白銀さんちの超高校級 作:るるトゥ
「あー…メグ。俺たちの聞き間違えかもしれないから、もう一度だけ今のを言ってくれないか?」
「あまり連呼したくないような、汚い言葉なのですが…まぁいいです。サッカー部にはヤ●チンが多いのですね、と言いました。」
「んー、メグ…。その言葉はいったい誰に教えられたんだ?」
白銀は満面の笑みで、廻に問う。
その笑みの穏やかさといえば、聖母も地母神も驚愕するほどだろう。
まぁ、内心はまったくもって穏やかな状況ではないのだが。
「中学のころにお世話になっていた先輩ですよ。男ならみんなヤ●チンになるべしというろくでもないことを謳っていたのですが、当時の僕はどういう意味なのか分からなかったので聞いてみたのです。」
「よし。ソイツは俺が殺そう。百万回は殺そう。メグ、ソイツの名前を教えてくれないか?」
「兄様、冗談でもそんなことを言っちゃダメですよ。それと…あの先輩は怒った両親にどこかの仏教系統の学校に入れられたらしいです。あんなひどいことを言ったことを、今の先輩はきっと反省していますよ。」
そう。
廻にそんなバカみたいなことを吹き込んだアホは、激昂した四条グループ後継候補筆頭である帝の手によって、女子と少しも関われない全寮制の高校へと突っ込まされた。
廻の唯一無二の純粋さを汚したのだから、当然の報いである。
むしろ、帝がこの程度で制裁を済ませたことのほうが驚きだ。
これら一連の騒動が、今までもこれからも廻の耳に届くことはない。
そういうふうに情報規制されたのだから。
「そうか。それなら許してやるとしよう。……とりあえず殺す、なにがあっても殺す。」
言っていることが前半と後半で正反対な白銀。
あまりにも不穏すぎる後半のつぶやきは廻の耳に入らなかったのが、不幸中の幸いだろう。
「話を戻しましょうか。秀知院でやってみたいことはいろいろとありますが、部活に入る可能性は万に一つもありません。」
「え?そうなのか?」
予想外な廻の言葉に、石上は素っ頓狂な声を漏らしてしまった。
「はい。そうですよ。兄様と圭が部活に入らずに家のことをしてくれているのに、僕だけ自分の好きなことをするわけにはいきません。それに、部活に入ったらできなくなってしまうこともありますし。」
「そうだったのか。……つまり僕は勝手に変な妄想して動き回ってた恥ずかしい勘違い野郎ってこと?」
先ほどまでの自身の行動を振り返り、石上はいつものネガティブ思考でそう結論付ける。
どうやったらそこまで卑屈になれるんだ、石上。
「まぁそういうことですので、僕が部活に入ることはないですよ。ただまぁ───」
石上のネガティブ思考に気づいていない廻は、ニコニコと機嫌の良さを隠さない笑みを石上へ向けて、嬉しそうにこう告げた。
「無駄になってしまいましたが、石上くんが僕のためにここまでしてくれたことは嬉しかったですよ。ありがとうございます、石上くん。」
初めて、こんなにも真っ正面から純粋な好意を伝えられた石上。
しかもそれを言ってきたのは、まるで美少女のような風貌を持ち、庇護欲を加速させるような性格の同級生。
結果、石上の中でかすかにくすぶっていたとある思想に火が点けられた!
その思想の名を持つ者たちのことを最適に表すとするのなら、【白銀廻を見守り隊】というべきだろう!
アタオカな名前を持つソレは、廻の通っていた中学や四条帝の通っている高校などに存在する、白銀廻のファンクラブ的なナニカのこと。
廻と出会う前の石上が今の石上を見たならば、鼻で笑うと同時に侮蔑の視線を送っていたことだろう。
今この瞬間、石上は目覚めてしまった。
石上の中で眠っていたソレに、もう取り返しのつかないレベルの火が灯ってしまったのだ。
強いて良かった点を挙げるもするのならば、その思想に目覚めたのが石上であったこと。
もしこれが藤原みたいな羞恥心を知らぬ行動力の化身であったのなら……。
もう想像もできぬほどに悲惨な目に遭っていたことだろう…廻のメンタルが。
本日の勝敗:石上優の圧倒的勝利?(その思想に目覚めたことが良いことだと断定できないため)
───*───
土曜日の朝八時頃。
白銀家の中では……ただひたすらに来客を知らせるインターホンの音色が響き渡っていました。
「んー…誰ですかぁ?」
しょぼしょぼしている眼をこすりながら、インターホンを止めるために僕は部屋から出る。
「廻、私が来たわよ!!」
「あれ、四条先輩?どうして僕の家にいるんですか?」
なぜかリビングで椅子に座り水を飲んでいた、秀知院の上級生にして帝先輩の姉である四条眞紀先輩。
「なんか廻の名前つぶやきながらピンポン連打してたから、とりあえず中に入れといた。」
「父様もたまには良いことをするんですね。」
笑えないレベルのぶっ飛んだギャグをシリアスなところに突っ込んでくれたことくらいしか、今までに良いことをしてもらった記憶がありません。
他はなんというかもう…クレイジーなので、はい。
「貴方、帝の高校に行くんでしょう?せっかくだから私もついてってあげるわ、感謝しなさい!!」
「なるほどです。ところで、もう朝ごはんは食べましたか?まだ食べてないのなら、ぜひうちで食べてってください。父様も良いですよね?」
「あぁ、父さんは別に構わんぞ。若い娘と一緒にご飯を食べるというパパの活動…略してパパ活だな。」
見知らぬ人がいたとしても、父様のクレイジー発言は止まらないらしいです。
「間違ってはいないんですけど、致命的に間違っているので次から女子高生の前でその発言を使うのはやめてください。」
四条先輩にこれ以上ドン引きさせないためにも、父様に釘を刺しておくのでした。
…まぁどうせ効かないと思いますけど。