胡蝶家の縁壱とお労しい姉上   作:科学大好き人間

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しのぶ視点です。サブタイトルで展開予想できるかもしれません。きっとしのぶにはしのぶなりの考えがあるんだと思います。


53話 素晴らしい提案をしよう

「退院できるのは最短でも三ヶ月後ってところね。取り敢えず私が許可するまでは病棟内であっても出歩いちゃ駄目だから。良いわね?」

 

「な、長くないか? せめて一ヶ月後には機能回復訓練をし始めた方が・・・」

 

「入院食に痺れ薬入れるわよ? 良いわね?」

 

「わかりました。しのぶ先生の言う事に従います」

 

 

私は病床で横になる炭治郎の傍で溜息を付き、手近な椅子に腰かける。炭治郎はまるで現状をわかっていないようだった。

 

 

「良い? 骨折どころの話じゃなかったのよ? あばら骨が砕けたばかりか、骨を突き破られて臓器にまで負傷が及んでたんだから。他の臓器も数か所負傷してた。こんな状態で上弦の鬼と戦い続けてたなんて・・・本当に信じられない」

 

「でもあの時は必死だったからな。俺が頑張らないと、しのぶも禰豆子も善逸も伊之助も皆殺されてたかもしれないし」

 

「だからって・・・こんなになるまで戦うなんて・・・それに何より貴方の左目は・・・!!」

 

 

私は声を震わせて俯く。炭治郎は気まずそうにしている。私のすすり泣く声が、静かな病室に微かに響く。

 

 

「死んじゃうかもしれなかったのよ? 私・・・炭治郎が死んじゃうかもしれないって・・・あの時は本当にそう思って・・・!!」

 

「ごめん。しのぶ。謝るよ。心配かけてごめん」

 

 

炭治郎が横になったまま私の手を握って来る。私はもう片方の手で涙を拭う。

 

 

「それに炭治郎は本当に理解できてるの? 貴方にカナヲと同じ痣が発現した意味を。それがどれだけ深刻なことかを」

 

「うん。お館様から聞いたよ。まさか痣にそんな言い伝えがあるなんてな」

 

 

私は任務が終わったあの日、隠達に汽車の乗客たちの救護を全て任せて、大急ぎで蝶屋敷へと戻ったのだ。炭治郎の治療に専念するために。

 

炭治郎の容体が落ち着いたところで私は大急ぎでお館様に報告書並びに訴えの手紙を書いた。上弦の壱、黒死牟と呼ばれる鬼が痣の寿命について話をしていたことについて。

 

やがて数日しないうちに、お館様は御内儀のあまね様と二人で蝶屋敷へと訪ねて来た。私はてっきり手紙で返答があると思ってその時は酷く狼狽した。

 

それから半刻程、炭治郎の病室で静かにお館様との面談が執り行われた。今回の任務の報告を改めて行い、隠達から上がっている被害状況の報告も踏まえてお館様は説明し真心込めて私達を労ってくれていた。

 

 

「乗客含め死者が一人も居なかった・・・ですか?」

 

「ああ。君たちの奮闘のおかげで、乗客は誰一人死ななかった。本当に凄いことだ。下弦の鬼に大勢を人質に取られ、重ねて上弦の鬼が襲来して来たにも関わらずにだ。君達の働きは私だけでなく鬼殺隊全ての者が認めるところ。これで君達を気兼ねなく柱に任命できる」

 

 

それから柱任命に関する手続きや段取りについて説明が執り行われるが、正直私はそれに然程関心を持てなかった。そんなことより私には是が非でも確認しておきたいことがあったからだ。

 

 

「お館様。上弦の壱が言っていた痣の寿命の件なのですが・・・」

 

「うん。それも説明しよう。特にしのぶにとっては最も気掛かりなことだろうから」

 

 

それからお館様は戦国時代の始まりの呼吸の剣士達の話を踏まえて丁寧に説明してくれた。

 

なんでも、当時縁壱と呼ばれる全集中の呼吸を広めた剣士が居て、彼は痣者として生まれた人だった。私の知るカナヲのように、規格外の力量を持った剣士だったそうだ。

 

そして彼の痣にまるで共鳴するかのように、周囲にも次々と痣者が現れた。彼等は歴代最強の柱達と目され、その代で鬼との終わりなき争いに終止符を打てるかに当時は思われていたのだとか。ところが・・・

 

 

「痣者は例外なく二十五の歳を迎える前に死ぬらしい。始まりの呼吸の剣士、継国縁壱唯一人を除いて」

 

 

結局戦国の最強と呼び讃えられた柱達は、鬼舞辻無惨との決戦を迎える間もなくあっけなく寿命切れで死んでいったそうだ。私はその話を聞いて声を震わせる。

 

 

「では・・・炭治郎は・・・あと十年以内に・・・」

 

「ああ。残念ながら・・・」

 

「・・・っ!!」

 

 

私はその事実に堪えられなくて思わずその場を立ち上がってしまう。拳を握りしめ、その余りの握力に掌から血が零れ床へと落ちていく。

 

 

「どうして・・・どうしてそれをもっと早く教えてくれなかったんですか!? せめてそれを知って居れば・・・炭治郎は痣なんて・・・!!」

 

「そうだろうか? 痣の発現方法は未だ謎が多くその原理すら解明されていない。仮に事前に知って居たとしても炭治郎が痣者として覚醒することは防げなかっただろう」

 

「防げたかもしれないじゃないですかっ!! だって痣は共鳴するんですよね!? それをはじめから知って居れば・・・私は炭治郎がカナヲに稽古をつけてもらうと言い出した時点で是が非でも止めてましたっ!!!」

 

「・・・・・・」

 

 

私は息を荒あげる。怒りで感情を制御できない。今の私を悲鳴嶼さんが見ていたら、過去一厳格に諫めたことだろう。お館様に不敬を働いているのだから。

 

 

「でもしのぶ。結果的にだが、炭治郎は痣を発現したおかげで新たな上弦の弐を相手に殺されずに済んだ。それもまた事実だろう。私は彼の覚醒を予見していた。だから杏寿郎からこの任務を炭治郎と君に引き継がせた。そして私の予見通りに炭治郎は大成した。彼の実力は並みの柱を優に超え、今後上弦との戦いでもそう後れを取ることはないだろう」

 

「柱の中には悲鳴嶼さんだって居ます!! あの人の方が今の炭治郎よりもずっと強いはずです!! なのにどうして炭治郎にそんな重責を押し付けたんですか!?」

 

「おい。しのぶ。それ以上は止せ。お館様に失礼だろう?」

 

「でもっ! 私は・・・!!」

 

 

するとお館様は私ではなく炭治郎の方に向けて手で制す。私も炭治郎も呆気に取られる。

 

 

「良いんだ炭治郎。しのぶの怒りは尤もだ。私は鬼を滅する可能性を少しでも上げる為に君の先の長い人生を奪った。それもまた否定しようのない事実だ。本当に済まないと思っている」

 

「お館様。謝らないで下さい。俺は鬼殺隊に入った時点でいつ死んだとしても覚悟の上です。俺は最初、妹の禰豆子を鬼から人間に戻す為だけに鬼殺の剣士を志しました。でも今はそれだけじゃありません」

 

 

炭治郎はお館様を真っすぐ見据える。

 

 

「俺は・・・俺の家族や、しのぶの家族、鬼殺隊に在籍している全ての隊士達の家族のように、もうこれ以上理不尽に命を奪われるような人を増やしたくない。辛い思いをする人を増やしたくない。だから俺はいつか鬼舞辻無惨を倒して、そんな悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう。その為にこれからも戦いたいんです。もしそれで仮に途中で命の灯を燃やし尽くしたとしても・・・俺は本望です」

 

「炭治郎・・・そんなの・・・!!」

 

「ごめん、しのぶ。でも俺は本気でそう思ってる。寿命はあと十年になってしまったけど、だからこそ今まで以上に俺は必死に生きて見せる。生まれてきたことを後悔しないで済むくらいに。だからしのぶ。これからも俺の傍に居て欲しい。駄目かな?」

 

 

私は口を噤む。炭治郎に傍に居て欲しいと言われて私は何も言えなくなってしまう。私はそのまま脱力し頭を下げた。

 

 

「非礼をお許しください。お館様。私はどうやら身内の余命を宣告されただけで取り乱してしまうような未熟者のようです。必要であれば柱も辞退する心積もりです」

 

「いや、しのぶは何も悪くないよ。君が炭治郎をこの世の誰よりも大切に想っていることは、他の子供達からも手紙を通じて聞いている。大丈夫。ありのままの姿でしのぶがしのぶらしく鬼殺隊に貢献してくれるだけで私は本当に頼もしく思っている。蝶屋敷への献身もただの一日たりとも忘れたことはない。だからどうか君の聡明な頭脳と慈悲深い心根の広さで、これからも他の子供達の命を救ってほしい。それだけが私の願いだよ?」

 

 

私は頭を下げたまま打ち振るえる。この方はなんて器の大きい方なんだろうか。人の痛みを理解し、その者の怒りすらも受け止め、こうして信じ今も認めて下さっている。まるで仏様のようなお人柄だ。

 

 

「御意。お館様の頼みとあらば、いかなる献身をも厭いません。私で良ければ今後とも助力致します」

 

「うん。ありがとうしのぶ。これからもよろしく頼むよ」

 

 

するとお館様はその場を立ち上がる。公務の合間を縫って蝶屋敷まで訪問なさってくれたに違いない。改めて頭の下がる思いだった。

 

 

「では近日中、先にしのぶの柱任命式を行う。炭治郎の柱任命は怪我が完治し、再び任務に繰り出せる目途が立ってたからで良いだろう。今後も君達には期待しているよ?」

 

「「御意」」

 

 

私も炭治郎もそう返答する。やがてお館様は御内儀のあまね様と病室をあとにしてそのまま立ち去った。それが数日前の出来事であり、そうして今に至る。

 

 

「でもやっぱり、私は炭治郎に痣が出てしまって、長く生きられなくなってしまったことが本当に辛いの。だからどうにかして炭治郎が長生きできる方法をあれこれ考えたわ。聞いてくれる?」

 

「え・・・痣の寿命を克服する方法があるのか!? まさかこの短期間でその方法を突き止めてしまうなんて! やっぱりしのぶは凄いなぁ。それでどんな方法なんだ?」

 

 

炭治郎が期待の眼差しでこちらを見てくる。私は勿体ぶらず炭治郎にその方法を伝えた。その瞬間炭治郎の顔から表情が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼になりましょう炭治郎。上弦の壱が言ってたの。鬼になれば痣者であっても肉体を保存できるって。潰れた左目だって元通りになるはずだし、何より短命なんて簡単に克服できるわ。だから鬼になると言って炭治郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 




しのぶ「素晴らしい提案をしよう。お前も鬼にならないか?」
炭治郎「ならない」
しのぶ「死ぬ! 死んでしまうぞ炭治郎! 鬼になれ! 鬼になると言え!」
炭治郎「俺は何があろうとも鬼にはならない」

冗談はさておき、しのぶの真意は如何に。次回に続く。まあ浅草編でのコンタクトを思えばガチで無惨に寝返ると予想する方は少ないでしょう。これで本気で寝返ったら兄上大歓喜で草も生えんが・・・

カナヲの恋人候補は?

  • 冨岡義勇
  • 時透無一郎
  • 煉獄杏寿郎
  • 竈門炭治郎※しのぶ付き
  • 輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
  • 鬼が存在しないこの美しき世界※独り身
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