ハードなメニューの合宿で与えられた課題をこなしながら、時間は過ぎていき、最終日は移動しての練習試合。第一試合は大鷲高校戦。
「ライト」
「……任せて」
私はライトでスタメン。岡田先輩はセンターに回り、息吹さんと大村さんがレフト。
先発の藤原先輩はチームの経験不足による守備のミスがありながらも大崩れすることはなく、5回を6失点で降板。6回からは息吹さんが登板。2回3失点。
大鷲高校9-新越谷4。
「凄いって! 私なんて10失点が普通だったし!」
「……最初から上手くいく人はいないしね」
武田さんが落ち込んでいる2人を励ます。
2試合目の藤和B戦は上位打線が初回上位打線が効率よく繋がり1点を先制する。
「初回先制点はうちの得点パターンになってきたね」
この試合の先発は武田さん。5回まで藤和Bチームの打線を2点に抑える好投。
私は6回からマウンドに上がる。終盤の2イニングを無安打、ゴロアウトを中心に球数は20球、無四球、三振は二つ奪った。
藤和2ー新越谷1。
「皆、お疲れ様! 試合を見ながら反省会だよ!」
藤和と大鷲の試合を観戦しながら反省会。
「今日はエラーが多かったな」
「監督、帰ったら千本ノックだって」
野手陣は川崎さんが二つの失策。大村さん、藤田さん、息吹さんが1つの失策。
「皆、打球が強いわよね。前進と思ったら後ろだったし」
「私は守備のサインが多くて覚えられないよ」
「それも含めての練習試合だよ。大会までには慣れてもらうよ。場合事には1球ごと、っ緊張する暇も与えないくらいに出すからね」
1つのプレーが時として試合の空気を換えることもある。サインは川崎さんが言うように細かくて覚えるのが大変だけど、頭に体に感覚としてしみこませたい。
電車で学校に戻ってからは内野陣は監督が千本ノック。
「そうです! 速い打球も汚い学校でもまずとること! 次!」
監督が新越谷が黄金時代のメンバーだったみたいで、普段は話しやすいんだけど、グラウンドに入ると人が変わる。
「これにて、合宿は終了します! 試合の結果は残念だったけど、格上を相手にしても形になるのは確認できたね。これからもじっくりと地力を上げていこうね」
期間としては短かったけど中身が凄く濃かった。
「監督、何かあります?」
「試験の前週は練習時間を短縮しますが、試合もあります。勉強もしっかりしておくように」
勉強かぁ……苦手な科目はないけど、家だとスマホを見ちゃうし、図書館の方がいいかなぁ。
「凪ちゃんも勉強が苦手なタイプ?」
「……ううん。そうじゃなくて、図書館でやろうかなって思って。家だとスマホ見ちゃうし」
「じゃあ、うちにおいでよ! 稜ちゃんも見てあげるから!」
「いや、私は……」
「こいつは私が見るわ。どうせやらないだろうから」
武田さんから誘われた。勉強が苦手な様子の川崎さんは断ろうとしていた所を藤田さんに腕を掴まれてました。
それから時間は進んで、試験を翌週に控えた休日の日曜日の朝。
「……お邪魔します」
「待ってたよ~」
コンビ二で購入した飲み物を手にしながら、武田さんの家のインターフォンを鳴らす。
「今日は親は出かけてるから静かだよ」
「そうなんだ」
駅で家族連れを多く見かけたから、今日は快晴で家で過ごすよりも外に出かける人の方が多そう。
「凪ちゃんは何処がわからないの?」
「歴史と数学」
「OK。範囲から難しい部分からやっていこう」
武田さんの部屋でテキストを広げて勉強を始める。
(武田さんって勉強もできるタイプなんだ)
私の分からない部分をわかりやすく解説してくれる。
「凪ちゃんと二人でいるのって初めてだね」
「……いつもは人がいるしね」
武田さんと二人きりって初めてな気がする。いつもは芳乃さんや山崎さんがいるから。
「凪ちゃんは疲れてない? 昨日も投げてたけど」
「……平気。そっちは?」
「私は先発だったから多少はね」
私は練習試合での登板は野手でスタメンからのリリーフ。公式戦での起用を想定した形で、武田さんは全試合に先発で登板。
「通算の防御率、0点台でしょ?」
「そうみたい」
私の練習試合の失点は疲れがたまった時期に出した1点のみでその他の試合は無失点で、通算の防御率は0点台。
「凪ちゃんが後ろにいてくれるのって凄く頼もしいよ」
武田さんは信頼を寄せるように言う。
「……同じ学年の子がライバルって意識しない?」
「するよ。理沙先輩も息吹ちゃんもいるし、負けられないって思うし、凄く刺激を貰ってる」
急造の藤原先輩と息吹さんが後ろから追いかけてくると思うと、焦るし、負けられないって思うよね。
「同じ学年の子とエース争いをしたことがないから。今が凄く楽しい」
武田さんはこちらに顔を近づけながら。
(近い……)
体を寄せればぶつかりあうくらいに近い。
「凪ちゃんは?」
私も楽しい。でも……上手く言葉にできるかな。
「私もこのチームが好き……だから楽しい」
顔が茹蛸のように赤くなりながらも、自分なりの言葉を口にする。
「そこは私が好きじゃないんだ」
「むぅ‥‥」
なんか山崎さんの気持ちがわかってきた。距離感が近い人を相手にするって大変だ。
「ちゃん呼びにしてほしいなー」
「無理……さん呼びで鳴れてる……」
「距離を感じるよ。ライバルなんだから遠慮せずに過ごしたい」
武田さんが私の手を触れる。羞恥心で脳内がパニックを起こしかけてるけど、顔には出さずに冷静に。
「……もうちょっとだけ時間を頂戴」
「赤くなってる。可愛い~♪」
頬を指で突くのやめて……。
時より、武田さんにからわれながらも、2人きりの勉強会は順調に進み、翌週の試験を終えてから結果が返ってきた。
「よー! ヨミ、試験どうだった?」
「ふっふっふ……。来ると思ったよ」
教室に入ってきた川崎さんは得意げに全科目の点数を見せる。全科目で平均点以上をただき出した。
「嘘だろ……仲間だと思ってたのに」
「文武両道、尊敬します」
「稜ちゃん、まさか赤点取ってないよね」
「そ、それは大丈夫……」
ハイライトが消えた芳乃さんの追及に川崎さんはさっと顔をそむける。
「なーんだ。稜ちゃんが大丈夫なら皆、大丈夫だね!」
「おーい! それ、どういう意味ですか!?」
判断基準が川崎さんなんだ。
「それにしても全然勝てないなぁ……」
ここまでの練習試合の勝敗は6敗一分け。点数的に惜しい内容もありながらも、初勝利の道のりは遠い。
「6敗1引き分け。そろそろ勝ちたいね」
「流石に私も1勝くらいはすると思ってたよ」
「しかし、よく試合を受けてくれるな。ほとんど1年生のチームにさ」
監督の人脈も大きいだろうけど、この時期に沢山試合を出来るのは嬉しい。
「……大半の1年生はスタンド組が多いだろうから。試合に出られるのは嬉しい」
「監督が頑張ってくれてるし、それに負けてるとはいえ格上相手にいい試合は出来てるからね」
「私も1年から試合に沢山出られるのは楽しい!」
「同感だけど私は勝ちたいよ~やっぱ」
教室の外に誰かいたような気がしたんだけど、振り返ると誰もいない。気のせいだったのかな……?
試験後の放課後の練習。
カキィン!!
大村さんはマシンが投じたストレートを豪快なフルスイングでかっ飛ばす。
「エグイ!」
カキィン!
隣のゲージで打っている私はストレートを綺麗にセンターに打ち返す。
「白菊ちゃんと凪ちゃんの打順を上げようかな~そうすると、誰かを下げないといけないけど、誰にしようかな~」
川崎さん、藤田さん、山崎さんの似ている3人が反応。
「そういえば、打順ってどうやって決めてるの? この3人って似たタイプなのに、ほぼ固定されてるし」
「うーん。例えば、同点で無死一塁でサインなしならどうする?」
「四球を狙いつつバント」
「同じく」
「私は大量点を狙うために打つよ」
あ、そういうことか。
「フリースインガーの稜ちゃんは4番よりも後ろ。菫ちゃんと珠姫ちゃんは経験豊富な分、珠姫ちゃんを3番にしてるよ。まぁ、打ちたい打順があったらアピールしてね」
「5番でいいや!」
「ほんと自己中ね」
それなら中村さんが4番にしたらと思ったけど、中村さんが得点圏で打ってる所をあまり見たことがない。
「凪ちゃん、投げてくれへん?」
「……わかった」
もしかしたら、気にしてるから言わないほうがいいよね。指摘したら逆に打てなくなる人って結構いるし。
カキ―ン!!
中村さんは私が投じたストレートをお手本のようにバットの芯で捉えると打球は右中間へ。
「もうちょいコーナーを狙ってもええよ」
ストレートと変化球を打者が打ちにくいコース。インローや際どいコースに投じる。
(ほんと……凪ちゃんは1年生とは思えないボール投げる)
インハイの高めの釣り玉で中村さんから空振りを取る。
(こういう投手が味方にいるのは嬉しいんだけど、敵としても打ってみたい)
技術が高い天才と毎日刺激を貰いあいながら野球ができる。
武田さんはあの球を4分割に投じる練習を始めており、以前よりも球に迫力が増した。
「まるで死神の鎌ね」
「魔球デスサイズですね! かっこよすぎです!」
「勝てなさ過ぎてついに味方にまで死神と呼ばれるようになったか……」
球のことです。
「球の軌道のことだよ。首で鎌を切るような」
「なるほど」
「それに勝てないことをいうなら死神じゃなくて貧乏神だよね」
「死神でいいです……」
いいんだ……。
「そういえば、芳野ちゃんはどういったんだろ? 新変化球のことを話したかったのに」
「芳乃なら監督と会議だ。いつもの時間で上がれとのことだ」
武田さんの変化球については聞いてるけど、あのカーブに新しい変化球が加わると思うと今よりもいい投手になりそう。