍上級兵士の歴戦の猛者。「ガルツ隊」を率いて迅速な制圧で数多の星に高値を付けてきた。
第三軍で気怠そうにしていたリューベの面倒を見ており、彼女がフリーザ軍として働いていた時期の殆どは彼の下であった。
上級兵士でありながら、フリーザ軍のやり方に入隊以前から不満を持ち続けており、故郷の徴兵によって無理矢理フリーザ軍に入らされ、故郷の家業を継げなかったことを気に病み続けている。
また、必要最低限の殺傷と破壊に留め、対象惑星の戦意を完全に削いで避難と脱出を優先させるなど、フリーザ軍の残虐なやり方に可能な限り抵抗し続けていたが、星が美麗な故に高く売れるという皮肉な状態であった。
当時のチーム丸ごとフリーザ軍を脱退しており、現在は研究者や隊商の護衛を行う傭兵団として気ままにやっている。今は50代後半のようであるが、戦闘力は衰えていない。
名前の由来はアプール(りんご)つながりで「つがる」。
地の文とセリフの間隔などは、読みやすいでしょうか? 修正する場合、どのようにすべきでしょうか?
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読みにくい
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読みやすい
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地の文・セリフを纏める
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地の文を纏め、セリフは纏めない
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セリフを纏め、地の文はそのまま