「俺は今まで殺してきた柱達全員に鬼の勧誘をして来た!! しかし驚くべきことにその全員が俺の誘いに頷くことをしなかった!! なぜだろうな? 同じ武の道を極める者として理解しかねる!! 選ばれた者しか鬼になれないと言うのに!! 本当ならお前も鬼に誘いたいところだが!! あの御方の命には逆らえんのだ!! せめてお前の剣技だけは俺が未来永劫目に焼き付け語らうとしよう!! 僅か十五で柱と並ぶほどの実力を身に着け、俺を歓喜させた少年剣士が居たとな!! 竈門炭治郎!!!」
ー破壊殺・空式ー
突如猗窩座は宙に舞い虚空を拳で打つ。私はその意図に気づき炭治郎に呼びかける。
「炭治郎っ!! 攻撃が届くわっ!!」
「うわっ!?」
案の定、目に見えない衝撃が炭治郎をはじき飛ばした。彼は日輪刀でそれを受け負傷を防ぐ。すると猗窩座は眉間に皺をよせ私に怒鳴る。
「小娘っ!! お前は下がっていろっ!! 女を殴る趣味はないっ!!」
「五月蠅いっ!! お前が炭治郎を殺そうとするんだから!! 私だって戦わざるを得ないのよっ!!」
「目障りだ!! 消えろ!!」
すると今度は私に向けて猗窩座は虚空を拳で打つ。私はその拳打の向き、角度、速度を考慮して、不可視の打撃を回避する。その結果、私の背後の地面が打ち砕かれる。
「上弦の癖に飛び道具を使うなんてっ!! アンタなんてただの卑怯者よっ!!」
「っ!! 黙れっ!!」
すると今度は地面に降り立ち私へと突っ込んでくる。想像以上の速さだった。瞬く間に私の顔面に奴の拳が振りかざされる。想定外の距離を詰める速さに私は不意を突かれ回避が遅れる。心もとない日輪刀の峰だけの部分でそれを受けようとするも、どういう訳か奴は硬直し、一瞬拳が止まった。
ーヒノカミ神楽 碧羅の天ー
気が付けば炭治郎が私の隣まで距離を詰め、振り向きざまに猗窩座の腕を斬り飛ばしていた。闇夜に奴の腕が飛び去って行く。
「お前の相手は俺だぞ猗窩座っ!! しのぶは一旦距離を取ってくれっ!!」
「勿論そのつもりだ!! 小娘は大人しく下がっていろ!!」
再び両者の間で凄まじい斬撃拳打の応酬が繰り広げられる。私は一度下がり呼吸を整えるも、奴の一瞬の隙を突いて死角より一気に接敵する。
ー蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡きー
「っ!? 小娘!! 貴様っ!!」
猗窩座が私に掴みかかろうとするもその頃には完全に私は距離を取っていた。そのまま遠くで着地し振り返る。
「炭治郎っ!! 今よっ!!」
「なんだと・・・ぐっ!?」
私の声に一瞬だけ気を取られた猗窩座だったが、突如顔を歪め、私が撃ち抜いた右ひじを抑える。その部分から紫色に静脈が浮かび上がり、猗窩座は目を見開いていた。
「これは・・・まさかっ!!」
「貰ったっ!!」
ーヒノカミ神楽 飛輪陽炎ー
炭治郎は純粋に猗窩座の頸目掛けて一太刀を放つ。奴は宙を舞う様にそれを躱し、着地後青筋を浮かべ私を睨む。
「小娘っ・・・まさか俺に毒をっ・・・がはっ!?」
その瞬間、猗窩座の左首筋から血飛沫が舞う。頸はなんと半分程に切れ掛かっていた。
ーヒノカミ神楽 陽華突ー
もう一息と判断した炭治郎が一気に距離を詰める。その突き技が猗窩座の切断されかかった頸の切り口へと迫る。恐らくそのまま刺し貫いて横薙ぎに頸を刎ねるつもりだったのだろう。しかし・・・
「なっ!?」
「勝ったと思ったか!? 竈門炭治郎!!」
奴は左手の掌をかざし炭治郎の突きを敢えて受け、そのまま腕を傾け軌道をずらしたのだ。その結果、炭治郎の日輪刀の切っ先が頸から外れ、猗窩座の胸元を刺し貫く。
「ぐっ!? 一体なんなのだこれは・・・傷口が灼かれるように痛む・・・再生も心なしか手間取る!!」
猗窩座には不可解だったらしい。炭治郎の斬撃や刺突の傷で痛みを感じることに。奴の再生速度は相当なものだがそれでも猗窩座にとっては普段よりも遅いらしい。正直今の速度でも明らかに脅威だ。
奴は切れ掛けた頸の傷を再生し、加えて私が打ち込んだ藤の花の毒も遂に分解を終えたようだ。
開発したばかりの毒を上弦に使うにはまだ早過ぎたかもしれない。汽車と同化した下弦の壱の肉塊には効果あったが、上弦ともなると分解速度が並ではない。一ヶ月間の研究成果物としては破格の性能だが、それでもまだまだ改良の余地はあると私は苦々しく思った。
奴は私が突き刺し一度動きを封じたはずの右手で拳を握る。そのまま炭治郎の日輪刀を殴り折る気だ。私はそれよりも早く奴の背後へと突進しすれ違い様に複数回の突き技を放った。
ー蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角ー
「がっ!? 己っ・・・ごふっ!?」
一度に六か所の部分へ同時に毒を撃ち込んだ。これで全身に毒が回るはず。その結果突き刺さっていた日輪刀は、奴の力ない左手の掌からあっけなく引き抜くことができ、炭治郎はすぐさま刀を振りかざした。
ーヒノカミ神楽 炎舞ー
本来唐竹割に繰り出される炭治郎のその型は、やや角度をつけて袈裟斬りに振り抜かれる。そのまま頸を狙うが、猗窩座は左手を盾にする。腕は切断され血が飛び散るが、それと同時に奴は背後へと下がり距離を取っていた。
「がふっ! ごほっ! お、己っ・・・!! 毒物に頼るなど卑怯者のすることだっ!! 貴様らは武芸者の風上にも置けないっ!! 恥を知れっ!!!!」
「何言ってんのよ。正々堂々と試合でもしてるつもりだったの? これは鬼と人間との間で行ってる殺し合いなのよ。つまりは生存競争。だから卑怯もへったくれもないわ。恥や拘りなんてその辺の犬にでも食わせてしまえば良いのよ」
「どこまでも下劣なことをっ!! 殺すっ!! 殺してやるっ!! 小娘ゆえ手心を加えてやっていたが気が変わったぞ!! 炭治郎と決着をつける前にまず貴様から殺してやるっ!! 醜い弱者めっ!!!!」
「ふざけるなっ!! しのぶは醜くなんてないっ!! しのぶみたいに整った顔立ちの女性はそうは居ないっ!! お前の目は節穴だっ!!!」
「そう言うことを言ってるんじゃないっ!! 竈門炭治郎っ!!! 弱い奴は醜いっ!! 正々堂々やり合わず!! 毒物に頼るなど卑怯者のすることだ!!! 虫唾が走る!! 反吐が出る!!!」
ー破壊殺・乱式ー
今まで使っていた技とは比べものにならない程の衝撃波が、一呼吸のうちに繰り出される。先程までの視認しずらい虚空を打つ拳打とはまるで違う。殺意の籠った凄まじい空圧正拳だった。それが一度に数発も。
ーヒノカミ神楽 灼骨炎陽ー
攻撃範囲が広すぎる。上に飛ぼうが横に避けようが躱しきれない。炭治郎もそう判断したようで、すぐさま弧を描くような斬撃を放ち猗窩座の凄まじい空圧正拳を相殺しようと試みる。だが・・・
「がはっ!!!!」
「炭治郎っ!!??」
炭治郎は衝撃を全て防ぐことができなかったのか、或いは余波が被弾したのか定かではないが、吐血し日輪刀を地面に突き刺して自身を支える。それと正対するように猗窩座は私たちの前で仁王立ちをしていた。
「生身を削る思いで戦ったとしても全て無駄なんだよ炭治郎。お前が俺に浴びせた数々の素晴らしい斬撃も既に完治してしまった」
「はあ・・・はあ・・・くっ!」
炭治郎は私を庇うように日輪刀を地面から引き抜き身構える。けど炭治郎は口元から血を滴らせていた。ポタポタとそれは絶えず地面へと落ちていく。
「だがお前はどうだ。人であるならば傷ついた内臓は早々に治らない。だが鬼であれば瞬きする間に治る。そんなもの鬼ならばかすり傷だ。どう足掻いても人間では鬼には勝てない」
「違うっ!! 俺がお前に及ばないのは俺がまだまだ力不足だからだっ!! 俺に剣を教えた人はこんなもんじゃないっ!!!!」
「ほう。気になるなそれは。一体誰なのだ? お前にこの一ヶ月で鍛錬を積ませた鬼殺の師は?」
「それは・・・!!」
「駄目よ炭治郎っ!!」
私は炭治郎の羽織を掴んでそう大声を上げる。炭治郎もその瞬間口を閉ざした。どうやらカナヲの実力を語る訳にはいかないことを今この場で理解してくれたようだ。
しかしその様子を見て猗窩座は心底冷たい声で私に語り掛ける。
「小娘。お前はもうしゃしゃり出るな。不愉快極まりない。今すぐ失せろ。お前のような弱者など見るに堪えない」
その瞬間、猗窩座から身がすくむような氷のように冷え切った視線で射貫かれる。私は思わず硬直する。
「しのぶのことを侮辱するな!! しのぶは凄いんだ!! 現にお前ですら撃ち込まれて数秒動けなくなる位に効く藤の花の毒を自力で編み出した!! これはしのぶの努力と研鑽が生み出した成果そのものだ!! 俺たちの磨き上げた武芸と何ら変わらないっ!!」
「馬鹿を言うな。毒物に頼るなど卑怯者のすることだ。正々堂々やり合わず姑息な手段しか行使できぬから醜い弱者だと俺はそう言っているのだ。まさかお前はそんな女の助力を得なければ満足に戦えないのか? だったらお前も例には漏れんぞ。竈門炭治郎」
「何が卑怯者だ!! いつだって鬼殺隊はお前らに有利な闇の中で戦っているんだ!! 生身の人間がだ!! 傷だって簡単には塞がらない!! 失った手足が戻ることもない!! お前らに卑怯者呼ばわりされる筋合いはないっ!!!」
「ほう。つまり鬼と人とでは再生力に差があるだけで、実力では俺達に劣ってないとお前はそう言ってるのか?」
「そうだ!! 実力でなら、しのぶだってお前には負けてないっ!! お前は何度しのぶの突きを受けた!? 何度傷を再生させたっ!? 武芸者としての勝負ならお前は既にしのぶに負けているっ!!」
「呆けたことを。仮に俺がその女と一対一で戦っていたとしても、その時は一撃も決定打を喰らうことすらなかったはずだ。武芸者の目で見た限り、その女はお前の足元にも及んでない」
「そんなことはないっ!! しのぶは凄いんだっ!! しのぶは俺の・・・!!」
「もう充分だ、炭治郎。不毛な言い争いは終わりにしよう。柱ですらない身でよくここまで持ち堪えた。然らば・・・」
「ちょっと待てやコラァアア!!!」
突如遠くから三名程の人影が私達の方へと駆け寄って来る。その様子にやや苛立ちを隠せない猗窩座の視線が突き刺さる。
「ヒィイ!? 伊之助やっぱり無理じゃないのこれぇ!! 絶対死ぬ!! 俺が真っ先に死ぬって!!」
「うるせぇ!! だったら文逸は下がってろ!! 親分として俺がこいつを倒す!! 子分を守るのが親分の役目だからなっ!!」
「むー! むー!」
「伊之助・・・善逸・・・禰豆子まで・・・」
私たちが勢ぞろいする様を見て、猗窩座は心底不快そうに青筋を浮かべていた。
「毒物を扱うだけでは飽き足らず、徒党を組むことまでせねば戦うこともできんのか? 卑怯で醜い弱者共が!! お前らみたいな雑草共に炭治郎との勝負を穢されるとは心底腹立たしい!! お前ら全員まともな状態で死ねると思うなよっ!?」
「うるせぇ!! 上弦だろうが何だろうがっ!! この伊之助様が返り討ちにしてやるぜっ!!」
「糞っ!! 禰豆子ちゃんの為だ!! 今日この場だけは覚悟を決めるぜ俺はっ!!」
「むー!!」
伊之助、善逸、禰豆子ちゃんが加わり突如の五対一となった。しかし肝心の炭治郎が深手を負っているのは変わらない。状況は依然として絶望的と言える。
もうこの場で唯一猗窩座の動きについていけるのは私だけだろう。炭治郎にこれ以上無理はさせられない。私が、私が皆を守らなければ。
続く
改めて義勇の『凪』がパーフェクト防御技過ぎる。盛炎のうねりや灼骨炎陽とは比べものにならん。
しかし、鬼の再生速度VS人間が毒や徒党を組む戦術、どちらの方が卑怯なんでしょうね。やはりそこは価値観でしょうか。
カナヲの恋人候補は?
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冨岡義勇
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時透無一郎
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煉獄杏寿郎
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竈門炭治郎※しのぶ付き
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輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
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鬼が存在しないこの美しき世界※独り身