低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第44話 保守員たち

 次の探索で、ロックはあえて保守路だけを歩いていた。

 

 未知の区画へ進むのではない。

 

 保守体を観察するためだ。

 

 身を隠し、帳面を開く。

 

 今日の目的は戦うことでも、宝を探すことでもない。

 

 観察。

 

 それだけだった。

 

     ◇

 

 最初に現れたのは、見慣れたボーン・サーヴァントだった。

 

 骨だけの身体。

 

 背には金属籠を背負っている。

 

 中には折れた管や砕けた石材。

 

 廃棄物収集庫へ運んでいるのだろう。

 

 歩幅は一定。

 

 寄り道はしない。

 

 誰かを探す様子もない。

 

 ロックが柱の陰にいても、視線すら向けなかった。

 

 やがて通り過ぎる。

 

 帳面へ書く。

 

運搬担当。

 

指定経路のみ移動。

 

     ◇

 

 しばらくすると、別の個体が現れた。

 

 白いホムンクルス。

 

 細長い棒を持っている。

 

 昨日見た点検個体と同じ型だ。

 

 壁際へ立つ。

 

 棒を導管へ軽く当てる。

 

 淡い光。

 

 すぐ消える。

 

 次の導管。

 

 また光る。

 

 何かを測定している。

 

 数歩進む。

 

 繰り返す。

 

「点検だ」

 

 間違いない。

 

 修理ではない。

 

 異常がないか確認している。

 

 ホムンクルスは一度も立ち止まらず、そのまま通路の奥へ消えた。

 

     ◇

 

 さらに待つ。

 

 今度は二体。

 

 同じ型。

 

 片方が壁を開く。

 

 もう片方が中から小さな筒を取り出す。

 

 交換。

 

 蓋を閉じる。

 

 三十息も掛からない。

 

 作業終了。

 

「消耗品……?」

 

 魔力を濾過する部品か。

 

 弁か。

 

 詳しくは分からない。

 

 だが交換作業だけを専門に行っている。

 

 そういう役割なのだろう。

 

     ◇

 

 昼近く。

 

 ロックは初めて見る保守体を見付けた。

 

 身長は人より少し低い。

 

 四本腕。

 

 胴は丸い。

 

 歩くたび、小さく金属音が鳴る。

 

「新型……?」

 

 いや。

 

 戦う構造ではない。

 

 四本の腕で器具を持ち替えながら、床を磨いている。

 

 隅。

 

 溝。

 

 角。

 

 一本腕では届きにくい場所ばかりだ。

 

 磨き終えると、今度は細い刷毛で継ぎ目を掃く。

 

 最後に液体を一滴垂らす。

 

 終わると次へ。

 

 無駄がない。

 

 何百年。

 

 何千年。

 

 同じ動作だけを繰り返してきたのだろう。

 

「掃除専門か」

 

 人工始原の巨人は広い。

 

 一種類の保守体だけでは維持できない。

 

 役割を細分化し、それぞれが自分の仕事だけを続けている。

 

 まるで町の職人だ。

 

     ◇

 

 ロックはふと気付く。

 

「……誰も指示していない」

 

 監督者がいない。

 

 命令する者もいない。

 

 なのに、全員が決められた仕事を続けている。

 

 鐘も鳴らない。

 

 号令もない。

 

 それでも、誰一人として迷わない。

 

「命令を待たない保守体」

 

 そうではない。

 

 命令そのものが、この施設へ組み込まれている。

 

 各々が、自分の役目だけを知っている。

 

 だから誰も困らない。

 

 だから止まらない。

 

 だから数百年経っても動き続ける。

 

     ◇

 

 その日の帰り道。

 

 ロックは休憩所へ腰掛け、帳面を整理していた。

 

保守体は複数種類確認。

 

・運搬担当

 

・点検担当

 

・部品交換担当

 

・清掃担当

 

役割は明確に分担されている。

 

 そして最後に、一行だけ書き加える。

 

まだ「修理担当」を見ていない。

 

 これだけの施設だ。

 

 壊れた導管を直す者がいないはずはない。

 

 もし、その保守体を見付けられれば──。

 

 人工始原の巨人の内部構造を知る、大きな手掛かりになるかもしれない。

 

 ロックは帳面を閉じ、静かに立ち上がった。

 

 次に追うべき相手は、もう決まっていた。

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