胡蝶家の縁壱とお労しい姉上   作:科学大好き人間

49 / 49
しのぶ視点です。本章の大半は猗窩座戦になります。


49話 上弦再来

「ギャァアアアアアアアアア!!!!」

 

 

凄まじい断末魔と揺れが汽車を襲う。この記者は八両編成だ。私が後方五両を守り、善逸と禰豆子ちゃんが残りの三両を守っていた。

 

そしてその隙に嗅覚と肌感覚に優れた炭治郎と伊之助が先頭車両へと向かい、鬼の急所らしき頸に該当する部分の切断を試みていた。

 

それが僅か五分前。私は当初鞘に仕込んだ藤の花の毒が途中で尽きるんじゃないかと心配していた。瞬く間に五両を掛け、千五百近い箇所に突きを打ち込み毒を注入したのだから。

 

鬼が毒を分解した時に備え、すぐにもう一度復路で毒を打ち込む為にと鞘を捻っていたところ、その断末魔と揺れで決着がついたことを私は悟った。

 

しかしこの揺れ。このままでは汽車は脱線する。如何に鬼を討伐したとは言え、このままでは尋常ではない人数の死者が出てしまう。

 

私は思わず奥噛みした。新しく鍛えて貰ったこの日輪刀は、刀鍛冶の里長である鉄珍様が直々に用意してくれた特別仕様の刀だった。先端のみ刃がつき、それ以外は峰のみで構成されるこの日輪刀は突き技に特化したものだった。しかし裏を返せば斬撃を放つには適さぬ刀でもある。故に車両の外に出て脱線を食い止めるような力技には不向きだった。私はこのまま乗客二百名を見殺しにせざるを得ないのか。その光景を思い浮かべ私はどうしようもない焦燥感に駆られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーヒノカミ神楽 日暈の龍・頭舞いー

 

 

 

 

 

 

 

 

すると突然車両の窓の外で、火の龍が汽車の周りを駆け巡るのを幻視した。その瞬間凄まじい回数の衝撃音が鳴り響く。その激しさとは裏腹に、傾いた車両が徐々にだが安定し脱線の規模が抑えられるのを感じた。

 

 

「っ!! 炭治郎っ!!」

 

 

私は大急ぎで車両の外に出る。そこには必死に脱線を食い止めようと汽車の周囲を駆け回り技を繰り出し続ける炭治郎の姿があった。

 

 

(大丈夫なの!? こんなに連続して技を放って・・・あとでとんでもない程の反動がくるんじゃ・・・!!)

 

 

私は口元を覆い目を見開く。彼はこの場に居る乗客を誰一人死なせない為に身を削っている。私はその光景をただ黙って見ることしかできなかった。

 

 

「うぉおおお!! 権八郎だけに任せてられるかァ!!」

 

「炭治郎っ!! 無理をするなっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ー獣の呼吸 伍ノ牙 狂い裂きー

 

 

ー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・八連ー

 

 

 

 

 

 

 

すると二つの影が先頭車両と中間車両より飛び出す。伊之助と善逸だった。彼らは日輪刀で可能な限り技を繰り出して炭治郎に倣う。おかげで汽車は驚くべきことに脱線しないまま進み続け、そのまま減速し、やがて止まった。

 

 

「炭治郎っ!!」

 

 

私は三人が合流する傍に駆け寄る。彼らは息を付いていたが、口元には笑みを浮かべていた。

 

 

「ふぅ、ありがとう。伊之助。善逸。俺一人じゃ汽車の脱線までは防げなかったよ。おかげで乗客への被害は可能な限り抑えられたはずだ」

 

「ガハハハッ!! 俺様は親分だからな!! 子分だけに良い格好はさせられねぇってんだ!!」

 

「炭治郎。お前は下弦との戦闘で相当に消耗したんじゃないのか? 大丈夫なのか? そんなに型を放って」

 

「ああ。何度も夢の中で頸を斬り落としたけど、肉体への負荷は掛かってないからな。それに伊之助のおかげで鬼の急所を切断するのもそう時間は掛からなかった。これくらいならまだ平気だ」

 

 

私は三人の会話を聞いて僅かながらに安心した。良かった。炭治郎が無理をしてなくて。那田蜘蛛山で下弦を倒した時は、ヒノカミ神楽を二つ舞っただけで全身が軋んだと言ってたから正直不安だった。

 

どうやらこの一ヶ月、カナヲにみっちりしごかれたことで相当に頑丈になっているようだ。とは言え消耗していることには変わらないだろう。

 

 

「私は何もできなかったわ。三人共、本当にありがとう。せめてこれ飲んで。多少の補給にはなると思うから」

 

「あ、ありがとう、しのぶ。これはなんだ? 蜂蜜とか黒糖とか色々入ってるみたいだけど・・・」

 

「私が試作してる栄養剤よ。以前善逸と伊之助に飲ませたものは不評だったから作り方を見直してみたの。これなら飲みやすいでしょ?」

 

「うめぇ!! それに滅茶苦茶甘いぜこれはっ!! しのぶっ!! もっとそれ寄こせ!!」

 

「はいはい。でも飲み過ぎると身体に毒だからほどほどにね」

 

「しのぶちゃん。初めからこういうの作ってよ。以前飲んだの本当にゲロマズだったんだけど。あれって何が入ってたの?」

 

「え? 漢方とか色々」

 

「うげぇ・・・だからあんなに苦かったのか・・・」

 

「こっちは甘くてうめぇぜ!! がっ!? ごほごほっ!?」

 

「こらおバカ。蜂蜜と黒砂糖ふんだんに入れてるんだからそんな勢いで飲んだら喉潰れるわよ。アンタはもう水以外飲んじゃダメだからね」

 

 

本当は炭治郎にこそ一杯飲んで欲しいのに。顔には出してないけど彼、一番消耗してるはずだろうから。

 

やがて炭治郎が水筒の水を飲み干して一息つく。そして周囲を確認して私に質問してくる。

 

 

「しのぶ。俺達はこの後どうするべきだ? 一旦車両に戻って怪我人の治療に専念すべきか?」

 

「そうね。ひとまず片っ端から乗客に声を掛けて。それと怪我人が居たらすぐ私に教えて。手持ちの治療薬が足りるかわからないけど重傷者から私が率先して応急処置をするわ。それと隠に連絡を・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオォオオオオン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如そんな轟音と共に地鳴りが響いた。どうやら何かが凄い勢いで落下したみたい。なんだろう。落石かしら。でも可笑しい。こんなだだっ広い平野でそんなことある?

 

音がした方向を振り向くと、やがて土煙が晴れていく。そこにはしゃがみ込む人影が。奴の姿を完璧に視認した瞬間、私は皮膚が粟立つのを感じた。

 

 

「え・・・嘘でしょ・・・上弦の・・・弐?」

 

 

奴が笑みを溢したと思ったのも束の間、奴はその場を蹴って姿を消す。次の瞬間、奴は間近まで接敵し、善逸と伊之助の頭を殴り潰そうと拳を振るっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーヒノカミ神楽 烈日紅鏡ー

 

 

 

 

 

 

 

炭治郎が瞬時に左右行き交う様に日輪刀を振り放つ。その瞬間奴の両腕は斬り飛ばされる。そしてそのまま奴はバク宙を繰り返すように距離を取り元の位置へと下がって行った。

 

 

「いい刀だ」

 

 

瞬時に再生。尋常じゃ無い速度だった。この圧迫感と凄まじい鬼気。上弦の壱の時とは違う。隠す気すらなく威圧感が駄々洩れだ。

 

上弦の弐ってことは、恐らく四年前にカナヲが頸を刎ねた童磨の後釜。それがもう補充されたっていうの!?

 

 

「なぜ善逸と伊之助から狙った」

 

 

私が動揺していると、炭治郎は一転して日輪刀を下段に構えたまま奴に向かって正対する。心なしか彼から怒気のようなものを感じた。

 

 

「話の邪魔になるかと思った。俺とお前の」

 

「お前と俺で何の話をする? はっきり言うが俺はお前が嫌いだ。善逸と伊之助は乗客を守るために必死に技を繰り出し消耗した後だった。それにも関わらずお前は姑息にも寝首を掻くような真似をした。卑劣極まりないっ!!」

 

「言ってくれるな。そいつらも多少は鍛えているようだが下弦の壱如きの戦いで消耗しているようでは並みの柱にすら劣る弱者共だ」

 

「この二人は弱くないっ!! 侮辱するなっ!!」

 

「ほう? ではお前程の強さがあると言うのか? 俺には到底そうは見えんが・・・」

 

「強さというものは腕っぷしのみで決まるものじゃない。二人は自身の危険も顧みず鬼と戦い大勢の人達を守る気概を持って戦っているんだ。それは精神ひいては心の強さに直結する。お前の言ってることは全て間違っているっ!!」

 

「口先だけは達者なようだな。だが純然たる事実を今ここで宣言するとしよう。今この場で俺とまともに打ち合えるのはこの中でお前唯一人だけだぞ? 耳に花札のような飾りをつけた少年よ」

 

「俺の名前は竈門炭治郎だ」

 

「俺は猗窩座。しかし炭治郎。実を言うとお前には驚かされた。何でも黒死牟が言うには、那田蜘蛛山で見かけた時のお前は圧倒的弱者、軟弱千万の有象無象だったとのことだ。だがどうだ今のお前は? たった一ヶ月で目を見張る成長だ。本当はさっさと殺してあの御方にすぐさま報告に行くつもりだったが、今の俺は純粋に嬉しい。心が躍っている!!」

 

「何を言っている? それに黒死牟? 誰だそれは」

 

「上弦の壱の名前だ。奴は大層お前を殺したがっていたぞ? 引き際に卑怯者だのなんだのと捨て台詞を吐かれたことを甚く根に持っているらしい」

 

「捨て台詞を吐いて逃げ出したのはあいつの方じゃないか。俺はあの時その黒死牟とか言う奴の背を討つつもりでいたっ!! 酷い勘違いだっ!!」

 

「そうか。なら黒死牟もさぞ不覚を取ったのであろうな。それか耄碌したかのどちらかだが。まあいい。今宵お前を殺した後、腕試しに奴に試合を申し込んでみるのも悪くない」

 

 

 

 

 

 

ー術式展開 破壊殺・羅針ー

 

 

 

 

 

 

猗窩座が地面を踏みつけ、氷の結晶のような紋様が広がる。これは血鬼術か何かなの? 私は日輪刀を引き抜き身構える。

 

 

「まあいい。どの道お前はこの場で殺す。その闘気、充分に練り上げられてるが、至高の領域には遠く及ばない。精々俺を楽しませてみろ。竈門炭治郎」

 

「しのぶ。援護してくれ。俺が前衛になり皆を守る。善逸か伊之助は禰豆子を探して見つけ出してくれ。朝日が昇った時箱が無いと日に灼かれてしまう」

 

「わかったわ。私の新しく開発した呼吸がどれくらい通用するかわからないけどやってみる。絶対に生きて帰るわよっ!!」

 

「禰豆子見つけたらすぐ戻るぞ俺はっ!! 子分を見捨てて逃げる親分なんて居ねぇからなっ!!」

 

「俺もほんとは禰豆子ちゃんを救出したらすぐにでも逃げ出したいけど必ず戻るよ。炭治郎を死なせるなんて俺だって真っ平だし・・・」

 

「ありがとう。二人とも行ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

ーヒノカミ神楽 円舞ー

 

 

 

 

 

 

そう言い残し炭治郎は突進する。それに併せて猗窩座も全力で突進してくる。結果、二人の刃と拳が激しくぶつかり闇夜に火花が散り出した。私はそんな二人の動きに追随するように周囲を駆け回り始める。

 

上弦の鬼とまともに戦うのはこれが初めてだ。でも絶対に死なせない。炭治郎だけは。私が炭治郎を何としても守り通して生かして見せる。その為に今日これまでの間、呼吸の鍛錬も毒の研鑽も必死に積み重ねてきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四年前にカナヲが倒した童磨と同じ序列である上弦の弐。そんな脅威を前にしても私は微塵も揺らがなかった。今の私にとっては、炭治郎を失うこと以上に恐怖することなんてないんだから。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




一応ここでの炭治郎はカナヲの猛特訓のせいで原作無限城編並みに強くなってます。タイマンだと猗窩座には勝てませんが、しのぶの援護でどこまで食らいつけるか。次回をお楽しみに。

カナヲの恋人候補は?

  • 冨岡義勇
  • 時透無一郎
  • 煉獄杏寿郎
  • 竈門炭治郎※しのぶ付き
  • 輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
  • 鬼が存在しないこの美しき世界※独り身
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

藤襲山の巫女鬼 きめつ隠れ里噺(作者:chikuwabu)(原作:鬼滅の刃)

慶応四年。呪いを祓う力を持った幼い巫女が、鬼にされた挙げ句に「最終選別」で知られる藤襲山に放り込まれ。▼なんやかんやで呪いを自力で解き、鬼とは違う存在となって、相棒の手鬼とともに藤襲山に自分たちだけの隠れ里を作り、最終選別にちょっかいを出したり、鱗滝一門を曇らせたり、蜂蜜を舐めたり、眷属を作って里を開拓したりで、第三勢力としてまったりゆったり過ごしていくお話…


総合評価:2079/評価:8.8/連載:51話/更新日時:2026年09月15日(火) 23:00 小説情報

静寂の弟子が次代の英雄に加わるのは間違っているだろうか(作者:ダンまちにヘラファミリアを求める人)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

これは、アルフィア達に似た少女がヘラに拾われた場合の物語。▼———私は、あの時、アルフィアさまに◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️と答えられなかった。だから私は……▼———私は、英雄を手助けすることはできても、英雄にはなれない。▼———本当に?▼これは、一人の少女の英雄譚。▼※中盤にやっと出てくるテーマです!しばらく出てきません!▼


総合評価:274/評価:7.17/連載:13話/更新日時:2026年08月25日(火) 14:15 小説情報

最強と最恐の系譜は雷霆の申し子です(作者:道化の作家)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

 この世界線のベルくんは原作よりも二年早く生まれて、あの二人に滅茶苦茶鍛えられただけの世界線。▼ それ以外にも少し他の要素が混じってる。原作とは一部設定の違う部分がありますが許してクレメンス。▼


総合評価:1518/評価:8.38/連載:12話/更新日時:2026年09月15日(火) 17:02 小説情報

隊長代行 日番谷冬獅郎(作者:空座町 町内会)(原作:BLEACH)

もしも、一心とホワイトの戦いに日番谷冬獅郎が途中参戦し、その後の黒崎夫婦とも交流が続いていたらのお話。▼「隊長じゃない。隊長代行だ」▼原作開始時点で大紅蓮氷輪丸DXイケメンエディションという大人となっているし、一護達の教室に副担としてやって来るし、一心がぎっくり腰をしてしまったときは合法的に取った医師免許で代打診療するし、真の卍解=老ける枠は雛森がやるし、代…


総合評価:113/評価:-.--/連載:5話/更新日時:2026年09月15日(火) 11:42 小説情報

BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい(作者:まいちー)(原作:BLEACH)

刀を愛しながら、本物の刀を振るうことなく死んだ男。▼平安の世に女――卯ノ花清子として転生し、再び生涯を終えた彼が次に目覚めたのは、尸魂界だった。▼そして気づく。▼自分は後に、初代剣八――卯ノ花八千流となる存在なのだと。▼原作の卯ノ花を超えるため、清子は一本の錆びた刀を手に剣を学び始める。▼やがて彼女は、天下にあるあらゆる剣術を求めて歩き出す。▼これは、一人の…


総合評価:1053/評価:7.76/連載:28話/更新日時:2026年09月16日(水) 19:02 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>