低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第55話 対策

 翌朝。

 

 ロックは《古代王国の扉》亭の一室で、一人帳面を開いていた。

 

 昨夜の戦いを何度も思い返す。

 

 首なし騎士。

 

 声の怪異。

 

 鈴。

 

 そして。

 

 自分の声。

 

「……真正面から戦う相手じゃない」

 

 剣で勝てるか。

 

 そう問われれば、答えは「分からない」だった。

 

 だが。

 

 敵の仕組みは少しずつ見えてきた。

 

 ならば考えるべきは、倒し方ではなく封じ方だった。

 

     ◇

 

 ロックは紙を一枚取り出した。

 

 中央へ大きく円を書く。

 

 《墓標喰らい》

 

 その周囲へ思い付く限りを書き並べていく。

 

声を真似る

 

鈴を鳴らす

 

音を反響させる

 

首なし騎士へ命令する

 

木の上を移動する

 

実体が薄い

 

 少し考え、

 

 今度は反対側へ書いた。

 

苦手なもの?

 

 そして空欄になった。

 

「分からないものは、試すしかない」

 

     ◇

 

 昼過ぎ。

 

 ロックは王都の市場へ向かった。

 

 武器屋ではない。

 

 雑貨屋だった。

 

「耳栓ってありますか?」

 

 店主は目を丸くした。

 

「耳栓?」

 

「長旅で眠る時に使うような物です」

 

「ああ。」

 

 木箱から蜜蝋を取り出す。

 

「これを丸めて耳へ詰める奴なら。」

 

 ロックは一つ買った。

 

 高い物ではない。

 

 銀貨数枚。

 

 続いて布屋へ寄る。

 

 厚手の布。

 

 紐。

 

 革。

 

 簡単な頭巾が作れそうな材料を揃える。

 

     ◇

 

 夕方。

 

 リュンクスはロックの部屋へ入るなり笑った。

 

「何、その格好」

 

 ロックは頭へ布を巻き、耳を覆っていた。

 

「試作品」

 

「強盗みたい」

 

「聞こえる?」

 

「聞こえるわ」

 

「僕も聞こえる」

 

「意味ないじゃない」

 

 その通りだった。

 

 布程度では声は防げない。

 

     ◇

 

 次は蜜蝋を耳へ詰める。

 

「どう?」

 

「……」

 

「ロック?」

 

「……」

 

「聞こえない?」

 

 ロックはゆっくり頷いた。

 

 かなり聞こえにくい。

 

 だが。

 

 今度はこちらが喋れない。

 

 会話が成立しなかった。

 

「却下だね」

 

 耳を塞げば怪異の声も聞こえにくくなる。

 

 しかし仲間との連携まで失われる。

 

 これでは意味がない。

 

     ◇

 

「じゃあ逆に考えましょう」

 

 リュンクスが椅子へ座った。

 

「何?」

 

「聞かなきゃいいのよ」

 

「聞こえるのに?」

 

「反応しない。」

 

 彼女は指を一本立てた。

 

「私達は昨日、あなたの声にも私の声にも返事をしなかった。」

 

「うん」

 

「それで騙されなかった。」

 

 ロックは少し考える。

 

「つまり」

 

「声を情報として扱わない。」

 

「目だけで確認する」

 

「そう。」

 

 盗賊は夜盗を警戒する時、

 

 声より手振りを使う。

 

 暗闇では声が居場所を教えてしまうからだ。

 

「なるほど」

 

 ロックは帳面へ書く。

 

声を信用しない

 

合図は視覚

 

接近確認まで返答禁止

 

     ◇

 

「でも一つ問題がある」

 

 ロックは言った。

 

「何?」

 

「一人なら出来る。」

 

「二人でも出来た。」

 

「三人以上は?」

 

 リュンクスは黙った。

 

 確かにそうだった。

 

 人数が増えれば、

 

 誰が誰を確認したのか分からなくなる。

 

「だから今回は二人が限界」

 

「もっと人数が要る相手なら?」

 

「別の方法を考える。」

 

     ◇

 

 夜。

 

 ヨアヒムも交えて作戦を練る。

 

「結局、次はどうする」

 

 ロックは地図を広げた。

 

「倒しません」

 

「ほう?」

 

「捕まえます。」

 

 ヨアヒムの眉が上がる。

 

「理由は?」

 

「声の怪異を倒しても、首なし騎士の仕組みが分からない。」

 

「逆も同じか」

 

「はい。」

 

 リュンクスが地図へ印を付けた。

 

「私は木の上。」

 

「僕は墓地。」

 

「今度は逃がさない。」

 

「縄か?」

 

「いいえ。」

 

 ロックは首を振る。

 

「鈴です。」

 

     ◇

 

 首なし騎士は鈴を失うと停止した。

 

 つまり。

 

 鈴は単なる飾りではない。

 

 命令系統の一部。

 

 ならば。

 

「先に鈴を奪えば」

 

「騎士は動けなくなる。」

 

「そして声だけ残る。」

 

 ヨアヒムは煙管を置いた。

 

「発想は悪くねぇ。」

 

「でも?」

 

「相手も二度目だ。」

 

 昨日と同じ場所。

 

 昨日と同じ囮。

 

 昨日と同じ誘導。

 

 そんな単純な相手ではない。

 

「敵も学ぶぞ。」

 

 ロックは静かに頷いた。

 

 それは自分も考えていた。

 

 《墓標喰らい》は、ただの怪物ではない。

 

 観察し。

 

 記憶し。

 

 次には別の手を打ってくる。

 

 だからこちらも変える。

 

 同じ策は二度使わない。

 

 ロックは帳面の最後へ一行だけ書き足した。

 

敵は学習する。こちらも学習する。

 

 その一文こそ、この賞金首との戦いで最も重要な情報だった。

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