四層世界の最下層、魔物の森で生き残る 作:鳩夜(HATOYA)
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経験値確認……
種族 一般
レベル八・一相当の経験値を習得しています。
この祭壇ではレベル六までしか上昇しません。
レベル七以降は《極光神輪の祭壇》での習得が必要です。
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「やっぱり駄目か……」
神輪の祭壇から腕を抜き、石板に表示された文字を眺める。
経験値だけなら、すでにレベル八相当。
それでも俺の腕に刻まれた魔法輪は、六つのままだった。
「《極光神輪の祭壇》……」
名前だけは何度も見た。
だが、それがどこにあるのかは分からない。
少なくとも、この祭壇ではこれ以上どうすることもできないようだ。
ハナとサンクが帰還してから、三年が経った。
俺も十七歳になり、最下層へ来てから七年になる。
身長も大きく伸びた。
身体も十歳の頃とは比較にならないほど鍛えられ、《エンハンス》を使わない状態でも昔の自分とは別人と言っていい。
魔力についても同じだ。
正確な量を数字で確認する方法はないが、同じ魔法を使ったときの余裕を考えれば、明らかに増えている。
そして何より。
この三年間で変わったのは、俺だけではなかった。
「ロフルさん!」
祭壇の外からフーチェの声が聞こえる。
「そろそろですよ!」
「今行く!」
石板から離れ、外へ向かう。
ハナたちが帰還した翌年から、フーチェたちも洗礼で送られてくる子供の救助を本格的に手伝ってくれるようになった。
俺とフーチェで別方向へ走り、見つけた子供たちを一か所へ集める。
別の区画ではマグとアミナも同じことをしている。
以前のように俺一人で走り回っていた頃とは、効率がまるで違った。
協力を始めた最初の年に助けることができたのは、およそ五十人。
その経験をもとに救助地点や待機場所を増やし、翌年には百人近い子供を生き残らせることができた。
もちろん、すべての子供を救えているわけではない。
俺たちの《サーチ》が届かない場所もあるし、間に合わなかった命も数え切れない。
それでも、昔と比べれば帰還者の数は明らかに増えた。
「今年は百人を超えたいな」
祭壇から出ながら言うと、フーチェが笑う。
「目標が年々大きくなっていきますね」
「人手が増えたんだから、できるだけ助けたいだろ?」
「もちろんです。今年も負けませんよ!」
「だから競争じゃないって」
そんな会話をしながら、いつもの待機場所へ向かった。
空に浮かぶ十二の光は、最後の一つまでほとんど満ちている。
もうすぐ今年の洗礼が始まる。
何度経験しても、この時間だけは少し緊張した。
――ゴォーン……。
――ゴォーン……。
「始まったな」
聞き慣れた鐘の音が森へ響く。
去年も。
一昨年も。
この音と同時に、多くの十歳の子供たちが最下層へ送り込まれた。
俺はすぐに一輪を起動する。
「一輪《サーチ》」
周辺の地形と魔物の位置が視界へ広がった。
「……ん?」
違和感があった。
いつもならこの時点で、あちこちに人間を示す丸い反応が現れる。
だが。
「いない……?」
人間の反応が一つも増えていない。
もともと近くにいたフーチェの反応しか表示されていなかった。
「ロフルさん?」
「ちょっと待ってくれ」
見落としたのかもしれない。
範囲もいつも通り。
地形も正常に表示されている。
インターバルが終わるのを待ち、もう一度発動した。
「一輪、《サーチ》」
結果は同じだった。
「どういうことだ……?」
「誰もいないんですか?」
「ああ。今年の子供が一人も表示されない」
「そんなことが……」
これまで一度もなかった。
転送場所が変わった?
そもそも転送されていない?
考えていると。
――カーン……!
「……!」
突然。
いつもの低い鐘とは違う音が鳴った。
――カァーン……!
高く。
そして、耳を塞ぎたくなるほど大きい。
「何ですか、この音……」
フーチェが周囲を見回す。
俺にも聞き覚えはない。
続いて、無機質な声が森全体へ響いた。
――Adjustment system activation.
――Decrease population.
――Appears at coordinate 0.0.
「……何だ?」
頭の中で意味を追う。
「調整システムを起動……人口を減らす……座標〇・〇に出現?」
何が出現するんだ?
「というか、こういう大事なことを英語で言うなよ……!」
昔なら意味すら分からなかった。
だが分かるからこそ、内容の異常さも理解できる。
人口を減らす。
聞き間違いでなければ、確かにそう言った。
「人口を減らす……直接的な表現だな」
ゴゴゴゴゴゴ……!
「なっ!?」
地面が突然動いた。
最初は小さな振動。
だが数秒も経たないうちに、立っていることさえ難しいほど激しく揺れ始める。
「じ、地面が……!」
フーチェが体勢を崩した。
「《エンハンス》!」
俺もすぐに魔法を発動し、足元へ力を入れる。
「地震……!?」
前世では経験したことがある。
だが、この世界に来てから七年間。
地面が揺れたことなど、一度もなかった。
「ロ、ロフルさん……!」
少し離れていたフーチェが、揺れに耐えながらこちらへ近づいてくる。
「何なんですか、これ……地面が動いています!」
「地震だ!」
「ジシン……?」
「地面そのものが揺れる現象だよ!」
「こんなの初めてです……」
フーチェの顔には、はっきりと恐怖が浮かんでいる。
無理もない。
地面は動かない。
この世界で生まれ育ったフーチェにとって、それは当たり前の常識だったはずだ。
俺は隣まで来たフーチェの震える手を軽く握った。
「大丈夫だ」
「……はい」
「とにかく今は踏ん張れ。揺れが収まったら状況を調べよう」
問題は。
先ほどのアナウンスと、この地震に関係があるのか。
そして――。
今年の子供たちは、どこへ行ったのか。
・・・
・・
・
同刻。
第三層――下層。
サンヘイズ村。
ロフルが最下層で救助を続けていた三年間で、故郷の村も大きく姿を変えていた。
かつては小さな家が点在するだけだった村の周辺には、新たな畑が広がっている。
森を切り開いて作られた農地。
新しく建てられた家々。
人が増えたことで仕事を分担できるようになり、食料の生産量も以前とは比較にならないほど増えていた。
昨年には、ついに第二層から貴族の調査隊まで訪れた。
「これでサンヘイズ村も正式に認められた!」
村長はそんなことを言って、酒まで持ち出して大喜びしていた。
そして今日。
村では、今年十歳になった子供たちが一か所に集められていた。
洗礼の試練当日。
かつてなら。
親は泣き。
子供たちは震え。
誰もが、これが最後の別れになるかもしれないと思っていた日だ。
だが、今は少し違う。
「では、私からの話は以上です」
司祭が子供たちへ向かって話を終える。
「最後に、守衛隊長であるハナさんから言葉をいただきます」
紹介され、一人の少女が前へ出た。
ハナ。
十四歳。
年齢相応に背は伸び、幼い頃の面影を残しながらも、身体は毎日の鍛錬によってかなり引き締まっている。
十四歳という異例の若さで守衛隊長を任されたのも、かつて無法者の集団を一人で退けた力と、その後の働きが認められたためだった。
ハナは並んだ子供たちを見渡す。
「私が皆に言うことは一つだ」
普段、家族と話すときとは少し違う。
守衛隊長として人前に立つときの、力強い口調。
「飛ばされたら、まず安全な場所を探して隠れること。絶対に自分から魔物と戦おうとするな」
子供たちは真剣に話を聞いている。
「木の根でも、岩の隙間でもいい。魔物に見つからないように息を潜めて待つんだ」
一度言葉を切る。
そして。
「必ず、私の兄――ロフルが君たちを助けに来る」
「おおー!」
子供たちから声が上がった。
「ロフル兄ちゃんに会えるかな!」
「去年もいっぱい助けたんでしょ?」
「だったら大丈夫だよ!」
顔には。
希望がある。
ロフルが十歳だった頃とは、まるで違った。
かつての洗礼は、ほとんど死を意味していた。
今は。
最下層には助けてくれる人がいる。
帰ってきた子供たちが、何度もそう話している。
「油断はするな!」
ハナが声を上げる。
「兄さんが見つけるまで生き残るのは、君たち自身だ!」
「はい!」
元気な返事が返ってくる。
「では」
司祭が空を見る。
「いよいよ時間です」
十二の光。
最後の一つが満ちる。
今年も。
いつものように。
子供たちの身体が光に包まれ、最下層へ転送される。
誰もがそう思っていた。
「……?」
一秒。
二秒。
十秒。
何も起こらない。
「おかしいのう……」
村長が空を見る。
「もう十二の刻じゃろ?」
「はい」
司祭も戸惑っている。
「間違いありません」
「では、なぜ……」
子供たちもざわつき始めた。
「ねえ」
一人の少年が不安そうに隣を見る。
「俺たち、行かなくていいのかな……?」
「分かんない……」
「こんなの初めてだよね?」
ハナも空を見上げる。
嫌な感覚があった。
最下層の洗礼では、決まった時刻になれば鐘が鳴り、必ず転送が始まる。
遅れたことなど、一度もない。
「何か起きてる……?」
その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴ……!
「きゃっ!」
「うわっ!」
「なんじゃ!?」
地面が激しく揺れた。
「地面が……揺れておる!?」
村長が体勢を崩す。
「危ない!」
ハナはすぐに腕を伸ばし、倒れかけた村長を支えた。
「みんな! 体勢を低くするんだ!」
ハナの声が響く。
子供たちも。
大人たちも。
すぐにその場へしゃがみ込んだ。
「頭を守れ! 建物には近づくな!」
ハナ自身も、この現象を見るのは初めてだった。
地面が上下左右へ激しく動いている。
それだけではない。
揺れと同時に。
遠くから。
ズズズズズ……。
ゴリゴリゴリ……。
何か巨大なものが擦れるような音。
地面そのものが割れているような、不気味な音が響いてくる。
「……?」
ハナが顔を上げた。
音のする方向。
「何だ、あれは……!?」
村からかなり離れた場所で。
空高くまで砂煙が巻き上がっていた。
土。
砂。
草木。
まるで巨大な嵐でも発生したかのように、大量のものが空へ舞い上がっている。
揺れはしばらく続いた。
やがて。
少しずつ弱まり。
完全に止まる。
「……」
砂煙も時間をかけて収まっていった。
何事もなかったように。
再び静けさが戻る。
だが。
子供たちは。
誰一人として転送されていない。
「一体……何が起きている……?」
ハナは一輪を起動した。
「《サーチ》」
周辺の地形。
反応が広がる。
「……駄目か」
この位置からでは、砂煙が上がった場所に何があるのか分からない。
かなり遠いようだ。
ハナは立ち上がり、村長を見る。
「村長」
「何じゃ?」
「私は、さっき砂煙が上がった場所を調べてくる」
「一人でか?」
「はい。普通の人が近づくより、私が行った方が安全です」
村長は不安そうに遠方を見る。
しばらく迷った後。
「……分かった」
ハナへ向き直る。
「気をつけて行くんじゃよ」
「はい」
ハナは三輪へ触れる。
「三輪《エンハンス》」
全身を魔力が覆う。
そして、砂煙が上がった方向へ身体を向けた。
洗礼の試練は始まらなかった。
代わりに現れた、初めての異変。
このとき。
ハナも。
最下層にいるロフルも。
まだ知らなかった。
これまで続いてきた日常が。
今日を境に、大きく崩れ始めていることを。