~転生したら奈良シカマルの双子の兄でした~   作:ZAZAI

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第二十九話 足元を見る

 

足の裏へチャクラを集める。

 

言葉にすれば、それだけだった。

 

カゲマルは目の前の木を見上げる。高く伸びた太い幹の先で、枝葉が空を覆っている。

 

隣では、ナルトとレンがすでに地面から起き上がっていた。

 

「今のはちょっと失敗しただけだってばよ!」

 

「俺も!」

 

「何で張り合ってるのよ」

 

サクラが呆れる。

 

「別に張り合ってねぇ!」

 

レンが言うと、ナルトもすぐ続いた。

 

「俺もだってばよ!」

 

スズが二人を見る。

 

「息ぴったり」

 

「違う!」

 

今度は声まで揃った。

 

カゲマルは笑いを堪えながら、自分の足元へ意識を戻した。

 

(チャクラコントロールか)

 

知識としてなら分かる。

 

足の裏から一定量のチャクラを放出し、それを木の表面へ吸着させる。

 

少なすぎれば落ちる。多すぎれば反発して幹を傷つける。

 

重要なのは、適切な量を保ち続けること。

 

前世で散々見た修行だ。

 

だが、理解していることと、できることは違う。それは最近、嫌というほど思い知らされている。

 

カゲマルはゆっくりとチャクラを足裏へ集めた。

 

「……よし」

 

一歩。

 

木の幹へ足を乗せる。

 

吸い付く感触。

 

二歩、三歩。そのまま身体を前へ倒し、四歩、五歩。

 

(いける)

 

そう思った瞬間、足裏から伝わる感覚が僅かに乱れた。

 

「っ」

 

右足が滑る。

 

身体が離れる前に幹へ苦無を突き立てた。

 

ガッ。

 

印を残し、そのまま地面へ着地する。

 

高さは五メートルほど。

 

「おお」

 

レンが声を上げた。

 

「いきなりそこまで行くのかよ」

 

「思ったより難しい」

 

カゲマルは幹に残った傷を見る。

 

右足。

 

途中でチャクラが弱くなった。

 

集中が切れたというより、左右の出力が揃っていなかった。

 

「なるほど」

 

ゲンマが言った。

 

「奈良は頭で理解してから動く分、最初は悪くない」

 

カゲマルが振り返る。

 

「でも?」

 

「考えながら調整しすぎる」

 

やっぱり続きがあった。

 

「一歩ごとに正解探すな。感覚で覚えろ」

 

「……はい」

 

「木は待ってくれないからな」

 

カゲマルは苦笑した。

 

最近、本当に同じところを突かれる。

 

---

 

「次、俺!」

 

レンが前へ出る。

 

「今度こそいく!」

 

「さっきも言ってた」

 

スズが言う。

 

「今度は本当にいく!」

 

レンは軽く膝を曲げ、足裏へチャクラを集めて一気に駆け出した。

 

一歩。

 

二歩。

 

三歩。

 

ナルトより速い。

 

四歩目。

 

バキッ。

 

木の表皮が弾けた。

 

「うおっ!?」

 

レンの身体が後ろへ飛ぶ。

 

地面へ背中から落ちそうになり、空中で身体を捻って着地した。

 

「危なっ」

 

レンが木を見る。

 

幹には小さな抉れ。

 

ゲンマが言う。

 

「多すぎ」

 

「分かりました?」

 

「見れば分かる」

 

レンは自分の足を見る。

 

「力入れすぎたってことですか?」

 

「そういうこと」

 

「じゃあ弱くすればいいんですね」

 

「単純に半分にするなよ」

 

「え?」

 

「適量を探せって言ってる」

 

レンの眉が寄る。

 

「細かい……」

 

スズが横から言う。

 

「そういう修行でしょ」

 

「俺、こういう微調整苦手なんだよな」

 

「知ってる」

 

「まだ始めたばっかりだろ!?」

 

ゲンマは二人のやり取りを無視して、次にスズを見る。

 

「水無瀬」

 

「はい」

 

スズが前へ出る。

 

派手な勢いはない。

 

じっと木を見て足裏へチャクラを集め、一歩目を置く。

 

そのまま慎重に進む。

 

一歩。

 

二歩。

 

三歩。

 

四歩。

 

レンより遅い。

 

だが、安定している。

 

六歩、七歩。

 

そこで身体が僅かに傾いた。

 

スズはすぐ苦無で幹へ印を付け、地面へ降りる。

 

レンが目を丸くした。

 

「俺より高くない?」

 

「高い」

 

「何で?」

 

「知らない」

 

「嘘だろ」

 

ゲンマがスズへ言う。

 

「悪くない」

 

「ありがとうございます」

 

「ただ慎重すぎる」

 

スズが瞬きをする。

 

「落ちないようにしてました」

 

「それ自体はいい。でも一歩ごとに確認してたら実戦じゃ使えない」

 

「……はい」

 

「最初はそれでいい。慣れたら速度上げろ」

 

スズは素直に頷いた。

 

カゲマルは三人の結果を見比べる。

 

レンは出力が強すぎる。

 

スズは安定するが慎重。

 

自分は考えすぎて途中で崩れる。

 

同じ課題なのに、失敗の仕方が全員違う。

 

面白い。

 

---

 

「じゃあ次は俺だ!」

 

ナルトが苦無を握る。

 

サクラが言う。

 

「さっき落ちたばっかりでしょ」

 

「今度はいける!」

 

「根拠は?」

 

「気合!」

 

「一番不安な答えね」

 

ナルトは構わず走った。

 

一歩。

 

二歩。

 

三歩。

 

四歩目。

 

足が滑る。

 

「うわぁぁぁ!」

 

幹へ苦無を突き立てる。

 

先ほどよりは高い。

 

だが、着地したナルトは悔しそうに木を睨んだ。

 

「何でだってばよ……!」

 

少し離れた場所では、サスケが無言で木を見ている。

 

そして走った。

 

一歩。

 

二歩。

 

三歩。

 

ナルトより滑らかで、高さも上。

 

カゲマルは目を細める。

 

(やっぱりサスケは上手い)

 

だが、完璧ではない。

 

途中でチャクラ量が乱れ、身体が剥がれる。

 

苦無で印を残し、着地。

 

ナルトがすぐにサスケの印を見る。

 

自分より高い。

 

「くっ……!」

 

「フン」

 

サスケが短く鼻を鳴らす。

 

それだけで、ナルトの額に青筋が浮かんだ。

 

「今のもう一回!」

 

「好きにしろ」

 

「絶対抜く!」

 

「うるさい」

 

カゲマルは懐かしさを覚えた。

 

知っている。

 

この二人は、こうやって伸びる。

 

隣でレンが二人を見ている。

 

目が妙に輝いていた。

 

嫌な予感。

 

「なあ」

 

カゲマルが言う。

 

「混ざらない方がいいと思う」

 

「何で?」

 

「絶対疲れるから」

 

レンは少し考えた。

 

そして。

 

「でも楽しそうじゃん」

 

止める前に、ナルトとサスケの方へ行った。

 

「俺も勝負する!」

 

ナルトが振り返る。

 

「お前も!?」

 

「誰が一番先に上まで行くか!」

 

ナルトの顔が輝いた。

 

「乗ったってばよ!」

 

サスケは冷めた目。

 

「勝手にやってろ」

 

そう言いながら、苦無を持ち直した。

 

スズがカゲマルの隣へ来る。

 

「増えた」

 

「増えたね」

 

「面倒なのが」

 

「言い方」

 

---

 

そして最後に、サクラが木の前へ立った。

 

「まあ、要するに適切なチャクラ量を維持すればいいのよね」

 

カカシから説明を聞いた時点で、ほぼ理解している。

 

足裏へチャクラを集中。

 

一歩。

 

そのまま普通に歩くように、二歩、三歩、四歩。

 

誰よりも安定している。

 

途中で止まる気配すらない。

 

「え?」

 

ナルトが上を見る。

 

サクラはそのまま幹を登り切り、高い枝へ立った。

 

「こんな感じ?」

 

沈黙。

 

ナルト。

 

レン。

 

カゲマル。

 

スズ。

 

そしてサスケ。

 

全員が上を見る。

 

ゲンマだけが、特に驚いた様子もなく言う。

 

「そう」

 

サクラが枝の上で笑う。

 

「できた!」

 

「サクラちゃんすげぇぇぇぇ!」

 

ナルトが叫んだ。

 

「一発!?」

 

レンも声を上げる。

 

スズが感心したように言う。

 

「綺麗」

 

カゲマルも素直に頷いた。

 

「すごいな」

 

サクラは照れながらも、かなり嬉しそうだ。

 

サスケだけは無言。

 

だが、目つきが変わった。

 

「春野」

 

ゲンマが声をかける。

 

「お前はチャクラコントロールがかなりいい」

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし」

 

サクラの顔が引き締まる。

 

「量そのものは多くない。制御の良さをどう使うか考えろ」

 

「はい!」

 

そしてゲンマは下にいる五人を見る。

 

「ということで」

 

嫌な予感。

 

「春野が基準だ」

 

五人の顔が固まった。

 

サクラが上から言う。

 

「え?」

 

「今日中にそこまで行け」

 

ナルトが叫ぶ。

 

「無理だってばよ!」

 

レンも続く。

 

「今の見た後だと余計無理ですよ!」

 

「できる奴がいる」

 

ゲンマは平然としている。

 

「なら不可能じゃない」

 

「理屈!」

 

レンが頭を抱えた。

 

スズが言う。

 

「正論ではある」

 

「スズはどっちの味方!?」

 

「別にレンの味方ではない」

 

「班員!」

 

カゲマルは苦笑しながら木を見る。

 

高い。

 

だが、サクラは登った。

 

なら、できない理由はない。

 

---

 

それから何度も木へ向かった。

 

カゲマルは最初の五メートルから、少しずつ距離を伸ばしていく。

 

右足。

 

左足。

 

出力を揃える。

 

考えすぎない。

 

身体で覚える。

 

七メートル。

 

九メートル。

 

十二メートル。

 

徐々に感覚が掴めてきた。

 

だが、そこでまた落ちる。

 

「っ!」

 

空中で回転し、着地。

 

息を吐く。

 

「惜しい」

 

スズが言った。

 

「まだ全然」

 

「最初より高い」

 

「スズは?」

 

彼女の木を見る。

 

こちらも着実に印が上へ伸びている。

 

「同じくらい」

 

「嘘。ちょっと上でしょ」

 

「二十センチくらい」

 

「上じゃん」

 

「誤差」

 

少し離れたところでは、レンが何度目か分からない落下をしていた。

 

「痛ぇ!」

 

だが最初のように木を抉ることはなくなっている。

 

チャクラ出力は少しずつ安定していた。

 

身体能力が高い分、一度感覚を掴み始めると伸びが速い。

 

「もう一回!」

 

すぐ立ち上がる。

 

その向こうでナルトも叫ぶ。

 

「俺も!」

 

そしてサスケは無言のまま、また木へ向かっている。

 

カゲマルは思う。

 

(本当に似てるな)

 

性格は全然違う。

 

でも、負けず嫌いという部分だけならかなり近い。

 

---

 

昼を過ぎる頃。

 

サクラはすでに修行から外れ、ゲンマの指示で周囲の警戒や別の基礎訓練を始めていた。

 

残る五人は、まだ木と格闘している。

 

「はぁ……はぁ……」

 

ナルトが地面へ座り込む。

 

レンも隣へ倒れた。

 

「木って……こんな強敵だったのか」

 

「分かるってばよ……」

 

二人が並んで空を見る。

 

スズが少し離れた場所から言う。

 

「木は何もしてない」

 

「気持ちの問題!」

 

レンが返す。

 

カゲマルも木へ背を預けて息を整える。

 

足裏が熱い。

 

チャクラを細かく使い続けるというのは、想像以上に疲れる。

 

隣へサスケが座った。

 

珍しい。

 

「疲れた?」

 

カゲマルが聞く。

 

サスケが睨む。

 

「お前は疲れてないのか」

 

「疲れてる」

 

「なら聞くな」

 

「ごもっとも」

 

少し沈黙。

 

サスケがカゲマルの木を見る。

 

印の高さ。

 

そして自分の木。

 

ほぼ同じ。

 

僅かにサスケの方が上。

 

「……お前」

 

「ん?」

 

「知ってたのか」

 

カゲマルの心臓が僅かに跳ねる。

 

「何を?」

 

「この修行」

 

サスケが言う。

 

「最初からやり方を知ってるみたいだった」

 

鋭い。

 

カゲマルは少し考えてから答える。

 

「理屈はね」

 

「アカデミーでチャクラコントロールについて調べたことがあるから」

 

嘘ではない。

 

全部ではないが。

 

「でも、知っててもできない」

 

カゲマルは自分の木を見る。

 

「やってみたら全然違った」

 

サスケも自分の手を見る。

 

「……そうか」

 

それだけだった。

 

疑っている様子はない。

 

やがてサスケが立ち上がる。

 

「休憩終わりだ」

 

「早くない?」

 

「抜かれたくないなら来い」

 

カゲマルが笑う。

 

「誰に?」

 

サスケは答えず、走り出した。

 

カゲマルも立ち上がる。

 

---

 

夕方。

 

木々へ差し込む光が赤くなってきた頃、最初に変化が出たのはスズだった。

 

慎重だった一歩が速くなる。

 

一歩。

 

二歩。

 

三歩。

 

足元を見すぎない。

 

耳も使っている。

 

風。

 

葉。

 

自分の足音。

 

それらを確認しながら上へ進み、枝へ手を掛けた。

 

そのまま身体を引き上げる。

 

「……着いた」

 

下からレンが叫ぶ。

 

「マジ!?」

 

スズが枝の上から見る。

 

「できた」

 

声はいつも通り。

 

でも、少しだけ嬉しそうだった。

 

ゲンマが頷く。

 

「水無瀬、終了」

 

「はい」

 

スズが降りてくる。

 

カゲマルは手を上げる。

 

「おめでとう」

 

スズも軽く手を合わせた。

 

「次、カゲマル」

 

「プレッシャーかけるなぁ」

 

「一番近いから」

 

確かにあと少し。

 

カゲマルは木を見る。

 

考える。

 

いや。

 

考えすぎるな。

 

足裏。

 

チャクラ。

 

身体の感覚。

 

一歩、二歩、三歩。

 

速度を落とさない。

 

途中で右足の出力が僅かにずれる。

 

いつもなら、そこで意識が足へ向く。

 

だが今回はそのまま進んだ。

 

身体全体で調整する。

 

十歩。

 

十五歩。

 

枝が近づく。

 

最後に踏み込み、足裏を木へ吸い付かせる。

 

手を伸ばした。

 

枝を掴む。

 

「……よし」

 

身体を上げる。

 

下を見る。

 

高い。

 

思った以上に。

 

ゲンマが言う。

 

「奈良も終了」

 

カゲマルは息を吐いた。

 

達成感が思ったより大きい。

 

影真似を覚えた時とは違う。

 

派手でもない。

 

特別でもない。

 

ただの基礎。

 

それでも、自分の身体で覚えた技術だった。

 

「カゲマル!」

 

下からレンが叫ぶ。

 

「先行くなよ!」

 

「待ってるよ」

 

「すぐ行く!」

 

その横でナルトも叫ぶ。

 

「俺も!」

 

サスケは何も言わず、すでに木へ向かっていた。

 

カゲマルは枝の上から三人を見る。

 

レン。

 

ナルト。

 

サスケ。

 

それぞれ違う理由で、負けたくない。

 

諦めたくない。

 

だから何度でも登る。

 

カゲマルは少しだけ笑った。

 

原作で知っている修行。

 

そのはずだった。

 

でも今はもう、知っている場面ではない。

 

レンがいて、スズがいて、自分がいる。

 

同じ木登りでも、ここで起きていることはもう自分の知らない時間だった。

 

「奈良」

 

下からゲンマが呼ぶ。

 

「はい?」

 

「登れたからって休むな」

 

「……え?」

 

「降りてこい」

 

嫌な予感。

 

「次は?」

 

ゲンマが千本を動かした。

 

「走って登れ」

 

カゲマルは枝の上で黙った。

 

下ではスズが僅かに笑っている。

 

「……終わりじゃないんですね」

 

「忍の修行が一回できて終わると思ったか?」

 

「思ってないですけど」

 

「なら降りてこい」

 

「はい」

 

カゲマルはため息を吐き、枝から飛び降りた。

 

その横では、ナルトとレンの叫び声がまだ森に響いていた。

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