追記:本日休日出勤のため感想返しが遅くなります。予めご了承ください。
「馬鹿な・・・闘気が消えた・・・闘気が無い!! 貴様は一体何者なのだ!? まるで別の生き物になったようではないか!!」
「猗窩座・・・今からお前の頸を斬る・・・覚悟しろ」
「なっ・・・!?」
狼狽える猗窩座のことなど気にも留めず、炭治郎はボロボロのままそう宣言した。私は禰豆子ちゃんと抱き合ったままその様子を眺めて居た。
やがてゆっくりと、幽鬼のように力なく炭治郎が猗窩座と距離を詰めていく。猗窩座もその光景を前に危機感を覚えたのかすぐさま落ち着きを取り戻し、一切の隙を見せない迎撃の構えを取った。
ーヒノカミ神楽 斜陽転身ー
気が付けば炭治郎は上下反転させ宙を舞っていた。と同時に、猗窩座の頸を一閃するかのような焔の軌跡を幻視した。その間猗窩座は身じろぎ一つしなかった。
「ば・・・馬鹿な・・・」
猗窩座は信じられないとばかりにそう言い残し、奴の頸は胴から転げ落ちそうになる。しかしあろうことか奴はそのまま自身の頭部を押さえ、頸を繋げようと胴体に切断面を押し付け始めた。
炭治郎も信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開く。続けざまに剣を振るうも力が籠っていないのか、あっさりと猗窩座の足で防がれ、刀身を地面に踏みつけられてしまう。
「とっとくたばれ糞野郎っ!!!!」
私は気絶する善逸の日輪刀をひったくり、猗窩座目掛けて投擲した。それは見事脳天へと直撃し、そのまま頭部は地面へと転がり落ちて行った。
「はあ・・・はあ・・・嘘でしょ・・・頸を斬ったのに繋げようとするなんて・・・でもこれで終わりのはず」
猗窩座の頭部はやがて黒い塵へと変わり消えて行った。私は安堵する。そしてすぐに身体を震わせてうずくまっている炭治郎の下へと駆け寄った。
「炭治郎っ!!」
「し・・・しのぶ・・・か?」
「そうよ! 大丈夫!? 今すぐ診るわ! そのままじっとしてて!!」
炭治郎の視線がぶれている。脳震盪が起きかけているのだろうか。全身も痙攣しているし非常にまずい状態かもしれない。私は彼を支えてその場で診断をする。
「しのぶ・・・猗窩座は・・・死んだのか・・・?」
「ええ。もう大丈夫。貴方が頸を斬ったのよ? 一瞬繋げようと悪あがきしてたけど私が善逸の日輪刀を投擲して邪魔したわ。もうこれで奴は再生することも・・・」
そこまで言いかけて私は底知れぬ悪寒を感じた。慌てて私は顔を上げた。目の前には猗窩座の頸無し死体が立ち尽くしていた。けど肉体の崩壊が始まらない。これは・・・これは・・・!!
ドンッ!!!!!
その瞬間、大地に青い氷の結晶のような紋様が浮かび上がる。私は血の気が引く。加えて猗窩座の頸無し死体が手刀を構えこちらに振り抜いて来たので、私は必死に炭治郎を抱え、その攻撃を回避する。
「どうしてっ!? 頸は切ったのにどうしてっ!!?? ほんと頭に来るっ!! なんで死なないのよコイツ!! 馬鹿野郎っ!!!!」
私の悪態も叫びも受け付けないと言わんばかりに、猗窩座はズンズンと私達に歩み寄ってくる。私は炭治郎を肩に担いだままその場を離れようとする。距離を空けながら振り返ると、だいぶ奴とは離れることができていた。ところが・・・
ドンッ!!!!!
奴はそのまま地面を蹴って一足跳びにこちらへ跳躍してくる。
信じられない!! 頸が無いのにこんなに動けるの!? もういい加減にして欲しい!!
私が炭治郎を抱えてその場を転がるように回避すると、先ほどまで歩いていた地面が陥没する。猗窩座が拳を振り下ろし殴り砕いたからだ。冗談じゃない。あんな膂力で攻撃されたら、私達なんて木っ端微塵になってしまう。
「むー!!!!」
すると自力で再生したのか、禰豆子ちゃんが猗窩座の背後から組み付き、羽交い締めにしようとする。加えて桃色の炎を焚き起こす血鬼術で猗窩座の身体を燃え上がらせる。
「・・・効いてる・・・」
禰豆子ちゃんの血鬼術の威力は凄まじいようで、猗窩座は苦しそうに悶え始める。やがて今わの際となり掛けたのか、全力で禰豆子ちゃんを投げ飛ばして、突如自身の肉体を多数の拳打で滅多打ちにする。
「自分で自分を・・・」
猗窩座は骨や内臓が剥き出しになったかのような凄惨な死体になるものの、禰豆子ちゃんの火が消せたのか徐々に再生をしようとしていた。だがどういう訳か傷の治りが異常に遅い。もしかしたら私が藤の花の毒を撃ち込んだ時以上に遅い。気が遠くなる程の時間を掛けて、やがて空が白んでくる。だが奴は日が昇る前に全身を再生させ、あろうことか失ったはずの頭部までも再生を果たしてしまった。
「よくも思い出させたな・・・!! あんな過去を・・・!!」
「は? 思い出させた!?」
「人間め・・・柔く脆い・・・弱者・・・すぐ死ぬ・・・壊れる・・・消えてなくなる!!」
「何? 何の話をしているの?」
「特にお前・・・お前っ!! 女の身で・・・あろうことか師範と恋雪さんを殺した時と同じように毒物を用いるなどっ!! いい加減にしろっ!! 許せないっ!! 絶対に許せないっ!!!」
「は? 何よそれ。何を言ってるのよ。言ってる意味がわからないわ。もういい加減にして欲しいの私の方よ」
私は炭治郎を肩に担ぎなおす。奴が殴りかかって来てもいいように腰を落とし、回避の準備を整える。奴は頭部を完全に再生させ、青筋を浮かべて私を睨む。
「俺は弱い奴が嫌いだっ!! 弱い奴は・・・正々堂々やり合わず井戸に毒を入れる!! 醜い!! 弱い奴は・・・」
猗窩座を親の仇でも見つけたかのような凄まじい形相で私を睨んでいたが、やがて握りしめて振り上げていた拳を力なく足らす。
本当に何なの? こいつは一体何がしたいの?
「井戸に毒を入れるって・・・少なくともそれは私じゃないわよ。とんだ良い迷惑だわ。逆恨みを良い所よ。殺したい奴が他に居るならそいつらに復讐して来なさいよ」
「・・・・・・」
猗窩座は自身の掌を眺める。さっきまで鬼の形相で睨んでたって言うのに、今はまるで抜け殻になってしまったかのような虚無な表情をしていた。
「・・・もう殺した・・・一人残らず・・・」
「え?」
「師範と恋雪さんを毒で殺した剣術道場の連中は全員殺した・・・俺がこの手で・・・もう百年以上も昔の話だ」
「・・・・・・」
奴は再び拳を握りしめる。俯いているので表情がわからない。正直コイツはいつ暴発するかもわからない爆弾のようだった。これ以上刺激しない方がいい。私は無言を貫く。
やがて日の出間近となる。夜明けだ。遂に太陽が昇る。もう猗窩座はこの場には留まることが出来ない。私はそれでも警戒を緩めずに腰を落とし続けた。
やがて猗窩座が口を開く。
「・・・やめだ」
私は猗窩座の言葉の意図を探るつもりは一切なかった。そもそも鬼の言う事なんて信じるだけ無駄だ。このまま帰る振りをして不意打ちで殴りかかって来てもおかしくない。私は一切気を緩めないでいた。
「今日はこのまま帰ってやる。だが忘れるな。俺は頸の弱点を克服した。もうお前達では天地がひっくり返っても俺を殺すことはできない」
「・・・・・・」
「貴様らの顔は覚えたぞ。次会った時は貴様らの脳髄をぶちまけてやる。然らばだ」
そう言い残し奴は近くの林の陰へと走って行った。良かった。向こうから逃げ帰ってくれて。これで炭治郎は助かる。私はその事実に言いようのない安堵感を覚えた。ところが・・・
ー月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満纎月ー
突如、猗窩座が逃げ込んだ林一帯全てに、飽和するかのような斬撃が台風のように吹きすさび、辺り一面が根こそぎ薙ぎ払われた。
「は?」
私は唖然とする。何事だと私は驚いて林の方へと近づき状況を確認しに行った。勿論、肩に担いだ炭治郎を下ろして安全を確保した上でだ。
暫くの間、周囲に砕かれた木の欠片や枝葉、そして土埃が舞い上がっていたが、それもやがて治まる。するとその場で信じられないような光景が繰り広げられていた。
「猗窩座・・・! 猗窩座・・・!! 猗窩座っ!! 貴様は・・・何を・・・何をやっているのだっ!! 目の前に例の小僧を残したまま・・・敵前逃亡するなどと・・・軟弱千万っ!!!!!」
「がっ・・・がはっ・・・!!」
意味がわからなかった。林の陰に逃げ込んだ途端、猗窩座は上弦の壱に切り伏せられ、全身ズタズタにされるという身内の八つ当たりに遭っていたのだから。
「ぐっ・・・黒死牟・・・貴様がなぜここに・・・!!」
「貴様こそ・・・なぜあの小僧に止めを刺さないのだっ!! あの御方の御命令を反故にするなど・・・明らかな背任行為であろうっ!! 一時のつまらぬ情にでも流されたのか・・・主君を裏切るなど以ての外・・・・この・・・恥知らずがっ!!!!」
「五月蠅い・・・黙れ・・・もう夜が明ける。俺はお前と違い頸の弱点を克服したのだ。今の俺ならお前以上に鬼狩り共相手に強く戦える。あんな弱者共いつでも殺せる!! 次会った時は俺が直々に引導を渡す!! 否が応でもなっ!!!」
「己・・・貴様・・・開き直りおってっ!!!」
やがて言い合いをしてる間に日は昇り、奴らは陽光に晒される。上弦とは言えやはり陽の光は浴びると辛いのか、どちらもそのまま影へと必死に潜り込もうとしていた。
「アンタ達。何してんのよ」
私はつい口を挟んだ。その瞬間、二体の上弦が私に対し凄まじい鬼気をぶつけてくる。私は腰が抜けそうになるがそれをおくびにも出さず飄々と続ける。
「鬼同士で喧嘩? 馬鹿じゃないの? そんな暇あれば鬼舞辻無惨に土下座でもしてくれば? アンタら二人とも炭治郎に止めを刺せず逃げ帰ることになったのは変わらないんだから」
「貴様・・・あの時の・・・」
「小娘・・・」
私は二体の上弦を静かに見つめる。日が昇った以上、こうやって日向に居ればコイツ等に攻撃される心配もない。なので私は好き勝手言う事にした。
「滑稽ね。そんなに強い癖に綺麗な朝日を拝むことすらできないんだから。そんな不便な身体になると知ってて貴方たちはなんで鬼になったの?」
私の問いに黒死牟は目を丸くし、猗窩座は逆に目を伏せ口を噤んだ。やがて返答したのは黒死牟の方だった。
「痣者は・・・例外なく・・・二十五の歳を迎える前に死ぬのだ」
「・・・え・・・」
私がふとした疑問で尋ねた返しとして、これ程私を動揺させるものは他になかっただろう。黒死牟は続ける。
「痣を出現させ・・・力を向上できたとしても・・・所詮それは・・・寿命の前借りに過ぎない・・・限界まで研鑽し極められた肉体と技が・・・この世から消えるのだ・・・嘆かわしいとは思わぬか? だが私は命云々のつまらぬ話をしているのではない・・・鬼となることで肉体の保存・・・技の保存ができるのだ・・・それ故に私は鬼になっただけのこと・・・剣士であれば・・・誰もが一度は考える・・・そうであろう?」
私は何も言い返せなかった。奴が鬼になった理由に特段共感するところはなかったが、それでも痣の内容は明らかに衝撃的だった。つまり痣を発現した炭治郎とカナヲ・・・この二人は二十五までに・・・
「ふむ・・・動揺しているな・・・お前も以前・・・私と同じ境遇と述べていたな・・・ならばわかるか・・・私の考えが・・・」
そんなことはどうだっていいのよ。そんなことより痣の寿命ってどういうことよ。そんな話お館様からは一度も聞いてないのに。
「もし・・・お前も痣を発現したその暁には・・・この私を訪ねてこい・・・そうすればあの御方を説得し・・・お前が鬼になれるよう口添えしよう・・・だが今はまだ・・・励むことだ・・・」
そうして奴は満足したのか機嫌を戻し陰の中を去って行った。一方猗窩座は何も言わずにそのまま踵を返して黒死牟に続く。
「その前に貴様らが俺の前に現れるのなら・・・その日が命日になると覚悟しておけ」
やがて鬼気を放つ存在はその場から消え失せた。私はその場で力が抜けてへたり込んだ。
今の私を満たしていたのは安堵感じゃない。どうしようもない焦燥感だった。
陽の光に怯え逃げ帰る上弦共に対し、物申す程度の軽い気持ちで問いを投げかけてしまったことを、この時の私は死にたくなる程に後悔していた。
続く
このあと二人はめちゃくちゃパワハラされました。お労しや兄上。
それと感想、高評価、お気に入り登録して頂けると励みになります。実を言うと先先日のステルス低評価で内心かなり傷ついておりました。しかし丁度兄上が今回登場したことで何だか元気出てきました。
兄上! やはり貴方こそ日本一のお労しいお侍です! 「今はまだ・・・励むことだ・・・」って兄上言ってたんでこれからも励みます! 全て兄上のおかげです!
???「もういい・・・貴様の・・・首と胴は泣き別れだ・・・」
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